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春休み

特殊武装戦隊マンデガン VS 救星戦隊プラネットアース (結)

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「キキッ! 長いよ!」

 いろいろ長すぎる!
 この僕、パンタル・ワン様は、それでなくても忙しいんだからね?

「キャキャキャ! お前のスピードと、メカニックとしての技術は良く分かったよ。スゴいスゴい!」

 目の前にいる銀色の子どもに拍手だ。
 この僕に見えないほどのスピードで動き回れるヤツが居るとは。

「まるで曲芸だね。キャキャッ!」

 まあ、コイツはそっち方向に特化したヤツなんだろう。
 高速で移動する、修理の専門家。確かに厄介だ。

「けど僕はまだ、ほとんど本気を出していない。チカラを使えば使うほど、後のメンテナンスに時間が掛かっちゃうからね」

 そんな事で、ここの建設スケジュールが遅れたら、ボスに怒られちゃうじゃないか。
 だから、僕が本気を出すわけにはいかない。それなのに、アイツらと来たら!

「ガルルルッ! 本当にパワーアップしてやがる!」

「キシャシャアアァッ! どウいう事?! なンでこんなニ強イの?!」

 部下の〝イヌ〟と〝ゲジゲジ〟は、復活したヒーロー気取りの三人組を相手に苦戦している。
 僕の特殊能力で、かなりパワーアップしてるはずなんだけど。役立たずだなあ!
 ……仕方がない。やっぱり〝制御弁せいぎょべん〟を開けてしまおう。

「もういいよ、お前ら」

 という僕の声に〝イヌゲジコンビ〟は、慌てふためく。

「わふぁあぁぁ! わ、ワン様ぁ?!」

「イぁああ!! ヤめテッ! ヤめテぇぇぇぇえ!」 

 いくら強くなっても〝人間部分〟を残さないと思考を巡らせて忠実に命令をこなす事が難しくなる。それが〝怪物〟ではなく〝怪人〟を作る理由。
 ……ウチの組織は動物園じゃないんだ。当然だよねえ。

「わふぁぁぁ! お願いです、やめてください! 助けてください!」

「シャギギギィッ! ヒトでナし! おニ! 悪魔ぁァぁア!!」

 ……ああっ! たまらないよ!
 部下が、絶望のどん底に突き落とされる時の悲鳴は、何度聞いても心地いいね!

「だから〝開放〟って何なんだよ!」

 青いヒーローが、なかなかに頭の悪い質問をしてきたよ。

「うるさいなあ、もう! すぐに分かるよ!」

 みんなは気付いた? 分かるよね? ね?
 怪人の〝人間部分〟を守っている〝制御弁〟を開放すると、彼らの血肉は、それ以外の部分に食い尽くされて、すさまじい強さの〝怪物〟になるんだ。
 あはは! うんうん。もちろん元には戻れないよ。可哀想だよねえ。

「キャキャッ! それじゃ、いっちゃおうか! ……開放!」

 ちなみに〝制御弁〟を開けられるのは、僕たち幹部を含む〝上級構成員〟の特権なんだ。
 どう? うらやましいでしょ?

「はっ! がふっ! ぐっはあああ! いやああああ! 痛い! いたあああい!!」

「キョギョギョギョギャアアアアアアアッ! イギャアアアアアアッ!!」

 痛いよねぇ! 苦しいよねえ! だって、イヌやゲジゲジに、体を食べられるのと同じだもん。
 いいんだ! いいんだよ! 痛いときは痛いって泣き叫んでも良いんだよ?
 頑張って。もうちょっとだから!
 ああ! なんて素敵な時間なんだ!
 もっと苦しんで!
 もっと叫んで!
 もっと泣きわめいてよ!

「どうしたんじゃ、コイツら?!」

「何よ? なんなのよ、これ!」

 よしよし。かわいいヤツらだ。
 悲鳴をあげ、メリメリと音を立てながら、イヌとゲジゲジは、見た目もどんどん獣に近付いていく。
 あはは、ヒーローども、驚いているなあ……妙なガキどもは、顔色ひとつ変えないけど。
 まあいいや。さあ、ショーの始まりだ!

「暴れろ! 化け物!」

 完全に〝制御弁〟を開けたよ。スピード、パワーともに、ざっと見積もっても、さっきまでの10倍にはアップしているはずだ。

「グウォオオオオオン!」

「ゲジャジャシャシャ!」

 ヒーローどもに襲い掛かるイヌとゲジ。ああなったら、さすがの僕も〝待て〟と〝殺せ〟ぐらいしか命令できないけど。
 まあいいや。さっさと全員始末しちゃってー!

