218 / 264
春休み
特殊武装戦隊マンデガン VS 救星戦隊プラネットアース (結)
しおりを挟む
「キキッ! 長いよ!」
いろいろ長すぎる!
この僕、パンタル・ワン様は、それでなくても忙しいんだからね?
「キャキャキャ! お前のスピードと、メカニックとしての技術は良く分かったよ。スゴいスゴい!」
目の前にいる銀色の子どもに拍手だ。
この僕に見えないほどのスピードで動き回れるヤツが居るとは。
「まるで曲芸だね。キャキャッ!」
まあ、コイツはそっち方向に特化したヤツなんだろう。
高速で移動する、修理の専門家。確かに厄介だ。
「けど僕はまだ、ほとんど本気を出していない。チカラを使えば使うほど、後のメンテナンスに時間が掛かっちゃうからね」
そんな事で、ここの建設スケジュールが遅れたら、ボスに怒られちゃうじゃないか。
だから、僕が本気を出すわけにはいかない。それなのに、アイツらと来たら!
「ガルルルッ! 本当にパワーアップしてやがる!」
「キシャシャアアァッ! どウいう事?! なンでこんなニ強イの?!」
部下の〝イヌ〟と〝ゲジゲジ〟は、復活したヒーロー気取りの三人組を相手に苦戦している。
僕の特殊能力で、かなりパワーアップしてるはずなんだけど。役立たずだなあ!
……仕方がない。やっぱり〝制御弁〟を開けてしまおう。
「もういいよ、お前ら」
という僕の声に〝イヌゲジコンビ〟は、慌てふためく。
「わふぁあぁぁ! わ、ワン様ぁ?!」
「イぁああ!! ヤめテッ! ヤめテぇぇぇぇえ!」
いくら強くなっても〝人間部分〟を残さないと思考を巡らせて忠実に命令をこなす事が難しくなる。それが〝怪物〟ではなく〝怪人〟を作る理由。
……ウチの組織は動物園じゃないんだ。当然だよねえ。
「わふぁぁぁ! お願いです、やめてください! 助けてください!」
「シャギギギィッ! ヒトでナし! おニ! 悪魔ぁァぁア!!」
……ああっ! たまらないよ!
部下が、絶望のどん底に突き落とされる時の悲鳴は、何度聞いても心地いいね!
「だから〝開放〟って何なんだよ!」
青いヒーローが、なかなかに頭の悪い質問をしてきたよ。
「うるさいなあ、もう! すぐに分かるよ!」
みんなは気付いた? 分かるよね? ね?
怪人の〝人間部分〟を守っている〝制御弁〟を開放すると、彼らの血肉は、それ以外の部分に食い尽くされて、すさまじい強さの〝怪物〟になるんだ。
あはは! うんうん。もちろん元には戻れないよ。可哀想だよねえ。
「キャキャッ! それじゃ、いっちゃおうか! ……開放!」
ちなみに〝制御弁〟を開けられるのは、僕たち幹部を含む〝上級構成員〟の特権なんだ。
どう? うらやましいでしょ?
「はっ! がふっ! ぐっはあああ! いやああああ! 痛い! いたあああい!!」
「キョギョギョギョギャアアアアアアアッ! イギャアアアアアアッ!!」
痛いよねぇ! 苦しいよねえ! だって、イヌやゲジゲジに、体を食べられるのと同じだもん。
いいんだ! いいんだよ! 痛いときは痛いって泣き叫んでも良いんだよ?
頑張って。もうちょっとだから!
ああ! なんて素敵な時間なんだ!
もっと苦しんで!
もっと叫んで!
もっと泣きわめいてよ!
「どうしたんじゃ、コイツら?!」
「何よ? なんなのよ、これ!」
よしよし。かわいいヤツらだ。
悲鳴をあげ、メリメリと音を立てながら、イヌとゲジゲジは、見た目もどんどん獣に近付いていく。
あはは、ヒーローども、驚いているなあ……妙なガキどもは、顔色ひとつ変えないけど。
まあいいや。さあ、ショーの始まりだ!
