プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

終業式

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「……という事であるからして、知らない人には、絶対について行かないように」

 校長先生が、長めのお話を終え、終業式は終わった。
 短い春休みのあと、僕たちは6年生に進級する。

彩歌あやかさん、ごめん。僕のわがままで待って貰っちゃって……」

 〝終業式には出たい〟という僕の希望で、大波神社おおなみじんじゃに行ってから2日間、魔界のゲートへ出発するのを遅らせてもらっていた。

「ううん、いいのよ。最初は驚いて取り乱しちゃったけど、ルナの言うとおり、悪魔が何十年も通ってないなら、あせらなくても大丈夫よね」

「それに俺もさー、ある程度、研究を進めておきたかったんだぜ。頭にさえ入れとけば、道中、色々と考えられるしなー?」

 大ちゃんの得意技〝脳内研究所〟だ。
 あまりに没頭し過ぎて、電柱に頭をぶつける事もあるけど。

「やー! この2日で、長老にも色々調べてもらえたし!」

「えへへー! 僕もね、ちょっとだけ準備があったんだよ」

「うーん。それじゃ、ちょうど良いタイミングだったのかな?」

 城塞都市が管理している神奈川県のゲート以外にも、世界各地に、開いている魔界のゲートがある。
 魔界の創世に関わった〝魔界の軸石じくいし〟の化身〝ルナ〟は、そう言った。
 5つの門のうち、ドイツにある〝ベーリッツ陸軍病院〟のゲートは、すでに閉じた。しかし、まだ空いたままのゲートが、神奈川以外で3つも残っている。

『ふふん。やっと思い出してくれたね! そうだよ、僕が魔界の至宝〝ルナ〟だ!』

 彩歌の頭の上で、黄色いウサギが、ふんぞり返っている。

「……それでさ、どのゲートに行くかなんだけど」

『って、無視かーい!』

 頭から湯気をあげて怒り出すウサギ氏。
 ……表現が古いな。懐かしのアニメかよ。

『それにしてもさ! 最近、僕の出番が少ないんですけど! プンプン!』

 ルナは湯気を増やして、プンスカ怒っている。

「だってあなた、魔界でもほとんど帽子から出て来なかったじゃない。大波神社でも、気配を消して静かにしてるし……」

 そういえば最近、全然話題にも出なかったけど、お前、ずっと彩歌の頭の上に居たんだよな。

『魔界で目立つと、いろいろ面倒なことになるんだ。だって僕は、秘宝中の秘宝だからね! それに、あの神社の人たちは、なぜか僕が見えるみたいなんだよ。どうなってるのさ、宇宙人……』

 それで気配を消してたのか。そういえばユーリには、お前がずっと見えているみたいだもんな。

「あ、そうだ。ルナ、まさかとは思うけど、あれからゲートは……」

『心配いらないよ彩歌。今のところ、もんを通った悪魔や人はいないから』

 良かった。でも、なんでゲートが開いてるのに、悪魔や魔物がやって来ないんだ?

「……きっと〝理由〟があるのよ。でなきゃ、悪魔が開きっぱなしのゲートを、放っておくはず無いもの」

 確かにそうだ。実際、城塞都市がゲートを守っていなければ、神奈川は……いや、日本は大変な事になっていただろう。
 先日閉じたドイツのゲートは、自称〝軍人〟の〝デトレフ・バルムガルテン〟による数々の所業により、悪魔がこちらに来るのを警戒した事で、被害は無かった。
 ……いや、厳密に言えば、被害は有ったな。過去に、口封じの為に殺された人達と……多数の悪魔だ。

『タツヤ〝ボリス・ドーフライン〟もだ』

「え? っと、だれだっけ?」

「〝メガネの男〟よ、達也さん」

「あ、そうか……」

 デトレフ・バルムガルテンが残した呪いによって、魔王の依代よりしろにされた男だ。

あるじよ。私は……』

「おっと、パズズ。その件に関しては、お前は悪くないからな?」

 悪いのはデトレフだ。人の命を何だと思ってやがる。

「うん。悪魔の命も、だよね? 僕もちょっと、怒ってるんだよ」

 栗っちが、珍しく怒りをあらわにしている。

「そうだな。あいつは許せない」

 それに、まさかとは思うけど、第二、第三のデトレフが居ないとも限らない。
 ……いや、それとは別の、想像もつかないような何かが、残りのゲートでも起きているかもしれない。