「……チッ。いまの、ちょっとアイツに似てたな。キキッ……ムカつく」

 イヌのスピードに、青いヒーローはついて行けない。

「何なんだ、コイツ、強……ぐあっ!」

 ゲジゲジのパワーに、赤と黄色は、押しつぶされようとしている。

「ぬおおっ! 信じられんパワーじゃあぁ!」

「姿が変化したせいなの? 動けないっ!」

 よしよし、いいぞ! そのまま一気に殺しちゃおうか!

「……やはり、即席のパワーアップでは、無理があったようだな」

 急に、目の前の〝修理専門ヒーロー〟が、ポツリと言った。

「仕方ないよ。あとは僕たちがやろう」

「えへへ。了解!」

「やー! ガマン終了―!」

「それじゃ、いくわよ?」

 今まで、静かに戦いを見守っていたガキどもが、急に動き始めた。
 一斉にこちらを向いて叫ぶ。

「変身!」

「武装!」

 まばゆい光が辺りを照らす。
 ……何だよ? いったい何が起きたんだ?!

「キキッ?! お前らは……!」

 光が収まると、そこには〝修理専門ヒーロー〟とは色違いのラインが入った装備のガキ共が居た。

「にゃー! サルはレッドの獲物だからさー、イヌはもらっていいかにゃ?」

「ああ、構わねぇぜ! よく我慢したな、イエロー!」

「じゃあ、私とグリーンは、戦闘員ねぇん?」

「わかりました。お任せ下さい」

 勝手に分担を決め始めるガキども。
 笑わせてくれるじゃん。勝てるわけないのにさ!

「あ、そっか……それじゃ俺はゲジゲジかよ! しゃーねーなあ!」

 面倒くさそうに、マンデガンレッドとイエローを押しつぶそうとしているゲジゲジに、青いラインのガキが近づいていく。

「虫、キライなんだよなぁ……」

 そう言って、手のひらをゲジゲジに向けた次の瞬間、ズガン! という音が鳴り響いた。

「ゲシャアアァァッ!」

 突然地面から生えた、鋭いトゲに、ゲジゲジが串刺しにされ、断末魔が室内にこだまする。

「なに?!」

 何なんだ、今の?!

「アースぅん? 触りたくないからって、それは可哀想じゃないのぉン?」

 ピンクのラインが入ったスーツのガキは、そう言うと、手に持った杖を、頭上に高々と振り上げた。

「HuLex UmThel eLEc iL」

 突然の雷光。宙に浮かんでいた戦闘員は、手足をジタバタと動かしながら、黒焦げにされていく。

「にゃー! ピンクも似たような物にゃ。このままじゃ、そういう〝不思議〟で〝フワッとした〟戦隊だと思われるにゃあ!」

 黄色いラインのガキが、困ったような口調で叫ぶ。

「……お、お前ら一体?!」

 ふざけるなよ! 何なんだ、コイツらの力は? これじゃまるで、超能力者か、魔法使いじゃないか!

「ふふ。おサルさん凄いですね。ほぼ正解ですよ。〝超能力〟と〝魔法〟です。あと〝大いなる自然の力〟を忘れてはいけません」

 緑のラインのガキ! いま僕の心を読んだ?!

「ほらぁ! やっぱり〝フワッと戦隊〟だと思われたにゃ! 私が汚名を晴らすにゃあ!」

「なんだよイエロー〝フワッと戦隊〟って……」

「アースは黙ってるにゃ。近接戦闘もイケてるところ、見せてやるんにゃあ。魔神の爪!」

 黄色いガキのこぶしから、長い爪が飛び出す。そして次の瞬間!

「ギャインッ!」

 マンデガン・ブルーにかっていたイヌが、一瞬で切り刻まれて、無数の肉片に変わった。

「な……?!」

「ざっとこんなモンにゃ!」

 黄色いラインのガキは、いつの間にかイヌが居た場所まで移動して、得意げにしている。

「今の、お前がやったのか……?!」

にゃによぉ! 見えてなかったのん?! 出来るだけノロノロゆっくり、やってあげたのににゃあ!」

 今の動きがノロノロ?! 何を言って……ん?