「暴れろ! 化け物!」
完全に〝制御弁〟を開けたよ。スピード、パワーともに、ざっと見積もっても、さっきまでの10倍にはアップしているはずだ。
「グウォオオオオオン!」
「ゲジャジャシャシャ!」
ヒーローどもに襲い掛かるイヌとゲジ。ああなったら、さすがの僕も〝待て〟と〝殺せ〟ぐらいしか命令できないけど。
まあいいや。さっさと全員始末しちゃってー!
「……チッ。いまの、ちょっとアイツに似てたな。キキッ……ムカつく」
イヌのスピードに、青いヒーローはついて行けない。
「何なんだ、コイツ、強……ぐあっ!」
ゲジゲジのパワーに、赤と黄色は、押しつぶされようとしている。
「ぬおおっ! 信じられんパワーじゃあぁ!」
「姿が変化したせいなの? 動けないっ!」
よしよし、いいぞ! そのまま一気に殺しちゃおうか!
「……やはり、即席のパワーアップでは、無理があったようだな」
急に、目の前の〝修理専門ヒーロー〟が、ポツリと言った。
「仕方ないよ。あとは僕たちがやろう」
「えへへ。了解!」
「やー! ガマン終了―!」
「それじゃ、いくわよ?」
今まで、静かに戦いを見守っていたガキどもが、急に動き始めた。
一斉にこちらを向いて叫ぶ。
「変身!」
「武装!」
まばゆい光が辺りを照らす。
……何だよ? いったい何が起きたんだ?!
「キキッ?! お前らは……!」
光が収まると、そこには〝修理専門ヒーロー〟とは色違いのラインが入った装備のガキ共が居た。
「にゃー! サルはレッドの獲物だからさー、イヌはもらっていいかにゃ?」
「ああ、構わねぇぜ! よく我慢したな、イエロー!」
「じゃあ、私とグリーンは、戦闘員ねぇん?」
「わかりました。お任せ下さい」
勝手に分担を決め始めるガキども。
笑わせてくれるじゃん。勝てるわけないのにさ!
「あ、そっか……それじゃ俺はゲジゲジかよ! しゃーねーなあ!」
面倒くさそうに、マンデガンレッドとイエローを押しつぶそうとしているゲジゲジに、青いラインのガキが近づいていく。
「虫、キライなんだよなぁ……」
そう言って、手のひらをゲジゲジに向けた次の瞬間、ズガン! という音が鳴り響いた。
「ゲシャアアァァッ!」
突然地面から生えた、鋭いトゲに、ゲジゲジが串刺しにされ、断末魔が室内にこだまする。
「なに?!」
何なんだ、今の?!
「アースぅん? 触りたくないからって、それは可哀想じゃないのぉン?」
ピンクのラインが入ったスーツのガキは、そう言うと、手に持った杖を、頭上に高々と振り上げた。
「HuLex UmThel eLEc iL」
突然の雷光。宙に浮かんでいた戦闘員は、手足をジタバタと動かしながら、黒焦げにされていく。
「にゃー! ピンクも似たような物にゃ。このままじゃ、そういう〝不思議〟で〝フワッとした〟戦隊だと思われるにゃあ!」
黄色いラインのガキが、困ったような口調で叫ぶ。
「……お、お前ら一体?!」
ふざけるなよ! 何なんだ、コイツらの力は? これじゃまるで、超能力者か、魔法使いじゃないか!
「ふふ。おサルさん凄いですね。ほぼ正解ですよ。〝超能力〟と〝魔法〟です。あと〝大いなる自然の力〟を忘れてはいけません」
緑のラインのガキ! いま僕の心を読んだ?!
「ほらぁ! やっぱり〝フワッと戦隊〟だと思われたにゃ! 私が汚名を晴らすにゃあ!」
「なんだよイエロー〝フワッと戦隊〟って……」
「アースは黙ってるにゃ。近接戦闘もイケてるところ、見せてやるんにゃあ。魔神の爪!」
黄色いガキの拳から、長い爪が飛び出す。そして次の瞬間!
「ギャインッ!」
マンデガン・ブルーに伸し掛かっていたイヌが、一瞬で切り刻まれて、無数の肉片に変わった。
「な……?!」
「ざっとこんなモンにゃ!」
黄色いラインのガキは、いつの間にかイヌが居た場所まで移動して、得意げにしている。
「今の、お前がやったのか……?!」
「何よぉ! 見えてなかったのん?! 出来るだけノロノロゆっくり、やってあげたのににゃあ!」
今の動きがノロノロ?! 何を言って……ん?
