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5年生 3学期 3月
竜に乗った使者
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「すみません、ちょっと天蓋の操作をしてまいります」
ここは西の大砦のエネルギーを一括管理している、地下ブロック。
鈴木博己氏はこの場所の管理責任者だ。
「飛竜は、ここから少し東にある広場に降りると思いますので、もしよろしければ先に行っておいて下さい」
鈴木氏は奥の部屋へと、急ぎ足で消えた。
「それにしても、飛竜か。ちょっと楽しみだな」
竜と聞いてワクワクしない男の子は居ないんじゃない?
「そうですか、内海さんは飛竜をご覧になった事はありませんか」
まあ、こっちでは珍しくもないんでしょうけど、アガルタには居ないですからね。
「えっ! パイセン、マジで飛竜見たことないの? やべー!」
いや、ヤバくはないだろう。
「アニキ、確かに、ちょっと東に行った所に広場があったッス! 行きましょうッス!」
……お前今、アニキって言わなかったか? おい、ちょっとまてコラ!
『アニ……タツヤ、行こうか』
待て待て待てブルー。
お前まで、なんか言いかけたよな?
「行きましょうか達也さん」
彩歌がクスクス笑って言う。やれやれ、パイセンの次はアニキかよ。
とにかく、緊急事態らしいし、様子を見に行くか。
>>>
東の広場には、すでに十人余りの魔道士達がいた。まだまだ集まって来そうだな。
……飛竜が来るっていうのは、そんなに大事件なのか。
「お! アヤ、達也くん。早かったじゃないか」
「おはよう諸君。無事で何より」
エーコと、菅谷稀太郎さんだ。
2人とも、ただならぬ状況に駆けつけたと言った所かな。
「ふあぁ~あ」
『ご主人……シャキッとして下さいよ……』
精霊〝カリュブディス〟の声だ。本当に寝起きが悪いんだな、この人。
「アニキ! 来たッスよ!」
バサバサという音に気づいて上を見ると、はるか上空から、黒い影がまっすぐに降りてくる。あれが飛竜か!
「……普通に竜だ」
「達也さん……普通にって?」
「あ、うん。なんか魔界に来てから、想像とちょっと違ったりする物が多過ぎて……」
ファンタジーのイメージを崩されまいと、僕の脳が必死なんだよ、きっと。
だって下手したら、飛竜とか言いながらトンボみたいなヤツが到着するかもしれなかったんだもん。
『なるほど! ドラゴン・フライと言うね。さすがだタツヤ。もう一捻りして、いっそもうハエの姿でも良かったかもしれない』
『勝手にドラゴンの方を省かないでくれ、ブルー』
などという、どうでもいい話をしている内に、飛竜は広場中央にある、マルで囲まれた〝H〟の文字の中央に着地した。
アレはもしかして、飛竜の〝H〟か?
「城塞都市から参りました! 緊急事態です!」
手綱を引いている魔道士が、こちらを向いて叫ぶ。
その後ろに座っていたひとりが、命綱であろうロープの先の金具を外して、飛竜から降りてきた。
「皆さん、ご無事で何よりです。ある程度の事情は〝梟〟の関係者から既に聞いております」
……やっぱり〝梟〟が伝えたのか。
「実は昨日、城塞都市に向けて、大規模な魔物の侵攻がありました。しかも、四方の〝門〟全てに対してです」
「何だって?! そんなバカな……! 魔物が同時に4門全部を攻めるなんて、聞いたことがないぞ!」
エーコが青ざめた顔で言った。
「私たちが飛竜で出発した時点で、東門以外は既に危険な状態でした。全ての魔道士が応戦に当たっていますが、魔物の数が多過ぎて……」
「そんな! ……こんなに早く?! なぜ?」
織田さんが、顎に手を当てて深刻な表情をしている。こんなに早くって?
