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春休み

蝙蝠の門限

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 パタパタパタ……

「はぁ、はぁ、はぁ。ここまで来れば、もう大丈夫だろう。まったく、何という事だ! あんな化け物どもと関わってはおれん!」

「えへへ。ひどいなあ、化け物どもって!」

 ギョッとした表情の蝙蝠こうもりを、念動力で捕まえて、手元まで引き寄せる。
 一瞬の隙をついて、逃げ出したのは知ってるよ?

「僕たちこれから〝魔界のゲート〟を閉めに行くんだ。行き先が一緒みたいだから、つれていってあげるね!」

「な?! やめろ! 離せ! お前たちが〝もん〟に何の用だ?!」

「えへへー! 秘密!」

 なんちゃって。
 ……もともと、僕たちがここに来たのは、魔界のゲートを閉じるためなんだよね。

「〝秘密〟って何だ? 何をたくらんでいる?!」

 企むって、まるで僕たちが悪者みたいな言い方だよね。
 このコウモリ……吸血鬼が向かっている先は魔界。
 いったん向こうに逃げて、チカラを取り戻そうとか思ってるのかも知れないけど、それは僕が許さないよ?

「……ん? 栗っち、どうしたんだ?」

「あ、たっちゃん。ううん、ちょっとね」

「そうか? それなら良いんだけど……早くしないと、土人形つちにんぎょうの事がバレちまうぞ」

 あ、そうか、大変だよ! 土人形さんは〝接続〟が切れてしまったから、今ごろは僕の部屋で土に戻っちゃってるんだ!





 >>>





「みなさん、本当にすみませんでした! 許して下さい!」

 地面に頭をこすり付けて、涙ながらに謝る男。

「やー! 栗っち? ……コイツ、何がどうなったの?」

「えへへー! 彼はね、すっごく反省して、改心したんだよ?」

 〝七宮ななみやさん〟は、生まれ変わったように良い人になったんだ。僕の〝愛〟でね!

「あー、なるほどな? 栗っちの〝お仕置き〟はスゴいからなあ。同情するぜ、七宮さん」

 えへへー? 大ちゃん、それはちょっと大袈裟じゃない?

「……リーダー」

 河西千夏かわにしちなつさんは、土下座している七宮さんに近づき、そっと手を差し伸べた。立ち上がる七宮さん。

「千夏くん……!」

 パァァァアン!

「へぶぅッ?!」

 次の瞬間、千夏さんの平手打ちが、七宮さんのホッペにヒットした。
 ……想定外の不意打ちに、七宮さんはひっくり返っちゃった。

「これで、あなたの悪事は忘れてあげます」

「……千夏くん、本当にすまなかった」

 僕には、二人の心の声が聞こえているよ。けど、それは誰にも言えないんだ。ごめんね。





 >>>





『ほらね! 僕の言った通りでしょ?』 

 本当だ。〝魔界のゲート〟発見だよ! 〝ルナ〟ってすごいよね! 

「いやいやルナ。お前の言った通りにしたせいで、僕らは〝こんな所〟で、ずいぶんと無駄な時間を使っちまったんだけど?」 

 たっちゃんが、ちょっと困った顔で言う。

『もー! ちょいと達也氏? 結局、ここに来なければ門は閉められなかったんだよ? もっと感謝されてもいいと思うんだけど! ぷんぷん!』 

 ルナがふくれっ面で怒っている……あれ、蝙蝠こうもりも怒ってるよ?

「〝こんな所〟とは何だ。失礼なやつめ!」

 そうだよね。今まで住んでいた場所を追い出された挙げ句〝こんな所〟呼ばわりされたんだから。

「おい、いい加減教えるのだ、幼き神! お前たちがこの門に、何の用があるというのだ?」

 蝙蝠こうもりが僕に話しかけてくる。
 何の用って……〝魔界のゲート〟に対して出来る事なんて〝通る〟〝開ける〟〝閉じる〟以外ないよね?

「えへへ。とりあえず〝通る〟からかな? ……七宮さんは、魔界に帰るんだよね」

「はい。皆さん、色々とありがとうございました……!」

 七宮さんが、深々と頭を下げる。
 結局彼は、魔界に帰りたかったから、悪いことをしていたんだよね。

「えへへ。七宮さん。この扉の先は、北の大砦おおとりで。みんな、すっごく困っているんだよ。だから、助けてあげてね?」

「はい。背負った罪と命の重さを忘れず、ちからの限り!」

 ……七宮さんの言葉は、本心だよ。きっと北の大砦のみんなのために頑張ってくれるよね!
 七宮さんは、もう一度振り返り、長めのお辞儀をしたあと、扉の中へと消えていった。