「な、何だ?」
黄色いガキのセリフが終わると同時に、空中に無数の〝岩〟が現れた。
ゴウッ! という音が轟き、散らばったイヌの残骸めがけて、雨のように降り注いだ。
「あにゃあ! お前も遅いよノーム! そいつ、とっくに死んじゃってるからにゃあ?!」
『そうは申されましても、この〝効果〟は自動で付随する物でして……』
誰と話しているのか知らないけど、何なんだよ、この岩!
ズガガガガガガ! 無数の岩は、爆音とともに、イヌの肉片をチリに変えてゆく。
「どういう事なんだ? なんの魔法だよコレ!」
「にゃー?! あーもー! やっぱ〝ふわっと戦隊〟だと思われちゃったじゃにゃいかー!」
思うか! これのどこがフワッとしてるんだよ!
マジでヤバイぞ、コイツら……信じられない強さだ。
「す……凄い」
「信じられないわ! あなた達は一体?」
「何者なんじゃ?!」
あの〝マンデガン〟とかいうヒーロー3人組が、驚きの声を上げている。
お前ら、知り合いじゃなかったのかよ!
……まあ確かに、背格好も装備も、そして何より、強さも段違いだけど。
銀のスーツに5色のライン。全員、見た目が小学生くらいの、謎のヒーローたち。
「何だよ! お前らいったい、何なんだ?!」
僕の声に、五人のヒーローは、待ってましたとばかりに、目にも止まらぬ速さで整列する。
っていうか……あれ? もしかして、待ってたの?
「俺たちは、地球を救うために選ばれた」
青が、右手の拳を握りしめ、胸を叩く。
「科学と!」
赤が叫ぶ。
「超常と!」
緑が叫ぶ。
「魔法と!」
ピンクが叫ぶ。
「銀河と!」
黄色が叫ぶ。
「大いなる自然の戦士! その名も!」
青が再び叫ぶと、全員が高々と腕を突き上げ、真上を指差す。
「救星戦隊プラネット・アース!」
ドーン! という音とともに、五人の背後に爆発が起きた。どういう仕組なのか知らないけど、危ないから外でやってよ!
「き、救星戦隊……」
「プラネット・アース!」
呆然としている〝マンデガン〟ども。
本当に知らなかったんだな……
「残念だったな、ダーク・ソサイエティ! お前らの悪事もここまでだ!」
くそぉ……マズいぞ……!
ガキだと思って油断したよ。正直、本気を出した僕でも、あの五人には敵わないだろう。
「さて、それでは始めようか。お前の相手は私だ」
赤いヤツが、歩み出て言った。
……なんだよ、超ラッキー! コイツ、一人で戦うつもりか!
たぶんこの赤いヤツ、修理に特化した〝メカニック担当〟だ。あの五人の中では最弱だろう。うまく捕まえて人質にすれば、逃げ切れる!
「パープル・ブレード」
紫色に光る剣を片手に、近づいて来る最弱メカニック。よしよし、一瞬で動けなくしてやる。
「ウキィィィッ! フルパワーだ、食らえ!」
全力を出した僕の強さに、せいぜい驚くがいい!
「まずは腕の一本でも切り落として……」
ザンッ! と、心地よい音が響く。
よし! このまま、もがくガキをひっ捕まえて……え?!
「ひぃッ? イギャアアアアアッ?! 腕が! 僕の腕がああぁぁぁあ?!」
痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 僕の腕が切り落とされて?!
何が起きたの?! あり得ない! あり得ない! 僕の体は、普通の攻撃なんかで傷付けられるはずが無いんだ。何でこんな!
「何でお前みたいなヤツに、このパンタル・ワン様が?! 何で? 何が起きたの?!」
〝メカニック担当〟は、切り取られた僕の腕を持ったまま、光の剣を僕に向けて構えている。
その姿が、二度、三度と揺らぐたび、僕の体は切り刻まれていく。
「痛いいぃぃ! やめっ! 助けっ! ひぎいいぃぃ!」
コイツのどこが〝メカニック担当〟だって?!
こんなヤツに敵うわけないじゃんか!
「終わりだ。大人げ無いが、さすがの私も少々怒っている。覚悟するがいい」
「大人げないって、お前、子どもだろ?!」
の〝だろ?!〟を、僕は言うことが出来なかった。
首をハネられちゃったからね。
いろいろ長すぎる!
