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5年生 3学期 2月

ブラックボックスは脈を打つ

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「栗っち、悪いけど、右に行った悪魔、一人でいけるか?」

 大ちゃんは少しだけ心配そう。

「うん。ちょっと怖いけど、頑張る!」

 あ、僕は栗栖和也くりすかずやだよ。栗っちって呼んでね。
 僕たちが追っかけていた2匹の悪魔は、ダムに着いた途端、別々に移動し始めたんだ。

「えっと、僕の方は仕留めていいよね?」

 一匹は捕まえて帰りたいと言っていたし、そういう事かな?

「おー! 頼んだぜ栗っち。何かあったら連絡くれよなー!」

 普通の人は、悪魔を殺しちゃうと〝呪い〟を受けるんだって。怖いよね。

「やー! 栗っち、気をつけてね!」

「うん、ありがとう! ユーリちゃんも、手加減を忘れないでね?」

 でも僕は呪われないんだ。
 〝マイナスの感情〟を力にしたのが〝呪い〟なんだけど、神様にとっては、マイナスの感情もプラスの感情と同じ物……等しく〝愛〟なんだ。だからどんなに〝悪い効果〟が込められた呪いも、僕には良い方向にしか受け取れないんだよ。

「栗っち、ダムの中には人が居る。変身しないと駄目だぜー?」

 そう言って、大ちゃんはベルトのバックル部分を押し込んだ。
 同時にユーリちゃんは、ポケットから取り出したガジェットを、頭の上にかざす。
 まばゆい光が辺りを包んで、2人はカッコよく変身した。

「では、私たちは行く」

「にゃー! じゃあね、栗っちー! ……えっと、居た! レッド、あっちにゃ!」

 ユーリちゃん……じゃなかった。
 イエローには〝生命感知〟があるから、悪魔がこのダム周辺に居るなら、見失うことはないだろう。
 2人とも、もうあんな所まで移動してる。すごいなあ!

「よし、僕も急がなきゃ! ……変身!」

 腕時計のボタンを押すと、ピカッと目の前が光って、僕もヒーローの姿になった。
 この前ボロボロになったスーツは、キレイに元通りになっている。さすが大ちゃん。

「さて。参りましょうか」

 悪魔たちは、ダム湖の底に封印されている〝妖怪〟が目当てみたい。
 すごく悪くて恐ろしいヤツなんだって。
 確かにダムの方から、冷たくて気持ちの悪い気配がずっとしてる。

「悪魔たちは、その〝妖怪〟とやらに一体何の用なのでしょうか? ……きっと、良くない事なのでしょうけど」

 でね、悪魔は水が邪魔なんだ。だから、ダムを壊してしまうかもしれない。
 そんな事したら、水が一気に下流の町を襲う。大洪水だ! それは駄目だよ。絶対にめなきゃ!

「どこに居るのでしょう……?」

 千里眼でさぐる。
 ……確かあっちの方に行ったような?
 見つけた! あそこの扉から、中に入ろうとしてるよ。
 きっとダムを内側から壊す気なんだ。追いかけなきゃ!
 僕は〝関係者以外立ち入り禁止〟と書かれた柵を飛び越え、ダム壁面の通路を進む。
 ……ごめんなさい、緊急事態なんです。
 真上に見える階段を登れば、さっき見た扉まで行けるよ。

「……なんとか追いつけそうですね」

 悪魔が無理に壊して開けたのかな? 悪いことするなあ。
 ……ドアノブが黒く焼け焦げた扉をくぐり、ダムの内部に侵入した。
 細い通路が続いていて、人影や悪魔の姿はない。
 けど、僕の千里眼には、悪魔が見えているよ。
 この通路の、はるか先を移動中みたい。

「グリーン。聞こえるだろうか。ちょっと問題が発生した」

 レッドの声だ。何かあったのかな?

「どうしました? レッド」

「ダム内に、悪魔が貼り付けたのであろう、黒い箱のような物を発見した……爆発物だ」

 爆発物って……ば、ば、爆弾?!

「分解してみて大体の構造はわかった。幸いな事に時限式ではないし、振動や衝撃では起爆しないようだ。ただ、構造が複雑なので、解体は私でないと不可能だな」

「レッド、僕の目の前にある、この黒い物体がそうでしょうか?」

 壁に、黒くてグロテスクなデザインの、お弁当箱のような物が張り付いているよ。
 表面には、手の甲のように血管が浮き上がっていて、ドクンドクンと脈打っている。
 ……爆弾というより、生き物みたいだ……こんなの、よく分解できるよね、レッド。

「ひと目でそう思ったのなら間違いない。実に悪趣味なデザインだが、内部構造は非常に芸術的で面白いぞ」

 うえぇ。こんな物の中身なんか、見たくないよ。

「これを、どうすればよいでしょう?」

「壁には必ず同じ向きで取り付けられているようだ。その箱は、横が長く、縦が短い状態だと思うが、間違いないだろうか」

「はいレッド。この箱もそのように取り付けられていますよ」

「よし、それなら右上と左下にある、少し盛り上がった部分を、同時に押せば、壁から外れる。回収して私の所に持ってきて欲しい。それ以外の部分を押すと、即時、爆発するので気をつけるんだ」

 即時って?! 怖っ!
 ……でも、この爆弾の外し方が分かっちゃうなんて、すごいよレッド! 〝機械仕掛けの神デウスエクスマキナ〟の能力かな。

「了解しました。回収してお持ち致します」

「頼んだぞ。私の方は、これで6個目だ。そちらも、多数仕掛けられている恐れがある。全て見つけて分解しないと、ダムに大きなダメージを与えてしまうだろう」

 ええっ、もう6個も?! あ、ホントだ。通路の壁にいっぱいくっついてる。早く外さなきゃ。
 ……えっと、右上と、左下の盛り上がった部分を。ひゃああ?! この出っ張りも、脈打ってるよ。気持ち悪いなあ!

「グリーン。この爆発物は、何らかの信号を受けて起爆するようになっているようだ。火薬は使われていないのでハッキリした威力はわからないが、ざっと見た所では3個も爆発すれば、このダムは崩壊するだろう」

 たった3個で、この大きなダムが崩壊?! すごい威力の爆弾だよね。
 急いで全部取り外して、レッドに渡さなきゃ!
 そうだ。クロを呼ぼう。

「……クロ、聞こえますか?」

『……ふわぁ。どうしたの? カズヤ』

 寝てたみたい。もともと夜行性みたいだから仕方ないけど。

「ちょっと手伝って頂きたいのですが」

『いいよ……あれ? なんでそんな、とおくにいるの?』

「色々とありましてね。大事件なんですよ」

『ふーん。なんかおもしろそう! ちょっとまっててね』

 これでよし、と。
 あ、そうそう。クロはね、僕の守護獣になったから、どんなに離れてても、お話が出来るんだよ。
 じゃあ、見落とさないように爆弾を外しながら、悪魔を追いかけよう。
 うう、気持ち悪いなあ。触りたくないなあ……
 嫌だけど仕方ないよね。
 僕は慎重に、悪魔を追いつつ爆弾を回収していく。

「おっと、あんな所にも。どうやって取り付けたんでしょう……」

 見上げると、通気口らしき縦穴があり、その奥に、黒い物が見える。間違いなく爆弾だよ。
 念動力で取り外し、手元に引き寄せた。
 あ、そっか。こうすれば触らずに済むよ。やったね!

『カズヤ、おまたせ。でっかい〝たてもの 〟だね! ここってなんなの?』

 クロが来た。さすがに速い!

「よく来てくれました。ここは、川の水をせき止めて、発電したり、渇水に備えたりする施設ですよ」

 首をかしげるクロ。ちょっと難しかったかな。

「そうですねえ……人間の都合のいいように、大きな水たまりを作っているのですよ」

『うーん。よくわからないけど、にんげんって、こんなものまでつくっちゃうんだ。すごいねえ』

 感心して周囲を見回している。あ、そうだ。急がなきゃ。

「クロ、この扉の先に悪魔がいます」

『あ! そいつをやっつければいいの? よーし!』

「いえいえ、待って下さい。悪魔は僕が相手をします。クロにはこの黒い箱……爆弾を、レッドに届けてほしいのです」

『えー? つまんないー! ぼくも、たたかいたい!』

 やっぱり、そうなるよね。でも、僕の予想が正しければ……

「クロ。よく聞いて下さい。この先に居る悪魔は、あなたが戦うほどの相手ではありませんよ。今は力を蓄えておいて下さい」

『そうなの? よわいんだ、あくまって』

「ええ。ですからあなたは、レッドとイエローのサポートに行って欲しいのです」

 クロは僕の守護獣になった事で、神格化された。
 もちろん呪いも効かないよ。レッドたちに万が一、何かあった時は、もう1匹の悪魔にとどめを刺して欲しいんだよね。

『うん、わかったよ! ぼくがもっていくのは、これでぜんぶなの?』

 念動力で空中に浮かんでいる11個の黒い箱。

「いいえ。恐らくこの扉の向こうにも、たくさんの爆弾が仕掛けられていると思います。全部取り外して扉の外に出しますので、全て〝収納〟して持って行って下さい」

 〝収納〟は、クロの特殊能力だよ。
 虎さんよりも、ずっとずっと大きなクロが、その巨体をどうやって猫サイズの〝重さ〟にしているのか、不思議に思った大ちゃんが調べたら、体の大半を〝別次元〟に置いている事に気付いたんだって。

『ちょっとまってね。ブルブルっ……と』

 身震いを一つすると、クロの頭上にポッカリと、バレーボールぐらいの大きさの穴が開いた。
 僕は空中に浮かんだ爆弾を、その穴に放り込んでいく。

「万が一、爆発するといけないので、一旦閉じておいて下さい」

『わかったよ』

 もう一度、クロが身震いすると、スッと穴が閉じた。
 クロの首に巻かれているのは、大ちゃんが作った首輪。
 無意識にクロがアクセスしていた〝別次元〟に、この首輪の力で穴を開けて、自由に物を出し入れする事が出来るようになったんだ。便利だよね。
 この穴のサイズより小さければ、何でも入れられるんだよ。
 ……あ、でも〝生き物〟は、死んじゃうかもしれないから、入れない方が良いんだって。

「それでは、ちょっと待ってくださいね」

『がんばってね、カズヤ!』

 僕はクロに向かってうなずくと、そっと扉のノブに手を掛けた。

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