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5年生 3学期 2月

ネコの手も借りたい

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 ぼくはクロ。
 ダーク・ソサイエティっていう、わるいひとたちによってうみだされた、つよいいきもの。

「クロ、ちょっと待って下さい」

 ぼくのすがたは、ふつうのときは〝トラ〟だったっけ?
 で、いまみたいに、ちいさくなったときは〝ネコ〟っていうのに、にてるんだって。

「クロ、聞きなさい。あなたの……」

 いま、あくまのいるへやに、はいっていったのは、カズヤ。
 ……ぼくのあたらしい〝ごしゅじん〟だ。
 カズヤはすごくつよいし、やさしいし、おもしろいんだよ!
 で、いつか、かみさまになるんだって。

「お待ちなさいクロ。しゃべるのをやめて、話を聞いて下さい」

 ……えー? なあに?

「クロ。あなたの発音では、まだ少し伝わりにくいかも知れません……」

 え? そうかな? ぼく、ちゃんと、ニンゲンのことばでしゃべっているよ?

「そうですねえ。あなたはすごく賢いのですが、たぶん皆さんには少し伝わりづらいと思います。もう少しだけ言葉に慣れてからにしましょうか」

 えー?! やだやだ! ぼくだってちゃんとできるよ! カズヤたちだけズルイよう!

「……ふう。仕方ありませんね。では、僕があなたの思考を、皆さんに伝わりやすいように〝中継〟してみましょう。それなら良いですね?」

 うーん、しょうがないなあ。
 じゃあ、こんかいだけだよ?

「ふふふ。分かりました。ただ、次までに、ちゃんと漢字も覚えてもらいますからね?」

 ? ……かんじ?

「……いえ、詳しい話は後にしましょう。悪魔が現れました。あなたの言葉はちゃんと私が伝えますから」

 うん! よろしくね!
 ……まったく、和也は融通ゆうづうが効かないんだから。
 えっと、悪魔が現れたって言っていたけど大丈夫かな?

「大丈夫ですよ。私が爆弾を外します。あなたに全て渡したら合図しますから、レッドの所へ、お願いしますね」

 任せてよ! えっと、気をつけてね!

「ありがとう、クロ」

 いま僕は、人間が作った〝ダム〟っていう建物に居るんだ。人間が〝水〟をいっぱい貯める所なんだって。
 誰かがたくさん飲むんだろうね。
 ……あ、悪魔の声も聞こえてきた。気持ちの悪い声だなあ。

「ゲゲゲ、もう手遅れだゾ! 我々が配置した〝マサライの箱〟は、コノ建物を粉々にする」

 マサライの箱? あ、爆弾の事か。

「おっと、動くナ。この部屋にも多くの箱を仕掛けタ。見ろ、この玉を。コイツを割れバ、全ての箱は〝破壊の波動〟を撒き散らすゾ」

 次の瞬間、目の前の扉から、6個の爆弾と、透明な玉がフワフワと出てきた。あらら。もう奪っちゃったんだ。和也は素早いなあ。

「クロ、大事に収納して下さい。特にその玉は大変危険ですので、注意して下さいね」

 うん、分かったよ。収納収納っと。

「き! キサマ! いま何をシた?! なんデ、玉が勝手ニ……?!」

 もう終わっちゃった。
 和也の言う通り、遊び相手にもならないなあ。弱すぎだよ。

「ち、近ヅくな! もし我々ガ死んだラ〝マサライの箱〟は動作を始めるゾ!」

 あ~あ。こういうのを〝クチカラデマカセ〟って言うんでしょ? さっさとやっつけちゃおうよ!

