上 下
186 / 264
5年生 3学期 3月

戦闘記録:北門

しおりを挟む
 藤島彩歌ふじしまあやか?!
 いつ帰って来たんだ? たしか、守備隊を辞めさせられて、アガルタに行ってたんじゃなかったっけ……? ほんとに目障りな奴!
 ……いけない、私としたことが。まずは挨拶してあげなくちゃね。

「あらあら? 〝炎の女帝スタタ・マテル〟様じゃない。こんな所にいたら危ないわよ?」

「み、美代みよ?! ……コホン。大木おおき隊員。お久しぶりです」

 藤島彩歌! いつもいつも、私の手柄を奪いやがって……! 
 ふん! にも関わらず、その弱体された状態のままで〝上級悪魔〟を倒したですって?
 デタラメに決まってるじゃないか。私は騙されないからな?

「藤島隊員。あなた、そんな姿になっても、まだ防衛に参加しようっていうの? 熱心な事ね。でも、ここは私が居るから大丈夫。早くお逃げなさいな」

 ……っていうか邪魔だ。弱体化された負け犬は、おとなしくアガルタで隠遁いんとんしていればいい。

「そういう訳には参りません。私もこの門の守備に当たらせて頂きます」

 だから! 役立たずは要らないって言ってるんだよ。なんで分かんないかな?

「あなたね……!」

 ……いや、待てよ? ここでコイツがミスを犯せば……!
 ウフフ……何かの偶然で、散々チヤホヤされて調子に乗ってるみたいだけど、私が正しい評価に戻してあげるわ!

「……いいでしょう。では、守備隊、第5班副隊長の大木おおきが命じます。藤島隊員は臨時隊員として我が隊に参加。3番やぐらにて、迎撃任務に当たりなさい」

「了解しました。やぐらに上がります。あと、こちらの二人も一緒に……」

「ちィーっす!」

「きゃはは~! やぐらって初めて!」

 ……はぁ? 何なのコイツら?

「お待ちなさい! 何ですか、この二人は?」

「弟子ですが……何か?」

 こんなチャラチャラしたガキが弟子?
 フン! 程度が知れるわね。

「藤島隊員……? こんな時に、実力のない人員をやぐらに上げるわけには……」

「この二人は、階級無し魔道士ノービスではありますが〝砦超え帰還者リターナー〟です」

 ……はあああっ?! こんな奴らが?!

「ソコんトコ、シクヨロー!」

「ねー、オバサン! 何してんの? 早く行くし!」

「お、おばさ……?!」

 砦超とりでごえですって?
 私ですら〝死後線しごせん〟手前が限界だっていうのに……! 嘘に決まってる!

「コホン。わかりました……ただし、私も三番に上がります。ついて来なさい」

 まとめて化けの皮をいでやるからな!

「へぇー、意外と狭っ苦しいんだな」

「ねぇねぇ、もう撃っていいの?」

 ええい! 無駄に騒がしい! 
 さて、久しぶりにやぐらに上がったが……ん? これは一体?
 やぐらから見下ろすと、地面がボコボコにえぐれている。

「うおー! 上から見るとスゲーな、クレーター!」

「ああ! あの時の! さすがパイセン!」

「あなた達、達也さんの事は……」

「ひぃッ?!」

「な、何も知らないし! 見てもないし!」

 まったく。いつまで騒いでいるんだ。遠足じゃないんだぞ。
 ……しかし、さすがにこの数はマズいんじゃないか? ざっと見た感じ、様々な種類の魔物が合わせて2000匹。門めがけて押し寄せている。

「二人とも。やぐらに張られた結界は、内から外へは魔法や物質を通すけど、逆には通り辛くなっているわ。間違っても、体を外に出さないで?」

「了解です、あねさん」

「わかったし!」

 やれやれ。そんな事も知らない素人シロウトを連れてきて、どうするんだ藤島彩歌。
 ……まあいい。とにかく門に近い魔物を狙って、と。

「それじゃやってみて。どいつを狙うか分かるわね?」

「もちろん!」

「任せて!」

 藤島彩歌の声に、威勢よく返事を返す二人。
 ……狙うって何だ? あれだけ密集していれば、適当に撃っても当たるだろ!

かける、手前の右から」

「オッケ!」

 バラバラと弱体魔法を放つ女と、それが命中した魔物を器用に撃ち抜いていく男。
 ……ふん。確かにこの距離からにしては、中々の精度だけど。

「フフ。やるじゃない」

「光栄ッス、姐さん!」

「やったー! められたし!」

 いや、全然ダメ。なんで門から離れたヤツを狙うんだよ……所詮は素人か。

「でもよーく見て? もう一種類いるわよ?」

「え? え? 他にも?」

「わかったし! アイツらじゃね?」

 女はそう言うと、鉄針ニードルの魔法で〝アリ〟を撃ち抜く。
 だから、なんでそんな遠くの魔物を狙う? 

「正解! よくできました」

 何が〝よくできました〟だ。バカなのか?
 ……やれやれ。放っといて自分の仕事をするか。
 しかし一向に数が減らないな。まるで魔界中の魔物が集まって来ているみたいだ。

「いよーし! 〝ウシ〟は全滅だ!」

「よく見るし! まだまだ全然いるかんね?」

 コイツら、真面目にやれよ! さっきからずっと同じ魔物ばかり狙い撃ちして、どういうつもりなんだ……?
 〝アリ〟、〝しし〟、〝鎚猿つちざる〟、それに〝ウシ〟……
 ん? 待てよ、コイツらが倒している魔物って……まさか!

「……門に直接ダメージを与えそうな魔物を狙って?!」

 〝しし〟は体当たりが得意で威力も凄まじい。〝ウシ〟の持つ棍棒や、〝鎚猿つちざる〟のハンマーによる打撃は驚異だ。〝アリ〟は……強酸の液を吐く。
 ……どの魔物も、門を破壊しうる。

「あとの奴らは、多少ゆっくりでも大丈夫。落ち着いて削っていきましょう」

「分かったッス、姐さん!」

「目の前に敵が来ないのって、超ラクチン!」

 どうなってる? この無礼者どもは、本当に〝砦超え〟するほどの実力だっていうのか?
 …………ははーん? なるほどね。

「藤島さん。あなたさっきから、ほとんど何もしてないわね?」

 私の目は誤魔化せないからな? 無名の腕利きを〝弟子だ〟と偽って、ポイント稼ぎするつもりだな、藤島彩歌!

「なに言ってるんだ? さっきから攻撃してるだろ?」

「オバサン、バカじゃね?」

「ば……?! バカですって?! ……たしかに、明後日あさっての方角に向けて何かを唱えてたみたいだけど、意味が分からないわ」

「あなた達、気付いてたの? すごいわね」

「姐さんの早撃ちは、何度も見てきましたからね。ヤバい奴っすか?」

「うん。3匹ほどね」

「うえ~! そんなに? こっち来るなし!」

「大丈夫。視界にも入らない所で黒コゲになってるから」

 ……はぁ? いよいよワケ分かんないぞコイツら!

「あなたたち! 分かるように説明して……」

 そう言いかけた瞬間、ドン! という轟音と共に、凄まじい揺れが襲ってきた。立っていられず、その場に座り込む。

「うおおっ?! 何だ?」

「ビビったし! なんかの攻撃?」

 聞いたことのないような大きな音と、城壁を揺らす程の衝撃。これは一体?

「ほ、報告します! ただいま、外門、内門が、同時に大破した模様です!」

 ……大破って?

「ちょ、どういう事?! 門が大破って!」

「謎の閃光と同時に、内外の門は破壊されました! 魔物が都市内部に侵入していきます!」

 な……何てことだ!

「総員、怯まずに攻撃! 一匹でも多く倒しなさい!」

「ハッ!」

 ヤバいヤバいヤバい! このままだと、城塞都市は終わる……!

「うーん……あなた達、せっかく門を壊されないように狙い撃ちしてたのに、無駄になっちゃったわね」

「しゃーねーッス! お役に立てず残念ッス!」

「もー! 誰が壊したか知らないけど、超ムカツクー!」

 ……どういうつもり?! なんでコイツら、こんなにユルユルなの?! 

「あなたたち! こんなどうしようもない状況なのに、ふざけないで!」

「……また何か、分かんないこと言ってんなぁ?」

「どうしようもない状況って? なにそれ、おいしーの?」

 キイイイイイイッ! 何だコイツら! 何だコイツら!!

「城塞都市が滅びるかもしれないのよ?! なんで分からないの!」

「姐さんが居るんだ。滅びるハズねーじゃん」

 ヤレヤレと首を振るチャラ男。

「そーそー! ……彩歌パイセン! お願いしますっ!」

 ニッコニコで、藤島彩歌に向けて手をヒラヒラさせるイカレ女。

「ふふ。ちょっと待っててね」

 藤島彩歌は、数歩あとずさると、ヒラリと外套をひるがえす。
 ニヤリと笑みを浮かべたあと、走り始めた……!

