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5年生 3学期 3月

魔界を行く

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 これまでに出会った魔物、28種類。総数744体。

『だったっけ? ブルー』

『そうだね。〝分裂〟した敵の数を入れるなら、驚きの1000超えだよ』

 僕の攻撃で、砕けてバラバラになった破片が、それぞれ襲って来るという、ムカデを太く長くした様な魔物もいた。
 長さはムカデの5倍はあっただろうから〝百足〟じゃなくて〝五百足〟だな。
 彩歌の電撃と炎で一瞬にして炭になったけど。

「お前ら……ハァハァ……魔力……ハァ……どうなって……」

「ゼェゼェ……おかしいし! 〝称号持ち〟って、ゼェ……みんなそんなスゴイの?!」

 若干じゃっかん、足手まといの遠藤翔えんどうかける辻村富美つじむらふみが、息を切らして言う。

「ふふ。でもあなた達、意外といい感じよ?」

 うん、彩歌の言う通り、思ったほど悪くない。
 誰かの手を借りなくても、自分たちだけで戦えているし。

「おふたりとも、大丈夫ですか? さあ、私が荷物を持ちましょう」

 織田さん、甘やかしちゃ駄目ですって。
 もともと、その2人〝護衛してやろうか?〟とか言ってたし。

「いや、織田っち、ヘーキだぜ!」

「頑張るし! 目指せ〝第1階級魔道士アプレンティス〟!」

 おお? 根性あるな……! 単純だけど、こういう奴らが案外あんがい成功したりするんだ。

「……ん? 何だろう、あれ」

 道の隅に、小さな石の像がある。

「達也さん、あれは、刺抜地蔵とげぬきじぞうって言って、悪魔に掛けられた呪いを解いてくれる像なの」

 ほう? そんな便利なのがあるのか!

「あれ? じゃあ、解呪の魔法とか要らないんじゃ……」

「ふふ。その像の頭部、あ、もっと後ろの方を見て?」

 石で出来た像の後頭部に、細長い穴が空いている。パッと見た感じ、大きな貯金箱のようだ。

「解呪一回につき、10万円よ?」

「有料なの?!」

 っていうか、中のお金、誰がどうやって回収に来るんだ?

「いざという時には便利な物よ。〝呪病変換〟が使える達也さんには必要ないけど〝刺抜地蔵〟は魔法で解呪が出来ないほどの呪いも、解いてくれるわ」

 魔界って本当に色々と面白い物があるなあ。
 ちょこちょこ世界観がイメージと違うけど。
 あ、あともう一つ気になる事が……

「……それにしても、悪魔が出て来ないのはどういう事だ?」

 城塞都市を出て、最初に襲われて以降、悪魔に遭遇していない。もっとこう、驚くほどワラワラ居ると思ってたんだけど。

「はは。達也くん。悪魔の総数は、人間よりもずっと少ないんだよ」

 先頭を行くエーコが笑う。へぇ、そうなんだ。

「臆病な者も多いと聞きます。数で勝てなければ襲わない悪魔も居るようですし……私や達也さん、彩歌様が、人数に含まれるかどうか分かりませんが」

 鈴木さんの言う通り、見た目が子どもだからな。大勢の方が襲われにくいんだろうけど〝足手まといの子ども〟を連れた一団という事で、逆に襲われそうな気もする。

『タツヤ、噂をすれば何とやらだ。2体、こちらに近付いて来る生命体がいる』

 悪魔か? 凄いタイミングだな。もしかして、どこかで聞いてたんじゃないか?

「みんな! 2体ほど近付いて来てるぞ!」

 全員、僕の声に呼応して戦闘態勢に入る。
 僕も〝接触弱体〟を掛けてから杖を伸ばして構えた。
 ……現れたのは、悪魔が2体。

「ぐふふ。おいしそうなの。いただきます」

「コドモ、タベル。ヤワラカ、コドモ」

 悪魔は上級になればなる程、日本語が流暢りゅうちょうになる。こいつらは……大して強くなさそうだな。

「まずは。ねむらせる。おやすみ」

「オトナモ、タベルヨ。スキキライ、シナイノ」

 悪魔が何やら呪文を唱えようとしたその時、遠藤と辻村の放った魔法が、2体の悪魔にそれぞれ命中した。

「ぎゃああ。ばかな。ぐふっ!」

「ヤラレタ! グギャアアアア!」

 パタパタと倒れて動かなくなる悪魔たち。

「どうだ! 思い知ったか!」

「見た見た? やってやったし! これ結構スゴくね?」 

 おお! 2人ともナイスショット! 
 ……で、病毒変換で解呪にする? それとも刺抜地蔵にする?

