プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

同行三人

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 ほらね、言わんこっちゃない!

『タツヤ。キミの言っていた通りになったね』

 本当だよ、まったく。
 ……でも、落下中の砂時計にワンタッチ出来たぞ!
 ギリギリだったけど。

「しかし、まさか3人とは……」

『本当だ。これは想定外だっだ』

 僕と、遠藤えんどう辻村つじむらの3人を残して、時間はき止められた。
 どういう訳か、最後に触った僕だけじゃなく、砂時計に触れた3人ともが〝使用者認定〟されちゃってるじゃないか。
 ドッジボールかよ、まったく!

「何だ? 織田っち、なに固まっちまってるんだよ!」

「ちょ? 急に動かなくなったし! 彩歌あやかっち?」

 織田さんも彩歌も、ピクリとも動かない。
 遠藤たちがそろってわめき続けているので、ちょっと分かりにくいけど、周囲の音や気配も無くなってしまった。

「二人とも、落ち着いて。時間が止まっているだけだから」

 遠藤と辻村は、途端に青ざめる。
 
「時間が?! 何でだよ!」

「〝止まってるだけ〟って一大事じゃね?!」

 そうだな。普通なら確かに一大事だ。
 ……だが僕には、時神クロノスにもらった〝定期時券パス〟がある。
 これがあれば……あれ?

『タツヤ、どうした?』

 この感じ……時間の流れが見えない?

「何だこれ? 時間の流れを止められたんじゃなくて、全く流れていない?!」

 普段、見えるはずの時間の流れが〝かわ〟なら、今の状況は〝水槽すいそう〟だ。
 流れていく先も、流れてくる元も無い……ここが行き止まり?

「ボウズ、何言ってんだ?」

「……って、アンタがそんな顔するなんて、結構やべーの?」

 僕、そんなヤバそうな顔してたか?
 ……してるんだろうな、きっと。
 この状況は、相当にヤバい。

『時間をき止められたのでは無いのか、タツヤ?』

 時間をき止めた?
 いや違う。どちらかというと、用意された〝虫かご〟の中に放り込まれた感じだ。
 死ぬまで絶対に出られない、特製の〝虫かご〟に。

『…………そうか。作られた〝時間が止まった場所〟に居るんだね?』

 さすがブルー。それでまず間違いない。
 危ない危ない。〝定期時券パス〟が無ければ、気付かないところだった。 
 これは〝時間停止〟じゃなくて〝複製〟だ。

『なるほど。それは面白い。だが、少し厄介だ』

 ああ、これは厄介だぞ。
 ……僕は誤解していた。
 〝砂抜きされた砂時計〟が、ただ単に、使用者以外の時間を止めるだけのものだと勘違いしていたんだ。

「お、おい、ボウズ! 結局、どうなってるんだ?」

 あー、そうだな。説明しよう。

「僕たちは〝砂抜きされた砂時計〟によって用意された〝時間の牢獄〟に囚われたんだ」

「じ、〝時間の牢獄〟?!」

「囚われたって、どういう事なのさ? ワケ分かんねぇし!」

 そうだよな。僕だって、仕組みはよく分からない。
 実際〝魔界の道具〟ってだけで、何でもアリなのはズルいと思うよ。

「ここが〝牢獄〟って……ボウズ、何とかなるんだよな? 出られるんだよな?」

 そこが問題なんだ。

「僕の予想が正しければ〝使用者が死ぬ〟まで、ここから出ることは出来ないと思う」

「そ、そんなぁ!」

「マジで?! ヤベぇし! どうするの?!」

 ここは、現実の時間から切り抜かれた〝偽物の世界〟だ。
 現実世界が〝動画〟だとしたら、この場所は〝写真〟のように、一枚だけの空間。
 
「この場所に移動させられた〝砂時計の使用者〟は、死ねば元の世界に戻される」

 だから、この世界の物を壊しても、停止している生物を殺しても、現実世界には何の影響もない。
 怪獣が東京タワーを壊しても、実物には何の影響もないのと同じだ。

時神クロノスの休日とは、似て非なるものだね』

 そうだな。この砂時計は、世界の時間を停止させているわけじゃなかった。

「外の時間と隔絶されている上に、その境界に触れられないんだから、元の世界に戻る事は出来ない」

 ……普通はね?

