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5年生 3学期 2月

初心者講習

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城塞都市じょうさいとしの門は、東西南北とうざいなんぼくにひとつずつ、合計4つあります。北門、南門、西門のうち一箇所が、毎朝一度だけ開きますが、どこが開くかは、前日まで非公開です」

 なぜなら、危険だから。
 ……だそうだ。
 開く門が分かってしまえば、悪魔や魔物が押し寄せるだろう。この城塞都市は、常に狙われているのだ。

「オジサン! しつもーん!」

 バカップルの片割れ、辻村富美つじむらふみが手を挙げる。いつの間に目を覚ましたんだ?

「東門は、どうなってるの?」

 お? 意外とよく聞いていたじゃないか。

「はい。東門は、城塞都市に入る時に通る門です。探検から帰ってくる際は、必ずこの門を使って下さい。ここから外に出ることは出来ません。逆に、北、南、西の門は、出発専用ですので、この3つの門からは入れません」

 なるほど。都市に入るための門を一箇所に決めて、守りを固くしているのか。しかし、行き先によっては随分と遠回りになるな。

「仕方がないのよ。さっきも言ったけど、人手不足なの。帰還用の門を、いつでも受け入れ可能にするには、一箇所に決める以外、方法がないわ」

 そうか、必ず入れるなら、安心してそこを目指せるな……帰って来た時に門が開いていない可能性があるというのは怖い。

「出発の開門は、光がともる午前5時と決まっています。帰還の場合は、必ず東門を使いますが、こちらはいつでも大丈夫です。ただし、夜間に門を開けるには、通常の5倍の料金が掛かりますので、ご注意下さい」

 どうやら、城塞都市を出入りするには、門の使用料を支払わなければならないらしい。
 出発時に5000円、帰還時には1万円……夜間料金だと5万円か。なるべく明るい内に帰ってこなきゃ。

「……ん? そういえば〝光が灯る〟って妙だな。〝陽が昇る〟じゃないの?」

「魔界には太陽は無いわ。空にあるのは、〝ぬ光〟と呼ばれる、正体不明の光源よ。24時間で光ったり消えたりを繰り返すの」

「マジで? あれって太陽じゃないんだ……! なんか明るさも暖かさも控えめだと思ってたんだよな」

 どちらかと言うと、蛍光灯に近い、冷ややかで人工物のような光だ。

「でもね、地球アガルタの太陽と同じように、あの光で魔界の植物は育つのよ」

 市場で見たマンドラゴラも、あの光で元気に育ったのだろう。

「そして不思議な事に〝触れ得ぬ光〟には、絶対に近づけないの。どんな方法で、どれだけ高く飛んでも距離は縮まらないわ」

 ふーん。不思議だな。一体どういう仕組みなんだろう。
 ……あれ? 何だろう。指導員の宮若みやわかさんが、書類を配り始めたぞ。
 相方あいかたに揺さぶられて目を覚ました遠藤翔えんどうかけるが、大きな欠伸あくびをしながら受け取っている。
 お前もう帰ったら?

「どうぞ。どちらにせよ、お書き頂かなくてはなりませんので藤島様の分も」

 僕と彩歌あやかにも、同じ物が手渡される。
 織田おだ啓太郎けいたろうさんには書類と共に、バカップルから剥ぎ取られた毛布が返却された。
 書類は二枚つづり。
 一枚目には〝探検申請書〟と書かれている。二枚めは……

「彩歌さん、これって……!」

「ふふ。私はともかく、達也さんには必要ないのにね?」

 ニッと笑う彩歌。

「探検に出発される場合は、事前に申請が必要です。お渡しした用紙に、目的地や帰還の時期、持ち出す物品のリスト、そして、2枚目の……」

 ……〝遺書〟だ。こんな物を必ず提出?
 外の世界がどれだけ危険なのか、よく分かるな。

「大丈夫。彩歌さんは、僕が必ず守るから」

「……うん、信じてる!」

 再び、笑顔を返す彩歌。うおお! 抱きしめたい!
 ……でも向こうで、あのバカップルが先に〝愛してる~!〟とかやってくれてるおかげで、なんとか冷静になれた。ありがとう若者バカモノたち。

「午前4時30分から、内門うちもんが25分間だけ開きます。探検者の皆さんは、この時点で、外門そともん近くまで進んで待機です」

 門は、2重構造。
 まず内門が開く。探検者は内門と外門の間で待機。
 そして内門が閉じられた後、次に外門が開く。

「門が開く時に、悪魔などの襲撃があるかもしれません。城壁のやぐらから、守備隊が支援攻撃を致しますが、基本、ご自身の身はご自身でお守り頂きます。腕に覚えのない方は、護衛を雇われると良いでしょう。探検者登録所でも斡旋しておりますので、詳しくは窓口へどうぞ」