『タツヤ、弱い者いじめは良くないぞ? 可愛そうだ』

『〝弱い者〟って言う方が可愛そうだと思うよブルー……』





 >>>





「あれれー? こんな所に、洞窟があるよー?」

 と言って、僕が指さした先には、明らかに人工的な形をした洞窟の入口が、ポッカリと口を空けていた。

『おいおい、ブルー! これちょっと綺麗過ぎないか? 洞窟っていうか、遊園地のアトラクションっぽくなっちゃてるけど……』

 足元は階段のようになっており、下へと続いている……っていうか、階段にしか見えないな。
 もう少し進むと、ヘッドセットをつけたお姉さんが〝はーい! それではこのゲームの説明をするからよーく聞いてね!〟って言い始めるぞ?

『あはは! タツヤ、それは面白いね。しかし、まさか誰も、キミがこれを作ったとは思わないだろう。知らぬ顔でいればいい』

 それもそうか。よし、休憩休憩っと!

「ボウズ、気をつけろよ! こういう洞窟は魔物の巣になっている場合があるから……っておいおい!」

 僕は、聞こえない素振りでズンズンと中に入っていく。
 心配しなくても大丈夫だ遠藤。この中には、えっとどれどれ?
 ……ふむふむ。〝偶然〟ドアっぽい物までついている、人数分ピッタリの個室と、その中には……ほほう〝偶然〟ハンモックのように編み込まれた、柔らかくて寝心地の良い樹の根と……なるほどなるほど〝偶然〟男女別になっている、広さも温度も申し分の無い温泉があるだけだ。その上、洞窟内全体が〝偶然〟光るコケのような物で覆われていて、すごく明るい。

『念のため〝偶然〟たわわに実った、生で食べられる美味しい木の実も用意した』

『うおい! ちょっと待てブルー!』

『ああ、そうか。すまないタツヤ。時間が無かったので、ドアを〝偶然〟オートロックには出来なかった』

『待て待て待て、そんな洞窟無いから! っていうか、どうすんだよこれ! 絶対怪しまれるだろう?!』

 今ならまだ〝すごいけど有り得ないことはない小学生のような魔道士〟で押し通せるんだから、説明のつかないような事を披露しちゃ駄目だろ……って、みんなもう入って来ちゃったよ!

「うおおお! ラッキーだな! おあつらえ向きの洞窟だぜ!」

「すんごい! これって温泉? 今夜は久しぶりにお風呂に入ってゆっくり眠れそうだし!」

 ……まあ、この2人は大丈夫っぽいな。

「ほう! ツイてますね! 天然の洞窟とは思えないですよ」

 織田さん?! まさか本気で、こんな都合の良い洞窟が自然に出来たと思ってます?!

「ふぅん。洞窟って、こんななんですね。初めて見ました」

 いかーん! 鈴木さんの知識が間違った方向に!!

「達也くん? キミは本当に、自分たちの事を秘密にする気はあるのか?」

 引きつった笑顔のエーコ。ごめんなさい。でも僕じゃないんです……

『いやいやタツヤ、キミと私は一心同体だよ?』

『だったらせめて、ちょっと相談してくれよ……!』

『なるほど、わかったぞ。つまりキミは、混浴が……』

『風呂は男女別でグッジョブだよ! 僕はアレじゃないからな!』

 僕たちのやり取りを聞いて、彩歌はクスクスと笑っている。
 ……ふう。まあいいか。
 よーし! ここで英気を養って、明日に備えよう。
 僕は、なんとなくそれっぽい〝ウソ呪文〟を唱えて〝使役:土〟で、洞窟の入り口にフタをした。

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