46 / 252
第二章 ガーディアンフォレスト
046 女子学生たちの旅
しおりを挟むその一方――ユグラシアの大森林に向かう者たちが、もう一組いた。
馬車に揺られながら、意気揚々と笑みを浮かべる三人組の女子。そのうちの一人が御者台に顔をニュッと出した。
「ねぇ、おじさん。大森林ってまだ着かないの?」
そう話しかけられた御者の男は、手綱をギュッと握り締めながら苦笑する。
「もうすぐ見えてくるよ。危ないから、中へ引っ込んでな」
「だーいじょうぶ♪ これぐらいどうってこと――うわあぁっ!?」
ケタケタと笑ったその時、ガクンと馬車が大きく揺れ、女子は叫びながら馬車の中を転がるようにして倒れてしまう。
その無様としか言えない姿に、同行者である紺色のショートボブの女子が、くいっと眼鏡を上げながら、大きなため息をつく。
「メイベル、少しは落ち着きな。今からそんなんじゃ体が持たないよ」
「そ、そうですよ。ブリジットの言うとおりです!」
ローズレッドのふんわりウェーブのセミロングを揺らしながら、もう一人の同行者も声を上げる。
「ただでさえ先生に無理を言って、修学旅行の正規ルートを外してまで、こっちに来てるんですから!」
「そうだよ。そんなアンタに付き合っている、セシィーやあたしらの気持ちも、少しくらいは考えてくれても良くないかね?」
御者台へ通じる窓が開いているせいで風が入り込み、セシィーのふんわりウェーブも強く揺れ、ブリジットはメガネがずり落ちないよう抑えている。
一方、文句に近い指摘を受けたメイベルは、未だわたわたと慌てていた。
「――はぁ、びっくりした」
メイベルが御者台へ通じる窓を閉じ、ようやく落ち着きを取り戻す。そして視線を動かすと、親友二人が白い目を向けてきていることに気づいた。
表情を引きつらせるメイベルは、やがて誤魔化すように笑みを浮かべるが――
「い、いやぁ! 久々の学園の外だから、ついテンションが上がって……」
「アンタ本当にそんなんで誤魔化せるとでも思ってんの?」
「……ゴメンナサイ」
ブリジットの冷たい視線に耐え切れず、メイベルはすんなりと折れた。親友には毎度のように手を焼かされてきている二人だったが、こういう潔い部分を気に入っているのも、また確かではあった。
「はぁ……もういいわよ。次からは気をつけなさいね」
そしてため息をつきつつも許してしまう。この言葉も、もう何度言ったか覚えていないほどだった。
恐らくそう遠くないうちに、また同じようなことが起こるのだろう。
ブリジットだけでなく、苦笑しながら見守っているセシィーも、同じことを考えていたのだった。
「――な、何だ、あれはっ!?」
すると突然、御者台のほうから焦りの声が聞こえた。
流石にただ事ではない――そう思った三人はコクリと頷き合い、メイベルが代表して御者台へ続く窓を勢いよく開ける。
「どうしたんですかっ?」
「ま、魔物の大群が道のど真ん中に……くっ!」
――ヒヒィーンッ!
馬の叫び声とともに、馬車が急停止する。その振動で三人はバランスを崩し、転がるように倒れてしまったが、幸いケガはなかった。
「ててっ……魔物が道を塞いじゃってるってことだよね?」
後ろ頭を撫でながら、メイベルが立ち上がる。そして目を閉じ、不敵な笑みを浮かべるのだった。
「だとしたらチャンス到来だよ! 魔法学園で鍛えた腕、今こそ見せて――」
然るべき――そう言おうとした瞬間、それは聞こえてきた。
「グルワアアァァァーーーッ!!」
空からそれは聞こえた。メイベルたちはそれが何なのか、すぐに分かった。
「……ドラゴン」
呟いたのはセシィーであった。それにブリジットも頷いて反応する。
やがて翼が羽ばたく音が大きくなっていき、ずしぃんと着地するかのような重々しい音が聞こえた。
メイベルたちが恐る恐る御者台へ続く窓を開け、外の様子を伺ってみる。
そこには――
「グルルルルル……」
大きなドラゴンの背中が見えた。馬車を守るようにして立ちはだかり、魔物たちを威嚇しているのだ。
そして更に、ドラゴンの隣には一人の青年の姿もあった。
魔物たちを見据えているのであろうその姿は、メイベルたちからしてみれば、表情がまるで見えない後ろ姿でしかない。しかしそれが一体誰なのか、三人はすぐに分かっていた。
故に驚かずにはいられない。どうしてあの人がここにいるのだろうかと。
ドラゴンライダーとして有名な『彼』が、自分たちのことを颯爽と助けるなど、絶対にありえないという夢のような話だと思っていた。
「ディオン、さん」
カラカラに乾いた口でメイベルが呟く。その瞬間――ドラゴンが動いた。
「ガアアアアァァァーー-ーーッ!!」
凄まじい咆哮が響き渡り、御者の男と三人の女子たちは、揃って咄嗟に耳を塞ぎながら目を瞑る。自分たちに向けられたものではないと分かっているが、それでも恐ろしいと思えてならなかったのだ。
やがてメイベルがチラッと目を開けてみると、立ち塞がっていた魔物たちが、徐々に後退していくのが見えた。
そしてそれは、段々と大きな動きと化していく。
数分と経たぬうちに、魔物たちは完全に居なくなってしまうのだった。
「た、助かったあぁ~っ!」
御者の男がスルッと手綱を落としつつ、脱力しながら情けない声を上げる。青年が振り向いてきたのは、それと同時のことであった。
「大丈夫ですか? 魔物たちは綺麗サッパリいなくなりましたよ!」
手を振りながら陽気な笑顔を向けてくるその青年は、やはりメイベルたちの想像していた男であった。
故に恐怖が一気に吹き飛び、代わりに凄まじい緊張が体の中を駆け巡る。
「あわわ……ホ、ホントにディオンさんだよ。有名なドラゴンライダーさんが、私たちのことを助けてくれたヒーローになっちゃったですよ!」
「お、おお落ち着きなさいよメイベル。こんなときには偶数を数えれば――」
「ブリジット。それを言うなら素数ですよ。二人ともわたくしを見習って、少しは冷静さを取り戻してくださいな」
「……水筒のお茶を派手に零しているセシィーにだけは言われたくない」
カップを思いっ切り外した状態で、床をびしょ濡れにしてしまっている。そのおかげでメイベルとブリジットは幾らかの冷静さを取り戻せた。
「まぁ、とりあえずあたしたちも、ディオンさんにお礼を――」
「ひゃあぁっ! お、お茶があぁーーっ!?」
「……ようやく気づいたのね。それは本当になによりで」
騒ぎ出すセシィーに深いため息をつくブリジット。そこに馬車のドアがドンドンと勢いよく叩かれた。
「おぉい! もう大丈夫だぞー! ここを開けてくれないかー!?」
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。
大前野 誠也
ファンタジー
ー
子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。
しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。
異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。
そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。
追放された森で2人がであったのは――
魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました
うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。
そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。
魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。
その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。
魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。
手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。
いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界転移は分解で作成チート
キセル
ファンタジー
黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。
そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。
※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。
1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。
よろしければお気に入り登録お願いします。
あ、小説用のTwitter垢作りました。
@W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。
………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。
ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる