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5年生 3学期 2月
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酒屋さんまでの、比較的人通りの少ない場所で、大ちゃんと栗っちは、為す術もなく立ち尽くしていた。
「ちくしょう! 俺とした事が油断してたぜ!」
すごい形相の大ちゃん。
ユーリは、2人が見ている目の前で、フッと消えたそうだ。
「ごめんね。僕も、何が起こったのか分からないんだ」
栗っちは、今にも泣き出しそうだ。
しかし、この二人の目の前で、しかも〝あの〟ユーリを連れ去るなんて、本当に可能なのか?
「友里さんが消えたのは、どのあたり?」
「えっとね、ユーリちゃんは丁度、その電柱の所を、スキップしながら歩いてたんだ」
目に浮かぶようだ。急に深刻さが和らいだな。いや、何も好転してないんだけどさ……
「俺たちは、その後ろを歩いてたんだよ。そうしたらなー……」
突然、姿が見えなくなったという。そんな事が有り得るのか?
「ブルー、どうだ? 何か分かった?」
『物理法則では説明出来ない方法で、こことは違う空間に、連れ去られたみたいだね。異常な方法だけに、手がかりを見つければ、痕跡を辿れると思うよ』
「ほんとかよ! 頼むぜ、ブルー! ユーリに何かあったら俺は……」
唇を噛んで、目を潤ませる大ちゃん。
「やー? 私に何かあったら、大ちゃんはどうするの?」
「もしユーリを傷つけた奴が居たなら、俺は地の果てまででも追いかけて、そいつを……」
「そいつを?」
「ユーリ!!!!」
うっわ、ビックリした!
何だよ大ちゃん、急に大声で叫んだと思ったら、ユーリに抱きついたりして。
まったく。イチャイチャするなら、もっと人目につかない所で……
「ってユーリ?!」
何の前触れもなく、突然ユーリが現れた。何が起きたんだ?!
「友里さん、良かった! 無事だったのね!」
彩歌が駆け寄る。
「良かった! 良かったね! ユーリちゃん、大ちゃん!」
栗っちは、嬉し涙で顔がグシャグシャになっている。
「ユーリ、俺! 俺!」
おっと。大ちゃんも、ポロポロと涙を流している。よっぽど心配だったんだろう。
しっかりしていても、こういう所は小学生だな。
「やー! ごめんよー。泣かないで、大ちゃん。私は大丈夫だから!」
大ちゃんの頭を撫でているユーリ。本当に無事で良かった。
……しかし、生身だった大ちゃんは仕方ないとしても、救世主である栗っちの目を欺いて、ユーリを連れ去るとは。
「ユーリ、一体、何があったんだ?」
「あー、それがね。ちょっと問題なんだよー」
そう言って、ユーリはキョロキョロと辺りを見回す。
例の〝監視者〟が、見ているかもしれないのか?
「よっし。じゃあ帰ろうか、みんな!」
そう言うと、ユーリは自分の口元を人差し指で押さえ、そっと足元を指差して、ウインクした。そうか、地下室の方が良いんだな?
全員、それに気付いたようなので、余計な会話はせず、ウチに向かって一斉に歩き始める。
……これはこれで怪しいと思うけどな。
>>>
地下室。
練習場の真ん中にテーブルが現れ、5つの椅子が用意された。
妹は、身代わりが居ないので、今回は欠席。
テーブルの真ん中には、派手な装飾の剣と、キラキラと輝く指輪が置かれている。
「……というわけで、たっちゃんの拾ってきた剣は、その異世界を救う、勇者の証だったみたいなんだよー」
〝異世界の剣〟と聞いた時点で、もしかしたら、そうじゃないかな、とは思ったんだけど、まさか〝監視者〟の標的が、この剣だとは思わなかった。
「ごめん、ユーリ。まさかこの剣のせいで、お前が攫われたりするなんて……」
「やー。たっちゃんのせいじゃ無いじゃんかー。私が触っちゃったせいだし」
ユーリの話では、この聖剣は〝神様〟の魂が練り込まれていて〝邪竜の王〟を封印することが出来るという。
使い手となった勇者以外が、この聖剣に触れた場合、神の裁きにより、灰になって死ぬらしい。
手を火傷したぐらいで済んだのは、ユーリの人間離れした能力のおかげだ。
「しかし、驚くよなー! 次は異世界の邪竜だぜー?」
「えへへー。普通の人には抜けないけど、主人公には抜ける剣って、ゲームみたいだよね。不思議だね」
『刀身を、この世界に向けて貫通させる事で、力を持つ者を選ぶための、試練としたのだろう。迷惑な話だね』
あれ? ブルー、ちょっと怒ってる?
……まあ、こんなモノをブッ刺されたら、怒りもするよな。
「達也さんは、台座から抜かなければならない剣を、反対側から引き抜いた事になるのね」
そうか。彩歌の言う通りだな。
……多くの人たちが見守る中、台座から剣を抜いて、
〝おお! やはりそなたは、選ばれし勇者!〟
って、なるはずの剣を、こっそり〝地中側〟へ引っこ抜く……どんな勇者だよって話だ。
「この剣を盗んだという事で、僕を探しているのかな?」
……だとしたら、誤解を解いて、速やかにお返ししよう。
「いやー、さっきのユーリの話だと〝使い手〟が決まって以降に、それ以外の者が触れると、灰になるって話だから、もう、たっちゃんが勇者に選ばれてしまったという事だろー?」
「ですよねー……って事は、僕、異世界で邪竜の王と戦うのか?」
……いよいよ、ジャンルの不明さに拍車が掛かってきたぞ。
〝異世界ファンタジー〟にチェック入れなくても良いのかな?
「えへへー。異世界へは、折角だから、みんなで行かない? その方が早く終わるよね!」
「やー! それいい! 行こうよー!」
「マジで?! それは心強いな!」
……みんなで行ければ、だけど。
まあ、ユーリの話だと、その〝ノウマズ〟っていう勇者は色んな世界の人を自分の世界に連れて行っては、剣を抜かせようとしてたみたいだから、上手く交渉すれば大丈夫だとは思うけどね。
「あ、でさでさ! その、ノウマズ・ロクドナスっていう人が言うには、あと200日しか、邪竜の王を止めておくことが出来ないらしいんだよー」
「あー。200日って事は、夏休みぐらいだなー」
大ちゃんが、指輪と聖剣を見ながら呟く。
夏休み……幸い、異星人との戦闘も、分岐点も済んでいるな。
『タツヤ、異世界の事は気になると思うが、まずはこちらの予定を優先して欲しい』
「もちろんだ、ブルー。地球が壊れたり、侵略されちゃったら、お終いだからな」
「あとさー。〝異世界〟って言うからには、この世界とは、違う次元とかだったりするんだろ?」
『さすがだね、ダイサク。タツヤとアヤカ、そしてダイサクのベルトは、地球からのエネルギーを受けて、能力を発揮している。地球から離れれば、いずれ、エネルギーが枯渇するよ』
「あ、そっか。じゃあ、僕の〝星の強度〟とか、彩歌さんの〝高耐久〟とか、大ちゃんの〝機械仕掛けの神〟も、使えなくなるのか?」
『私が意識的に時間を掛けて、エネルギーを蓄えておけば、ある程度は活動可能だ』
〝充電をしっかりする〟的な感じかな。
「そういえば、私が魔界へ帰っている間も、魔力はスゴいスピードで回復していたわ」
『いや、アヤカ。〝魔界〟は、地球と地続きか、とても近い位置にあるようだ。キミが魔界に帰っている間も、心臓には、常にエネルギーが取り込まれ続けていたよ?』
「マジか!? 魔界こそ〝異世界〟ってイメージなんだけど」
そういえば、悪魔も日本語を喋ったりするし、案外、日本のどこかに在ったりするのか?
「ブルー、エネルギーをギリギリ一杯まで蓄えて、どれくらい保つんだ?」
『そうだね。大体の目安だけど、アヤカなら、火球の魔法を2000万発ぐらい。ダイサクは、先日のガロウズ星人戦と同じくらいの戦闘を270回は行えるだろう』
それは〝一生分〟と言うんじゃないか?
「僕はどうなんだ?」
『キミの能力は、消費エネルギーが桁違いだ。フルタイム・フルパワーだと、1年と2ヶ月ぐらいが限界だろう』
「いや、充分だろ! そんなに長期間、行くつもりはないよ」
異星人に侵略されるか、分岐をスルーし過ぎて地球が壊れちゃうじゃないか。
「それじゃ、異世界人〝ノウマズ・ロクドナス〟に連絡をとるのは、異星人に勝って、分岐点を乗り切った、その後という事で良いかな?」
「俺はそれでいいぜー?」
「やー! 楽しみだなー!!」
「えへへー! 大賛成!!」
「私も賛成!」
『……反対だな』
声の主は、練習場の奥にある、射撃用の的を、珍しそうにジロジロと観察したり、撫で回したりしている。
『私は〝ノウマズ・ロクドナス〟……貴方達からすれば、異世界人という事になる』
「ちくしょう! 俺とした事が油断してたぜ!」
すごい形相の大ちゃん。
ユーリは、2人が見ている目の前で、フッと消えたそうだ。
「ごめんね。僕も、何が起こったのか分からないんだ」
栗っちは、今にも泣き出しそうだ。
しかし、この二人の目の前で、しかも〝あの〟ユーリを連れ去るなんて、本当に可能なのか?
「友里さんが消えたのは、どのあたり?」
「えっとね、ユーリちゃんは丁度、その電柱の所を、スキップしながら歩いてたんだ」
目に浮かぶようだ。急に深刻さが和らいだな。いや、何も好転してないんだけどさ……
「俺たちは、その後ろを歩いてたんだよ。そうしたらなー……」
突然、姿が見えなくなったという。そんな事が有り得るのか?
「ブルー、どうだ? 何か分かった?」
『物理法則では説明出来ない方法で、こことは違う空間に、連れ去られたみたいだね。異常な方法だけに、手がかりを見つければ、痕跡を辿れると思うよ』
「ほんとかよ! 頼むぜ、ブルー! ユーリに何かあったら俺は……」
唇を噛んで、目を潤ませる大ちゃん。
「やー? 私に何かあったら、大ちゃんはどうするの?」
「もしユーリを傷つけた奴が居たなら、俺は地の果てまででも追いかけて、そいつを……」
「そいつを?」
「ユーリ!!!!」
うっわ、ビックリした!
何だよ大ちゃん、急に大声で叫んだと思ったら、ユーリに抱きついたりして。
まったく。イチャイチャするなら、もっと人目につかない所で……
「ってユーリ?!」
何の前触れもなく、突然ユーリが現れた。何が起きたんだ?!
「友里さん、良かった! 無事だったのね!」
彩歌が駆け寄る。
「良かった! 良かったね! ユーリちゃん、大ちゃん!」
栗っちは、嬉し涙で顔がグシャグシャになっている。
「ユーリ、俺! 俺!」
おっと。大ちゃんも、ポロポロと涙を流している。よっぽど心配だったんだろう。
しっかりしていても、こういう所は小学生だな。
「やー! ごめんよー。泣かないで、大ちゃん。私は大丈夫だから!」
大ちゃんの頭を撫でているユーリ。本当に無事で良かった。
……しかし、生身だった大ちゃんは仕方ないとしても、救世主である栗っちの目を欺いて、ユーリを連れ去るとは。
「ユーリ、一体、何があったんだ?」
「あー、それがね。ちょっと問題なんだよー」
そう言って、ユーリはキョロキョロと辺りを見回す。
例の〝監視者〟が、見ているかもしれないのか?
「よっし。じゃあ帰ろうか、みんな!」
そう言うと、ユーリは自分の口元を人差し指で押さえ、そっと足元を指差して、ウインクした。そうか、地下室の方が良いんだな?
全員、それに気付いたようなので、余計な会話はせず、ウチに向かって一斉に歩き始める。
……これはこれで怪しいと思うけどな。
>>>
地下室。
練習場の真ん中にテーブルが現れ、5つの椅子が用意された。
妹は、身代わりが居ないので、今回は欠席。
テーブルの真ん中には、派手な装飾の剣と、キラキラと輝く指輪が置かれている。
「……というわけで、たっちゃんの拾ってきた剣は、その異世界を救う、勇者の証だったみたいなんだよー」
〝異世界の剣〟と聞いた時点で、もしかしたら、そうじゃないかな、とは思ったんだけど、まさか〝監視者〟の標的が、この剣だとは思わなかった。
「ごめん、ユーリ。まさかこの剣のせいで、お前が攫われたりするなんて……」
「やー。たっちゃんのせいじゃ無いじゃんかー。私が触っちゃったせいだし」
ユーリの話では、この聖剣は〝神様〟の魂が練り込まれていて〝邪竜の王〟を封印することが出来るという。
使い手となった勇者以外が、この聖剣に触れた場合、神の裁きにより、灰になって死ぬらしい。
手を火傷したぐらいで済んだのは、ユーリの人間離れした能力のおかげだ。
「しかし、驚くよなー! 次は異世界の邪竜だぜー?」
「えへへー。普通の人には抜けないけど、主人公には抜ける剣って、ゲームみたいだよね。不思議だね」
『刀身を、この世界に向けて貫通させる事で、力を持つ者を選ぶための、試練としたのだろう。迷惑な話だね』
あれ? ブルー、ちょっと怒ってる?
……まあ、こんなモノをブッ刺されたら、怒りもするよな。
「達也さんは、台座から抜かなければならない剣を、反対側から引き抜いた事になるのね」
そうか。彩歌の言う通りだな。
……多くの人たちが見守る中、台座から剣を抜いて、
〝おお! やはりそなたは、選ばれし勇者!〟
って、なるはずの剣を、こっそり〝地中側〟へ引っこ抜く……どんな勇者だよって話だ。
「この剣を盗んだという事で、僕を探しているのかな?」
……だとしたら、誤解を解いて、速やかにお返ししよう。
「いやー、さっきのユーリの話だと〝使い手〟が決まって以降に、それ以外の者が触れると、灰になるって話だから、もう、たっちゃんが勇者に選ばれてしまったという事だろー?」
「ですよねー……って事は、僕、異世界で邪竜の王と戦うのか?」
……いよいよ、ジャンルの不明さに拍車が掛かってきたぞ。
〝異世界ファンタジー〟にチェック入れなくても良いのかな?
「えへへー。異世界へは、折角だから、みんなで行かない? その方が早く終わるよね!」
「やー! それいい! 行こうよー!」
「マジで?! それは心強いな!」
……みんなで行ければ、だけど。
まあ、ユーリの話だと、その〝ノウマズ〟っていう勇者は色んな世界の人を自分の世界に連れて行っては、剣を抜かせようとしてたみたいだから、上手く交渉すれば大丈夫だとは思うけどね。
「あ、でさでさ! その、ノウマズ・ロクドナスっていう人が言うには、あと200日しか、邪竜の王を止めておくことが出来ないらしいんだよー」
「あー。200日って事は、夏休みぐらいだなー」
大ちゃんが、指輪と聖剣を見ながら呟く。
夏休み……幸い、異星人との戦闘も、分岐点も済んでいるな。
『タツヤ、異世界の事は気になると思うが、まずはこちらの予定を優先して欲しい』
「もちろんだ、ブルー。地球が壊れたり、侵略されちゃったら、お終いだからな」
「あとさー。〝異世界〟って言うからには、この世界とは、違う次元とかだったりするんだろ?」
『さすがだね、ダイサク。タツヤとアヤカ、そしてダイサクのベルトは、地球からのエネルギーを受けて、能力を発揮している。地球から離れれば、いずれ、エネルギーが枯渇するよ』
「あ、そっか。じゃあ、僕の〝星の強度〟とか、彩歌さんの〝高耐久〟とか、大ちゃんの〝機械仕掛けの神〟も、使えなくなるのか?」
『私が意識的に時間を掛けて、エネルギーを蓄えておけば、ある程度は活動可能だ』
〝充電をしっかりする〟的な感じかな。
「そういえば、私が魔界へ帰っている間も、魔力はスゴいスピードで回復していたわ」
『いや、アヤカ。〝魔界〟は、地球と地続きか、とても近い位置にあるようだ。キミが魔界に帰っている間も、心臓には、常にエネルギーが取り込まれ続けていたよ?』
「マジか!? 魔界こそ〝異世界〟ってイメージなんだけど」
そういえば、悪魔も日本語を喋ったりするし、案外、日本のどこかに在ったりするのか?
「ブルー、エネルギーをギリギリ一杯まで蓄えて、どれくらい保つんだ?」
『そうだね。大体の目安だけど、アヤカなら、火球の魔法を2000万発ぐらい。ダイサクは、先日のガロウズ星人戦と同じくらいの戦闘を270回は行えるだろう』
それは〝一生分〟と言うんじゃないか?
「僕はどうなんだ?」
『キミの能力は、消費エネルギーが桁違いだ。フルタイム・フルパワーだと、1年と2ヶ月ぐらいが限界だろう』
「いや、充分だろ! そんなに長期間、行くつもりはないよ」
異星人に侵略されるか、分岐をスルーし過ぎて地球が壊れちゃうじゃないか。
「それじゃ、異世界人〝ノウマズ・ロクドナス〟に連絡をとるのは、異星人に勝って、分岐点を乗り切った、その後という事で良いかな?」
「俺はそれでいいぜー?」
「やー! 楽しみだなー!!」
「えへへー! 大賛成!!」
「私も賛成!」
『……反対だな』
声の主は、練習場の奥にある、射撃用の的を、珍しそうにジロジロと観察したり、撫で回したりしている。
『私は〝ノウマズ・ロクドナス〟……貴方達からすれば、異世界人という事になる』
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