この僕、パンタル・ワン様は、それでなくても忙しいんだからね?
「キャキャキャ! お前のスピードと、メカニックとしての技術は良く分かったよ。スゴいスゴい!」
目の前にいる銀色の子どもに拍手だ。
この僕に見えないほどのスピードで動き回れるヤツが居るとは。
「まるで曲芸だね。キャキャッ!」
まあ、コイツはそっち方向に特化したヤツなんだろう。
高速で移動する、修理の専門家。確かに厄介だ。
「けど僕はまだ、ほとんど本気を出していない。チカラを使えば使うほど、後のメンテナンスに時間が掛かっちゃうからね」
そんな事で、ここの建設スケジュールが遅れたら、ボスに怒られちゃうじゃないか。
だから、僕が本気を出すわけにはいかない。それなのに、アイツらと来たら!
「ガルルルッ! 本当にパワーアップしてやがる!」
「キシャシャアアァッ! どウいう事?! なンでこんなニ強イの?!」
部下の〝イヌ〟と〝ゲジゲジ〟は、復活したヒーロー気取りの三人組を相手に苦戦している。
僕の特殊能力で、かなりパワーアップしてるはずなんだけど。役立たずだなあ!
……仕方がない。やっぱり〝制御弁〟を開けてしまおう。
「もういいよ、お前ら」
という僕の声に〝イヌゲジコンビ〟は、慌てふためく。
「わふぁあぁぁ! わ、ワン様ぁ?!」
「イぁああ!! ヤめテッ! ヤめテぇぇぇぇえ!」
いくら強くなっても〝人間部分〟を残さないと思考を巡らせて忠実に命令をこなす事が難しくなる。それが〝怪物〟ではなく〝怪人〟を作る理由。
……ウチの組織は動物園じゃないんだ。当然だよねえ。
「わふぁぁぁ! お願いです、やめてください! 助けてください!」
「シャギギギィッ! ヒトでナし! おニ! 悪魔ぁァぁア!!」
……ああっ! たまらないよ!
部下が、絶望のどん底に突き落とされる時の悲鳴は、何度聞いても心地いいね!
「だから〝開放〟って何なんだよ!」
青いヒーローが、なかなかに頭の悪い質問をしてきたよ。
「うるさいなあ、もう! すぐに分かるよ!」
みんなは気付いた? 分かるよね? ね?
怪人の〝人間部分〟を守っている〝制御弁〟を開放すると、彼らの血肉は、それ以外の部分に食い尽くされて、すさまじい強さの〝怪物〟になるんだ。
あはは! うんうん。もちろん元には戻れないよ。可哀想だよねえ。
「キャキャッ! それじゃ、いっちゃおうか! ……開放!」
ちなみに〝制御弁〟を開けられるのは、僕たち幹部を含む〝上級構成員〟の特権なんだ。
どう? うらやましいでしょ?
「はっ! がふっ! ぐっはあああ! いやああああ! 痛い! いたあああい!!」
「キョギョギョギョギャアアアアアアアッ! イギャアアアアアアッ!!」
痛いよねぇ! 苦しいよねえ! だって、イヌやゲジゲジに、体を食べられるのと同じだもん。
いいんだ! いいんだよ! 痛いときは痛いって泣き叫んでも良いんだよ?
頑張って。もうちょっとだから!
ああ! なんて素敵な時間なんだ!
もっと苦しんで!
もっと叫んで!
もっと泣きわめいてよ!
「どうしたんじゃ、コイツら?!」
「何よ? なんなのよ、これ!」
よしよし。かわいいヤツらだ。
悲鳴をあげ、メリメリと音を立てながら、イヌとゲジゲジは、見た目もどんどん獣に近付いていく。
あはは、ヒーローども、驚いているなあ……妙なガキどもは、顔色ひとつ変えないけど。
まあいいや。さあ、ショーの始まりだ!
「暴れろ! 化け物!」
完全に〝制御弁〟を開けたよ。スピード、パワーともに、ざっと見積もっても、さっきまでの10倍にはアップしているはずだ。
「グウォオオオオオン!」
「ゲジャジャシャシャ!」
ヒーローどもに襲い掛かるイヌとゲジ。ああなったら、さすがの僕も〝待て〟と〝殺せ〟ぐらいしか命令できないけど。
まあいいや。さっさと全員始末しちゃってー!
