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5年生 3学期 3月
渦中への帰還
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伝説の魔道士からの、まさかのご指名に、広場にいる全員が僕を見ている……
「海神王様。申し訳ございません……仰っている意味がよく分からないのですが」
飛竜に乗ってやって来た、城塞都市からの使者は、困り顔で僕と菅谷稀太郎さんを交互に見る。
「ふむ。分からんだろうな……」
稀太郎さんも、ちょっと困り顔だ。
いや、僕だって困ってるんだけど。
『ブルー、この人数にバラしちゃ、さすがにマズいよな?』
『そうだね。いくら魔界とはいえ、守備隊員は〝アガルタ〟に行けるみたいだし、どこから情報が漏れるか分からない』
だよな。さて、どうしたものか。
……あれ? 稀太郎さんが近付いてきた。
「もしや秘密だったか? すまんな」
僕の耳元で囁く。
……あ、そっか。この人には、ブルーと僕の会話が聞こえてるんだっけ。
『はい。実はちょっと困ります』
「そうか。ではひと芝居、打つとしよう」
そう言うと、稀太郎さんは、腰に下げた鞄から、ナイフを取り出した。
「見るが良い。この魔剣にはワシの魔力が込めてある。これを弟子である少年に託そう!」
稀太郎さんが短剣を頭上に掲げると、周囲から歓声が上がった。
「という事にしておいてくれ。何の変哲もないナイフだ……果物でも剥くといい」
僕にナイフを手渡すと、ニコッと笑う稀太郎さん。この人、なかなかやるなあ!
……よし、それじゃ僕も。
「お師匠様……お力を拝借致します! わが命に替えましても、必ずや、城塞都市を救ってご覧に入れます」
大げさな身振り手振りでナイフを頭上に掲げたあと、バックパックに入れてペコリと頭を下げる。
「うむ。お前はいずれ、ワシをも超える魔道士になる器だ。任せたぞ」
なるほど、という顔で、一連のやり取りを見ている城塞都市からの使者。よし、辻褄が合ったな。
「それでは、お弟子様。早速ですが飛竜にお乗り下さい。城塞都市まで5時間ほどかかります。急ぎませんと……」
マジか! 空を飛んでも、そんなにかかるんだ。遠かったもんなあ……
「彩歌さん、織田さん、バ……遠藤さん、辻村さん、ちょっとこっちに……」
そうそう。みんなで手をつないで輪になろう。
「達也さん、アレを試すのね」
お、覚えてたのか彩歌、さすがだな。
「内海さん、何を? 急がないと城塞都市が……」
いやいや織田さん。5時間もかけてたら間に合わないから。
「おおっ! アニキ、何が始まるんスか?」
「なになに? パイセン、これって何の遊び?」
お前らは、何でちょっとワクワクしてる感じなんだよ!
「とにかく、絶対に手を離さないで」
よし、僕の考え通りならこれで……
「あの……お弟子様? 何をされているのですか?」
この場所にいる全員が、不思議そうに僕たちの作った円陣を見ている。これで上手く行かなかったら、ちょっと恥ずかしいぞ。
「この場から僕たちが消えたら成功です。先に城塞都市に着いていると思いますので安心して下さい……では参ります!」
僕は、大きく息を吸い込んだ……と同時に、周囲の景色は一変した。
「あ、アニキ?! ここ、どこっすか?!」
「マジ? 大砦に居たのに……! パイセンすげぇ! パネェ!」
眼の前にあるのは、見覚えのある巨大な門。よし! 成功だ!
