上 下
88 / 264
5年生 3学期 2月

つみびと

しおりを挟む
 こんにちは。栗栖和也くりすかずやだよ。
 今日の地下室はね、僕ひとりなんだ。
 たっちゃんと彩歌さんは、今、ドイツだって。オランダだと思ってたんだけど。

「ドイツんだ? オラんだ! なんちゃって……」

 大ちゃんは〝ちょっとサーレマー島に行ってくるぜー!〟って行っちゃった。変身して飛んでいけば、あっと言う間だって。すごいよねー。

「で、サーレマー島って、どこなのかな……」

 ユーリちゃんは、お姉さんのお見舞いに行ったみたい。

「この前会った病院って言ってたけど、それって僕じゃなくて、たっちゃんの操作する、土人形さんだよね……」

 たっちゃんの土人形さんも、彩歌さんの分身さんと一緒に、自宅に帰っちゃってるし、大ちゃん人形さんもいないし。

「……ちょっと、さみしいよねー」

 で、僕が今、何をしてるのかというとね、驚かないで聞いて?
 大ちゃんの部屋の前に、うずくまっている女の人が居たんだ。
 ……あ、違った。女の人の霊、だった。

「神の名に於いて命ずる。答えよ」

 パン! と、音が鳴って、彼女はやっと口を開いた。

「……私は、コロンビーナ。ここはどこ? 寒い。寒い」

 悪霊じゃない。自分が死んだことに気付いていない霊体だ。

「あなたは、どこから来たの?」

「わからない。でも、とても悲しい。寒い。寒い」

 この感じだと、もう少し思い出させないと、天界に送ってあげられそうにないよ……

「あなたが最後に見た景色は?」

「……雨が降っているわ」

 雨? 雨だけじゃヒントにならないなぁ。

「他に何か覚えてない?」

「……子どもが、いっぱい居る」

 子ども? しかもいっぱい?
 保育士さんとか、学校の先生かな?

「でも……おかしい。みんな、寝てる」

 子どもが、いっぱい寝ている……? お昼寝の時間?
 あ、修学旅行かな。消灯時間なのに、こっそりお話して、夜更かししちゃったりして、とっても楽しそうだよね。

「……寝ていない子どもが2人いるわ。あの子たちに聞かなきゃ」

 ああっ! 夜更かししてるの見つかっちゃった! 正座なの? お部屋のみんな、連帯責任で正座させられちゃうの?
 あ、でも、雨が降ってるっていってたよね。だから、お部屋の外だ、きっと。

「その2人に何を聞くの?」

「居場所を聞かなきゃ。どこに居るの? 探さなきゃ……」

 ……? 居場所?

