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春休み

手がかり

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 僕は栗栖和也くりすかずや
 さっき、怖いお兄さんたちに襲われていた、おじいさんとおばあさんも、一緒にいるよ。

「ふう。くたびれたわい。ここでちょっと一休みしていこう」

「ボク、おなかすいてない? あら、そう? じゃあ、ジュースでいいかしら」

 ……ということで、僕は今、カフェでお茶をご馳走になっている。オシャレで素敵なお店だよ。
 おじいさんとおばあさんは、行方不明になった、お孫さんを探しているみたい。

「ちょっと目を離した隙に、消えるように居なくなったそうじゃ」

 お孫さんは3年前、ご両親……えっと、つまり、おじいさんとおばあさんの息子さん夫妻と一緒に、ここ、シギショアラを旅行中、行方不明になっちゃったんだって。とっても心配だよね。

「私たちは年に2回、息子たちは年に1度ね。ここに来て、あの子を探しているのよ」

 おばあさんは、寂しそうに笑う。
 ご両親は共働き。その上、行方不明のお孫さんには、小学生の妹さんも居て、なかなかルーマニアには来れないらしい。

「警察は、口だけは達者じゃが、アテにならん。ワシらで探し出すんじゃ!」

「おじいさん。そんなこと言ってはダメですよ、こちらの警察の方々も、必死で捜索して下さってるんですから……」

 おじいさんは、お孫さんを探すためだけのために、ルーマニア語を勉強したんだって。すごいよね!
 ……あ、警察といえば、さっきのお兄さんたちはみんな、僕の〝おしおき〟をほっぺに受けて、クルクルすっ飛んだあと、気絶しちゃった。
 大丈夫。念のため、お兄さんたちの上着で手足を縛ってから、おじいさんに通報してもらったよ。いまごろはもう、捕まってるんじゃないかな。
 ちなみにルーマニアでは〝110番〟じゃなくて〝112番〟なんだって。面白いよね!

「それにしても、君は何者ナニモンじゃ? 見たところ、ウチの孫とそう変わらん歳じゃろう」

「そうですね。すごく強いし、親切だし。ここにはご家族と来たの?」

 家族とじゃなくて、友だちと……あ、そっか。たっちゃんはお義兄にいさんだから、家族だよ! なんちゃって。
 でも、僕たちは〝ナイショの戦隊〟だもん。絶対に何も言っちゃダメだよね。

「えへへ。ちょっと話せないんだ……ごめんね、名前も言えないよ」

 おじいさんとおばあさんは、不思議そうに顔を見合わせた。
 ……あ、おじいさんもおばあさんも、迷子じゃないかと心配してくれてるみたい。

「えっと。友だちと一緒に、大事な用事があって来たんだけど、はぐれちゃった」

 ぐらいは、言っても平気かな?

「なんじゃ、よく分からんが、ワケありじゃな?」

「お友だち、心配ね。大丈夫かしら」

 おじいさんとおばあさんは、やっぱり優しい。本気で僕を心配してくれているよ。

「うん、大丈夫だよ! どこに居るかも分かってるし、みんな、すごく強いから」

「君がすごく強いと言うんじゃから、心配は要らんのう」

 おじいさんは、コーヒーを飲みながら静かに微笑む。
 たっちゃんたちは、この街にある〝呪いに似た力〟で作られた空間の中に居る。きっとそれって、悪意のある〝罠〟だよね。
 ……あれれ? ちょっとまって。

「悪意のある罠……? 消えるように居なくなったお孫さん……?」

 あ! もしかして、おじいさんとおばあさんのお孫さんって、たっちゃんたちと同じ場所に行っちゃったのかも! きっとそうだよ!

「おじいさん、おばあさん、お孫さんが居なくなったのって、さっきの場所の近くなの?」

「ええ。細い道の辺りだったと思うわ」

 やっぱり。絶対そうだよ!

「えへへ。僕、分かっちゃたかも。お孫さんの、お名前を教えて! ……あと、写真とか見せてほしいな」





 >>>





 うーん。どうしよう……

「君がなんと言おうと、ワシはついて行くぞ!」

 おじいさんが、ついてきちゃうかも。でもね、とっても危ないんだよ?

