上 下
252 / 264
6年生 1学期 4月

戦士の墓へ

しおりを挟む
 私、大波友里おおなみゆうり
 大ちゃんと私は今日、学校をサボって、岩手県に来ているんだよー。
 ここ、東御前町ひがしみさきまちには、大昔、地球を救うために戦った〝戦士〟の子孫〝蘇毬そまり一族〟が住んでいるんだって。

『おー、たっちゃん。何かあったのか? ……え? なるほど、証拠かー!』

 で、大ちゃんが私の〝学校をサボって〟にツッコまなかったから、オカシイとお気付きかなー?
 実は、たっちゃんから大ちゃんに、通信が来てるんだよ。何かあったのかな?

『そうだな……それじゃ、これでどうだ?』

 今日は始業式だったんだけど、明日以降は〝蘇毬そまりさん〟の都合が悪いという事で、ねーちゃんに任せて来たんだ。
 まあ、授業もないし、細かい事は、ねーちゃんに任せとけば大丈夫。
 大ちゃんの方は、いつものように〝大ちゃんロボ〟が代わりに登校してるし。
 
『ははは! よかったぜー! 先生たちに、よろしくなー!』

 何やら、リモコンでポチポチと操作したあと、大ちゃんは嬉しそうに笑った。
 良かったよー。何かトラブルだったみたいだけど、解決したんだ。
 ……あれ? そういえば、グループで会話できるのに、私には聞こえないように話すって、何だかヒドくない?

「ん? どうしたんだユーリ?」

「やー! なんで私だけけ者なのん? もしかして、浮気?! ちょ、大ちゃん! 通話履歴つうわりれき見せてみれ! 早く!」

「落ち着けユーリ。ブルー経由の会話に履歴なんか残るわけないだろー?」

 あ、そっか。

「っていうか、たっちゃんとの会話に、お前が参加すると話が長くなるんだ。今のは、ちょっと急ぎの用事だったしな」

 なるほど、納得。
 ユーリちゃんのトークは面白いから、ついついみんな、長話しになっちゃうんだよー!

「……何で、ちょっと嬉しそうなんだよユーリ」

「やー! 何でもなーい!」

 東御前町ひがしみさきまちは、山間やまあいにあって、さっきから、ずーっと緩やかな傾斜が続いている。
 タクシーとかバスがあれば良かったんだけど、最寄りの無人駅を降りると、そこには、お店すら無かったんだよー。 

「それにしても、遠いなー」

「やっぱり、飛んで来れば良かったんじゃない?」

「いやいや。香川での一件もあるし、しばらく〝飛行ユニット〟は封印だぜ?」

 ちぇ。つまんない。
 変身して飛んで来れば、2人っきりで旅行が出来たのに。

「師匠! やはり〝飛行〟は、ジェットエンジンでは無く、回転翼プロペラ式の方が制御し易いのではないでしょうか!」

「あー、確かに安定しそうだけど、露出部分の強度がなー」

「あああっ! さすがは師匠! 一生ついて行きます!」

 そう。もうお気付きだよね?
 ……まったく! なんで美土里みどりさんまで来てるんだよー?

「って言うか、大ちゃんに一生ついて行くのは私にゃ! 今すぐ帰れにゃあ!」

「おいおい、耳が出てるぞユーリ」

「にゃー……だって、美土里さんが……」

「仕方ないだろー。これから行くのは、美土里さんの実家なんだから」

 そう。私たちが向かう先は、美土里さんの故郷。
 岩手県東御前町ひがしみさきまちには、600年前に、名誉の戦死を遂げた〝戦士〟の子孫たちが暮らしている。

『先祖の眠る墓の中から、一族の誇りである〝ガジェット〟を取り出すなら、最後の戦士〝ユーリ〟に、直接、足を運んでほしい』

 それが、戦士たちの子孫で作る〝戦友会〟の総意。
 地球を守るために勇敢に戦って死んでいった戦士たちの〝尊厳〟を守る事になるのだろう。

「ウォルナミスの血族は、仕来しきたりやら風習やら、無駄なこだわりが多くて、色々と厄介だからね。今回は、私がついて行く方がいいと思ったんだよ」 

「ありがたいぜー。ユーリはともかく、俺は絶対に怪しまれるからなー!」

 大波神社〝総本部〟で、大ちゃんの〝お披露目〟に立ち会った人たちは、もう誰も怪しんだりしないんだ。
 けど、全国各地のウォルナミス人たちは、普通の人間である大ちゃんを、簡単に認めてはくれないかも知れない。
 確かに、美土里さんが同行してくれれば、鬼に金棒なんだけど。

「そんな! 師匠のお役に立てるなら、たとえ火の中水の中! ……ふふん!」

 ……いや、だからって、ほら、あんな憎ったらしい顔で〝最後の戦士〟にアッカンベーして良いのん?!