「良かった。まだ門は破られてないわね」
僕たちは帰ってきた。一瞬にして城塞都市に。
「内海さん! これは一体……?!」
織田さんも、キョロキョロと周囲を見て、目をパチクリさせている。
「〝阿吽帰還〟の魔法です」
……思った通り〝阿吽帰還〟の魔法は、呪文を唱えた場所まで、次に息を吸った瞬間に帰って来るという魔法だった。超便利だけど……僕しか使えないな。
「驚いた……内海さん、探検の間、ずっと息を止めていたのですか?! でも、それじゃ呪文を唱えるどころか、会話も出来ないんじゃ……?」
そう。そこが問題だったんだよね。だから僕はある方法を試してみたんだ。
「……胃袋の中に小さいゴーレムを作って、そいつに喋らせてた!? アニキ、それちょっともう、軽く引くレベルッすよ!」
「どおりでパイセン、声がヘンだと思ってたし! 途中で慣れて忘れちゃってたけど!」
そう、僕は〝使役:土〟で〝ミニ達也〟を胃の中に作って、代わりに喋らせていた。
なんと胃の中のゴーレムが詠唱しても、魔法は発動するのだ。
「アシスト機能は使えないから、全部覚えなきゃならなかったけどね」
スクロールの〝自動詠唱機能〟を使うと、勝手に自分自身の口で呪文を詠唱してしまう。そうなると、もちろん〝息を吸う〟事になってしまうので、呪文は一晩で暗記した。幸いな事に、僕の夜は誰よりも長いのだ。
……あ、ちなみに、体の外に作ったゴーレムが唱えた呪文は無効のようだった。あくまで、僕の口から呪文が発せられるというのが、魔法の発動条件なんだろう。
「おい、お前ら何をしている?」
突然、背後から声が聞こえた。
「戦えるなら 櫓に上がるか、結界前で待機! 非戦闘員は避難だ。早くしろ!」
立派なローブを身につけた男性に声を掛けられた。
「既に外門はボロボロだ。いつ魔物が入り込んでくるか分からんぞ」
門の前にはバリケードが張られ、多くの魔道士が待機している。でもさ、確か門の前には結界があったよな。
「強力な結界があるから、大丈夫なんじゃないの?」
「いいえ、結界に魔力を送っている魔導球の出力には限界があるの。今回のように多くの魔物が一斉に結界に触れれば、絶対に保たないわ」
なるほど。それはマズいな。
「この北門だけではなく、西と南の門も、かなり厳しい状態だ。戦えるならこの場を死守して欲しい」
そう言って、男性は慌ただしく走っていった。
……あれ? そういえば、飛竜に乗った魔道士も言ってたけど、なんで東門は大丈夫なんだ?
「東門は帰還用の門だから、いつでも開けられるように、常に優秀な魔道士が多く集められているのよ」
そういえば前にそんな事を言ってた気がするな。
「では、私は魔物の大侵攻の原因を止めてきます。皆さん、すみませんがもう少しの間、持ち堪えて下さい」
「おっと! ちょっと待った織田っち!」
「無事に城塞都市に帰ってきたら、全部話してくれる約束じゃん!」
お前ら、よく覚えてたな。
「……どうしても聞かれたいですか? 聞けばあなた方を巻き込むことになります」
「俺たち、友達じゃねぇか!」
「役に立たないかもしれないけど、力になりたいし!」
「ふふ。本当に第一印象って当てにならないわね。あなた達」
彩歌の言うとおりだ。バカップルなんて言ってゴメンな。
「内海さんと藤島さんは、どうされますか?」
ある程度はわかってるけど、このまま真相を知らないのは気持ち悪いな。
「聞かせて下さい。力になれると思います」
「うん。どういう事か教えて欲しい」
「……分かりました」
少し呼吸を整えてから、織田さんは静かに語り始める。
その内容は、身の毛もよだつような……僕たちの想像を遥かに超えた物だった。
「海神王様。申し訳ございません……仰っている意味がよく分からないのですが」
飛竜に乗ってやって来た、城塞都市からの使者は、困り顔で僕と菅谷稀太郎さんを交互に見る。
「ふむ。分からんだろうな……」
稀太郎さんも、ちょっと困り顔だ。
いや、僕だって困ってるんだけど。
『ブルー、この人数にバラしちゃ、さすがにマズいよな?』
『そうだね。いくら魔界とはいえ、守備隊員は〝アガルタ〟に行けるみたいだし、どこから情報が漏れるか分からない』
だよな。さて、どうしたものか。
……あれ? 稀太郎さんが近付いてきた。
「もしや秘密だったか? すまんな」
僕の耳元で囁く。
……あ、そっか。この人には、ブルーと僕の会話が聞こえてるんだっけ。
『はい。実はちょっと困ります』
「そうか。ではひと芝居、打つとしよう」
そう言うと、稀太郎さんは、腰に下げた鞄から、ナイフを取り出した。
「見るが良い。この魔剣にはワシの魔力が込めてある。これを弟子である少年に託そう!」
稀太郎さんが短剣を頭上に掲げると、周囲から歓声が上がった。
「という事にしておいてくれ。何の変哲もないナイフだ……果物でも剥くといい」
僕にナイフを手渡すと、ニコッと笑う稀太郎さん。この人、なかなかやるなあ!
……よし、それじゃ僕も。
「お師匠様……お力を拝借致します! わが命に替えましても、必ずや、城塞都市を救ってご覧に入れます」
大げさな身振り手振りでナイフを頭上に掲げたあと、バックパックに入れてペコリと頭を下げる。
「うむ。お前はいずれ、ワシをも超える魔道士になる器だ。任せたぞ」
なるほど、という顔で、一連のやり取りを見ている城塞都市からの使者。よし、辻褄が合ったな。
「それでは、お弟子様。早速ですが飛竜にお乗り下さい。城塞都市まで5時間ほどかかります。急ぎませんと……」
マジか! 空を飛んでも、そんなにかかるんだ。遠かったもんなあ……
「彩歌さん、織田さん、バ……遠藤さん、辻村さん、ちょっとこっちに……」
そうそう。みんなで手をつないで輪になろう。
「達也さん、アレを試すのね」
お、覚えてたのか彩歌、さすがだな。
「内海さん、何を? 急がないと城塞都市が……」
いやいや織田さん。5時間もかけてたら間に合わないから。
「おおっ! アニキ、何が始まるんスか?」
「なになに? パイセン、これって何の遊び?」
お前らは、何でちょっとワクワクしてる感じなんだよ!
