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春休み

捜索

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 大ちゃんとの通信が途絶とだえた。
 最後の連絡は、大ちゃんの声ではなく、ブルーに任せた状況報告だった。

『ダイサクは、秘密を守るために、直接の通話を控えたんだ』

 きっと、報告にあった〝正義の味方〟たちが、ブルーとの会話を聞けるような〝特殊な人間〟かもしれないと、警戒したんだろう。
 そして今現在、ブルーも、大ちゃんを見失っていた。

「それで、大ちゃんのベルトは、今、どういう状態なんだ?」

山中さんちゅうに落ちている。周囲に生物はいないし、道から外れているので、誰かに拾われる心配は、今のところはない』

 家まで送ると言われた大ちゃんは、正義の味方の一人、後藤千弘ごとうちひろさんに連れられて〝喫茶ガブロ〟を出た。
 適当な〝自宅〟をでっち上げて、帰宅したフリをするつもりだったらしい。

「で、アイツらに出くわしたのか……」

 そう。〝ダーク・ソサイエティ〟の一団だ。
 ブルーの話によると、大ちゃんは変身する前に、不意の一撃を受けて気絶してしまったようだ。
 変身して、大ちゃんを守りながら戦った後藤さんも、怪人の攻撃によって、大きなダメージを受けた。

『二人は捕縛ほばくされて、幌付ほろつきのトラックに押し込まれ、連れ去られた。命に別状はないが、ダイサクが意識を取り戻した時、ゴトウチヒロは、まだ気を失っていたようだ』

 あれ? しかし、なんでベルトは外れてしまったんだ?

『ダイサクは、ダーク・ソサイエティにベルトを奪われる事を恐れたんだ』

 定番の捕虜ほりょスタイル……後ろ手に縛られ、さるぐつわを噛まされた大ちゃんは、変身しようにも、ベルトのバックルに手が届かなかった。

『色々と思案したダイサクだが、山道やまみちに差し掛かった時点で、自分の連れて行かれる先が、建設中のダーク・ソサイエティの基地だと気付いたようだ』

 もし万が一、自分が、九条博士くじょうはかせの息子だと気付かれれば、持ち物であるベルトが、子どものオモチャではない事に気付かれてしまうかもしれない。

『ダイサクは変身をあきらめた。そして縛られた状態でギリギリ届く、脱着ボタンでベルトを外し、荷台から蹴り落としたんだ』

「ずいぶん思い切ったな、大ちゃん……」

 確かに、ベルトが奴らの手に渡れば、大変なことになるだろう。
 ……悪の秘密組織〝ダーク・ソサイエティ〟は、今までに2度も、大ちゃんを誘拐しようしている。奴らの目的が、九条博士の頭脳なのだとしたら、ベルトはある意味、その集大成だ。

「やー! 早く! 早く行かなきゃ、大ちゃんが……」

 僕たちは今日、学校から帰ってすぐ、電車で四国を目指して出発した。
 電車の窓から外を見ながら、ユーリは、泣きそうな顔で大ちゃんを心配している。

「友里さん……大丈夫よ。九条くんは、きっと無事だから」

 彩歌は、ユーリの手を取り、時折、頭を撫でている」

「大ちゃん……心配だよ。予知の事もあるし」

 栗っちは、つい先程、未来を予知した。

映像ビジョンは、山林・工事現場・猿。言葉ワードは、拘束・代替品・変り果てた姿」

 その内容は、相変わらず不吉だ。

「ごめんね。僕の〝千里眼〟でも、まだ見えないんだ」

 栗っちの〝千里眼〟で見える場所は、能力を発動させて、視線が飛んでいる直線上と〝命中〟した地点から、半径50メートル四方だ。そのため、ある程度、場所が特定できている必要がある。

