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5年生 3学期 2月

遣わされし者の迎撃

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 ベレー帽の男が、店の入口付近の窓から、チラチラと外の様子をうかがっている。もちろん、看板は〝閉店〟にしてあるので、追加の客は入って来ない。
 客も店員も、恐怖に引きつった表情で、両手を挙げている……大将を除いて。

「おいおい。大将、飛びかかりそうな勢いで、犯人をにらんでるぞ?」

 ヒソヒソと彩歌あやかに話し掛ける。

「そうね。でも、下手に動いたら、ここにいる全員が、危険な目に合うわ」

 ……それは僕たちも同じだ。好き勝手に暴れるわけにいかない。
 銃なんかでは、僕と彩歌に傷ひとつ付けられないだろう。
 けど、それに巻き込まれれば、他の人たちは無傷では済まない。

『タツヤに至っては、今、地球上にある核兵器を全て使っても、ほとんどノーダメージだ。しかし、タツヤ、アヤカ。今は私を介して話すんだ。通常会話はキミたち以外を危険に晒す事になる』

 そうだった。日本語なので言葉は通じないけど、あいつらを刺激したら、状況が悪化するかもしれない。
 ……っていうか、核の総攻撃でも死なないのか、僕。

『何をしている。そこのガキ4人だ! こっちに来い!』

 武装集団のひとりが、自動小銃を向けて怒鳴っている。

『タツヤ、4人だけがピンポイントで危険に晒されている。やはり〝歴史〟が修正を加えようとしているのは明らかだ』

 昨日死ぬはずだった、ライナルト、ダニロ、ラウラ、ハンナの4人は、しなやかで頑丈な〝歴史〟に、殺されようとしている。
 ……しかし、同じ子どもの姿なのに、僕と彩歌が武装集団のご指名から除外されたのは何故だろう。
 歴史さん、ちょっと強引過ぎじゃね?

『タツヤ。キミたちは、どう見ても外国人だ。言葉が通じない可能性があるからだろう』

 なるほどな。万が一、ドイツ語が解らない子どもを人質にしたら〝ついて来い〟とか〝静かにしろ〟とか、命令出来ないという事か。

『タツヤ。歴史の修正は、時間と共に速度と強度を上げていく。早くしないと、さすがのキミ達でも、守り切れなくなるぞ』

 確かに、4人の運の無さは、どんどんヒドくなってきてる気がするな。

『タツヤ、アヤカ、どうしよう……』

 ラウラが小さな声で震えながら言う。

『みんな、心配しないで大丈夫。必ず助けるから。今は大人しく、あいつらの言う事を聞いて』

 彩歌がそう言うと、4人は静かにうなずいた。

『早くしろ! ぶっ殺されたいのか!』

 ヒゲの男にかされて、4人は立ち上がり、男たちのもとへ歩いていく。

『ブルー、4人の運命を変える方法は無いのか?』

 もし、このピンチを切り抜けても、次のピンチがやって来る。4人を救うには、歴史を根本的にねじ曲げなければならない。

『考えられる方法は2つある。まずひとつ。〝地球の危機〟に4人を関わらせる方法だ』

 4人が、ほんの少しでも、地球の寿命を延ばす方向に関われるなら、救星特異点きゅうせいとくいてんの効果を受けられる。彼らの運命を曲げる事が出来るだろう。
 しかし、オランダで出会った〝正体不明の敵〟が現れた今、4人が地球の寿命に関わってしまう事は、大きなリスクを背負うことにもなる。

『もうひとつは、別の特異点に4人を助けてもらう方法』

 〝救世主きゅうせいしゅ〟の栗っち、〝機械仕掛けの神デウスエクスマキナ〟の大ちゃん、〝外来種がいらいしゅ〟のユーリ。
 3人の特異点は、遠く離れた日本に居る。4人を救うには、少々、時間が掛かり過ぎるかもしれないな。

『ブルー、念の為に、栗っちと大ちゃんに、声を掛けておこう』

 ユーリはまだ、ブルーを介した通信が出来ない。まあ、大ちゃんに伝えておけば、なんとかしてくれるだろう。

『タツヤ、ダイサクは丁度、ユーリと一緒に居る』

 マジで? 確か日本は今、夜の9時過ぎぐらいだぞ?

