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5年生 3学期 2月

家に帰るまでが廃墟探検です

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『でさ、結局、タツヤたちは何者なの?』

 と、ダニロが聞いてきた。
 いまさらだが、当然の質問だ。

『んー、誰にも言っちゃダメだよ? 僕と彩歌あやかは、地球を守る正義の味方なんだ』

『地球が壊れないように、色々な敵と戦ったりしてるのよ』

 4人は、途端にワクワク顔になる。
 キラキラとした眼差まなざしが眩しい。

『はいは~い! 私もしつも~ん!』

『俺も! 俺も!』

 あらら。質問コーナーっぽくなってきたぞ?

『それじゃ、答えられる範囲でな?』

『やったー! えーっとね……』

『ズルいわよぅ! 私が先なんだから!』

 ……すっかり遅くなってしまった。
 僕と彩歌は、4人を自宅まで送り届けるため、彼らの住む、〝ゼッディナー・ゼー〟まで、移動中だ。
 ちなみに、僕と彩歌は徒歩、子どもたちは、4人とも自転車だが、小走りで楽々ついていける。

『2人とも、スゴいね。正義の味方って、走るのも早いの?』

 良かった。ハンナは、もう呪いの影響も無さそうだ。

『ずっと、息も切らさないな。オリンピックに出られるんじゃない?』

 ライナルトの言う通り、今の僕や彩歌がオリンピックに出たら、金メダルを総取り出来るだろう。
 だが、そんなに大っぴらに力を使うわけにはいかない。

『……どうして秘密にするの?』

 ラウラの疑問は、もっともだ。力をひけらかして、堂々と地球を守る。それが出来たら、どんなに楽だろう。

『何ていうか、強い力を持つと、色々と難しいんだよな』

 僕の言葉に、彩歌が続ける。

『そうね。悪い人たちが、私たちの事を知ったら、この力を悪用しようと考えるわ』

『でも、アヤカ。そんな悪い人たちは、やっつけちゃえば良いんじゃない?』

『ラウラ。私や達也さんは、誰にも負けないわ。でも、家族や友達が狙われたら、どうしようもないの』

『あ……! そっか……』

 そう。人質に取られた家族のために、悪事に手を染めるのは、ドラマや映画なんかで良くあるパターンだよな。

『だから、僕たちの事は、絶対に秘密にして欲しいんだ』

 そこで、ラウラが不思議そうに聞いてきた。

『……なんで、アヤカの魔法で、私たちの記憶、消さないの?』

 〝自宅に着いたら、家族の記憶を魔法で消してあげる〟

 彩歌は4人に、そう言っていた。
 ライナルトの携帯電話で、それぞれの自宅には、もうすぐ帰り着くと連絡は入れてあるけど、さすがに午前様は、小学生にとってはヘビーだからな。
 そして、4人の記憶は、残すことにした。なぜなら。

『あなたたちが、今日の出来事を忘れたら、きっとまた、あの地下室を目指すでしょう? 私の魔法で、ある程度の恐怖心は与えられるけど、それぐらいじゃ、子どもの探究心は、抑えられないのよ』

 4人は、なんとなく納得したのだろう。ライナルトとダニロが、俺は行かないけどお前はいくよな、行かないよ、的な会話をしている。
 少し間をあけて、彩歌が続けた。

『特に、友情パワーがあると。ね?』

 彩歌の言う通りだ。子どもは、人数が集まれば集まるほど、何をしでかすか分かったもんじゃない。
 僕も、子どもは2回目で、中身は大人だけど、やっぱりみんなと居るとウズウズしてくるし。

『タツヤ、キミは〝26歳〟で〝単独〟でも洞窟探検をする人間だ。一緒にされては、世の子どもたちが迷惑だろう』

『ちょ……?! 待てブルー! あれはお前が誘導したんだろ?』

『私が関わったのは、キミの上司が休暇を用意する辺りだけだ。あとは、キミ独自の判断と行動だよ?』

『マジでか?! あの、山に行きたい衝動とか、洞窟に入りたい衝動とか、勝手にいたヤツなの?!』

『まあ、そうなると見越して、キミの会社の取引先の倉庫を、少しパズル要素を込めて、地震で引っ掻き回したけどね』

『凶悪だな。そして、プロ棋士も真っ青の先読みだ。おかげで僕は、3月の土日全部、休み無しなんだぞ?』

『あはは。タツヤ、その未来はさすがにもう来ないだろう。キミの3月の土日は、ぜひ地球を救うために使ってもらいたい』

『どっちにしろブラックじゃないか』

 クスクスと彩歌が笑っている。
 結構なスピードで走り続けながら普通に会話して、笑ったり怒ったりしている僕たちを見て、子どもたちは、さすがに呆れ顔だ。
 さて、話を戻そう。

『とにかく、あの場所には、2度と近付かないで?』

 ……そう。あの場所〝ベーリッツ陸軍病院跡〟の地下には、まだまだ罠も残っているし、デトレフが現れる可能性もある。
 記憶を無くせば、また、危険な目に遭うのは、目に見えているのだ。

『もう、絶対に行かないよ!』

 ダニロが、思い出したように、身震いして答える。

『あなたたちは、他にも色々な場所を探検してるかもしれないけど、くれぐれも気をつけてね?』

 4人がほぼ同時に、は~い! と答えた辺りで、町外れの、ラウラの家に辿り着いた。
 心配そうに家の前に立っているのが、ラウラの両親だ。
 僕と彩歌は、軽く会釈をする。
 ……と、即座に彩歌が魔法で2人を眠らせて、記憶を操作した。
 両親は、静かに扉の奥へと消えて行く。

『じゃあね! 今日はありがとう!』

 ラウラもその後に続いた。
 最後に、こっちを見てヒラヒラと手を振り、ウインクしている……よし、うまくいったな。





 >>>





 ……順番に、同じ手順で家族の記憶を消していく。
 最後に着いたのはライナルトの家だ。

『タツヤ、アヤカ。明日、日曜日じゃん? もし良かったらさ、ベルリン観光に行かないか?』

 彼は、僕たちが初めてドイツに来た、という事を聞いて、そう提案してくれた。

『達也さん! ベルリンですって!』

 もちろん、彩歌が食いつく。
 というか、僕も行ってみたい! でも、こういう場合はいつも……

『タツヤ、アヤカ?』

 ほら来た! ブルー先生だ。
 ごめんなさい。今回はおとなしく帰り……

『行こう。ベルリンには、私も用事がある。ついでに少し観光するのもいいね』

『いいの?!』

 小躍りして喜ぶ彩歌。
 それを見て、ライナルトと僕は顔を見合わせて笑う。

『でも、用事って何だ? ブルー』

『あそこにはね〝壁〟があるんだ』

 いや、ブルー。その壁、とっくに崩壊して無くなったヤツだよな?

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