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5年生 3学期 3月

老兵の任地

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「問題は、俺たちが惑星ウォルナミスを〝侵略〟した後だぜー」

 ……つまり、惑星ウォルナミスを〝開放〟してからの話か。

「えへへー。僕たちは、すぐに地球に帰っちゃうよ?」

 当然だが、用事が済めば帰る。地球を長く留守にするわけにいかないし、長居は無用だ。

「達也さん。見てきたんでしょう? ウォルナミスの、今の状況」

 見てきたさ。
 一刻も早く、彼らを開放しなければ。
 今も〝オプラ・オブナ〟の支配下なのか、もしくは、さらに別の惑星に侵略されたのかは分からないが、ウォルナミスの人たちは、隷従させられ、虐げられ、ひどい扱いを受けていた。

「つまりさー、2000年近くも奴隷のような扱いを受けてた人たちが、戦う力を持ってるかってトコなんだよなー」

 なるほど、そうか。
 分かったぞ。

「惑星ウォルナミスを救ったあと、すぐにまた、どこかの星が攻めて来るかもしれないのか!」

 ……ガジェットが無ければ、防衛のしようがない。再び、別の星に狙われるのは間違いないな。

「そうだぜー? つまり、地球から戦士を連れて行くか、現地でスカウトして、ガジェットを渡してこなきゃならないんだ」

 それは大問題だな。戦士もガジェットも、できればフルで揃えたい。

「やー! じゃあさ、長老に相談してみるよー!」

 ウォルナミスの光球から削り取られた欠片かけらを埋め込まれて、地球に来たガジェットは12個。その内、永い戦いの中で壊れたり、力を失ったりして、いま現在、無事に動作しているのは、ユーリの持つ1つだけだ。

「そうね。現地で戦える人を見つけるより、ウォルナミスに行ってくれる人を探したほうが、確実だと思うわ」

 彩歌の言う通り、惑星ウォルナミスで、都合よく戦士が見つかるかどうかは分からない。可能なら、事前に準備した方がいいに決まっている。でも……

「んー。でもちょっとハードル高いぜ? 何せ、惑星ウォルナミスに移住してもらう事になるんだからなー」

 大ちゃんが、困った顔で言う。
 そうなんだよ。はるばる2万4000光年も離れた星へ、お引越しだ。
 ウォルナミス人の子孫たちは、全員が地球生まれの地球育ちだから、惑星ウォルナミスは、懐かしの故郷ってわけじゃない。
 ……果たして、遥か遠くの〝見知らぬ星〟に行ってくれる戦士が見つかるかどうか。

「でもまあ、考え込んでいても始まらないし、できる事からやってみようか」

 故郷を離れて、新天地を目指す人もいるし、都会の便利な生活を捨てて、田舎でスローライフを求める人もいる。価値観は人それぞれだもんな。

「おー! それじゃまずは、大波神社だな。挨拶がてら、みんなで次の休みにでも行ってみようぜー!」

 という、大ちゃんの声と同時に、始業のチャイムが鳴った。
 当然のように、先生はもう黒板の前に立っていて、咳払いをひとつ。慌てて席に戻る同級生たち。

「起立、礼、着席」

 何度聞いても懐かしい、お決まりの号令が響き、次の先生のセリフが、再び教室をざわつかせる事になる。

「今日の国語は、まず漢字のテストをするぞー」





 >>>





「やー! 忘れてたよ。重大発表があるから、地下室集合ね!」

 放課後、ユーリが突然、何かを思い出したようなので、練習場に集合することになった。
 っていうか、どうせみんな、毎日地下に居るんだけどね。
 ……え? テスト? ああ、うん、えっと。

「小5の漢字、ナメてた」

『タツヤ、だからと言って、樹木に怒りをぶつけるのは感心しない。桜が可哀想だ』

「あれは事故だよ! っていうか、それは本編で語られないんじゃなかったのかブルー?!」

 ……いや、なんでもない。それに関しては、分かる人だけ分かってくれればいい事なんだ。

「えへへー! 2番のりー!」

 栗っちが、ニコニコしながら現れた。
 どうやら妹は、また友達の所に行ったらしい……最近多いな。

「諸君、お待たせした……なんだ、まだ揃っていなかったか」

 あれ? レッド?

「なんで変身してるの? ユーリちゃんは?」

 栗っちが首をかしげる。
 そういえば、大ちゃんとユーリは、さっきまで一緒にいたはずだ。

「良い所に気がついたな、和也少年!」

 ……変身しちゃってるから、そりゃ気付くよ。

「それがだな。なぜかユーリに、メガネを奪われたのだよ」

 ユーリは、大ちゃんから〝凄メガネ〟を奪い取り、さらには、大ちゃん以外がメガネを使うのを防ぐための〝虹彩認証〟をオフにさせたらしい。
 メガネがない状態では、大ちゃんは地下室に入れない。だから変身したのか。

「マジか! ……まさかと思うけど、誰かここへ連れてくるつもりじゃないだろうな」

 っていうか、それ以外考えられない。いくらなんでもそれはダメだぞ?

「ふふ。そういう事だったのね?」

 扉を開けて、彩歌が入ってきた。
 ……え? そういう事って、どういう事?

「うむ。万が一、ユーリが〝部外者〟を連れてきてしまった場合、魔法で対処してもらうよう、お願いしたのだ」

「さすがレッド。完璧だな!」

 いや、それ以前に、そういった〝完全にアウトな事〟を本当にやらかしてしまいそうなユーリが怖い。
 今回は、いったい何をするつもりなんだ?