「な、何だ?」

 黄色いガキのセリフが終わると同時に、空中に無数の〝岩〟が現れた。
 ゴウッ! という音がとどろき、散らばったイヌの残骸めがけて、雨のように降り注いだ。

「あにゃあ! お前も遅いよノーム! そいつ、とっくに死んじゃってるからにゃあ?!」

『そうは申されましても、この〝効果〟は自動で付随する物でして……』

 誰と話しているのか知らないけど、何なんだよ、この岩!
 ズガガガガガガ! 無数の岩は、爆音とともに、イヌの肉片をチリに変えてゆく。

「どういう事なんだ? なんの魔法だよコレ!」

「にゃー?! あーもー! やっぱ〝ふわっと戦隊〟だと思われちゃったじゃにゃいかー!」

 思うか! これのどこがフワッとしてるんだよ!
 マジでヤバイぞ、コイツら……信じられない強さだ。

「す……凄い」

「信じられないわ! あなた達は一体?」

「何者なんじゃ?!」

 あの〝マンデガン〟とかいうヒーロー3人組が、驚きの声を上げている。
 お前ら、知り合いじゃなかったのかよ!
 ……まあ確かに、背格好も装備も、そして何より、強さも段違いだけど。
 銀のスーツに5色のライン。全員、見た目が小学生くらいの、謎のヒーローたち。

「何だよ! お前らいったい、何なんだ?!」

 僕の声に、五人のヒーローは、待ってましたとばかりに、目にも止まらぬ速さで整列する。
 っていうか……あれ? もしかして、待ってたの?

「俺たちは、地球を救うために選ばれた」

 青が、右手の拳を握りしめ、胸を叩く。

「科学と!」

 赤が叫ぶ。

「超常と!」

 緑が叫ぶ。

「魔法と!」

 ピンクが叫ぶ。

「銀河と!」

 黄色が叫ぶ。

「大いなる自然の戦士! その名も!」

 青が再び叫ぶと、全員が高々と腕を突き上げ、真上を指差す。

「救星戦隊プラネット・アース!」

 ドーン! という音とともに、五人の背後に爆発が起きた。どういう仕組なのか知らないけど、危ないから外でやってよ!

「き、救星戦隊……」

「プラネット・アース!」

 呆然としている〝マンデガン〟ども。
 本当に知らなかったんだな……

「残念だったな、ダーク・ソサイエティ! お前らの悪事もここまでだ!」

 くそぉ……マズいぞ……!
 ガキだと思って油断したよ。正直、本気を出した僕でも、あの五人には敵わないだろう。

「さて、それでは始めようか。お前の相手は私だ」

 赤いヤツが、歩み出て言った。
 ……なんだよ、超ラッキー! コイツ、一人で戦うつもりか!
 たぶんこの赤いヤツ、修理に特化した〝メカニック担当〟だ。あの五人の中では最弱だろう。うまく捕まえて人質にすれば、逃げ切れる!

「パープル・ブレード」

 紫色に光る剣を片手に、近づいて来る最弱メカニック。よしよし、一瞬で動けなくしてやる。

「ウキィィィッ! フルパワーだ、食らえ!」

 全力を出した僕の強さに、せいぜい驚くがいい!

「まずは腕の一本でも切り落として……」

 ザンッ! と、心地よい音が響く。
 よし! このまま、もがくガキをひっ捕まえて……え?!

「ひぃッ? イギャアアアアアッ?! 腕が! 僕の腕がああぁぁぁあ?!」

 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 僕の腕が切り落とされて?!
 何が起きたの?! あり得ない! あり得ない! 僕の体は、普通の攻撃なんかで傷付けられるはずが無いんだ。何でこんな!

「何でお前みたいなヤツに、このパンタル・ワン様が?! 何で? 何が起きたの?!」

 〝メカニック担当〟は、切り取られた僕の腕を持ったまま、光の剣を僕に向けて構えている。
 その姿が、二度、三度と揺らぐたび、僕の体は切り刻まれていく。

「痛いいぃぃ! やめっ! 助けっ! ひぎいいぃぃ!」

 コイツのどこが〝メカニック担当〟だって?!
 こんなヤツに敵うわけないじゃんか!

「終わりだ。大人おとなげ無いが、さすがの私も少々しょうしょう怒っている。覚悟するがいい」

「大人げないって、お前、子どもだろ?!」

 の〝だろ?!〟を、僕は言うことが出来なかった。
 首をハネられちゃったからね。

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