上 下
203 / 264
5年生 3学期 3月

老兵の任地

しおりを挟む
「問題は、俺たちが惑星ウォルナミスを〝侵略〟した後だぜー」

 ……つまり、惑星ウォルナミスを〝開放〟してからの話か。

「えへへー。僕たちは、すぐに地球に帰っちゃうよ?」

 当然だが、用事が済めば帰る。地球を長く留守にするわけにいかないし、長居は無用だ。

「達也さん。見てきたんでしょう? ウォルナミスの、今の状況」

 見てきたさ。
 一刻も早く、彼らを開放しなければ。
 今も〝オプラ・オブナ〟の支配下なのか、もしくは、さらに別の惑星に侵略されたのかは分からないが、ウォルナミスの人たちは、隷従させられ、虐げられ、ひどい扱いを受けていた。

「つまりさー、2000年近くも奴隷のような扱いを受けてた人たちが、戦う力を持ってるかってトコなんだよなー」

 なるほど、そうか。
 分かったぞ。

「惑星ウォルナミスを救ったあと、すぐにまた、どこかの星が攻めて来るかもしれないのか!」

 ……ガジェットが無ければ、防衛のしようがない。再び、別の星に狙われるのは間違いないな。

「そうだぜー? つまり、地球から戦士を連れて行くか、現地でスカウトして、ガジェットを渡してこなきゃならないんだ」

 それは大問題だな。戦士もガジェットも、できればフルで揃えたい。

「やー! じゃあさ、長老に相談してみるよー!」

 ウォルナミスの光球から削り取られた欠片かけらを埋め込まれて、地球に来たガジェットは12個。その内、永い戦いの中で壊れたり、力を失ったりして、いま現在、無事に動作しているのは、ユーリの持つ1つだけだ。

「そうね。現地で戦える人を見つけるより、ウォルナミスに行ってくれる人を探したほうが、確実だと思うわ」

 彩歌の言う通り、惑星ウォルナミスで、都合よく戦士が見つかるかどうかは分からない。可能なら、事前に準備した方がいいに決まっている。でも……

「んー。でもちょっとハードル高いぜ? 何せ、惑星ウォルナミスに移住してもらう事になるんだからなー」

 大ちゃんが、困った顔で言う。
 そうなんだよ。はるばる2万4000光年も離れた星へ、お引越しだ。
 ウォルナミス人の子孫たちは、全員が地球生まれの地球育ちだから、惑星ウォルナミスは、懐かしの故郷ってわけじゃない。
 ……果たして、遥か遠くの〝見知らぬ星〟に行ってくれる戦士が見つかるかどうか。

「でもまあ、考え込んでいても始まらないし、できる事からやってみようか」

 故郷を離れて、新天地を目指す人もいるし、都会の便利な生活を捨てて、田舎でスローライフを求める人もいる。価値観は人それぞれだもんな。

「おー! それじゃまずは、大波神社だな。挨拶がてら、みんなで次の休みにでも行ってみようぜー!」

 という、大ちゃんの声と同時に、始業のチャイムが鳴った。
 当然のように、先生はもう黒板の前に立っていて、咳払いをひとつ。慌てて席に戻る同級生たち。

「起立、礼、着席」

 何度聞いても懐かしい、お決まりの号令が響き、次の先生のセリフが、再び教室をざわつかせる事になる。

「今日の国語は、まず漢字のテストをするぞー」





 >>>





「やー! 忘れてたよ。重大発表があるから、地下室集合ね!」

 放課後、ユーリが突然、何かを思い出したようなので、練習場に集合することになった。
 っていうか、どうせみんな、毎日地下に居るんだけどね。
 ……え? テスト? ああ、うん、えっと。

「小5の漢字、ナメてた」

『タツヤ、だからと言って、樹木に怒りをぶつけるのは感心しない。桜が可哀想だ』

「あれは事故だよ! っていうか、それは本編で語られないんじゃなかったのかブルー?!」

 ……いや、なんでもない。それに関しては、分かる人だけ分かってくれればいい事なんだ。

「えへへー! 2番のりー!」

 栗っちが、ニコニコしながら現れた。
 どうやら妹は、また友達の所に行ったらしい……最近多いな。

「諸君、お待たせした……なんだ、まだ揃っていなかったか」

 あれ? レッド?

