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5年生 3学期 2月

どこかで見た光景

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『栗っち、ありがとう。なんとかなりそうだ』

『えへへ、良かった! 頑張ってね!』

 僕と彩歌あやかは、救世主の〝歴史を曲げる力〟を借り受けた……なんかもう、何でもアリだな、栗っちの能力。

『いや、タツヤ。〝救世主〟の能力を借りられる存在は、そうそう居ない』

 あれ? そうなの?
 ……まあ、一般人まで簡単に〝使徒〟に出来たら、ちょっと有り難みが無いよな。

『達也さん、見て。犯人たちが』

 先程から外の様子をうかがっていたベレー帽の男が、スキンヘッドの男を手招きで呼ぶ。
 少し話し合った後、残りの男たちに、何かヒソヒソと耳打ちしている。

『動きがあったみたいだな』

『うん。出来れば何もせずに、4人だけ連れて、出ていって欲しいんだけど』

 彩歌あやかの言う通り、人質が4人だけなら、正体がバレるのを気にせず、また、無関係の人を巻き込むこともなく、救出に集中できる。

『全員立て! 店の奥に移動しろ。急げ!』

 手を挙げたままの、客や店員たちが、ゾロゾロと奥へと移動していく。
 僕と彩歌も、今は大人しく、男たちの指示に従い移動する。
 ……おっと。大将が飛びかかりそうになったので、腕を引っ張って止めた。
 驚いた顔で僕を見る大将に、ニッと笑って、うなずいておく。
 今そういう事をされると、〝歴史〟は、しめたとばかりに、4人を殺すだろう。

『よし、そのまま動くなよ? いいな!』

 男たちは、ライナルト、ダニロ、ラウラ、ハンナの4人を連れて、店を出ていった。黒いバッグを床にひとつ置いて、

『タツヤ、いけない。あれは爆発物だ』

 爆発物?! あいつら結局、誰も生かしておくつもり、無かったんじゃないか!

『時限式だ。急げタツヤ』

「彩歌さん、障壁を!」

「任せて!」

 彩歌は両手を振り上げて呪文を唱えた。

「HuLex UmThel wAl iL」

 物理障壁を作り出す魔法だ。ちなみに光は通すが、音は通さない。

『爆弾を包んだわ。早く外へ!』

 障壁は大きなダメージを受けると壊れてしまう。
 この場所で爆発させるのは危険だ。
 僕は、バッグを障壁ごと抱えて店を飛び出した。
 4人を連れて去っていく犯人たちが見える。
 ……こちらには気付いていないようだな。

「早く追わないと! でも、まずはこのバッグだ」

『タツヤ、あと8秒だ』

「マジで? ……よし、やってみるか!」

 思いっきり、ジャンプした。
 一瞬にして、家々の屋根を見下ろす程の高さまで到達する。うっわ、高い!
 ……僕、こんなにパワーアップしてたのか?!

『2秒』

 僕はバッグを空に向けて放り投げた。はるか上空で、閃光が弾ける。
 ドン! という音が聞こえた……という事は、障壁が破壊されたのだろう。
 もし店内で爆発させていたら、危ない所だったなあ。
 ……さて、と。
 着地に気をつけないと、道路に穴を開けてしまうぞ。





 >>>





「達也さん、大丈夫?」

 無事に着地して、店内に戻ると、彩歌が心配そうに出迎えてくれた。

「なんとかね。若干、道路がヘコんじゃったけど」

 地面に突き刺さらなかっただけ、良しとしよう。見たか、僕の学習能力。

「おい、ボウズ、お前いったい?」

 大将が駆け寄ってきた。かなり驚いた様子だ。
 先程、バッグを持って店を出た僕の動きは、ちょっと人間離れしていただろう。驚くのも無理は無いな。

「大将、すみません。友達がピンチなんで、説明してる暇、無さそうなんです」

 僕は、席に置いてあったリュックサックから、食事の代金を取り出して、大将に渡した。

「また来ます。お寿司、美味しかったです!」

 今度は栗っちや大ちゃん、ユーリも連れて来よう。トロ、食べ損ねたし。

「おう、なんか分からんけど、ほんまにお前ら2人で大丈夫なんやな? 気ぃつけてな?」

 僕と彩歌は、大将にお辞儀をして、店を出た。

「達也さん、使い魔が追っているわ。急ぎましょう!」

「さすが彩歌さん! 確か、あっちだよね?」

 彩歌の案内で、犯人を追う。使い魔の目は、そのまま彩歌の視界になる。しかし、自分の目と使い魔の目、両方見えるのってどんな感じなんだろう?

『タツヤ、キミも土人形の視界を持っているだろう』

 確かにそうだな。同じ感覚じゃないかもしれないけど。ちなみに日本は今、深夜なので、僕の人形は、ベッドで寝たフリをさせている。

『タツヤ、マズいぞ。人が集まってきている。かなりの速度で、あらゆる方向から。これは……』

「もしかして、あいつら警察に見つかったのか?」

 出来れば、人気ひとけのない所で、こっそり取り押さえたかったんだぞ。まったく、次から次へとドジ踏みやがって!

『タツヤ、キミが一味のボスのような言い草になっているぞ?』

「ありゃ。いつの間に。でもさ、きっとアイツだよな、見つかった原因……」

「そうね、きっと、メガネの人よね」

 5人も寄れば、ひとりぐらい、必ずそういう役どころが居るもんだ。

『キミたち5人で言うところの、タツヤだな』

「ちょ! ……そうなの?!」

 ユーリを抑えて、堂々のヘマ担当だって……心当たりがありすぎて、反論できない。

「達也さん。その角を曲がった広場で、警官に囲まれているわ!」

 広場って……よりによって、なんでそんな場所を逃走経路に選ぶかな……きっとメガネのしわざだ。

『タツヤ、キミたちが逃走する時は、精々気をつけるといい』

 うん、選ぶよな。僕なら絶対選ぶぞコンチクショー!

『……お前のせいで囲まれちまったじゃねーか! バカヤロウ!』

 広場に着くと、結構な距離があるにも関わらず、スキンヘッドがメガネを怒鳴り付ける声が聞こえてきた。何をどうやったら、この短時間でここまで追い詰められるほどの失敗が出来るんだ?
 パトカーが5台、警察官11人。周囲には、一般人もチラホラ居る。まあ、狭い寿司屋の店内よりは、随分ましだけど……

『お前たちは完全に包囲されている。人質を開放して、投降しなさい!』

 警官が、拡声器で降参を勧めている。

『うるせえ! こいつらがどうなってもいいのか!』

 銃を、ハンナのこめかみに押し当てて、威嚇するスキンヘッド。
 おい、やめろ。〝歴史〟がチャンスとばかりに、銃を暴発させるかもしれないだろ!

「彩歌さん、変身しよう。ギャラリーが多すぎる!」

「うん。それに急がないと、もっと人が増えるかも」

 それはマズい。さすがにこれ以上増えたら、ヒーローショーみたいになっちゃうもんな。

『動くな! 動くと撃つぞ! 動くなよ! 絶対撃つからな!!』

 メガネが吠えている。熱湯風呂を前にしたお笑い芸人なみに、同じ言葉を連呼している。
 ……と、そこへ不意に、ボールがコロコロと転がって来る。犯人たちと警官たちがにらみ合う、一番危険な場所に。

「ちょっと、達也さん、あの子!」

「おいおいおいおい……!」

 小さな男の子が、ボールを追いかけて、夢中で走ってきた。
 どこかで見た光景だと思ったら、アレだ。自動車教習所のビデオだ。

『動くなって言っただろうがあああああ!!』

 メガネ、なぜか逆上!
 ……そうだよな。お前、動くなって言ってたもんな。
 ボールに追いついて嬉しそうにしている男の子に、自動小銃を向けるメガネ。

『動いたお前が悪いんだからなぁ!!』

 警官に囲まれて、絶体絶命のこの状況に、ワケが分からなくなっているのだろう。
 メガネは、とうとう男の子に向けて、引き金を引いた。

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