「いやいや。さすがに遠いし、広範囲すぎるからなあ。」

 そして、その〝弓矢〟や〝投擲武器とうてきぶき〟のような性質ゆえ、対象までの距離が遠い場合、範囲を絞らないと、視線は〝命中〟しない。

「やー! 大ちゃんは絶対に助ける! さらった奴らは、ひどい目に合わせてやるんだ!」

 ユーリは殺気を撒き散らしながら、怖い顔と悲しい顔を交互に繰り返している。

「瀬戸大橋を渡ったら、変身して一直線に走ろう。その方が速いと思う」

『そうだね。本来ならめる所だけど、ダイサクの危機だ。多少目立っても仕方ない』

 ありがとう、ブルー。
 ……そろそろ乗り換えだな。せめて電車での移動は、なるべく目立たず、迅速にいこう。





 >>>





 瀬戸内海を電車で渡るのは初めてだった。
 彩歌も、海の上を行くその光景に心を躍らせているのだろうが、今は静かにユーリの側にいる。
 僕たちは、瀬戸大橋線、宇多津うたづ駅で下車。人がいない路地裏で変身して、道なき道をひたすら走る。

「ブルー! とにかくベルトを回収しようぜ!」

『了解した、タツヤ』

 あ、久し振りの変身だから忘れてるかもしれないけど、僕たちは、変身している間、わざと口調を変えている。会話から身元がバレるといけないから……なんだけど、大ちゃんは自動的にヒーローに成り切ってしまうし、ユーリはイヤでもネコ口調くちょうになるようだ。

「にゃー! 大ちゃん! 大ちゃん!」

「イエローぉん! 気持ちはわかるけど、はぐれないようにねぇん?」

 先行するイエローと、その後を追うピンク。僕とグリーンも、それに続く。

『タツヤ、ベルトに異常はない。このスピードなら、あと40分ぐらいで到着するよ?』 

「了解だぜブルー!」

 夕方から夜に差し掛かり、辺りは次第に、薄暗くなってきている。夜の山中で探し物をするのは大変だ。明るい内に、ダーク・ソサイエティの基地を見つけなければ。
 ……変な話だけど、ある程度工事が進んで、見つけやすくなってる方が有り難いな。





 >>>





 ベルトは、道外れの谷に落ちていた。大ちゃんの機転のおかげで、人間が作り得る究極の兵器が、悪の手に渡る事は無かったのだ。

「にゃあああ! 大ちゃん……!」

 ベルトを大事そうに抱きしめるイエロー。

「この道を行くより〝ルート〟を中心に探した方が早いですね」

 グリーンが言った〝ルート〟とは、世界各地へと移動するためのワープゾーンみたいなものだ。

『では急ごう。ここからなら、すぐに着くよ』

 ブルーは〝ルート〟の近くに大勢の人間の気配がすると言っていた。その気配で、大ちゃんは特定できないのかな?

『すまないタツヤ。そこまではさすがに判別できない。もちろん目的地に近付けば分かると思うが、その頃には、私の力で探す必要も無くなっているだろうね』

 そうだな。そこまで近づけば、イエローの〝生命感知〟と、グリーンの〝千里眼〟が、一瞬で大ちゃんを見つけるだろう。

「よし、敵に注意しつつ進むぜ! 万が一、ヤツらに見つかったら大ちゃんが危ないから、慎重にな!」

 ここで大暴れなんかしたら、人質を盾にされるパターンに移行するかもしれない。小学生サイズのヒーローを止めるなら、小学生の人質を使う気がする。なんとなくだけど。

『タツヤ、ちょっとだけ右だよ。それと、20メートル先に崖だ。注意して欲しい』

 ブルーの指示通りに、気配を消しつつ一直線に進む。

「みなさん、ちょっと待ってください。ここまで近づけば〝千里眼〟で見えると思います」

 グリーンは、いつもの弓を引くような独特のポーズで〝千里眼〟を発動させた。
 次の瞬間、グリーンが見たのは……

「そ、そんな……!」

 大ちゃんの、変り果てた姿だった。

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