「な、何をするの?!」

 藤島彩歌が跳んだ。
 やぐらから飛び降りやがった! この高さなのに!
 ……次の瞬間、爆炎が眼下を包む。

「ヒュー! 派手だなぁ!」

「カッコイイし! シビレルし!」

 丸く焼け焦げた大地の中心に降り立つ藤島彩歌。
 しかし、消し炭となった同輩を踏みしだき、魔物は臆すること無く押し寄せる。

「い、いくら何でもあの数を相手に、たったひとりでは……」

「姐さんは、ひとりの方がやりやすいんじゃねーかな」

「それな!」

「え? それってどういう……」

 突然、目の前が赤く染まった。視界を巨大な炎の壁がさえぎる。

「な、何……これ?」

火壁ファイアウォールじゃね?」

火壁ファイアウォールだし」

 馬鹿な事を言うな! 火壁ファイアウォールなものか!
 火壁ファイアウォールの魔法は、せいぜい身長の倍ぐらいの高さが限界だろ!

やぐらの高さまで届く火壁ファイアウォールなんて……」

 どれだけの魔力を注げば、こんな出力になるっていうんだ?!

「ば、バケモノか!」

「まあ実際そうッスよね……姐さんさっき、凶獣も3匹ほど倒してたみたいだし」

「あー、さっきの早撃ちで黒焦げってヤツ! 彩歌パイセン、マジパネェ!」

 ……凶獣? なに言ってるの?

「えっと……凶獣って?」

「さっき言ってたじゃんか。明後日あさっての方角に魔法撃ってたって。あれ、凶獣だろ、きっと」

「〝ヤバい奴〟つってたもんね。パイセンからすれば、ヤバくもなんとも無いんだろうけど」

 信じられない……けど、この巨大な火壁ファイアウォール。こんな物を作れるなら、凶獣だって倒せる。
 ……本当なんだ。アイツは目視できないような距離にいる凶獣を、3体も倒した!

「でも、火壁ファイアウォールを突破してくる魔物もいるでしょう。援護が要るんじゃ……」

「ああ。それ、たぶん要らないわ。パタンするから」

「パタンするっしょ! ヘーキヘーキ!」

 パタン?

「あの……あなたたち、パタンって何?」

 ふたりは、燃え盛る炎の壁を指さす。
 ……巨大なそれは、ゆっくりとかたむき、パタンと倒れた。

「魔法効果を〝後付け〟で操作?! そんな事ができるの?!」

 地獄のような光景だ。押しつぶされた魔物たちの断末魔と共に、木々と大地と肉を焼く臭いが辺りを包む。

「さすがに、これを超えて来れる魔物はいないだろ?」

「キャハハ! パイセン、やり過ぎ!」

 ただ、呆然と見ているしかなかった。
 私なんかがかなうわけない……これが、炎の女帝スタタ・マテル

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

異世界転移したらチート能力がついていて最強だった。

たけお
ファンタジー
俺は気づいたら異世界にいた。 転移魔法を使い俺達を呼び寄せたのはクダラシム王国の者達だった。 彼には異世界の俺らを勝手に呼び寄せ、俺達に魔族を退治しろという。 冗談じゃない!勝手に呼び寄せた挙句、元の世界に二度と戻れないと言ってきた。 抵抗しても奴らは俺たちの自由を奪い戦う事を強制していた。。 中には殺されたり従順になるように拷問されていく。 だが俺にはこの世界に転移した時にもう一つの人格が現れた。 その人格にはチート能力が身についていて最強に強かった。 正直、最低な主人公です。バイでショタコンでロリコン、ただの欲望のままに生きていきます。 男同士女同士もあります。 残酷なシーンも多く書く予定です。 なろうで連載していましたが、消えたのでこちらでやり直しです。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

僕は社長の奴隷秘書♡

ビビアン
BL
性奴隷――それは、専門の養成機関で高度な教育を受けた、政府公認のセックスワーカー。 性奴隷養成学園男子部出身の青年、浅倉涼は、とある企業の社長秘書として働いている。名目上は秘書課所属だけれど、主な仕事はもちろんセックス。ご主人様である高宮社長を始めとして、会議室で応接室で、社員や取引先に誠心誠意えっちなご奉仕活動をする。それが浅倉の存在意義だ。 これは、母校の教材用に、性奴隷浅倉涼のとある一日をあらゆる角度から撮影した貴重な映像記録である―― ※日本っぽい架空の国が舞台 ※♡喘ぎ注意 ※短編。ラストまで予約投稿済み

堕ちた英雄

風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。 武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。 若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。 第一部 ※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です ※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです ※下品です ※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます ※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい 第二部 ※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります ※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます ※一部死ネタを含みます ※第一部以上に下品です

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

処理中です...