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春休み

研究者たちの夜

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「これを見て、意見を聞かせて欲しいんだぜー!」

 ここは地下室の〝研究所ラボ〟……まあ、俺がそう呼んでいるってだけなんだが。

「素晴らしい。私の知る限り、ここまで希少な〝時間〟に関連する〝研究素材〟は他に無い!」

 蝙蝠コウモリの姿をした、元・吸血鬼……〝蝙蝠博士ファルケ〟が、目を輝かせている。
 分かるぜー。こんなの見せられたら、絶対そうなっちまうよなー!
 ……ちなみに、蝙蝠こうもりの姿なのは、この部屋が狭いからだぜ。今日は更に、あと2人居るからなー。

「師匠! この回路は手作りですか?! 何という立体的で斬新な構成……ああっ! まさか3種類のパルス伝達系が、他とは全く交差せずに、そんな所で繋がるなんて!」

 俺が作業台に並べた物はで、棚や引き出しをあさっているのは、ウォルナミスの技術者、美土里みどりだ。

「やー?! 美土里みどりさん、何やってるんだよー! 今は大ちゃんのタンスとか、関係ないじゃんかー!」

 さらには、なぜかユーリも居るぜ。

「いやいや、戦士ユーリ。研究者たるもの、常に探究心を持ってだな……お! こ、これは興味深い。サンプルを採らなければ」

「にゃー! 美土里みどりさん?! にゃんで、大ちゃんのパンツをポケットに入れてるのん?!」

 あー、落ち着けユーリ。耳が出ちまってるからな?

「しかし、まさかあの伝説の〝モース・ギョネ〟の死体とは……! まさか、コレを倒したのも、あの……?」 

「あー、たっちゃんだぜ?」

 時間と空間を自在に操るという〝モース・ギョネ〟は、普通に考えたら、倒すなんて不可能だ。
 何だかんだで、やっぱりウチのリーダーはスゴいよなー!

「恐ろしい恐ろしい。常軌を逸している! ……そんなお前たちに戦いを挑むとは、我ながら愚の骨頂と言わざるを得ん」

 蝙蝠博士ファルケは遠い目をしている。
 って、おいおい、そこの猫耳2人! 俺のパンツを引っ張り合うんじゃないぜ。破れちまうだろー?

「そして、〝砂抜きされた砂時計〟とはな! これも珍品中の珍品ではないか……まさか目の前に、これほど興味を引く物が揃うとは!」

 砂時計の周りを回りながら 鼻先で突付いたり、ジロジロと覗き込んだりしている蝙蝠博士ファルケ

「しかし、構造と材質から見た所、この時計は〝時を操作する〟ようには作られていないな?」

 おー! 一瞬で見抜いたのかよ! 魔界のアイテムは、魔道具のスペシャリストに見せるのが一番だな。

「……そうか。〝複写〟と〝捕獲〟だったとは。いや、しかし。となると……?」

 蝙蝠博士ファルケは、不思議そうに尋ねる。

気配けはいがしないぞ? これは〝捕まえて吸い尽くす〟構造だ。〝ぬし〟が居るはずだが」

 さすが〝捕まえて吸い尽くす〟事に関しても、スペシャリストだなー!

「ま……まさか……! 誰かに入ったのか?」

「当たりだぜ」

 蝙蝠博士ファルケが、目を白黒させて、ペタンと尻もちをついた。

「こんな完全な構造の〝牢獄〟に入れられて、無事に戻っただと……? 有りえぬ! 有りえぬ!」

 ブツブツと呟きながら、蝙蝠博士ファルケは、何度も起き上がっては尻もちをつくを繰り返している。

「私の〝楽園〟に入って来たのが、そんなだと知っていれば、即、白旗を上げておったわ! ク、ククク! ハハハハ!」

 とうとう蝙蝠博士ファルケは、ペタンと座ったまま、羽をパタパタさせて笑い始めた。
 あー。ヒドい言われ様だな、たっちゃん。
 ……でも確かに〝絶対に敵対したくはない〟かもなー?