「師匠師匠! お荷物をお持ちしましょうか?」

 美土里さんが、大ちゃんのリュックを奪って肩に掛ける。
 そして、勝ち誇ったように、私に向けて最高の笑みをぶつけて来やがるんだよー。

「あ、そうだ! 師匠! いっそ〝おんぶ〟とか〝肩車〟なんて手もありますよ!」

「おいおい、そういうのはヤメてくれ。前にヒドい目にったんだ」

 ええっ?! ちょっと待ったー!

「聞き捨てならにゃいっ! 誰にゃ? 大ちゃんをヒドい目に遭わせたのは!」

「お前だろユーリ! 〝お姫様抱っこ〟で死にそうになったのは、たぶん世界で俺が最初だと思うぜー?」

 あわわわ! 私だった!

「お姫様抱っこだってえええ?! 戦士ユーリ! うらやま……じゃない! 破廉恥はれんち極まりないぞ!」

 美土里さんが、よだれをダラダラと垂らしながらわめいている。
 ……やー、破廉恥はれんち極まりないな。

「美土里さんは、ただの道案内にゃ! 5メートルほど先を歩いてほしいにゃあ!」

「んー? 何やら雑音が聞こえるな?」

 にゃああーもおおおー! 憎ったらしい顔だにゃあ!

「さあ師匠。目的地はすぐそこですよ!」

 美土里さんは、あからさまにプイっと、私から視線を外して、大ちゃんの腕を引く。

「はぁぁあ! また師匠の〝修理〟を見られるなんて、幸せすぎます! 勉強させて頂きます!」

 ……大ちゃんは、〝暴走〟して、動かなくなったガジェットを修理できる。

「ガジェットが無事だといいですね!」

「あー、そうだなー!」
 
 一度〝暴走〟したガジェットは、普通に分解しようとすると〝セキュリティ〟が発動して、修復不可能なレベルまで破壊されてしまうらしいんだよー。
 ……ん? 待てよ?

「もしかして美土里さん、子どもの頃とかに、ご先祖様のお墓を掘り起こして、分解とかしてにゃい?」 

「ばっ! バカなことを! 私がそんな事をするはず無いだろう?!」

 お! 動揺してる!

「あやしーにゃあ。大破したレプリカ・ガジェットを〝レア物〟とか〝お宝〟とか言っちゃう位だし、マジ有り得るんじゃにゃい?」

「ふざけるな、戦士ユーリ! いくらお前でも、言っていい事と悪い事があるぞ!」 

 あれ? 美土里さん、本気で怒っちゃった?

「ユーリ。さすがに今のは、お前が悪いなー。美土里さんは、こう見えても〝技術者〟としての分別ふんべつとプライドは持ってるんだぜー?」

「にゃー……ごめんにゃさい……」

 怒られちったよー。

「それに、今回の件は、長老からの直々のご命令だからね。文句は言わせないよ? ……分かったら、さっさと耳を仕舞しまいな」

「ぐう……み、美土里さんこそ、耳を出しっぱなしのクセに!」

「お前の目は節穴か? 私が発明した、この〝ウォルナミス・カチューシャ〟をつけていれば、なんの問題もない!」

 そう言って、美土里さんは自慢げに胸を張る。
 〝ウォルナミス・カチューシャ〟って?

「ふふん! これがあれば、ウォルナミス人が耳を出したままでも大丈夫。装備するだけで〝ネコ耳のアクセサリー〟を付けているかのように見えるという、スグレモノだ」

 確かに、よく見ると、赤いカチューシャにネコ耳が付いているように見える。
 す、スゴい発明だよー!

「どうだ戦士ユーリ! 耳を出しっぱなしにするために開発した、この〝ウォルナミス・カチューシャ〟は! これでもまだ文句があるのか?」

「く、くうう……! わ、私の負けにゃ……!」

「待て待て! 勝ち負け以前に、なんで美土里さんは、貴重な時間と研究施設を使って〝アクセサリー〟を開発してるんだ?」

 ……ハッ?! そういえばそうだ。

「ちょっと、美土里さん?!」

 美土里さんは、ギクリとした表情で目を逸らす。

「つ、次の角を左です、師匠っ!」

「にゃー! 誤魔化そうとしても無駄にゃよ!」

「おいおいー! 二人とも、耳を隠せよなー?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~

夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】 かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。  エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。  すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。 「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」  女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。  そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と  そしてエルクに最初の選択肢が告げられる…… 「性別を選んでください」  と。  しかしこの転生にはある秘密があって……  この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

処理中です...