「……チッ。いまの、ちょっとアイツに似てたな。キキッ……ムカつく」
イヌのスピードに、青いヒーローはついて行けない。
「何なんだ、コイツ、強……ぐあっ!」
ゲジゲジのパワーに、赤と黄色は、押しつぶされようとしている。
「ぬおおっ! 信じられんパワーじゃあぁ!」
「姿が変化したせいなの? 動けないっ!」
よしよし、いいぞ! そのまま一気に殺しちゃおうか!
「……やはり、即席のパワーアップでは、無理があったようだな」
急に、目の前の〝修理専門ヒーロー〟が、ポツリと言った。
「仕方ないよ。あとは僕たちがやろう」
「えへへ。了解!」
「やー! ガマン終了―!」
「それじゃ、いくわよ?」
今まで、静かに戦いを見守っていたガキどもが、急に動き始めた。
一斉にこちらを向いて叫ぶ。
「変身!」
「武装!」
まばゆい光が辺りを照らす。
……何だよ? いったい何が起きたんだ?!
「キキッ?! お前らは……!」
光が収まると、そこには〝修理専門ヒーロー〟とは色違いのラインが入った装備のガキ共が居た。
「にゃー! サルはレッドの獲物だからさー、イヌはもらっていいかにゃ?」
「ああ、構わねぇぜ! よく我慢したな、イエロー!」
「じゃあ、私とグリーンは、戦闘員ねぇん?」
「わかりました。お任せ下さい」
勝手に分担を決め始めるガキども。
笑わせてくれるじゃん。勝てるわけないのにさ!
「あ、そっか……それじゃ俺はゲジゲジかよ! しゃーねーなあ!」
面倒くさそうに、マンデガンレッドとイエローを押しつぶそうとしているゲジゲジに、青いラインのガキが近づいていく。
「虫、キライなんだよなぁ……」
そう言って、手のひらをゲジゲジに向けた次の瞬間、ズガン! という音が鳴り響いた。
「ゲシャアアァァッ!」
突然地面から生えた、鋭いトゲに、ゲジゲジが串刺しにされ、断末魔が室内にこだまする。
「なに?!」
何なんだ、今の?!
「アースぅん? 触りたくないからって、それは可哀想じゃないのぉン?」
ピンクのラインが入ったスーツのガキは、そう言うと、手に持った杖を、頭上に高々と振り上げた。
「HuLex UmThel eLEc iL」
突然の雷光。宙に浮かんでいた戦闘員は、手足をジタバタと動かしながら、黒焦げにされていく。
「にゃー! ピンクも似たような物にゃ。このままじゃ、そういう〝不思議〟で〝フワッとした〟戦隊だと思われるにゃあ!」
黄色いラインのガキが、困ったような口調で叫ぶ。
「……お、お前ら一体?!」
ふざけるなよ! 何なんだ、コイツらの力は? これじゃまるで、超能力者か、魔法使いじゃないか!
「ふふ。おサルさん凄いですね。ほぼ正解ですよ。〝超能力〟と〝魔法〟です。あと〝大いなる自然の力〟を忘れてはいけません」
緑のラインのガキ! いま僕の心を読んだ?!
「ほらぁ! やっぱり〝フワッと戦隊〟だと思われたにゃ! 私が汚名を晴らすにゃあ!」
「なんだよイエロー〝フワッと戦隊〟って……」
「アースは黙ってるにゃ。近接戦闘もイケてるところ、見せてやるんにゃあ。魔神の爪!」
黄色いガキの拳から、長い爪が飛び出す。そして次の瞬間!
「ギャインッ!」
マンデガン・ブルーに伸し掛かっていたイヌが、一瞬で切り刻まれて、無数の肉片に変わった。
「な……?!」
「ざっとこんなモンにゃ!」
黄色いラインのガキは、いつの間にかイヌが居た場所まで移動して、得意げにしている。
「今の、お前がやったのか……?!」
「何よぉ! 見えてなかったのん?! 出来るだけノロノロゆっくり、やってあげたのににゃあ!」
今の動きがノロノロ?! 何を言って……ん?
