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5年生 冬休み明け

猫はお前なんだけどな

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「おい、聞いたか? 今日、転校生が来るらしいぞ!」

 彼は今井暁雄いまいあきお。クラスのムードメーカー的な存在だ。
 彼が持ってくる情報はいつだって、ポップで、センセーショナルで……誤報ごほうに富んでいた。

「おいおい、また適当な事言ってないかー?」

 教室の隅で、僕と大ちゃんと栗っちは、彼のニュースを話半分で聞いている。
 いや、少なくとも栗っちは違ったかもしれない。〝精神感応〟があるからな。

「本当だって! しかも、すっげー可愛い娘らしいぜ!」

 ほほう。それは楽しみだ。
 しかし今日、転校生が来る事は無いだろう。だってそんな記憶、全く無いもん。歴史はしなやかだけど頑丈なんだ。一般ピーポーには曲げられないよ?

「よーし! 皆、席につけー!」

 例の如く、教卓には、いつの間にか谷口先生が居た。やっぱり特記事項に瞬間移動があるよな。

「転校生を紹介するぞー。藤島、入ってこい」

 あれ? マジで転校生来たの? ヤワヤワじゃんか歴史。
 先生にうながされて、教室の扉がガラガラと開き、転校生が入ってきた。

藤島彩歌ふじしまあやかです。皆さん、よろしくお願いします」

「あ! 彩歌さん?!」

達也たつやさん!」

 右手に力を込めずに叫んでしまった。彩歌も、普通に僕の名前を呼ぶ。必然的にクラスの全員が僕と彩歌に注目し、やがて起こる、意味の分からない、冷やかし混じりのザワメキ。

「なんだ、達也、知り合いかー! スミに置けんなー!」

 先生まで、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。マジでやめて下さい……

「それじゃ、達也、廊下に机と椅子を持って来ておいたから、お前の横に置いてやってくれー!」

「さらに追い打ち?!」

 ……まあ、仕方ないか。先生、昔からこんな感じだったもんなー。
 それにしても、歴史を曲げたの、僕だったのね。

「早くしろ達也。いつまでレディーを立たせとくんだー?」

 教室中から〝ヒューヒュー〟とか〝チューしろチュー〟とか〝付き合ってんのかな?〟とか、ザワメキと言うには余りにもはっきりとしたワードが聞こえてくる。彩歌もちょっと恥ずかしそうにしているし、早く机と椅子を持ってこよう。

『ごめんなさい、達也さん……来ちゃった!』

 ブルーを介して声が聞こえる。ああもう。可愛いから許す!!

『ビックリしたよー! 儀式、終わったんだね』

 彩歌は悪魔を倒した後の〝清めの儀式〟のため、魔界に居た。

『うん! 呪い、意外と軽かったみたい』

『それは良かった! ちょっと待ってね』

 僕は廊下の机と椅子を教室に持ち込み、僕の席の隣に置いた。一部始終をクラスの全員が見ている。何だ? このもの感。
 彩歌が隣に座ると、歓声と共に拍手が沸き起こる。なんで先生まで拍手してんだよ。

『たっちゃん、たっちゃん! もしかして、魔法使いの子?』

『あー、そうそう! そう言えば、栗っちは知ってたんだ。後で紹介するよ』

『うん! 可愛い子だねー!』

 というセリフと同時に、妹が栗っちをキッとにらんだ気がするが、まさか聞こえてるのか?! ……気のせいだよな。
 さておき、さっきからの会話、彩歌と栗っちと……あ、いつの間にか〝すごメガネ〟掛けてる大ちゃんにも、同時に聞こえてるんじゃないのか?

『大丈夫だタツヤ。お互いの紹介が済んでからの方が良いと思って、波長を変えて、それぞれ直通会話にしてある』

『グッジョブ! さすがだブルー』

 確かに、こんなゴチャゴチャした状態で自己紹介とか出来ないからな。

『たっちゃん! ユーリちゃんが……』

『ん? ユーリがどうかし……』

 にらんでいる。
 背後に黒いオーラを纏って。
 鬼の形相で、僕と彩歌を交互に睨んでいる。

『なにこれ怖い』

『ユーリちゃん〝キーッ! 何よあの女!〟とか〝あたしのたっちゃんに色目使って!〟とか思ってるよ!』

 そんなに僕の事を? モテる男は辛いなー!
 ……しかし、なぜ表現が古いんだ、ユーリ。

「よーし! じゃあ、お前ら静かにしろー!」

 自ら散々、あおっていた気がするが、ちょっと怒った感じに先生がその場をしずめた。
 チラチラと目線を合わせる僕と彩歌。ただ、角度的に彩歌の向こうに見えるユーリが、ずっと僕を睨んでる気がする。これは気のせいじゃないな。
 授業が始まり、僕と彩歌は授業そっちのけで近況を報告し合った。なにせ、二人とももう、義務教育は一旦終えているのだから、全然問題なしだ。

『……という事で、栗っちと大ちゃんは、僕の事情を全て知っているんだ』

『救世主と名工神ヘパイストスかー! 達也さんの周りには、普通じゃない人が一杯集まってくるのね』

『本当だね。ブルーが言うには、こういう事って、一箇所に集中するんだって』

『へぇー! そうなんだ! ……でも、なんだかくやしいな』

『え? なんで?』

『だって、達也さんにとって、その……特別? な存在って、私だけじゃなかったんだ。って思うと、ね?』

 ぐあああああ! ヤラレタ! ダメだ! もう彩歌は僕の嫁決定だ!

『違う。彩歌さんだけだよ』

『……え?!』

『だって、地球が終わるまで、僕達は、一緒に生きていくんだから』

『!!!!!』

 視線を向けなくても、真横にいる彩歌が真っ赤になっているのがわかる。多分、僕もだけど。
 ……あれ? プロポーズした感じになってるけど、よく考えたら事実を言ってるだけだな。

『でも、そのためには、地球を破壊から、遠ざけなきゃならない』

『うん。私も一緒に頑張る!』

 授業が終わり、休憩時間になると、僕達の周りに大勢の男女が集まってきた。彩歌に質問攻めを始める。

「どこから来たの?」

「兄弟は居る?」

「どこに引っ越してきたの?」

「誕生日は?」

「ご趣味は何ですか?」

「好きな食べ物は?」

「犬派? 猫派?」

 そんな事聞いてどうするんだ? という質問にまで、律儀に答えている彩歌。

「やー! ちょっとどいて!」

 ワイワイと騒いでいるクラスメートたちをかき分けて、ユーリが現れた。腰に両手を当てて、仁王立ちしたかと思うと大きく息を吸い込み、教室中に聞こえる声で、こう言い放つ。

「私と勝負しなさい! この泥棒猫!」

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