「おい、お前ら! 俺たちが護衛してやろうか?」

 遠藤がこっちを向いてベロを出している。

「キャハハ! やめようよ面倒くさい!」

 続いて辻村の大爆笑。面倒くさいのはお前らの方だ。
 ……でも、なんだろう。予定調和で逆に落ち着くなあ。

「本当ですか?! それは有難ありがたい!」

 そこへ来て、本気で有難がっている織田さん。
 ちょっと、マジかあんた!

「お、おう! 大船に乗ったつもりで俺に任せとけ!」

 キメ顔の遠藤。

「イヤーン! かけるカッコイイーん!!!」

 キマっちゃった顔の辻村。
 ダメだ。もう見て見ぬフリをしよう。
 ……このままだと、覚えたての〝使役:土〟で、あいつらを土にかえしてしまいそうだ。

「明日は、〝北門〟が開きます。目的地に遠いようでしたら、西か南の開門まで、数日間、待機する方が安全でしょう」

 城塞都市は広い。一般の探検者が北門から南門まで都市の外を移動するのに、半日近く掛かるそうだ。それだけの時間が掛かる理由は、主に魔物の存在。

「都市の周囲……城壁付近には、食料や素材を調達するために、比較的多くの探検者が居るから、魔物や悪魔は少なめよ」

 ……それでも、襲われる。
 特に、魔界の生物、〝魔物〟は、知能が低く、本能のままに行動する上に、数が多いので厄介だ。
 種類も多様で、人を襲って食べたり、血を吸ったり、さらって卵を植え付けたりと、とにかく〝常に人間を欲して〟いる。

「さらに付け加えます。慣れない内は、何度か北門か、南門から出発して、東門までの移動を経験されたほうが良いでしょう。今日から5日間、出発と帰還時、門の使用料が半額になるクーポンをお渡ししますので、是非ご活用下さい」

 なるほど、練習か。やはり町の外は、相当に危険なんだな……

「へへん! お散歩かよ! そんなまどろっこしい事、やってらんねーぜ!」

「アハハ! お散歩って! 超ウケルー!」

 どうやら僕がやらなくても、勝手に土に還るフラグが立ったみたいだな。

「すみません、少々急いでいますので、明日出発してすぐ西に向かわなければならないのですが……」

 織田さんは、西門が開くまで待てないらしい。僕たちも目的地は西なので同行する事になりそうだな。

「ああ。それは探検者の方の判断と自己責任ですので、一向に構いませんよ。ご無事を願っております」

 生死も自己責任だ。
 まあ僕と彩歌が一緒なら、織田さんは死なないと思うけど。
 ……でも、きっとこれも予定調和だろう。あの二人もたぶん、明日出発で、西に向かうだろ?

「へええ! 良かったじゃねぇか。俺たちも西に行くぜ。もちろん明日出発だ!」

 ほらね。あーあ、彩歌がゲンナリしちゃってるよ。僕もだけど。

「キャハハ! 良かったね! 織田っちは、どこ行くのよ?」

 良くないし、〝織田っち〟言うな。マブダチか。

「私は、西の大砦おおとりでを超えて、〝落日らくじつ轟雷ごうらいの塔〟まで行かなくてはなりません」

 お? 行き先一緒じゃん。なあ、パズズ?

『はい。〝砂抜きされた砂時計〟は、私の記憶では〝落日と轟雷の塔〟に保管されていたはずで御座います』

「お……おいおい! おっさん、いきなり砦超とりでごえかよ! ばっかじゃねーの?!」

「っ?! ……ちょっと、ワケわかんないんですけど!」

 ……? 砦超えって何だろう。そういえばエーコさんも、どこかの大砦の向こうに行ったとか言ってたな。

「大砦は東西南北4箇所にあって、魔界人が人間の勢力圏を拡大するために作った物よ。城塞都市のように高い塀に囲まれた町があるの」

「へぇ! すごいじゃん、魔界人!」

 意外と魔界って、人間の勢力は強めなのか?

「昔はね……凄まじい力を持った魔道士が、何人も居た黄金時代に、大砦は作られたの。でも、時代と共に、魔物や悪魔たちの力に押されて……」

「……今は?」

「酷いものよ。特に、今回立ち寄る〝西の砦〟はね」

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