「私も一緒に……ダメなの?」

 おばあさんも、行きたいみたい。そりゃそうだよね。すごく分かるんだけど。

「えっと……たぶん、これから僕が行くのは、普通の人間が行っちゃダメな所だよ。だから、ここで待っていてほしいんだけど……」

 でもね。そんな場所に行っちゃったお孫さんが心配なのは、とってもよく分かるよ。

「〝普通の人間が〟とは、どういう意味じゃ? 君が行けるなら、ワシらが行けん事は無いじゃろう!」

「ねえ、ボク。お願いだから私たちも一緒に……!」

 うーん。できれば連れて行ってあげたいけど、そうすると今度は、おじいさんとおばあさんが危険な目にあっちゃう。それは絶対にダメだよね。
 仕方がないから〝普通ではない〟僕の力を見せて、あきらめてもらおう。
 ……でも、どうしようかな。

『見つけたぞ! てめぇ、さっきはよくも……!』

 あ、丁度いいところに、さっきの〝バタフライお兄さん〟がよ。しかも……

『みんな、連れて行かれちまった! てめぇのせいだ! ぶっ殺してやる!』

 お兄さんは、ナイフじゃ勝てないから、わざわざ自宅に戻って拳銃を持ってきたみたい。よっぽど怒ってるんだね。
 でも、おかげですごくラッキーだよ。

「おじいさん、おばあさん。よく見ていてね? 僕がこれから行く所に〝普通の人間が行けない〟っていうのは、こういう事だよ?」

 僕は立ち上がって、お兄さんの前に立った。

「危ないぞ! いくら君でも、ピストルには勝てんじゃろ!」

「あの人、さっきの強盗じゃない! ああそんな……拳銃を?!」

 おじいさんが、立ち上がって叫んだ。今にも、こっちに来ちゃいそうな勢いだよ。
 おばあさんは、ルーマニア語が分からないから、少し反応が遅れたみたい。

「僕は大丈夫だから、そのまま動かないでね?」

 〝精神感応〟で、心の声が聞こえてくるから分かっちゃうんだ。おじいさんとおばあさんは、本気で僕を心配してくれているよ。
 そして〝バタフライお兄さん〟は、心から勝利宣言をしている。思わず、ちょっと笑っちゃった。

『何がおかしい! クソッ、頭に来た! 死ねえぇガキぃぃ!』

 拳銃の弾は、僕に向けて撃ち出された。1発、2発、3発。銃声がひびき、店内のあちこちで悲鳴が上がる。
 すごいなあ僕。この弾も、ちゃんと見えてるよ。

『…………? 何だ? 当たらなかったのか?』

 ぜんぜん平気な僕をみて、不思議そうにしているお兄さん。
 小さい弾だから分かりにくいよね、教えてあげちゃおうかな。

『お兄さん、お兄さん。よく見て? ここ、ここ』

 僕は、指をさして、にっこり笑う。

「そ、そんな……? ワシは夢でも見ておるのか?!」

「な、なんなの? これはどういう事?」

 僕の目の前で、弾丸は3発とも、ピタリと止まっている。

『……ウソ、だろ?! あ、あ、あり得ねぇ! クソっ! クソっ! クソおぉぉ!』

 お兄さんは、更に銃爪ひきがねを引いた。
 パンパンパン! と3回、大きな音が響く。

『えへへー! ここと、ここと、ここ。ダメだよ、しっかり狙わなきゃ。今のは3発とも、ハズレコースだよね!』

 さっきより大きく左右に外れて止まっている弾丸を指をさして、もう一度、教えてあげたよ。僕って親切だよね。

『な、んだよ……? 何なんだよ、これ! お前っ?! 何なんだよおお?!』

「き、君が……君が、止めたのか、ピストルの弾を?!」

「何? 何がどうなっているの?!」

 おじいさんもおばあさんも、ついでにお兄さんも、心の底から驚いているみたい。
 良かった良かった。僕がちょっとだけ普通の人と違うこと、分かってもらえたよね。
 ……それじゃ、お兄さんにもう一度〝おしおき〟しなきゃ。

『お兄さんは、右のホッペが腫れちゃってるから、今度は左にしてあげる。僕って慈悲深いよね!』

『ひぃぃぃ?! た、助けてっ! 助けっ!! ごごごごごめんなさぶへえぇぇっ!!』

 よし! さっきと反対周りで、だけ回転してから気絶したよ。何事もバランスって大事だもんね!

「……さて、と。分かってもらえた?」

 僕が力を抜くと、空中で止まっていた6発の弾丸は、パラパラと地面に落ちた。
 おじいさんとおばあさんは、無言で何度もうなずいている。あれれ? ちょっと怖がらせ過ぎちゃったのかな。
 うーん…………まあ、いいよね! 神様って、恐れられるのが仕事のひとつみたいな所もあるし。

「それじゃ僕、行くよ。絶対に千夏ちなつさんを助けてくるから、ここで待っててね!」

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