「とにかく、絶対に手を離さないで」
よし、僕の考え通りならこれで……
「あの……お弟子様? 何をされているのですか?」
この場所にいる全員が、不思議そうに僕たちの作った円陣を見ている。これで上手く行かなかったら、ちょっと恥ずかしいぞ。
「この場から僕たちが消えたら成功です。先に城塞都市に着いていると思いますので安心して下さい……では参ります!」
僕は、大きく息を吸い込んだ……と同時に、周囲の景色は一変した。
「あ、アニキ?! ここ、どこっすか?!」
「マジ? 大砦に居たのに……! パイセンすげぇ! パネェ!」
眼の前にあるのは、見覚えのある巨大な門。よし! 成功だ!
「良かった。まだ門は破られてないわね」
僕たちは帰ってきた。一瞬にして城塞都市に。
「内海さん! これは一体……?!」
織田さんも、キョロキョロと周囲を見て、目をパチクリさせている。
「〝阿吽帰還〟の魔法です」
……思った通り〝阿吽帰還〟の魔法は、呪文を唱えた場所まで、次に息を吸った瞬間に帰って来るという魔法だった。超便利だけど……僕しか使えないな。
「驚いた……内海さん、探検の間、ずっと息を止めていたのですか?! でも、それじゃ呪文を唱えるどころか、会話も出来ないんじゃ……?」
そう。そこが問題だったんだよね。だから僕はある方法を試してみたんだ。
「……胃袋の中に小さいゴーレムを作って、そいつに喋らせてた!? アニキ、それちょっともう、軽く引くレベルッすよ!」
「どおりでパイセン、声がヘンだと思ってたし! 途中で慣れて忘れちゃってたけど!」
そう、僕は〝使役:土〟で〝ミニ達也〟を胃の中に作って、代わりに喋らせていた。
なんと胃の中のゴーレムが詠唱しても、魔法は発動するのだ。
「アシスト機能は使えないから、全部覚えなきゃならなかったけどね」
スクロールの〝自動詠唱機能〟を使うと、勝手に自分自身の口で呪文を詠唱してしまう。そうなると、もちろん〝息を吸う〟事になってしまうので、呪文は一晩で暗記した。幸いな事に、僕の夜は誰よりも長いのだ。
……あ、ちなみに、体の外に作ったゴーレムが唱えた呪文は無効のようだった。あくまで、僕の口から呪文が発せられるというのが、魔法の発動条件なんだろう。
「おい、お前ら何をしている?」
突然、背後から声が聞こえた。
「戦えるなら 櫓に上がるか、結界前で待機! 非戦闘員は避難だ。早くしろ!」
立派なローブを身につけた男性に声を掛けられた。
「既に外門はボロボロだ。いつ魔物が入り込んでくるか分からんぞ」
門の前にはバリケードが張られ、多くの魔道士が待機している。でもさ、確か門の前には結界があったよな。
「強力な結界があるから、大丈夫なんじゃないの?」
「いいえ、結界に魔力を送っている魔導球の出力には限界があるの。今回のように多くの魔物が一斉に結界に触れれば、絶対に保たないわ」
なるほど。それはマズいな。
「この北門だけではなく、西と南の門も、かなり厳しい状態だ。戦えるならこの場を死守して欲しい」
そう言って、男性は慌ただしく走っていった。
……あれ? そういえば、飛竜に乗った魔道士も言ってたけど、なんで東門は大丈夫なんだ?
「東門は帰還用の門だから、いつでも開けられるように、常に優秀な魔道士が多く集められているのよ」
そういえば前にそんな事を言ってた気がするな。
「では、私は魔物の大侵攻の原因を止めてきます。皆さん、すみませんがもう少しの間、持ち堪えて下さい」
「おっと! ちょっと待った織田っち!」
「無事に城塞都市に帰ってきたら、全部話してくれる約束じゃん!」
お前ら、よく覚えてたな。
「……どうしても聞かれたいですか? 聞けばあなた方を巻き込むことになります」
「俺たち、友達じゃねぇか!」
「役に立たないかもしれないけど、力になりたいし!」
「ふふ。本当に第一印象って当てにならないわね。あなた達」
彩歌の言うとおりだ。バカップルなんて言ってゴメンな。
「内海さんと藤島さんは、どうされますか?」
ある程度はわかってるけど、このまま真相を知らないのは気持ち悪いな。
「聞かせて下さい。力になれると思います」
「うん。どういう事か教えて欲しい」
「……分かりました」
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