207 / 252
第六章 神獣カーバンクル
207 カーバンクルの宣言
しおりを挟む「ふーん。なるほどねぇ」
マキトは腕を組みながら頷く。少年、カミロから粗方の話を聞き終え、信じるかどうかはともかく、ひとまず内容に納得したところであった。
「要するに、カミロはヴァルフェミオンで落ちこぼれ扱いされてるのか」
「そうなんだ。でも僕は、断じてそんなことはない! その証拠を見せるよ」
カミロは立ち上がり、空に向かって手を伸ばす。手の先にみるみる魔力が集まっていき、やがてそれは大きな魔力の玉と化し――解き放たれる。
――ボウッ!
魔力は空中で音を鳴らしながら消えた。
「おぉー!」
マキトは思わず声を上げた。素人目から見ても、普通に発動を成功させた魔法にしか思えなかった。
「今のって、別に失敗とかじゃないよな?」
「ん。ちゃんと成功してる」
「ですよねぇ。落ちこぼれさんとは思えないくらいなのです」
ノーラとラティが揃ってコクコクと頷く。他の魔物たちも含めて、皆が不思議そうな表情を浮かべていた。
「そこなんだよっ!」
するとカミロが、突然声を荒げてきた。
「こんなにもスゴイ魔法が放てるというのに、僕は――」
「うるさい」
鋭くも冷たい声が、荒ぶるカミロの声を真っ二つに切り裂く。マキトが恐る恐る視線を向けると、無表情を通り越した冷たい表情を浮かべるノーラがいた。
「いきなり大きな声を出さないで。ノーラたちを驚かせるなんて趣味が悪い」
「……すみませんでした」
カミロはすぐさま頭を下げて『折れて』しまった。ノーラから吹き荒れるブリザード的な空気に耐えられなかったのだろう。
こればかりは、ある意味仕方がないかもしれないと、マキトは思ってしまった。
「あー、それで? 何がどうなったんだ?」
マキトは大きめの声を出して、カミロに問いかける。このままだとまた話が先に進まないような気がしてならなかった。
別にカミロの話に興味の欠片もなかったが、ここで切り上げてもカミロがしつこく迫ってくるだけだということは、火を見るよりも明らか。ならばさっさと聞くだけ聞いて、相手を満足させたほうがいいと判断した。
「あぁ、ごめんごめん。折角僕の話に興味を持ってくれてたのに、中断させちゃって申し訳なかった」
そしてカミロも、自分に都合のいい解釈をしてきた。しかしそれに対して、マキトは何も言わなかった。言ったところで面倒になるだけだと思ったのだ。
ノーラやラティたちも同じことを思ったらしく、冷めた表情を浮かべるばかりで無言を貫く。いいからさっさと話せと――そんな思いを込めて。
それが伝わったのか否か、カミロは再び話し始める。
「実は……僕は罠に嵌められてたんだよ」
今しがた見せたとおり、魔法の腕自体は決して悪くない。なのにどうして試験が上手くいかないのか。
全ては教師が邪魔をしていることだと明かした。
その理由は不明だが、とにかくこの状況を打開しなければならない。
「神獣カーバンクルがいれば全て解決できる――僕は友達からそう教わったんだ」
「へぇー……」
その言葉を聞いたマキトは、興味深そうにカーバンクルを見る。
「お前って、そんなに凄い力を持ってたのか」
「んなこと言われても知らねぇよ」
カーバンクルはどこまでも興味なさげにため息をつく。実際、今のカミロの話も殆ど聞いておらず、視線はずっと周囲の景色か、自身を抱きかかえているマキトにしか向けられていなかった。
無論、カミロのほうには現在進行形で、意地でも向けようとしていない。
逆に彼のほうからはジッと視線を向けられており、居心地の悪さを誤魔化すべく視線を逸らしていたとも言えるのだった。
「そして僕は、簡易転移装置を使って、ここまで来たんだけど……」
カミロは大きく肩をすくめた。
「いやぁ参っちゃったよ。カーバンクルが封印されているという祠が、どこを探してもないんだもん」
昨日から山の中を夜通し探し回っていた。途中、猪に追いかけられたり眠っていたスライムを刺激して怒らせたりと、大変な目にあっていた。
流石にもう諦めかけており、最後にもう一度魔力スポットを見ようと思った。
そうしたら遂に、目的の存在に会えたのであった。
「まさかキミたちが封印を解いていたとは予想外だったよ。まぁ、手間が省けたと思えば、どうということはないけどね!」
爽やかな笑顔を向けるカミロ。その堂々とした口振りからは、本気で言っていることが見て取れる。
それ故だろうか――マキトたちは揃って、顔をしかめていた。