「十中八九、誰かを連れてくるはずだ。誰なのかは想像もつかないが……」

 レッドが想像もつかないなんて、普通はありえないんだけどな。
 人類最高峰の頭脳を〝意外性〟で超えていくユーリ。まさに、アレとアレは紙一重という事か。

「やー! おまたせー!」

 噂をすれば……来たなユーリ! さあ、どんなヤツを連れてき……え?

「あれ? ユーリ、1人か?」

「やははー! なに言ってるのたっちゃん。当たり前じゃんかー!」

 いや、どういう事だよ? 〝凄メガネ〟は自分で掛けちゃってるし……

「……えへへー! なーんだ、そういう事!」

 え? 栗っち? ……そうか、心を読んだのか。

「ふむ。だが、誰なのだ? いや、このタイミングから考えて……」

 レッドも、何かに気付いたようだ。

「達也さん、ユーリさんじゃないわ。魔力が全く無いもの」

 ええ?! マジで? でも、どう見てもユーリなんだけど……じゃあ、この〝偽ユーリ〟は誰?!

「クスクス。凄い! すぐに見破られちゃった!」

 〝偽ユーリ〟が、急に笑い始めた。
 ……あ、ホントだ。ユーリの笑い方じゃない。

「ごめんなさい。私が誰か分かるかしら? あ、藤島さんは、初めましてね?」

「……なるほど、やはりそうか。退院おめでとう」

 退院……? レッドの知り合い?
 ……あ! もしかして!

「やははー! だまされたのは、たっちゃんだけか、残念!」

 練習場の扉を開けて、聞きなれた笑い声と共に、本物であろう方のユーリが登場した。

「コホン。それじゃー、自己紹介お願いします!」

「ちょっと友里ゆうり、押さないの! ……えっと、友里の姉の大波おおなみ愛里あいりです。よろしくね!」

 ユーリのお姉さんだ! 
 でも確か、入院している時に見た感じでは、ユーリより随分年上の、大人の女性だったはず。
 ……なんでユーリと同じ背格好になってるんだ?

「愛里……さん? え、どういう事?」

「クスクス。内海くんの反応、かわいい……たまらないわ」

 妖艶ようえんみを浮かべ、ペロリと舌なめずりする愛里。
 えっ? そんな! お姉さん、いけません!
 ……なんだろう、この不思議な気持ちは。

『タツヤ、キミは本当にアレだな』

「ちょ、待てブルー! 今のは別にそんなんじゃない……はっ?!」

「……達也さん?」

 ……ひああぁっ!? 彩歌の視線が痛いッ!

「すまないが、説明してもらえないか?」

 話が進まないとでも思ったのだろうか、レッドが愛里に説明を求めた。
 そうそう、どうなってるのか説明して!

「……じぃー」

 ああっ! 彩歌がまだ見てる! 早く! 早く説明をっ!

「ウォルナミス人はね、成長が遅いの。私は21歳だけど、これが本当の姿なのよ」

「ええっ?! それじゃあ、病室で見たあの姿は?」

「これを使っていたの」

 愛里は卵のような物を取り出した。殻は透明で、中にはパチンコ玉サイズの、小さなツブツブが入っている。

「地球人と生活していくために、ウォルナミス人が調合した〝見た目〟を成長させる薬よ。毎日飲み続ければ、地球人と同じペースで老化が進むの」

「成長促進剤という事か? しかし、その姿は……?」

 レッドが、薬と愛里を交互に見て、不思議そうに言う。

「……この薬は、本当に歳をとる薬じゃないの。薬が切れて100時間ほど経てば、元の姿に戻ってしまうわ」

 なるほど。つまり愛里は、薬を飲まずに本来の姿に戻ったんだな。

「もしかして、ユーリちゃんも飲んでるの? この薬」

 栗っちが不思議そうに薬の容器をつつく。

「やー! 私はまだなんだよー。今年の7月ぐらいからだって言われてるんだー」

「ウォルナミス人は、ちょうど友里や私のような姿で、いったん成長が止まるのよ。次に成長を始めるのは、30歳から40歳ぐらい。個人差があるけどね」

 それまでは、薬の力で見た目だけ成長させるわけか。大変だな、ウォルナミス人。

「……問題は、薬が切れたら〝そこから成長をやり直し〟って所なのよね。まあ、仕方ないんだけど」

「すぐに大人の姿に戻れないの?!」

 これから薬を飲み始めても、ユーリと同じペースで成長するって事か?!

「……私は戦う力を失ってしまった。だから友里のサポートに専念する任務を与えられたの。友里の身代わりも、これならできるでしょ?」

 クルリと回って、まねき猫の様なポーズでペロリと舌を出す愛里。仕草まで完璧だな!

「やー! というわけで、お姉ちゃん共々、よろしくお願いします!」

 ユーリが、愛里に後ろから抱きついてニッと笑う。
 確かに、ユーリに瓜二つだ。これなら、学校に行っても絶対にバレないだろう。

「ありがたい。これで我々全員分の身代わりが揃ったな」

 レッドはヒーローっぽく、腕組みしたまま深くうなずく。
 今後、僕と栗っちは土人形。彩歌は分身、大ちゃんはロボ、そしてユーリは愛里が、普通の生活を代行してくれる。
 ……誰に気兼ねなく、大手を振って世界を救えるのだ!

「良かった。じゃあ、今月は全員で行けるわね!」

 彩歌が嬉しそうに言う。
 ……え? 今月って何だっけ?

『タツヤ、魔界のゲートだ。毎月1箇所ずつ、閉じるのだろう?』

 あ、そっか! 危うく忘れる所だった……!

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