「そんなにスゴい数なのか? どんな魔物なんだ?」
「蟻系じゃないかしら。アイツら、軍隊みたいに動く上に、たまに大繁殖したり、大移動したりするから……」
彩歌さんが呟く。
「全種類です」
「え?」
稀太郎さんが、目を丸くしている。
「今、なんと言ったかね?」
稀太郎さんだけじゃない。
この場にいる全員が、耳を疑った。
「全ての種類の魔物が、城塞都市に押し寄せているのです。数はお察しの通りです」
おいおいおい! どういう事だ? 確か魔物って……
「そんなバカな事があるか! 多種の魔物が同時に?!」
そう。稀太郎さんの言った通り、魔物は基本、連携プレイをしない。
カエルとヘビが、仲良く獲物を襲う事など有り得ないのだ。
「ハッキリとした原因は分かりません。とにかく、城塞都市始まって以来の危機です」
そりゃ、飛竜も飛ばすわな。
という事は、彼らがここに来た目的は……
「我々は、最大戦力となるであろう〝伝説の魔道士〟と、今回の〝大侵攻〟の原因を知っているかもしれない人物をお連れしに来たのです」
最大戦力というのは、稀太郎さんだ。
何せ、この時代には1人も居ない、第十六階級魔道士らしいからな。
そして、あと1人は、きっと……
「菅谷稀太郎様、織田啓太郎様、居られますでしょうか!」
「ワシが菅谷だ」
「織田です」
2人が名乗り出た事により、飛竜でやって来た魔道士たちは、少しだけ安堵の表情を浮かべる。
やっぱり織田さんか。
「すみません、状況は分かりました。急いで戻りましょう」
織田さんは、今回の魔物大侵攻の原因を知っているようだ。
慌てた様子で飛竜に向かう……けど、稀太郎さんは違った。
「すまんが、ワシはここを離れるわけにはいかん。こう言っては何だが、この場所に悪魔が攻め入って来ないのはワシが居るからだ」
確かにその通り。悪魔はこの大砦を狙っている。
今朝の西門にも、驚くほどの悪魔が潜んでいたし、現にここにも……
「カリュブディス!」
『はい、ご主人』
突然、稀太郎さんの声とともに現れた精霊カリュブディスの右腕が、広場に集まった大勢の人混みの中の1人を貫いた。
「きゃああああぁぁ?!」
「うわっ! 何でだよ?」
悲鳴や怒声が飛び交い、場は騒然とする。
「師匠?! 何をするんですか!」
エーコが叫ぶ。
「精霊もお主も、まだまだだな。よく見てみろ」
少し厳しい表情の稀太郎さんが、エーコを顎で促す。
『タツヤ、キミも気づいていたのか』
『ああ。アイツだけ、何だか変な殺気を放っていたからな』
カリュブディスに腹部を貫かれた魔道士風の男は、バタリと倒れた。
……口から青い血を流しながら。
気が付くと、解呪の呪文を唱え終えて、いま受けた呪いを魔法陣に吸わせている稀太郎さん。
慣れたもんだな。
「あ、悪魔かよ?」
「そんな……ヒトにしか見えなかったし!」
人間のように見えていた姿は、ジワジワと本来の姿に戻っていく。
こんな風に悪魔が人間に化けて町中に潜んでいるとなると、安心して生活できないな……
「見ての通り、まだまだ砦の中も外も悪魔で溢れかえっておるのだ。済まんが、ワシはこの大砦の復興に専念させて頂く」
中にも、まだそんなに居るのか!
稀太郎さんの場合、寝込みを襲われないようにして欲しいな……
「……その代りに、そこに居る少年を推薦させてもらおう。彼は私より遥かに強いからな」
広場の魔道士達が、一斉に視線を向ける。
伝説の英雄が指差した先に居たのは、僕だ。
ここは西の大砦のエネルギーを一括管理している、地下ブロック。
鈴木博己氏はこの場所の管理責任者だ。
「飛竜は、ここから少し東にある広場に降りると思いますので、もしよろしければ先に行っておいて下さい」
鈴木氏は奥の部屋へと、急ぎ足で消えた。
「それにしても、飛竜か。ちょっと楽しみだな」
竜と聞いてワクワクしない男の子は居ないんじゃない?
「そうですか、内海さんは飛竜をご覧になった事はありませんか」
まあ、こっちでは珍しくもないんでしょうけど、アガルタには居ないですからね。
「えっ! パイセン、マジで飛竜見たことないの? やべー!」
いや、ヤバくはないだろう。
「アニキ、確かに、ちょっと東に行った所に広場があったッス! 行きましょうッス!」
……お前今、アニキって言わなかったか? おい、ちょっとまてコラ!
『アニ……タツヤ、行こうか』
待て待て待てブルー。
お前まで、なんか言いかけたよな?
「行きましょうか達也さん」
彩歌がクスクス笑って言う。やれやれ、パイセンの次はアニキかよ。
とにかく、緊急事態らしいし、様子を見に行くか。
>>>
東の広場には、すでに十人余りの魔道士達がいた。まだまだ集まって来そうだな。
……飛竜が来るっていうのは、そんなに大事件なのか。
「お! アヤ、達也くん。早かったじゃないか」
「おはよう諸君。無事で何より」
エーコと、菅谷稀太郎さんだ。
2人とも、ただならぬ状況に駆けつけたと言った所かな。
「ふあぁ~あ」
『ご主人……シャキッとして下さいよ……』
精霊〝カリュブディス〟の声だ。本当に寝起きが悪いんだな、この人。
「アニキ! 来たッスよ!」
バサバサという音に気づいて上を見ると、はるか上空から、黒い影がまっすぐに降りてくる。あれが飛竜か!
「……普通に竜だ」
「達也さん……普通にって?」
「あ、うん。なんか魔界に来てから、想像とちょっと違ったりする物が多過ぎて……」
ファンタジーのイメージを崩されまいと、僕の脳が必死なんだよ、きっと。
だって下手したら、飛竜とか言いながらトンボみたいなヤツが到着するかもしれなかったんだもん。
『なるほど! ドラゴン・フライと言うね。さすがだタツヤ。もう一捻りして、いっそもうハエの姿でも良かったかもしれない』
『勝手にドラゴンの方を省かないでくれ、ブルー』
などという、どうでもいい話をしている内に、飛竜は広場中央にある、マルで囲まれた〝H〟の文字の中央に着地した。
アレはもしかして、飛竜の〝H〟か?
「城塞都市から参りました! 緊急事態です!」
手綱を引いている魔道士が、こちらを向いて叫ぶ。
その後ろに座っていたひとりが、命綱であろうロープの先の金具を外して、飛竜から降りてきた。
「皆さん、ご無事で何よりです。ある程度の事情は〝梟〟の関係者から既に聞いております」
……やっぱり〝梟〟が伝えたのか。
「実は昨日、城塞都市に向けて、大規模な魔物の侵攻がありました。しかも、四方の〝門〟全てに対してです」
「何だって?! そんなバカな……! 魔物が同時に4門全部を攻めるなんて、聞いたことがないぞ!」
エーコが青ざめた顔で言った。
「私たちが飛竜で出発した時点で、東門以外は既に危険な状態でした。全ての魔道士が応戦に当たっていますが、魔物の数が多過ぎて……」
「そんな! ……こんなに早く?! なぜ?」
織田さんが、顎に手を当てて深刻な表情をしている。こんなに早くって?
「そんなにスゴい数なのか? どんな魔物なんだ?」
「蟻系じゃないかしら。アイツら、軍隊みたいに動く上に、たまに大繁殖したり、大移動したりするから……」
彩歌さんが呟く。
「全種類です」
「え?」
稀太郎さんが、目を丸くしている。
「今、なんと言ったかね?」
稀太郎さんだけじゃない。
この場にいる全員が、耳を疑った。
「全ての種類の魔物が、城塞都市に押し寄せているのです。数はお察しの通りです」
おいおいおい! どういう事だ? 確か魔物って……
「そんなバカな事があるか! 多種の魔物が同時に?!」
そう。稀太郎さんの言った通り、魔物は基本、連携プレイをしない。
カエルとヘビが、仲良く獲物を襲う事など有り得ないのだ。
「ハッキリとした原因は分かりません。とにかく、城塞都市始まって以来の危機です」
そりゃ、飛竜も飛ばすわな。
という事は、彼らがここに来た目的は……
「我々は、最大戦力となるであろう〝伝説の魔道士〟と、今回の〝大侵攻〟の原因を知っているかもしれない人物をお連れしに来たのです」
最大戦力というのは、稀太郎さんだ。
何せ、この時代には1人も居ない、第十六階級魔道士らしいからな。
そして、あと1人は、きっと……
「菅谷稀太郎様、織田啓太郎様、居られますでしょうか!」
「ワシが菅谷だ」
「織田です」
2人が名乗り出た事により、飛竜でやって来た魔道士たちは、少しだけ安堵の表情を浮かべる。
やっぱり織田さんか。
「すみません、状況は分かりました。急いで戻りましょう」
織田さんは、今回の魔物大侵攻の原因を知っているようだ。
慌てた様子で飛竜に向かう……けど、稀太郎さんは違った。
「すまんが、ワシはここを離れるわけにはいかん。こう言っては何だが、この場所に悪魔が攻め入って来ないのはワシが居るからだ」
確かにその通り。悪魔はこの大砦を狙っている。
今朝の西門にも、驚くほどの悪魔が潜んでいたし、現にここにも……
「カリュブディス!」
『はい、ご主人』
突然、稀太郎さんの声とともに現れた精霊カリュブディスの右腕が、広場に集まった大勢の人混みの中の1人を貫いた。
「きゃああああぁぁ?!」
「うわっ! 何でだよ?」
悲鳴や怒声が飛び交い、場は騒然とする。
「師匠?! 何をするんですか!」
エーコが叫ぶ。
「精霊もお主も、まだまだだな。よく見てみろ」
少し厳しい表情の稀太郎さんが、エーコを顎で促す。
『タツヤ、キミも気づいていたのか』
『ああ。アイツだけ、何だか変な殺気を放っていたからな』
カリュブディスに腹部を貫かれた魔道士風の男は、バタリと倒れた。
……口から青い血を流しながら。
気が付くと、解呪の呪文を唱え終えて、いま受けた呪いを魔法陣に吸わせている稀太郎さん。
慣れたもんだな。
「あ、悪魔かよ?」
「そんな……ヒトにしか見えなかったし!」
人間のように見えていた姿は、ジワジワと本来の姿に戻っていく。
こんな風に悪魔が人間に化けて町中に潜んでいるとなると、安心して生活できないな……
「見ての通り、まだまだ砦の中も外も悪魔で溢れかえっておるのだ。済まんが、ワシはこの大砦の復興に専念させて頂く」
中にも、まだそんなに居るのか!
稀太郎さんの場合、寝込みを襲われないようにして欲しいな……
「……その代りに、そこに居る少年を推薦させてもらおう。彼は私より遥かに強いからな」
広場の魔道士達が、一斉に視線を向ける。
伝説の英雄が指差した先に居たのは、僕だ。
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