しかしカミロは気づくこともなく、カーバンクルにスッと手を伸ばす。
「神獣カーバンクル。どうか、この僕と一緒に来てほし――」
「うるせぇっ! 冗談じゃないぜ!」
カミロが言い切る前に、カーバンクルは全力で拒否を示す。
「誰がオマエみたいな身勝手ヤローなんかと一緒に行くかってんだ!」
「ん。確かに身勝手」
ノーラも一歩前に出ながら、大きく頷いた。
「さっきの言葉、まるで自分のためにノーラたちが――正確にはマキトが封印を解いてくれたんだと言っているように聞こえた。思い上がりもいいところ」
「ですねっ。ホント失礼な人なのです!」
「キュウキュウッ!」
『いいかげんにしてほしいよ、まったくもう!』
続けてラティたちも、遠慮することなく憤慨する。対するカミロは、手を差し出したまま笑顔でピシッと硬直していた。
そして我に返り、カーバンクルだけでなく、ラティやフォレオのほうも見る。
今度はどうしたんだろうかと、マキトが首を傾げていると――
「カ、カーバンクル以外にも、喋れる魔物がこんなにいるなんてっ!!」
「…………」
今更そこか、とマキトは思ったが、それが言葉として口からは出なかった。正確に言えば呆れの気持ちが強くて出せなかったのだが。
ノーラや魔物たちも同じような気持ちであり、もはやツッコむ気力もない。
更に言ってしまうと、場の空気もかなり微妙な感じとなっていたが、カミロには特殊なフィルターでもかかっているのか、彼の周りだけ別の空気が流れているかのようであった。
彼が心から感動しているかのような笑顔なのが、いい証拠だと言えるだろう。
「まだまだ世界には、僕の知らないことがたくさんあるというのか……いや、今はそんなことはどうでもいい! とにかく僕には、その神獣が必要なんだ!」
「知るかよ、そんなの」
拳を掲げて申し出るカミロを、今度はマキトが一刀両断した。
カミロはぐっ、とくぐもった声を出して動きを止め、それでもカミロは、なんとか説得しようと試みる。しかしその前に、マキトが遠慮という名の枷を外した状態で口を開いた。
「そもそもカーバンクルも嫌がってるじゃないか。これじゃどれだけ言っても、ムダでしかないと思うけど?」
「なっ! そ、そんなのやってみなきゃ分からないだろ! 憶測でモノを勝手に決めつけないでくれよ! 少しは相手の気持ちにもなってみてくれ!」
この瞬間、マキトとノーラ、そしてラティは心の中で気持ちが一致した。どの口がそれを言うのか、と。
しかしカミロはそんなマキトたちの様子を察しもせず、表情を引き締めながら堂々と胸を張り、改めてカーバンクルに視線を向ける。
「僕はカーバンクルを信じている。きっと僕の気持ちに応えてくれるってね!」
一体どこから来るのか分からない自信に満ち溢れた言葉に、いよいよマキトたちは返す言葉もなくなっていた。
もう相手にせず、このまま立ち去ったほうがいいのではないかと、本気で思い始めていたその時――カーバンクルが口を開く。
「ワリーけど、オレはオマエの気持ちには応えられねーよ」
明るくハッキリと解き放たれた言葉に、カミロは再び笑顔のまま、ピシッと硬直してしまう。
よくぞ言ってくれた――と、マキトたちは満足そうな表情を浮かべている。
そしてカーバンクルは、更に周りを驚かせる発言を解き放つ。
「なんたってオレは、これからマキトにテイムされる予定なんだからな!」
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
伝説のドラゴン 世界をかけた戦い~記憶がない俺が天龍から授かった魔法で無双になる?!~
杏子
ファンタジー
俺はふと目が覚めると、崖の下に寝転がっていた。 頭が割れるように痛い。
『いって~······あれ?』
声が出ない?!!
『それよりも······俺は·········誰?』
記憶がなかった。
振り返るとレインボードラゴン〈天龍〉が俺の下敷きになっていたようで気を失っている。
『こいつのおかげで助かったのか?』
レインボードラゴンにレイと名付け、狼の霊獣フェンリルも仲間になり、旅をする。
俺が話せないのは誰かが魔法をかけたせいなのがわかった。 記憶は?
何も分からないまま、なぜか魔法が使えるようになり、色々な仲間が増えて、最強(無双)な魔法使いへと成長し、世界を救う物語です。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる