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5年生 3学期 3月

自称・神

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 ……よし、今だ!

「HuLex UmThel eAtcRs iL」

 僕はすかさず〝呪病変換じゅびょうへんかん〟の呪文を唱え、頭上に現れた魔法陣を、博己ひろき氏にぶつけた。
 濃い紫色の煙のような物が、勢い良く魔法陣に吸い込まれていく。

「よし、やったぞ紗和さわさん! これでお父さんも正気に戻る!」

 剣を鞘に収め、紗和さんの肩を叩くエーコ。
 全てを吸い尽くした魔法陣が、パリンと音を立てて割れ、博己ひろき氏はその場に膝をつく。

「さ、紗和さわ! これは……私は一体……?」

 よし。マインドコントロールが解けた。
 ……あれ? 何だろう、どうも妙な違和感が。

「お父さん!」

 紗和さんが駆け寄ろうとする。
 ……その手を、遠藤翔えんどうかけるつかみ、引き止めた。

「ちょっと待った! ……なんかおかしいぜ?」

 逆の手を、辻村富美つじむらふみが掴む。

「うん、変な感じ! よく分かんないけど気持ち悪いし!」

「え?! ふたりとも、何言ってるの? 魔法は解けたんじゃ……?」

 僕も感じていた妙な感覚。お前らも気付いたのか……?
 紗和さんに向けるあの目。
 父親の目じゃない。獲物を狙う獣のような、嫌な視線……

『タツヤ、彼の詳細を読み取ることが出来た。キミの魔法で解除されたのは、詳細を隠蔽いんぺいしていた何らかの魔法効果だろう』

『何だって?! どういう事だ、ブルー?」

『これを見て欲しい。彼の詳細を表示するよ?』



 ***********************************************
 鈴木 博己  Suzuki Hiroki

 AGE 39
 H P 26 + 125
 M P 65 + 125
 攻撃力 21 + 125
 体 力 20 + 125
 守備力 4  + 125
 素早さ 12 + 125
 賢 さ 19 + 125

<特記事項> 
 魔法 Lv12
 時間操作
 空間操作
 共生
 ***********************************************



 じ、時間操作……?!
 ちょっと待て! 何だ、その特記事項!?

「……ふう。本当に邪魔だね、キミ達は。せっかく栄養になって貰おうと思ったのに」

 博己ひろき氏は、こちらをにらみ、苛立いらだったような口調でそう吐き捨てた。

「栄養って何? お父さん、どうしちゃったの?!」

 娘の声に、博己ひろき氏はニッコリと微笑ほほえむ。

「〝私たち〟がちからを使うためには、それはそれは膨大な魔力が必要でね。紗和さわ、聞く所によると、お前は〝第二階級魔道士トリッカー〟らしいじゃないか。さぞや大きな魔力を身に付けたんだろうね。お父さん、鼻が高いよ」

 笑顔がニッコリを通り越して、ニヤリに変わる。

「お前のお友達も、一部を除いて、かなりの魔力を持っていそうだなあ。出来ればそのまま食いたかったなあ」

 博己ひろき氏の背後に、黒い影が浮かぶ。
 ……得体のしれない物の腕が、博己ひろき氏の肩や腰にまとわり付いている。

「一部を除いてって失礼だし! あやまれし!」

 いや辻村、それ言っちゃったら〝一部〟が自分だと認めた事になるんだぞ?

「え? あ、俺の事か?! やい! てめぇ、よくも!」

 ……自分の事だと思ってなかったんだ。
 お前やっぱり大物だな、遠藤。

「仕方がない。なるべく殺さないように気をつけようかな。生きたままのほうが美味いもんなあ」

 博己氏がそう言った直後、黒い影は、その正体をはっきりと現した。
 人間のような肌の色に、手足が合計8本。
 ……というか全部手だ。
 大きな頭に目が3つ、口は縦に付いていて、定期的にパクパクと動いている。

『何だアレ? パズズ、僕の目を貸すから見てくれないか』

『それでは失礼致しまして……』

 一瞬、右目だけブラックアウトする。

『主よ。あの様な物、私も初めて見ました。ですが、私でさえ見たこともなく、その上、時を操るとなれば、恐らく……』

 ……あ! まさか?!

「キミ達も聞いたことがあるだろう? 見れば死ぬ、触れれば死ぬが、それを前にして、こう唱えれば、その者は時間と空間を支配できる」

 肌色の異形はグネグネとうごめく。

「〝モース・ギョネを得たり〟とね!」

 そうか、こいつが……!

「……ああ、大丈夫だよ。私の物になったから、その言葉はもう、いつどこで唱えても〝得体の知れない者〟に連れ去られたりはしない」

 何て事だ! あいつ〝モース・ギョネ〟だ。
  時間と空間を操るって、ちょっと今までに無いタイプだぞ?

「モース・ギョネと私はひとつになったんだ。時間と空間を自在に操る力を手に入れ、身体能力も人間だった頃とは比べ物にならないよ」

 〝人間だった頃〟って言っちゃったよお父さん……

「お父さん……! そんな化け物に操られないで!」

 博己氏とモース・ギョネ、合わせて5つの目が紗和さんを睨む。

「化け物だと? 違うな……私は神とひとつになったのだよ。私が望むままに、時間は進み、戻り、止まる。私が望むままに、空間は伸び、縮み、裂ける。まさに自由自在だ」

『ブルー、時間を操作されても、時券チケットが有れば大丈夫だよな?』

 時券チケットを持っていれば、停止した時間の中で活動する事が出来る。僕はブルー経由で、時間管理局から、時券チケットを発行してもらうことが出来るから、平気だろう。

『タツヤ、彼は今〝時間は、進み、戻り、止まる〟と言ったよ。時券チケットは、時間管理局が何らかの作用で活動しなくなり、時間が停止した時のための物だ。彼が、時間を進めたり、戻したり出来るとなると、有効かどうかは分からない』

 何だって?! それはマズいな……

「達也くん。あいつが言っているのは、あの伝説のモース・ギョネの事か?」

 エーコは、再び剣を抜き、構える。

「げげッ! ガキの頃から、家でも学校でも、絶対に言っちゃダメだって言われてたぜ?」

 もし万が一、言葉を言ってしまったら、大変なことになるもんな。
 〝川で遊ばないように〟とか〝火遊びはしない〟とかと、同じなんだろう。

「マジなの?! それ、面白半分で唱えて、行方不明になった子が居るって聞いたし!」

 そうだよな、絶対に居るよな被害者! だって、駄目だって言われたら、逆にやりたくなるもん。
 ……しかしやっぱり有名なんだな、モース・ギョネ。

『タツヤ。今、時間管理局に通報した。〝時神クロノスの休日〟以外の時間操作は申告と審査を経て、許可が必要だ。時神クロノスが、何らかの対応をしてくれると思うよ。それを無視するのはルール違反だからね』

『さすがブルー! じゃあ、もう大丈夫なんだな?』

『すまないが、今、返信待ちだ。どれくらい待たされるか分からないので時間を稼いで欲しい』

 いや、ちょっと待て! 今すぐ時間を操作されたら、時間稼ぎも何もないぞ?!

「さて。それでは私の力をちょっとだけ見せてあげよう」

 うっわ、ヤバイヤバイ! 時間稼ぎだ!

「おいおい、僕たちの強さ見ただろ? やめといた方がいいと思うけど?」

 ……さあ、どう出る?

「あの程度の悪魔を倒した位で、いい気にならないで貰いたいね。キミ達がいくら強くても、神には敵わない」

 博己氏とモース・ギョネは、同時に舌なめずりをする。ひとつになったと言うだけあって、息もピッタリだ。

「……時間や空間を操作するまでもないよ。魔力の無駄だからね」

 おっとラッキー! 何とかこのまま、強化された〝神の肉体〟とやらを自慢していてくれよ……

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