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5年生 3学期 2月

こま

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にわかには信じがたいが……』

 異世界人〝ノウマズ・ロクドナス〟は、あごのあたりに手をあてて、複雑な表情を浮かべている。

『私の聖剣に触れても、裁かれない者と、裁きを受けても平然としている者……』

 栗っちは、ニコニコ笑っている。
 ユーリは僕の剣を突付いて、ジュッジュッと言わせている。
 おい、あんまり無闇むやみに裁かれるな。焦げ臭いだろ。

『魔法使いに、異星人、カラクリの神、救世主、そして……』

 僕をチラッと見て、さらに複雑な表情のノウマズ。

『……〝星の化身〟というのは、どういった存在なのだ?』

「そう言われても……どう説明すればいいのかな」

 まず、地球が丸くて、太陽の周りを回っている、辺りから説明をしなくちゃならないのか? 面倒だな……

「んー。俺が思うに〝異星人〟がわかるなら、星とか宇宙の説明はしなくて良いんじゃないかー?」

 あ、そっか。大ちゃんの言う通りだ。
 じゃあ、ありのままを……

「この星は、原因はわからないけど近い将来、壊れてしまう。それを防ぐのが僕の使命なんだ」

 数カ月後に迫る、星を破滅から遠ざけるための分岐点と、異星人の襲来。
 それらを無事に乗り越えてからでなければ、僕たちは異世界に行くわけにはいかない。

『貴方のような子どもに、そんな事をさせておいて、大人は一体何をしているのだ? いや。聖剣が選ぶ程の者だ。きっとなにか理由があるのだろうが……』

 〝僕はもともと大人だ〟とか、説明し始めると時間食っちゃうよな。
 面倒だから、数ヶ月したら行きますとか言って、お引取り願うか。

『邪竜の王を封印するには、どうしても3振りの聖剣と、3人の勇者が必要だ。子どもであろうと〝戦う力が無かろうと〟とにかく私の世界に来て貰わねばならない』

 おっと。見くびられちゃったな。頭数あたまかずだけでもって事ね?
 ……まあ、子どもの姿だから仕方ないか。

「やー! 戦う力が無いっていうのは、たっちゃんの事を言ってるのん? 笑っちゃうよー!」

「えへへ。ノウマズ・ロクドナスさん。たっちゃんは、スゴいんだよ?」

 ちょいちょい。噛みつかなくていいよ。面倒な事になるだろ?
 〝それならば見せてみろ〟とか言い出したら……

友里ゆうりさん、栗栖くりすくん……?」

 ナイス彩歌あやか
 いいタイミングで止めてくれるなあ。

「見た目で判断するような人には、実際に見せてあげなくちゃ分からないのよ?」

 あおってきたー?! やめて! お願いだから!!

「おいおい、お前らなー!」

 よし大ちゃん、やっぱり名参謀めいさんぼうだ。ここは上手くめてくれ!

「この流れで〝それでは私に一撃加えてみろ〟とか言い出したら、せっかくそろった勇者が、たっちゃんのせいで1人減っちゃうだろー?」

 言っちゃったー! 見事な位にトドメさした!
 ……いや、でもさすがに異世界の勇者様が、子どもの言う事にイチイチ目くじらを立てたりしないだろう。

『よろしい。そこまで言うのなら、貴方の力を見てあげよう』

 簡単に目くじら立てた!!
 口調とかは穏やかなフリをしてるけど、目が笑ってない!

『どうした? 早く掛かって来い。来ないならこちらから行くぞ!』

 ノウマズは、聖剣を片手に挑発して来る。

「聖剣に触れたら、持ち主以外は死んじゃうんだろ?」

 斬られるとか以前に、触れただけで死んじゃうじゃないか! まあ、僕は死なないけどさ。

『心配は要らない。私が触れている間は、貴方がこの剣に触っても、裁きは起きない。だからこそ選ばれた勇者は、聖剣を肌身離さず持たねばならぬのだ』

 え? あれ? それっておかしくないか?
 ……なんか釈然としないな。ま、いいか。
 そんな事より、どうしたものか。〝星の強度〟の調節が上手く出来ないから、今あいつの攻撃が僕に当たったら、反動だけで、殺してしまうかもしれないぞ?
 ……よし、本当の事をそのまま伝えて、不戦をつらぬこう。

「えっと、ノウマズさん? やめようよ。僕を攻撃すると、あんた死ぬよ? 僕には〝星の強度〟という……」

『面白い。やれるものならやってみるがいい!』

 飛び掛かって来るノウマズ。駄目だ。ヒトの話を聞かないタイプのアレだ。

「ブルー、どうすればいいと思う?」

『そうだね。彼の装備の、体から一番離れた場所を攻撃してみてはどうだろうか』

 お、ナイスアイデア! ダイレクトに殴らないなら、スプラッタとかにはならないだろう。たぶん。

「じゃあ、あの無駄にヒョロっと長く伸びた、肩当ての端っこを殴っとこうか」

『フルパワーは良くない。若干、手加減をすることをお勧めする』

「了解!」

 僕は斬り掛かって来たノウマズの剣戟けんげき鼻先はなさきかわし、その体勢のままノウマズの肩当ての端っこを、かする程度に殴った。

『ぐるうわああああああああああああ!!!』

 ノウマズは、独楽こまのように、足を軸に高速で回転し、一番奥の壁まで移動して激突。動かなくなった。

「あっちゃー……手加減したんだけどな……! 大丈夫?」

 ピクピクと痙攣しているノウマズ。良かった、生きてた。しかしこの感じだと、僕の実力は分かってもらえてないかもな。やれやれ。
 ノウマズに近づいて、助け起こそうとした、その時。

『ご主人様が、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません!』

 突然、眼の前に小さな女の子が現れた。
 深々とお辞儀をして、申し訳なさそうにしている。

「ちょ?! ビックリした!」

『驚かせてすみません。わたくし、ノウマズ・ロクドナスの従者で、ポチルと申します』

 〝ポチル〟は、再び深々とお辞儀をした。
 ぶかぶかでパステルチックな色合いの、フードの付いた服を着ている。
 見た目、僕らより少し年下かな? フードには、犬か猫のような耳がピンと立っている。

『失礼ですが、皆様方のお話は全て聞かせて頂きました。ご主人様は、このまま連れて帰ります』

「それは助かるよ。後でよろしく言っといてね?」

『はい。かしこまりました。そして、不躾ぶしつけながら、ご主人様に代わってお願い致します。どうか、ご自身の世界での御用がお済みになられましたら、なにとぞ私どもの世界にお越し下さいませ』

 またペコリと、深くお辞儀をする。その仕草が、イチイチかわいい。

「うん。必ず行くよ。少し待たせちゃうけど、ごめんね」

『有難うございます! 先程お渡し致しました指輪でお呼び下されば、すぐにお迎えに上がりますので』

 あの指輪か。大事に取っとかないとな……あ、忘れる所だった!

「ポチル? 僕だけじゃなくて、あと4人、一緒に行ってもいいかな?」

『それはもちろん! ……しかしよろしいのですか? 先程のお話では、いずれ様もこの世界には必要不可欠な方ばかり。わたくし共の世界においで頂くのは、大変ご迷惑ではないでしょうか』

 この子、ご主人さまより、数段〝おとな〟の対応をするなぁ……

「大丈夫だよ。邪竜の王なんか僕たち5人でチョイチョイっと、やっつけちゃうから」

『大変心強いです。本当に有難うございます! それでは、5名様でのお越し、心よりお待ち申し上げております』

 最後に、もう一度ペコリと頭を下げて、〝ノウマズ・ロクドナス〟と〝ポチル〟は、異世界へ帰って行った。

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