「それじゃ、彩歌さん〝魔界のゲート〟を」

「ええ、了解! ……ルナ!」

『オッケー彩歌、いつでもいいよ!』

 彩歌さんが〝ルナ〟の背中に手を置く。

軸石じくいしの力にて、急ぎ、門は閉じられる。施錠せじょうげんにせよ!』

 〝ルナ〟が光を放ち、開かれていたゲートは、大きな音とともに閉じた。
 ゲートには大きな木が上下に2本はめられて、キラキラ光る、金の鎖が巻き付いていくよ。

「な、何ぃ?! ま、まさか!」

 蝙蝠こうもりが、その光景を見て驚いている。
 ……最後に、ガッチガチに絡みついた鎖に、白い大きな鍵が掛けられちゃった。

『よし! カンペキ!』

 これで、魔界からは誰も入ってこれなくなったんだね。それに……

「ま、まさか〝魔界の軸石じくいし〟か……!」

 えへへー、残念でした! これで蝙蝠こうもりも、魔界へ逃げることができなくなったよ。

「く、くそぉ……! 何という事だ!」

 蝙蝠こうもりが大声で叫ぶ。あー! あんまり騒ぐと、吸血鬼だってバレちゃうよ?

「勝てるわけがない! 〝魔界の軸石〟を持つ者になど、勝てるわけがないだろう! 他にも、幼き姿の神、妙な機械をあやつる者、切り落とした手が即座に生え変わる者……」

 よっぽど〝ルナ〟の事がショックだったんだね。蝙蝠こうもりの声は、さらに大きくなるよ?

「おいおい。まさかとは思ってたけど栗っち、やっぱりその蝙蝠こうもり!」

 さすが大ちゃん。蝙蝠こうもりの正体に気付いてたんだね。
 僕はにっこり微笑んでうなずいたよ。みんな慌てていたけど、僕の笑顔を見て、瞬時に〝安全だ〟と分かってくれたみたい。
 ……蝙蝠こうもりのおしゃべりは、まだまだ止まらない。

「……そ、そして、特にあの者だ! お前たちほどの圧倒的な存在が〝首領〟とあおぐ、私の〝牙〟が通らぬ者! あの者は何なのだ?」 

 蝙蝠こうもりは、たっちゃんを睨みつけて言った。

「えっとね……たっちゃんは、この星そのものだよ?」

「何を言っておるのだ? 〝アガルタ〟そのもの……だと?」

 蝙蝠こうもりは、目をパチクリしている。

「えへへ。たっちゃんは〝星の化身〟なんだよ? 〝神〟より、ずっとすごい存在なんだ」 

 〝神〟はしゅと共に消えるよ。
 でも、たっちゃんは、星と共に、これから幾つもの種を見守って生きるんだ。

「〝星の化身〟……?! 何なのだ、その聞いたこともないような肩書きは……! お前たちは、いったい何なのだ?!」 

「俺たちは〝救星戦隊プラネットアース〟! 悪と戦う正義の味方だぜー?」

 大ちゃんがポーズを決めつつ叫ぶ。

「……フン。くだらん! お前たちの勝手な主観で〝悪〟を決めつけては、倒して周っているのだろう?」

 蝙蝠こうもりは、しかめっ面で、ため息混じりに言い放つ。
 確かに、どちらが善でどちらが悪かなんて、視点次第で変わっちゃう。

「……そうだよね。吸血鬼キミにしてみれば、僕たちが〝悪〟なのかもしれない。でもね? 僕たちは近い将来壊れてしまう地球を守るために戦っているんだよ?」 

 確かに、善悪を多数決で決めるのはおかしいよ。〝少数の正義〟だってもちろんあるもん。

「〝アガルタ〟が……壊れる? そんなバカな事があるか!」

「残念だが本当だ。この星は砕けて消える。僕は15年後の、壊れる寸前の地球からやって来たんだ」

 ……でも、この星が壊れるのは、星に住む〝みんな〟が困る事だよね。

「僕たちは、この星のすべての生命のために戦っているんだよ。吸血鬼キミは、たまたま偶然、そんな僕たちの前に〝敵対する形〟で現れちゃったんだ……だから」

 蝙蝠こうもりが、ゴクリと息を呑む。やっと、理解したんだね。

「だから、吸血鬼キミは〝地球の敵〟なんだ」

 僕は、身動きできない蝙蝠こうもりに、右手をかざす。

「そろそろ〝裁き〟を受けてもらうね?」

 裁きを与えるために、力を込めようとしたその時……! 突然、目の前に3つの映像が浮かび、続いて、3つの言葉がささやかれた。
 これは映像ビジョン言葉ワード! このタイミングで?!

「ちょっと、ビックリしちゃったよ! 未来が、変わってきているの?」

 今の予知は……! という事は、この子もそうなの?

「やー? 栗っち、どうしたのん?」

「栗っち、大丈夫か?」

 ユーリちゃんとたっちゃんが、心配そうに僕を見ている。

「……えっとね。僕たちと一緒に、この星を守るって約束できるなら〝裁き〟ではなくて〝試し〟を受けさせてあげられるんだけど、どうする?」

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