「な、何だ?」
黄色いガキのセリフが終わると同時に、空中に無数の〝岩〟が現れた。
ゴウッ! という音が轟き、散らばったイヌの残骸めがけて、雨のように降り注いだ。
「あにゃあ! お前も遅いよノーム! そいつ、とっくに死んじゃってるからにゃあ?!」
『そうは申されましても、この〝効果〟は自動で付随する物でして……』
誰と話しているのか知らないけど、何なんだよ、この岩!
ズガガガガガガ! 無数の岩は、爆音とともに、イヌの肉片をチリに変えてゆく。
「どういう事なんだ? なんの魔法だよコレ!」
「にゃー?! あーもー! やっぱ〝ふわっと戦隊〟だと思われちゃったじゃにゃいかー!」
思うか! これのどこがフワッとしてるんだよ!
マジでヤバイぞ、コイツら……信じられない強さだ。
「す……凄い」
「信じられないわ! あなた達は一体?」
「何者なんじゃ?!」
あの〝マンデガン〟とかいうヒーロー3人組が、驚きの声を上げている。
お前ら、知り合いじゃなかったのかよ!
……まあ確かに、背格好も装備も、そして何より、強さも段違いだけど。
銀のスーツに5色のライン。全員、見た目が小学生くらいの、謎のヒーローたち。
「何だよ! お前らいったい、何なんだ?!」
僕の声に、五人のヒーローは、待ってましたとばかりに、目にも止まらぬ速さで整列する。
っていうか……あれ? もしかして、待ってたの?
「俺たちは、地球を救うために選ばれた」
青が、右手の拳を握りしめ、胸を叩く。
「科学と!」
赤が叫ぶ。
「超常と!」
緑が叫ぶ。
「魔法と!」
ピンクが叫ぶ。
「銀河と!」
黄色が叫ぶ。
「大いなる自然の戦士! その名も!」
青が再び叫ぶと、全員が高々と腕を突き上げ、真上を指差す。
「救星戦隊プラネット・アース!」
ドーン! という音とともに、五人の背後に爆発が起きた。どういう仕組なのか知らないけど、危ないから外でやってよ!
「き、救星戦隊……」
「プラネット・アース!」
呆然としている〝マンデガン〟ども。
本当に知らなかったんだな……
「残念だったな、ダーク・ソサイエティ! お前らの悪事もここまでだ!」
くそぉ……マズいぞ……!
ガキだと思って油断したよ。正直、本気を出した僕でも、あの五人には敵わないだろう。
「さて、それでは始めようか。お前の相手は私だ」
赤いヤツが、歩み出て言った。
……なんだよ、超ラッキー! コイツ、一人で戦うつもりか!
たぶんこの赤いヤツ、修理に特化した〝メカニック担当〟だ。あの五人の中では最弱だろう。うまく捕まえて人質にすれば、逃げ切れる!
「パープル・ブレード」
紫色に光る剣を片手に、近づいて来る最弱メカニック。よしよし、一瞬で動けなくしてやる。
「ウキィィィッ! フルパワーだ、食らえ!」
全力を出した僕の強さに、せいぜい驚くがいい!
「まずは腕の一本でも切り落として……」
ザンッ! と、心地よい音が響く。
よし! このまま、もがくガキをひっ捕まえて……え?!
「ひぃッ? イギャアアアアアッ?! 腕が! 僕の腕がああぁぁぁあ?!」
痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 僕の腕が切り落とされて?!
何が起きたの?! あり得ない! あり得ない! 僕の体は、普通の攻撃なんかで傷付けられるはずが無いんだ。何でこんな!
「何でお前みたいなヤツに、このパンタル・ワン様が?! 何で? 何が起きたの?!」
〝メカニック担当〟は、切り取られた僕の腕を持ったまま、光の剣を僕に向けて構えている。
その姿が、二度、三度と揺らぐたび、僕の体は切り刻まれていく。
「痛いいぃぃ! やめっ! 助けっ! ひぎいいぃぃ!」
コイツのどこが〝メカニック担当〟だって?!
こんなヤツに敵うわけないじゃんか!
「終わりだ。大人げ無いが、さすがの私も少々怒っている。覚悟するがいい」
「大人げないって、お前、子どもだろ?!」
の〝だろ?!〟を、僕は言うことが出来なかった。
首をハネられちゃったからね。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる