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5年生 3学期 2月

命を掛けた格闘

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「タタタタタタ!」

 リズミカルな音が鳴り響き、銃弾が発射される。

「……まったくもう! 変身するひまが無かったじゃないか!」

 自動小銃の弾は、僕に弾かれて、どこかに飛び散った。
 良かった。誰にも当たってないな。

『タツヤ! アヤカ!』

 ラウラが叫ぶ。
 ごめん。嬉しいのは分かるけど、本名ほんみょうで呼ばないで?
 僕と彩歌あやかは、咄嗟とっさに子どもをかばうため、犯人と警官の間の、いちばん目立つ場所に、素顔のまま、登場することになってしまった。

『……ボク? ボール遊びは、周りに気をつけてね。ここは危ないから、あっちで遊ぼうか』

 車と、あのメガネは、急に止まれないんだぞ?

『うん! わかった!』

 彩歌が張った障壁に守られながら、トテトテと、走り去る男の子を、手を振りながら見送る。聞き分けのいい子で助かったな。
 ……さて、と。
 犯人たちも、警官たちも、その他の人たちも、全員、呆気あっけにとられた顔で僕たちを見ている。やれやれ、無駄に目立ってしまった。

「とりあえず、写真撮影をされる前に、変身しようか」

「そうね」

 〝15年後〟なら、珍しい事があったりすると、写真や動画が、すぐにネット上に流れてしまったりしたものだ。
 この時代なら、インターネットで拡散とかはしないだろう。まあ、大ちゃんに頼めば、どんなデータでも、即、消してくれるんだけどね。

 僕と彩歌は、まばゆい光に包まれて、変身した。
 ヒーローの姿になった僕たちを見て、目を丸くする人々。
 あと、歓声を上げて喜ぶ、人質の4人。
 こらこら。あんまり騒ぐと危ないぞ?

『何だお前ら! 動くなって言っただろうが! 言っただろうがよおおおっ!』

 タタタタタタタ!
 僕とピンク目掛けて、乱射し続けるメガネ。
 スキンヘッドとベレー帽も参戦して、さながら戦場のようになる広場。

『アース? 聞くまでもないと思うんだけどぉン? 障壁、要るぅン?』

『いや、俺は要らねぇんだけど、おまわりさんに当たっちまうから、あっちに頼むぜ!』

 あ、今更だけど、僕と彩歌の口調が変わってるのは〝仕様〟だからね。

 警官隊の前に障壁を張るピンク。ずっと僕たちを撃ち続けている犯人たち。さて、銃が効かないことに気づかれて、人質4人を盾にされてしまう前に、なんとかしなきゃ。

「ピンク。さっきの作戦通りにやると、たぶん、人質が只じゃ済まないし、最悪、俺が犯人を2人、殺しちまう。作戦変更だ」

 先程、咄嗟とっさに考えた作戦は、彩歌が3人眠らせ、僕が残りの2人を、なんとかするというものだった。

『賢明だタツヤ。今のキミが普通の人間に、敵意を持って力を使えば、軽く触れただけで致命的なダメージを与えてしまうだろう』

 今の僕では、人質に怪我をさせずに犯人を無力化するのは、なかなかに困難だ。帰ったら特訓だな。

「先に4人を助けようぜ。それから、作戦を考えればいい」

「アースは犯人にも優しいのねぇン。わかったわぁン!」

 ちなみに先程、ジャンプしてバッグを投げた時の力は〝爆弾〟という〝敵〟を排除するために使った力だ。僕の力は、〝敵〟に対して使わなければ、比較的、穏やかに作用する。つまり、犯人や銃を狙えば、無駄に大きな力が働いてしまうけど、人質を救出するための力なら、安全だろう……たぶん。

「俺が、ライナルトとダニロだ」

「わかったわぁン。ラウラとハンナは、任せてぇン!」

 〝彩歌スイッチ〟の事も考えた上で、男子2人は僕が引き受けた。

『いくぞ! 4人とも、動くなよ!』

 僕は瞬時に犯人に近づき、ライナルトとダニロを抱えて、そのまま警官たちの正面まで移動した……男たちは、何をされたのか気付いていない。あ、警官たちも。

『な……?! 何だ? あいつら、どこへ行きやがった!』

『何てこった! アニキ、あいつら一瞬であんな所に!』

 犯人も警官も、不意の出来事に動けないでいる。
 もちろん、犯人にも銃にも、指一本触れてはいない。
 あいつらは僕に〝敵〟認定されているから、ちょっと触れただけでアウトだ……えっと、僕が殺人犯になってしまうと言う意味で。

「アース、こっちもOKよぉン?」

 ピンクも上手く救出したようだ。
 ラウラとハンナを抱えて隣にいる。

『大丈夫か? ライナルト、ダニロ』

『うう、気持ち悪い……何だ? どうなったんだ?』

 ライナルトは、何が起きたのか理解できずに、フラついている。

『タツヤ、やっぱり忍者なの? 速すぎてよく分かんなかったから、もう一回やってよ!』

 嬉しそうなダニロ。いやいや、絶叫マシーンじゃないんだから。

『ラウラ、ハンナ、怪我は無いかしらぁン?』

『大丈夫よ。ありがとう、アヤカ!』

 一番しっかりしているラウラ。ライナルトに駆け寄り、肩を貸している。

『私、信じてた! アヤカ、大好き!』

 ピンクに抱きつくハンナ。良かった。元気そうだ。

『き、君たちは、一体?!』

 無事を喜び合う僕たちに、警官の1人が声をかけて来た。

『俺たちは〝救星戦隊プラネット・アース〟。正義の味方だ! 子どもたちを頼んだぜ!』

 自分も子どもだろう。
 という表情の警官たちに、4人を預ける。
 ……これで歴史が曲がってくれてたら良いんだけど。

『みんな! ちょっとここで、大人しくしててくれよ。無闇むやみに顔を出して、流れ弾に当たるんじゃねーぞ?』

 頑丈な歴史は、まだ4人の命を諦めていないかもしれない。
 とにかく、あの悪党5人組を、なんとかしよう。

『なんで銃が効かないんだ?!』

 我に返り、威嚇を始める犯人グループ。人質を失ったとはいえ、奴らは自動小銃を持っている。対する警官の装備は、拳銃。人数は倍以上でも、この武装の差は、そう簡単には埋められない。迂闊に撃ち合えば、多くの死傷者が出るだろう。

『おまわりさん、ここは俺たちに任せてくれ!』

『何を言ってるんだ。あいつらは銃を持っているんだぞ?』

 さっきから、僕が銃弾を弾いたりしているの、見てなかったのか?

『あんな玩具おもちゃ、俺たちには効かないぜ? あ、ダニロ、ちょっとこれ、預かっといてくれ!』

 リュックサックをダニロに預けた。そのリュックに差してある剣こそ、玩具おもちゃじゃないのか? という表情の警官たち。まあ、一瞬で終わらせるから、説明は要らないな。終わったら、さっきの要領で4人を抱えて逃げよう。

「そんじゃ最初の作戦で手っ取り早く行くか。 俺は銃を使えなくするぜ! あいつら、ちょっとだけ怪我しちゃうかもしれないけどな!」

 これだけ4人を引き離せば、万が一、銃が暴発しても大丈夫だろう。

「じゃあ、メガネと、ヒゲと、背の低いヤツ、眠らせるわねぇン?」

「おう! 頼んだぜ、ピンク!」

 ピンクは、呪文を唱えた。青白い光を浴びて、倒れる3人。

『おい! お前らどうした?! くそっ!』

 スキンヘッドとベレー帽は、慌てて銃を構える。だが遅い。

『何だこりゃ! 一体どうなってやがる?!』

 残念ながらその銃は使えない。既に、握りつぶしておいた。

『っていうか、銃を握ったままの俺に、もっと早く気づけよ、ノロマ!』

 突然、目の前に現れた僕に気付いて、銃を取り戻そうとするスキンヘッド。もちろん、ピクリとも動かない。

『怪我をしたくなかったら、大人しくしろ! 間違っても、俺に攻撃したりしないでくれよな?』

 こちらから攻撃しなければ、この2人に致命的なダメージを与えることは無いだろう。けど、万が一、生身の人間に、強化された〝星の強度〟が発動したら……

『何なんだお前! くそおお!!!』

 銃を取り返せないと悟り、殴り掛かって来るベレー帽。おい! 素手はマズいぞ。腕が弾け飛ぶんじゃないか?!

『タツヤ、キミはまだ、力をコントロールできていない。そんなキミの〝星の強度〟に素手などで攻撃すれば、普通の人間は、半身から、悪くすれば、ほぼ全身をを失い、絶命するだろう』

 冗談じゃない! 僕は咄嗟にパンチをかわす。ちょっと! やめろ! 死にたいのか?! ボクシングスタイルで、拳を繰り出すベレー帽。危ない! お前が危ない!

『こいつ! すばしっこい野郎だ!』

『やめろ! 素手はマズいって! そうだ! そのナイフでやれよ!』

『なに言ってるんだ? わけが分かんねえ!』

 ベレー帽は攻撃をやめない。それを見ていたスキンヘッドも、銃から手を離し、殴りかかってくる。

『ヘイヘイ、どうしたどうした! 避けてるだけじゃどうしようもないぜ!』

 パワーアップした僕には、普通の人間のノロノロパンチなど、当たらない。けど、なんか腹立つな。
 それにちょっとでも、かすったりしたら……

『タツヤ。それは攻撃と見なされるだろう。速やかに相手は弾け飛び、絶命する』

 うわわーん! ヤバいじゃんか! いや、僕は全然ヤバくないんだけども!!

『ピンク、催眠魔法の再使用時間は?』

『あと8分よぉン?』

 便利な魔法ほど、リロード時間が長いらしい。
 ちなみに分身の魔法は、再使用に半日近く掛かる。
 ……どうしよう。このままだと、殺されるぞ?

『死ね死ね死ね! ヒャハハハ!』

 こいつらが、僕に。

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