「あなたは、誰を探しているの?」

九条大作くじょうだいさく

 大ちゃんを探している……?
 雨、寝ている沢山の子ども……

「ああっ! あの子たちが! あの恐ろしい2人が!」

 そうか! この女の人、たっちゃんと彩歌さんが倒した、ダーク・ソサイエティの!
 急に涙を流して、震え始めたコロンビーナ。このままじゃいけない。

「大丈夫だよ、もう終わったんだよ」

「怖い! 私を殺しに来る! 来ないで! 来ないで!」

 よっぽど、たっちゃん達が怖かったんだね……よーし。

「神の名に於いて命ずる。ただ見よ! 耳を傾けよ!」

 再び、パン! という音が響く。
 コロンビーナさんは、おとなしくなった。

「落ち着いて聞いてね? もう、大丈夫なんだ。何も心配すること、ないんだよ?」

 こちらを見て、首をかしげる霊体。やっぱり、まだ自分が死んでしまっていることに気付いていないんだ……
 そっと、死を自覚させてあげないと。

「落ち着いて、ゆっくりでいいから思い出そうね」

 コロンビーナさんは僕を見ている。まだ少し、怯えているようだ。

「心配要らない。今まで、どんなに辛いことがあったとしても、これからは、もうあなたを傷つける者は居ないよ」

 やっと、完全に落ち着いたようだ。静かにうなずく。

「よしよし。いい子だね。あなたはもう、この世界の住人じゃないんだ。誰も、あなたに怖いことなんか、しないよ? だから、僕と一緒に、ゆっくり思い出して」

「……はい」

 よし、じゃ、続けよう。僕はもう一度、両手を天にかざした。

「神の名に於いて命ずる。答えよ」

 パン! という音が、地下室に鳴り響く。

「あなたは、どこから来たの?」

「東京……ダーク・ソサイエティ、日本支部」

「何をしに来たの?」

「子どもを……探していたの」

「九条、大作くんだよね?」

「……そうです」

「九条くんを、どうするつもりだったの?」

「…………」

 コロンビーナは、うつむいてしまった。

「大丈夫。あなたは安全だし、誰も怒ってないよ?」

 首を横に振って、悲しい顔をするコロンビーナ。また、うつむいてしまう。

「神の名に於いて命ずる。答えよ」

 パン! と音が響き、彼女はハッと顔を上げる。

「神は……僕は、全てを聞いてあげる。いているんだよね?」

「……ごめんなさい。私、なんてことを」

「大丈夫。もう終わったんだよ。あなたが罪を認めるなら、償う機会が与えられるんだ」

「でも私は今まで、とても酷い事を……たくさんの人達を……」

 完全に思い出したようだ。でも、後悔しているみたい。

「人は、みんな罪人つみびとだよ。一緒なんだ。だから、あなたの居るべき場所へ行こう」

 ……彼女は静かにうなずく。穏やかな表情だ。
 これで静かに導いてあげられそうだよね。

「……ああ……あれを、あれをどうにかしないと」

 急に、何かを思い出した様子のコロンビーナ。

「どうしたの?」

「……この町に連れてきた、〝実験体〟が、そのままになっているの」

 実験体? 悪の秘密結社の実験体?! という事は……
 うう。たぶん、あんまり善良な子じゃないよね?

「きっとお腹を空かせているわ。人を襲うかもしれない」

 やっぱり……! 怖いなあ。
 でも今日はみんな居ないし、僕がなんとかしなきゃだよね……!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

異世界転移したらチート能力がついていて最強だった。

たけお
ファンタジー
俺は気づいたら異世界にいた。 転移魔法を使い俺達を呼び寄せたのはクダラシム王国の者達だった。 彼には異世界の俺らを勝手に呼び寄せ、俺達に魔族を退治しろという。 冗談じゃない!勝手に呼び寄せた挙句、元の世界に二度と戻れないと言ってきた。 抵抗しても奴らは俺たちの自由を奪い戦う事を強制していた。。 中には殺されたり従順になるように拷問されていく。 だが俺にはこの世界に転移した時にもう一つの人格が現れた。 その人格にはチート能力が身についていて最強に強かった。 正直、最低な主人公です。バイでショタコンでロリコン、ただの欲望のままに生きていきます。 男同士女同士もあります。 残酷なシーンも多く書く予定です。 なろうで連載していましたが、消えたのでこちらでやり直しです。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

僕は社長の奴隷秘書♡

ビビアン
BL
性奴隷――それは、専門の養成機関で高度な教育を受けた、政府公認のセックスワーカー。 性奴隷養成学園男子部出身の青年、浅倉涼は、とある企業の社長秘書として働いている。名目上は秘書課所属だけれど、主な仕事はもちろんセックス。ご主人様である高宮社長を始めとして、会議室で応接室で、社員や取引先に誠心誠意えっちなご奉仕活動をする。それが浅倉の存在意義だ。 これは、母校の教材用に、性奴隷浅倉涼のとある一日をあらゆる角度から撮影した貴重な映像記録である―― ※日本っぽい架空の国が舞台 ※♡喘ぎ注意 ※短編。ラストまで予約投稿済み

堕ちた英雄

風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。 武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。 若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。 第一部 ※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です ※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです ※下品です ※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます ※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい 第二部 ※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります ※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます ※一部死ネタを含みます ※第一部以上に下品です

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

処理中です...