大波神社おおなみじんじゃで、宴会中のようだ』

 ……何の宴会だよ。
 とにかく、声を掛けてみよう。えーっと。

『栗っち、大ちゃん、ユーリ、聞こえる?』

『おー! 聞こえるぜー!』

『たっちゃん! どうしたの?』

『やー! たっちゃん! アヤちゃんはー?』

 良かった。全員に聞こえている。

『ちょっと聞いて。実は、ドイツで事件に巻き込まれてるんだけど……』

 僕は、昨日と今日の出来事を、手短てみじかに説明した。

『なんだよ、タイミング悪いなー! 俺、おととい、エストニアまで行ったんだぜー?』

 大ちゃんは、ガジェットの修理をするため、大昔に落ちた隕石いんせきに含まれている〝地球に存在しない金属〟をりに、近くまで来ていたらしい。
 ……で、エストニアってどこだっけ?

『変身して飛んでいけば、5~6時間で着くけど、それじゃ、時間かかり過ぎだよなー』

 果たして、大ちゃんが来るまで4人を守り切れるだろうか。
 ……5時間あれば、歴史は、4人を皆殺しにするかもしれない。

『ねえ、たっちゃん、僕の〝救世主〟としての効果って、かなり〝ご都合主義〟な感じだよね』

『そうだな栗っち。救世主の能力は、ギャグ漫画も裸足で逃げ出す位に、ご都合主義だ』

『でね、もしかして僕が、たっちゃんと彩歌さんに、〝救世主として〟その4人を救って欲しいと、お願いしちゃえば、それ、僕の能力の範囲に入らないかな?』

 いやいや、さすがにそこまで融通きかないだろ、マンガじゃあるまいし……
 ……まてよ? 栗っちが思い付いた事なら、あるいは?
 
『やってみようか、栗っち!』

 マンガ並みにご都合主義な〝救世主〟の能力に、期待しても良いかもしれない。
 救世主は、奇跡を起こすのが仕事だもんな。

『うん! それじゃ、いくよ? 〝お願い、たっちゃん、彩歌さん! ライナルト、ダニロ、ラウラ、ハンナの4人を、助けて!〟』

しゅよ、仰せのままに』

『絶対に助けるわ!』

 これでどうだ? 救世主の効果は現れるのか?
 ……あれ?

『タツヤさん? どうかした?』

『いやなんかちょっと、モヤモヤした物が、スゥッと晴れた気がして』

 なんだろう? なんか少し、スッキリしたんだけど……まあいいか。

『これはすごいぞタツヤ。キミ達のステータスを表示するよ?』



***********************************************
内海 逹也 Utsumi Tatsuya

AGE 11
H P 8888888888888888888888888
M P 13
攻撃力 889
守備力 8888888888888888888888888
体 力 151
素早さ 897
賢 さ 126

<特記事項> 
救星特異点
不老
星の強度
摂食不要
呼吸不要
超回復
真空耐性
熱耐性
電撃無効
不眠不休
光合成
詳細表示 
病毒無効 
土人形 Lv87 ← NEW!
使役:火 Lv1 ← NEW!
使役:水 Lv1 ← NEW!
使役:風 Lv1 ← NEW!
使徒 ← LIMITED!
***********************************************



***********************************************
藤島 彩歌 Fujishima Ayaka

AGE 11
H P 2071
M P 584
攻撃力 278
守備力 1798
体 力 153
素早さ 532
賢 さ 276

<特記事項> 
救星特異点
魔法 Lv18
不老
高耐久
超回復
病毒無効 ← NEW!
魔界の管理者:Lv1 ← NEW!
使徒 ← LIMITED!
***********************************************



 うわ! 確かに、僕も彩歌も、すごい数値になってるな!

『タツヤ、それもそうだが、問題は、特記事項の一番下だ』

『……! 使徒しと?』

『そうだ。キミたちは、天使になったんだよ。期間限定だけどね』

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