「なんで変身してるの? ユーリちゃんは?」

 栗っちが首をかしげる。
 そういえば、大ちゃんとユーリは、さっきまで一緒にいたはずだ。

「良い所に気がついたな、和也少年!」

 ……変身しちゃってるから、そりゃ気付くよ。

「それがだな。なぜかユーリに、メガネを奪われたのだよ」

 ユーリは、大ちゃんから〝凄メガネ〟を奪い取り、さらには、大ちゃん以外がメガネを使うのを防ぐための〝虹彩認証〟をオフにさせたらしい。
 メガネがない状態では、大ちゃんは地下室に入れない。だから変身したのか。

「マジか! ……まさかと思うけど、誰かここへ連れてくるつもりじゃないだろうな」

 っていうか、それ以外考えられない。いくらなんでもそれはダメだぞ?

「ふふ。そういう事だったのね?」

 扉を開けて、彩歌が入ってきた。
 ……え? そういう事って、どういう事?

「うむ。万が一、ユーリが〝部外者〟を連れてきてしまった場合、魔法で対処してもらうよう、お願いしたのだ」

「さすがレッド。完璧だな!」

 いや、それ以前に、そういった〝完全にアウトな事〟を本当にやらかしてしまいそうなユーリが怖い。
 今回は、いったい何をするつもりなんだ?

「十中八九、誰かを連れてくるはずだ。誰なのかは想像もつかないが……」

 レッドが想像もつかないなんて、普通はありえないんだけどな。
 人類最高峰の頭脳を〝意外性〟で超えていくユーリ。まさに、アレとアレは紙一重という事か。

「やー! おまたせー!」

 噂をすれば……来たなユーリ! さあ、どんなヤツを連れてき……え?

「あれ? ユーリ、1人か?」

「やははー! なに言ってるのたっちゃん。当たり前じゃんかー!」

 いや、どういう事だよ? 〝凄メガネ〟は自分で掛けちゃってるし……

「……えへへー! なーんだ、そういう事!」

 え? 栗っち? ……そうか、心を読んだのか。

「ふむ。だが、誰なのだ? いや、このタイミングから考えて……」

 レッドも、何かに気付いたようだ。

「達也さん、ユーリさんじゃないわ。魔力が全く無いもの」

 ええ?! マジで? でも、どう見てもユーリなんだけど……じゃあ、この〝偽ユーリ〟は誰?!

「クスクス。凄い! すぐに見破られちゃった!」

 〝偽ユーリ〟が、急に笑い始めた。
 ……あ、ホントだ。ユーリの笑い方じゃない。

「ごめんなさい。私が誰か分かるかしら? あ、藤島さんは、初めましてね?」

「……なるほど、やはりそうか。退院おめでとう」

 退院……? レッドの知り合い?
 ……あ! もしかして!

「やははー! だまされたのは、たっちゃんだけか、残念!」

 練習場の扉を開けて、聞きなれた笑い声と共に、本物であろう方のユーリが登場した。

「コホン。それじゃー、自己紹介お願いします!」

「ちょっと友里ゆうり、押さないの! ……えっと、友里の姉の大波おおなみ愛里あいりです。よろしくね!」

 ユーリのお姉さんだ! 
 でも確か、入院している時に見た感じでは、ユーリより随分年上の、大人の女性だったはず。
 ……なんでユーリと同じ背格好になってるんだ?

「愛里……さん? え、どういう事?」

「クスクス。内海くんの反応、かわいい……たまらないわ」

 妖艶ようえんみを浮かべ、ペロリと舌なめずりする愛里。
 えっ? そんな! お姉さん、いけません!
 ……なんだろう、この不思議な気持ちは。

『タツヤ、キミは本当にアレだな』

「ちょ、待てブルー! 今のは別にそんなんじゃない……はっ?!」

「……達也さん?」

 ……ひああぁっ!? 彩歌の視線が痛いッ!

「すまないが、説明してもらえないか?」

 話が進まないとでも思ったのだろうか、レッドが愛里に説明を求めた。
 そうそう、どうなってるのか説明して!

「……じぃー」

 ああっ! 彩歌がまだ見てる! 早く! 早く説明をっ!

「ウォルナミス人はね、成長が遅いの。私は21歳だけど、これが本当の姿なのよ」

「ええっ?! それじゃあ、病室で見たあの姿は?」

「これを使っていたの」

 愛里は卵のような物を取り出した。殻は透明で、中にはパチンコ玉サイズの、小さなツブツブが入っている。

「地球人と生活していくために、ウォルナミス人が調合した〝見た目〟を成長させる薬よ。毎日飲み続ければ、地球人と同じペースで老化が進むの」

「成長促進剤という事か? しかし、その姿は……?」

 レッドが、薬と愛里を交互に見て、不思議そうに言う。

「……この薬は、本当に歳をとる薬じゃないの。薬が切れて100時間ほど経てば、元の姿に戻ってしまうわ」

 なるほど。つまり愛里は、薬を飲まずに本来の姿に戻ったんだな。

「もしかして、ユーリちゃんも飲んでるの? この薬」

 栗っちが不思議そうに薬の容器をつつく。

「やー! 私はまだなんだよー。今年の7月ぐらいからだって言われてるんだー」

「ウォルナミス人は、ちょうど友里や私のような姿で、いったん成長が止まるのよ。次に成長を始めるのは、30歳から40歳ぐらい。個人差があるけどね」

 それまでは、薬の力で見た目だけ成長させるわけか。大変だな、ウォルナミス人。

「……問題は、薬が切れたら〝そこから成長をやり直し〟って所なのよね。まあ、仕方ないんだけど」

「すぐに大人の姿に戻れないの?!」

 これから薬を飲み始めても、ユーリと同じペースで成長するって事か?!

「……私は戦う力を失ってしまった。だから友里のサポートに専念する任務を与えられたの。友里の身代わりも、これならできるでしょ?」

 クルリと回って、まねき猫の様なポーズでペロリと舌を出す愛里。仕草まで完璧だな!

「やー! というわけで、お姉ちゃん共々、よろしくお願いします!」

 ユーリが、愛里に後ろから抱きついてニッと笑う。
 確かに、ユーリに瓜二つだ。これなら、学校に行っても絶対にバレないだろう。

「ありがたい。これで我々全員分の身代わりが揃ったな」

 レッドはヒーローっぽく、腕組みしたまま深くうなずく。
 今後、僕と栗っちは土人形。彩歌は分身、大ちゃんはロボ、そしてユーリは愛里が、普通の生活を代行してくれる。
 ……誰に気兼ねなく、大手を振って世界を救えるのだ!

「良かった。じゃあ、今月は全員で行けるわね!」

 彩歌が嬉しそうに言う。
 ……え? 今月って何だっけ?

『タツヤ、魔界のゲートだ。毎月1箇所ずつ、閉じるのだろう?』

 あ、そっか! 危うく忘れる所だった……!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

異世界転移したらチート能力がついていて最強だった。

たけお
ファンタジー
俺は気づいたら異世界にいた。 転移魔法を使い俺達を呼び寄せたのはクダラシム王国の者達だった。 彼には異世界の俺らを勝手に呼び寄せ、俺達に魔族を退治しろという。 冗談じゃない!勝手に呼び寄せた挙句、元の世界に二度と戻れないと言ってきた。 抵抗しても奴らは俺たちの自由を奪い戦う事を強制していた。。 中には殺されたり従順になるように拷問されていく。 だが俺にはこの世界に転移した時にもう一つの人格が現れた。 その人格にはチート能力が身についていて最強に強かった。 正直、最低な主人公です。バイでショタコンでロリコン、ただの欲望のままに生きていきます。 男同士女同士もあります。 残酷なシーンも多く書く予定です。 なろうで連載していましたが、消えたのでこちらでやり直しです。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

僕は社長の奴隷秘書♡

ビビアン
BL
性奴隷――それは、専門の養成機関で高度な教育を受けた、政府公認のセックスワーカー。 性奴隷養成学園男子部出身の青年、浅倉涼は、とある企業の社長秘書として働いている。名目上は秘書課所属だけれど、主な仕事はもちろんセックス。ご主人様である高宮社長を始めとして、会議室で応接室で、社員や取引先に誠心誠意えっちなご奉仕活動をする。それが浅倉の存在意義だ。 これは、母校の教材用に、性奴隷浅倉涼のとある一日をあらゆる角度から撮影した貴重な映像記録である―― ※日本っぽい架空の国が舞台 ※♡喘ぎ注意 ※短編。ラストまで予約投稿済み

堕ちた英雄

風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。 武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。 若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。 第一部 ※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です ※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです ※下品です ※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます ※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい 第二部 ※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります ※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます ※一部死ネタを含みます ※第一部以上に下品です

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

処理中です...