「それで、どうかなー? いまここにある物で〝時間の停止〟を防げると思うか?」

 魔道具に関しては、俺の知識が及ばない部分が多過ぎる。
 頼みの綱の〝バベルの図書館〟にはいれたとしても〝時間操作〟に関わる本は、全部〝貸し出し中〟なんだ。
 ……まあ、親父オヤジのせいなのは分かってるんだが、それはつまり、俺がそれらを読むのは〝危険〟だと判断したんだろうから、問い詰めるとか意味無いんだよなー。

「……お前の事だ。大体の図面は、引いてあるのだろう?」

「おー。〝図面〟って程じゃないんだが……まず〝動力〟には、これを使おうと思ってる」

 魔界から〝モース・ギョネ〟の死体を持ち帰るために使った、保冷鞄ほれいかばんだぜ。

「なるほど。部分が魔力を吸収して、本体に伝える構造だな。しかし見た所、かなりの魔力を吸い上げそうだ。普通の者なら、一瞬にして絶命するだろう」

 少しでも魔力を持つ者は〝魔力の枯渇〟によって、死に至る場合があるらしい。けど……

「それは心配ないぜ? 藤島さん用だからなー」

 いま現在、藤島さんだけが、全宇宙の時間を停止させる〝時神クロノスの休日〟を、防ぐ事ができない。
 つまり〝異星人〟との戦いに、参加できないんだぜ。

「藤島……なるほど、あの魔道士か。ならば納得だ」

 藤島さんの魔力は〝底なし〟だ。誇張とかじゃなく、本当の意味で。
 何せ、ブルーの欠片かけらで出来た心臓から、無尽蔵にエネルギーを貰えるんだからなー!

「この保冷鞄ほれいかばんは、魔力を〝電力〟ではなく、ダイレクトに〝冷気〟に変換しているっぽいよなー?」

 現代科学の産物なら、普通は〝動力〟といえば、まず〝電気〟だろ。
 つまり俺にとって、この保冷鞄ほれいかばんは、から先の構造が未知の領域。イメージしにくいんだなー。

「その通り。よくある〝魔石〟の組み合わせによる冷却だ。〝アガルタ〟では違うのか?」

「ぜんぜん違うぜー? こっちじゃ〝圧縮機コンプレッサー〟を〝電気〟で動かして冷やすんだ。図解するとだなー……」

 蝙蝠博士ファルケは、俺の落書らくがきを、真剣に見つめている。

「ふむ。面白いな! これが〝アガルタ〟の技術か。ならば……魔力を〝電位差〟に置き換える方が、お前には分かりやすいだろう。図式としては、こうだ」

 俺の落書らくがきの隣に、蝙蝠博士ファルケがペンを走らせる。
 あー。体格のせいで、本当にペタペタ走ってるなー。

「大体、こんな所だ。変換効率は魔石を使うより少し落ちるが、コンパクトに収まるだろう」

「スゴいな! 分かりやすいぜ! ……つまり、魔力自体を、エネルギーじゃなく〝物質〟ととらえる事で、間接的な〝触媒〟にエネルギーを与えるわけだなー?」

 この方法なら、魔力を〝ニュートン力学〟の範囲内に置き換えられるから、色々と応用が効く。

「しかし、問題がある。お前が考えているのは〝砂抜きされた砂時計〟の〝時間の影響を無効化するフィールド〟を外部まで拡張して、体をおおうやり方であろう?」

「その通りだ。だが、そうだなー。その〝問題〟は確かに解決が難しいぜ」

 〝砂抜きされた砂時計〟に、高電圧で粒子状の〝導体〟を通して、内側からフィールドを拡張し続ける。
 この方法なら、魔力の続く限り、使用者を〝時間の停止〟から守ってくれるはずだ。しかし……

「気付いていたか」

「ああ。〝砂抜きされた砂時計〟の中は、常に〝時間の影響を受けない〟状態だ。肝心の〝導体〟が、その中を流れないんだなー?」

 つまり〝時間の影響を受けない〟導体が必要なんだぜ。
 しかも、かなりの〝帯電〟をさせても平気な素材……か。

「にゃああああ! 美土里みどりさんに取られるくらいにゃら……! 〝魔神の爪〟!!」

「あああっ! 師匠のパン……大切なサンプルが!」

 ちょ! お前ら、まだやってたのかよ?!
 あーあー。俺のパンツを、ユーリが切り刻んでチリにしちまいやがった。

「まったく! お前らなー? 一体何しに来たんだ……ん? 切り刻んで、チリに…………そうか! その手があったかー!」

 
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