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5年生 3学期 3月

ふりだしにもどる

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 ラゴウは僕をにらんでいる。
 それにしても、なんでこの人たち、ムダに筋肉質なんだ? 〝魔道士〟ってこんなんじゃないだろ?

内海うつみさん。兄を……兄を止めて下さい。私のことは気にせずに」

「ふん。止められるものなら止めてみるがいい」

 で、しかも2人とも無駄に渋い声だったりするんだよな。なんだろう、このアウェイ感。僕だけ別の世界の住人みたいだ。

『タツヤ。キミは別の世界の住人だよ』

 ……あ、そうだった。
 いや、そんな事より、ラゴウは〝魔王〟を復活させるとか言ってるな。これはもしかして、ちょっとラッキーかも。

「そこで指をくわえて見ているがいい。世界が滅ぶ様をな!」

 そう言ってラゴウは、聞いたことのない言葉をしゃべり始めた。

「グラネデ・ソコネ・アンケル・ウネ・ロケ……」

あるじよ、これは古代語です』

 古代語……パズズの封印を解く為の呪文か。
 そういえばなんとなく、響きが〝砂抜きされた砂時計〟の封印を解いた時、パススが唱えていた呪文に似ている気がするな……

「兄さん! やめて下さい!」

「あ、ちょっと待って織田さん」

 今にも飛び掛かりそうな織田さんの手をつかんで引き止めた。

「内海さん?! なぜですか? このままだと大変な事に!」

「大丈夫ですから、ね?」

 いや、いま邪魔をされると、ちょっと困るんだよね。
 笑顔で返す僕を見て、複雑な表情の織田さん。

「大丈夫じゃないです。伝説の魔王ですよ?! いくら内海さんでも魔王が相手では勝てるはずないですよ! ……兄さん、話し合いましょう! 魔王はいけない!」

 杖を構えようとする織田さんと、それを邪魔する僕。
 ……あれ? なんだか僕、悪の手先みたいじゃね?

「……オラ・アンケル・ボロク・ミ・フォロネテ! はっはは! もう遅い。唱え終わったわ!」

 ラゴウは呪文の詠唱を終え、不敵な笑みを浮かべた。

『なるほど。そういう構成だったか……』

 呪文を聞いて納得した様子のパズズ。あごに手を当てて、しきりにうなずいている。

『パズズ、封印は解けたのか?』

『いえ、微塵みじんも変化は御座いません。先程の呪文、問題が多いようですゆえ』

 解けないのかよ! ……問題が多いとは、どういうことだ?
 あ、ほら。呪文を唱え終えた本人さんは、得意の高笑いを始めたぞ?

「フハッ! フハハハハ! さあ、始まるぞ! 復活するのだ、魔王よ!」

『……残念だが復活はしない』

 両手を高らかに挙げて叫ぶラゴウに、パズズがキッパリと言い放つ。

「……なんだと?」

『その呪文、いくつものミスがある。まず序盤から構文と単語の間違いが3箇所ずつ、そして抑揚よくようの付け方と言い回しが違う部分が6箇所もある。それでは封印は解けない』

 あっちゃー! 教習所の筆記試験なら不合格なレベルの不正解率だぞ。
 ……パズズには、ラゴウが唱えた呪文の問題点が分かっているようだ。
 という事はつまり、パズズはさっきの呪文を理解した上で、自分の封印を解く呪文を手に入れたって事かな?
 念のため確認しておくか。

『パズズ、封印を解く呪文が分かったんだな?』

 パズズは、僕を見てニヤリとうなずく。
 これ、ゲームならレベル吸われるヤツだろ?!

『今すぐ、封印を解くか?』

 僕の問いに、今度は首を横に振る。

『有難うございます。しかしながら、それはあるじの魂が完全に修復された後に……』

『……律儀りちぎだな、お前』

 僕の魂と一体化してしまっている状態でさえゴーレムをそこまで操れるなら、先に体を復活させておいても大丈夫だろうに
 まあ、本人がそう言うならいいか。

「という事で、魔王の封印は解けない。もうやめよう」

 それに、解けたとしても、中身は僕の中にいるんだ。
 ずーっと言ってるけど、無駄なんだよな。

「な、何を言っている! 俺が見つけた情報によれば、今の呪文で間違いないはずだ!」

『ならば、なぜ何も起きぬのだ? その〝情報〟とやら、間違いだらけなのだよ。例えば最初の一節〝大地と空の戒め〟の部分は〝グラネデ・・アンケル〟と唱えるべきだ』

 とパズズが口にした途端、ドーン! という音が響き、軽い振動が伝わってくる。

『おっと、つい口にしてしまった。封印がほんの少しだけゆるんだようだな』

 パズズがニヤリと笑う。ほんと、禍々まがまがしいなあ!
 ……作ったの僕だけど。

「くッ! お前はいったい何なのだ?! 魔王や封印……古代語のことを、なぜそこまで詳しく知っている?!」

 僕が知っているという訳でもないんだけどなあ。
 未だに、

「ヒントはこれだよ」

 僕はラゴウに、右手の指輪を見せた。

「はぁ? 何だ? お前の手がどうかしたのか?」

「……う、内海さん? 今まで気づきませんでしたが、まさかその指輪!」

 織田さんの方が先に気づいたみたいだ。続けて、ラゴウの顔色も変わる。

『我の正体がわかったようだな。見ての通り、我があるじは既に決まっている。諦めるがいい』

 ラゴウは、ワナワナと震えている。
 あ、織田さんも口を開けたまま固まってる。

魔王の指輪デモンズリング……だと?!」

 信じられないといった表情のラゴウと……

「う、内海さん……どうして?!」

 あ、あれ? なんだか織田さん、僕をにらんでいるような?

「信じていたのに……内海さんは魔王以上のあくだったのですか?!」

 そっちか!

「えーーーーっ?! いえいえいえ! 違いますよ織田さん! 違いますから!」

 ……いや、まあ魔王があるじと呼ぶってことは、僕はその上をいくと思われるかもなあ。

『安心するがいい。あるじは悪ではない。それはお前もよく知っているだろう』

 ナイスフォローだ、パズズ!

「そうそう。僕は善良な、ただの小学生ですからね?」

『タツヤ、それはない』

 うん。そうだな、自分でもそう思う。

『キミは、善良で、ちょっとアレなアレだ』

『アレって何だブルー! アレなアレって何だよ?!』

「お、おのれ……お前はいったい?!」

 後ずさるラゴウ。これであきらめたかな?

「……仕方がない。余興はここまでだ! 今すぐに鬼門を完全に開放してやる。地上にいる全ての悪魔や魔物、そして凶獣は強化され、人は人の姿を保てなくなるだろう」

 あきらめてなかった! この人どこまで往生際が悪いんだ?

「させるわけ無いだろ!」

 僕が飛び掛かろうとした時、ラゴウはこちらを指さして言った。

「お前はこれでも食らえ!」

 僕の周囲の床から〝円柱形の何か〟が4本せり出す。

「内海さん、いけない! それは〝転移〟の仕掛けです!」

 しまった、油断してた!
 織田さんが〝表層〟まで飛ばされたっていうヤツか!

「内海さん!」

「うははは! さらばだ!」

 ふたりの声と景色がゆがんで消える。
 ……そして次の瞬間、僕とパズズは、見た事もない場所に居た。

「いや、まてよ……ここは?!」

「お気付きですか、あるじよ」
 
 前言撤回。
 見たことあるぞ!
 〝落日と轟雷の塔〟で最初の階段を降りた広場だ。表層っていうか、入り口じゃないか!

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