「……クロ、急いでレッドの元へ行って下さい。レッドが居る所までの道順は僕が教えますから。さあ、早く!」

 え? どうしたの? そいつを倒して終わりなんじゃないの?
 なんだか慌てた様子だ。
 ……和也がこんな口調で行けと言うなら、きっと本当に一大事だ。急いで行かなきゃ!
 僕はさっき来た道を戻った。ダムの壁面の通を、和也の指示通りに進む。

「レッドから連絡があったんです。その爆弾を改めて解析したところ、その作動条件が分かったようです」

 レッド。
 ……九条大作。
 彼は天才だ。〝ダーク・ソサイエティ〟にも、頭の良い人間はいっぱい居たけど、大作ほどの頭脳の持ち主は居なかった。
 ……いや、もしかしたら一人だけ。
 アイツはよく解らないヤツだったけど、他の人間たちとは違った気がする。

「クロ、聞いて下さい。爆弾の作動条件は2つ。〝製作者の絶命〟と〝原材料の絶命〟なのだそうです」

 〝製作者〟っていうのは〝作ったヤツ〟って事でしょ?
 爆弾を作ったのが悪魔なら、ヤツの言っている事は本当だったんだ。
 ……ねえ、和也。大丈夫なの?
 その悪魔に、ひどい事されてない?

「大丈夫ですよ。先程から何度か魔法で攻撃されていますが、大したことはありません」

 くっそー! 和也が攻撃できないと思って調子にのるなよ、悪魔め!
 えっと〝製作者〟つまり悪魔を倒すには、僕がレッドに爆弾を持っていかなくちゃ……って事は分かった。
 ……ん? じゃあ〝原材料〟っていうのは?
 えっと確か〝何かを作る元になっている物〟の事だよね?

「その通りです。よく勉強していますね、クロ。その爆弾は、生き物なのです。今はもう、かろうじて、ですが……」

 うーん。そう言われてみれば、なんとなく生き物っぽい気もするけど、箱が爆発するのは、悪魔が死ぬか、さっきの透明な玉が割れる時なんじゃないの? 原材料が死ぬってどういう事?

「たっちゃんと彩歌さんに聞いたところ、どうやら悪魔たちは、こちらへのゲートをくぐる時に人間の死体を〝所持〟していたらしいのです。それも5体」

 所持? ……死体を持ってたってこと? ……なんでそんなの、持って来るの?

「私たち3人が襲われた時、奴らはもう、死体などは持っていませんでした。5体もあれば、必ず気付くはずですから、間違いありません……ただ、私たちが最初に倒した悪魔は、他の2体とは、少し離れた所に居ました」

 あ、わかった! その悪魔は見張り役だったんだ!

「そうです。クロ、やはりあなたは賢いですね」

 やったー! められた!
 ……で、見張りまで置いて、何をしてたのかな?

「悪魔たちは、人間5体と、その魂を原料にして〝マサライの箱〟を作っていたんです。ゲートを通る時に〝死体〟と識別されたのは、魂を既に抜かれていたからでしょうね」

 えええ?! 爆弾の原料が人間?! ちょっとイヤな気分だぞ。何だろうこの気持ちは。

「クロ、それは正義と思いやりの心ですよ。あなたは優しい子ですね。その気持ち、大事にして下さい」

 正義? 思いやり? ふーん。
 ……とにかくイヤな気分だぞー! がおー!!

「あのような姿にされても、彼らはまだ生きています。先程あなたに渡した透明な玉は、彼らの魂を結晶化した物で、霊的に全ての箱と繋げられています。たましいが壊れれば、からだは死んでしまう。そして恐ろしい〝破壊の波動〟を発します」

 つまり悪魔は、5人の魂と肉体をごちゃまぜにして、たくさんの爆弾と2個の玉を作った。という事だね。

「その通りです。爆弾にされてしまった人たちを元に戻せるかどうかは分かりませんが、レッドなら、発動条件から〝製作者の絶命〟を除外できるはずです。急いで下さい!」

 分かったよ!
 ……いくら和也と大作とユーリが強くても、悪魔に手出しできない状態では話にならない。急がなきゃ!!

「あ、クロ! いま通り過ぎた通路を右です!」

 あわわ、右ってどっちだっけ?!

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