「達也さん、どのゲートに行く?」

 吸血鬼の伝説で有名な、ルーマニアの〝シギショアラ〟。
 多数の行方不明者を出している、アメリカの〝カサ・グランデ山〟。
 雪と氷に閉ざされた、カナダの〝アンジクニ湖〟。
 どれもが、有名なオカルトスポットだ。

『タツヤ、どこへ向かう〝ルート〟も、ここからの距離は似たり寄ったりだ。キミたちが決めるといい』

 〝ルート〟とは、地球上の離れた場所へ高速で移動する手段で、世界中に存在している。
 この前の〝分岐点〟の時は、鳥取とオランダを結ぶルートを通り、帰りは、ドイツから石川県へと戻ってきた。

「やー? 雪と氷?! 〝アンジクニ湖〟は、寒そうだよ!」

 ユーリが顔をしかめた。やっぱネコは寒いの苦手なのか?

「……ん? でもユーリ、お前たしか、正月の寒い中を、ミカンを探してウロウロしていたよな?」

「やははー。たっちゃん何言ってるの? ミカンと寒さは別腹じゃんかー!」

 出たぞ、不思議発言! ……なんでその二つを、胃袋で比べるんだよ?

「まあ、季節的にも〝アンジクニ湖〟は今回パスかな」

『了解だ、タツヤ』

 もういっそ、ラストにしよう。
 五月なら、今よりは過ごしやすい気候になってるんじゃないかな。

『タツヤ、ちょっといいかな? ルートの話が出たので気付いたのだが……』

 ブルーが、ちょっと慌てたように言った。

「なんだよブルー?」

『いま、ルーマニアと日本を結ぶ、ルートの入口付近に、少し多めの人間が集まっている』

 人の気配けはい。それも、10人以上が、人気ひとけのないはずの山林に密集しているらしい。

「なんだって?!」

「おいおいー! 移動手段に問題が出るのは厄介だなー!」

 大ちゃんの言う通り〝ルート〟を使えなければ、大幅な時間のロスになる。
 ……最悪、大ちゃんの飛行ユニットという手もあるが、ルーマニアの大地に突き刺さるのは、できれば避けたい所だ。

「……もしかして気付かれたのか?」

『ルートに気付く人間は、そうそう居ないよ。しかし、何かが起きているのは間違いないね』

 何かか。気持ち悪いな。
 よし、今回はルーマニア……〝シギショアラ〟一択だな!

「彩歌さん、ルーマニアに行こう!」

「うん! 急がなきゃ……ルートに何かあったら大変!」

『タツヤ、ルーマニアへ向かうルートの入り口は、香川県だ』

 またしても、絶妙に遠いな……!
 ……少なくとも移動に半日は掛かるぞ。

「俺が、ひと足先に見に行くから大丈夫だぜー!」

「さすが大ちゃん! ナイスアイデア!」

 ひとっ飛びして、何が起きているのか確認してもらえるなら安心だ。

「現金も確保できたし、みんなは慌てずに、公共の交通機関で行ってくれよなー!」

 駐車場の少ないイベント会場みたいな言い方だな。
 ……あ〝現金の確保〟といっても、別に違法行為じゃないからね? ウォルナミスの長老に頼んで、僕が大量に持っていた古い紙幣を、新札に交換してもらえたんだ。これで、ある程度は自由にお金を使うことができる。

「よーし、じゃあちょっと行ってくる! ブルー、ナビは任せたぜー?」

『了解した、ダイサク。大丈夫だとは思うけど、気をつけてほしい』

「わかったぜー! 変身!」

 大ちゃんは、まばゆい光と共に変身すると、空高く舞い上がっていった。

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