「ま、マジかよ? どうすんだよ!」

「ウソでしょ? ワケわかんねーし!」

 ……ふぅ。元はといえば、お前らが勝手に砂時計をイジったからなんだぞ?
 その上、僕だけが〝使用者〟になると思ったんだけど、余計な2人もついてきちゃったか。
 でもまあ、同行出来て良かった。たぶんこの世界、いくら僕でも、外から干渉するのは不可能だからね。

『つまり〝砂抜きされた砂時計〟は、時間を操作する道具ではなく、時間の進まない世界を作り出して、使用者を閉じ込める道具だったのか』

 そういう事。スゴいとは思うけど、彩歌の時券チケットとしては使えないな。こりゃ完全にジャンル違いだ。

「どうするんだよ! 俺たちこのまま、死ぬまでここに居なきゃならないのか?」

「ヤだし! まだやりたい事いっぱいあるのに!」

 パニック状態になる2人。
 僕だってイヤだよ。お前らは〝死んだら〟出られるかも知れないけど、僕は不老だぞ?
 ……とか言ってても仕方ない。とりあえず、2人を落ち着かせよう。

「まあまあ、落ち着いて。大丈夫だから」

 2人とも、急に大人しくなり、キョトンとこちらを見る。
 あれ? そんな素直に落ち着かれると不安になるな……

『きっと信頼しているんだ。2人とも、キミの力をすぐ側で目の当たりにして来たんだから』

 ……そっか。じゃあ、信頼に答えないとな。
 さっき僕が言った〝外から干渉できない〟っていうのは〝中から干渉できるかもしれない〟って事だ。
 この世界がどこまで巨大な〝コピー〟なのかは分からないけど、試してみるか。

「ブルー。この〝複製世界〟の〝広さ〟って、分かるか?」

『いや、時間が止まっている上に、ここは狭すぎる。せめて地表までが、扉のない真っ直ぐな通路なら、測れたかも知れないが……』

 なるほどね。それじゃ……

「2人とも、目を閉じて、思い切り耳を塞いで?」

 耳は、鼓膜こまくを守るため。
 目は……精神的なアレを守るためだ。見ないほうがいい。

「わ、分かった!」

「助かるなら何でもするし!」

 よし。それじゃ、どデカいのを打ち上げてやろう。
 ノームの使っていた魔法に、すっごいアレンジを加える。
 圧縮した岩を、更にちからいっぱい圧縮。

「うぉおおお! もっと! もっとだ!」

『素晴らしいねタツヤ。恐るべき硬度と質量だ』

 で、先端をドリルの形にとがらせて、それを、いくつも縦に並べる、と。
 よし、できた! 全部、超高速回転!

「何だ、これ何の音だよ?」

 甲高い音が響く。
 これは〝ドリル圧縮岩弾プレスロック〟の回転音だよ。

「いいから、ちゃんと耳をふさいでてね!」

 で、念のために、二人はこれで防御、と。
 正月に買った〝折り畳み傘〟をバックパックから取り出して〝接触弱体せっしょくじゃくたい〟を掛ける。
 これを差していれば、隕石が降っても大丈夫だろう。

『タツヤ、それは隕石のサイズによるぞ?』

『いやいや。ノリと勢いだよブルー。少なくともこの傘、地球と同じ強度だから』

 傘を広げて二人をガード。
 これで準備は整った。

『なるほど、そういう事か。いいね!』

「いいだろ? ……よし、発射!」

 うなりをあげて、真上まうえに放たれた〝ドリル圧縮岩弾プレスロック〟は、轟音と共に、硬い天井を〝砂遊び〟のように削っていく。

「うぎゃああああ?! 何だ? 何してんだボウズ!」

「ヒィィィィ! 揺れてるしっ! 地面がゆれるぅぅぅ?!」

 轟音に紛れて、遠藤えんどう辻村つじむらの叫び声が響いている。
 大丈夫だから! 落ちてきた岩は傘が全部弾いてくれてるよ。





 >>>





 天井には、巨大な穴が空いていた。
 はるか遠くに見える光は、地上の明かりだろう。

「えー? たった3発で貫通って! 意外と歯ごたえ無かったなあ」

『……タツヤ。キミの〝使役:土〟は、とんでもない威力だね』

 いやいや、天井が柔らかかったんじゃないか?

「ブルー、これで〝地表まで扉のない真っ直ぐな通路〟が出来たぞ」

『そうだね。早速、この空間の広さを測ってみよう。少し待って欲しい』

 僕は傘を閉じて、二人にジェスチャーで〝もう大丈夫〟と伝えた。

「お前、何したんだ? 今のバカでけぇ音は何だったんだよ!」

「すっごいれてたし! あり得ねぇし!」

 ……これは、説明しない方がいいか。
 ブルー、どうだ?

『タツヤ。残念だがこの〝複製された空間〟は、とてつもなく広いようだ。私の測定できる範囲を遥かに超えている』

 そうか。それじゃあ、時間が掛かるかも知れないな。

「でも、なんとかこの空間のはしまで行かないと……」

『いや、それは出来ない』

 結構、歩かなきゃかもなあ。
 ……え? 何だって?

「出来ないって! どういう事だ、ブルー?」

『私は、単純な〝三次元空間〟の距離なら、ほぼ〝太陽〟から〝木星〟ぐらいまでを測ることが可能だ』

 おいおいおい!
 太陽から、水、金、地、火、木……
 それってどれくらいの距離だよ?!

『約〝5天文単位〟だ。メートル法だと、ゼロを数えるだけでも大変だね』

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