61 / 264
5年生 冬休み明け
猫はお前なんだけどな
しおりを挟む
「おい、聞いたか? 今日、転校生が来るらしいぞ!」
彼は今井暁雄。クラスのムードメーカー的な存在だ。
彼が持ってくる情報はいつだって、ポップで、センセーショナルで……誤報に富んでいた。
「おいおい、また適当な事言ってないかー?」
教室の隅で、僕と大ちゃんと栗っちは、彼のニュースを話半分で聞いている。
いや、少なくとも栗っちは違ったかもしれない。〝精神感応〟があるからな。
「本当だって! しかも、すっげー可愛い娘らしいぜ!」
ほほう。それは楽しみだ。
しかし今日、転校生が来る事は無いだろう。だってそんな記憶、全く無いもん。歴史はしなやかだけど頑丈なんだ。一般ピーポーには曲げられないよ?
「よーし! 皆、席につけー!」
例の如く、教卓には、いつの間にか谷口先生が居た。やっぱり特記事項に瞬間移動があるよな。
「転校生を紹介するぞー。藤島、入ってこい」
あれ? マジで転校生来たの? ヤワヤワじゃんか歴史。
先生に促されて、教室の扉がガラガラと開き、転校生が入ってきた。
「藤島彩歌です。皆さん、よろしくお願いします」
「あ! 彩歌さん?!」
「達也さん!」
右手に力を込めずに叫んでしまった。彩歌も、普通に僕の名前を呼ぶ。必然的にクラスの全員が僕と彩歌に注目し、やがて起こる、意味の分からない、冷やかし混じりのザワメキ。
「なんだ、達也、知り合いかー! スミに置けんなー!」
先生まで、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。マジでやめて下さい……
「それじゃ、達也、廊下に机と椅子を持って来ておいたから、お前の横に置いてやってくれー!」
「さらに追い打ち?!」
……まあ、仕方ないか。先生、昔からこんな感じだったもんなー。
それにしても、歴史を曲げたの、僕だったのね。
「早くしろ達也。いつまでレディーを立たせとくんだー?」
教室中から〝ヒューヒュー〟とか〝チューしろチュー〟とか〝付き合ってんのかな?〟とか、ザワメキと言うには余りにもはっきりとしたワードが聞こえてくる。彩歌もちょっと恥ずかしそうにしているし、早く机と椅子を持ってこよう。
『ごめんなさい、達也さん……来ちゃった!』
ブルーを介して声が聞こえる。ああもう。可愛いから許す!!
『ビックリしたよー! 儀式、終わったんだね』
彩歌は悪魔を倒した後の〝清めの儀式〟のため、魔界に居た。
『うん! 呪い、意外と軽かったみたい』
『それは良かった! ちょっと待ってね』
僕は廊下の机と椅子を教室に持ち込み、僕の席の隣に置いた。一部始終をクラスの全員が見ている。何だ? この見世物感。
彩歌が隣に座ると、歓声と共に拍手が沸き起こる。なんで先生まで拍手してんだよ。
『たっちゃん、たっちゃん! もしかして、魔法使いの子?』
『あー、そうそう! そう言えば、栗っちは知ってたんだ。後で紹介するよ』
『うん! 可愛い子だねー!』
というセリフと同時に、妹が栗っちをキッと睨んだ気がするが、まさか聞こえてるのか?! ……気のせいだよな。
さておき、さっきからの会話、彩歌と栗っちと……あ、いつの間にか〝凄メガネ〟掛けてる大ちゃんにも、同時に聞こえてるんじゃないのか?
『大丈夫だタツヤ。お互いの紹介が済んでからの方が良いと思って、波長を変えて、それぞれ直通会話にしてある』
『グッジョブ! さすがだブルー』
確かに、こんなゴチャゴチャした状態で自己紹介とか出来ないからな。
『たっちゃん! ユーリちゃんが……』
『ん? ユーリがどうかし……』
睨んでいる。
背後に黒いオーラを纏って。
鬼の形相で、僕と彩歌を交互に睨んでいる。
『なにこれ怖い』
『ユーリちゃん〝キーッ! 何よあの女!〟とか〝あたしのたっちゃんに色目使って!〟とか思ってるよ!』
そんなに僕の事を? モテる男は辛いなー!
……しかし、なぜ表現が古いんだ、ユーリ。
「よーし! じゃあ、お前ら静かにしろー!」
自ら散々、煽っていた気がするが、ちょっと怒った感じに先生がその場を鎮めた。
チラチラと目線を合わせる僕と彩歌。ただ、角度的に彩歌の向こうに見えるユーリが、ずっと僕を睨んでる気がする。これは気のせいじゃないな。
授業が始まり、僕と彩歌は授業そっちのけで近況を報告し合った。なにせ、二人とももう、義務教育は一旦終えているのだから、全然問題なしだ。
『……という事で、栗っちと大ちゃんは、僕の事情を全て知っているんだ』
『救世主と名工神かー! 達也さんの周りには、普通じゃない人が一杯集まってくるのね』
『本当だね。ブルーが言うには、こういう事って、一箇所に集中するんだって』
『へぇー! そうなんだ! ……でも、なんだか悔しいな』
『え? なんで?』
『だって、達也さんにとって、その……特別? な存在って、私だけじゃなかったんだ。って思うと、ね?』
ぐあああああ! ヤラレタ! ダメだ! もう彩歌は僕の嫁決定だ!
『違う。彩歌さんだけだよ』
『……え?!』
『だって、地球が終わるまで、僕達は、一緒に生きていくんだから』
『!!!!!』
視線を向けなくても、真横にいる彩歌が真っ赤になっているのがわかる。多分、僕もだけど。
……あれ? プロポーズした感じになってるけど、よく考えたら事実を言ってるだけだな。
『でも、そのためには、地球を破壊から、遠ざけなきゃならない』
『うん。私も一緒に頑張る!』
授業が終わり、休憩時間になると、僕達の周りに大勢の男女が集まってきた。彩歌に質問攻めを始める。
「どこから来たの?」
「兄弟は居る?」
「どこに引っ越してきたの?」
「誕生日は?」
「ご趣味は何ですか?」
「好きな食べ物は?」
「犬派? 猫派?」
そんな事聞いてどうするんだ? という質問にまで、律儀に答えている彩歌。
「やー! ちょっとどいて!」
ワイワイと騒いでいるクラスメートたちをかき分けて、ユーリが現れた。腰に両手を当てて、仁王立ちしたかと思うと大きく息を吸い込み、教室中に聞こえる声で、こう言い放つ。
「私と勝負しなさい! この泥棒猫!」
彼は今井暁雄。クラスのムードメーカー的な存在だ。
彼が持ってくる情報はいつだって、ポップで、センセーショナルで……誤報に富んでいた。
「おいおい、また適当な事言ってないかー?」
教室の隅で、僕と大ちゃんと栗っちは、彼のニュースを話半分で聞いている。
いや、少なくとも栗っちは違ったかもしれない。〝精神感応〟があるからな。
「本当だって! しかも、すっげー可愛い娘らしいぜ!」
ほほう。それは楽しみだ。
しかし今日、転校生が来る事は無いだろう。だってそんな記憶、全く無いもん。歴史はしなやかだけど頑丈なんだ。一般ピーポーには曲げられないよ?
「よーし! 皆、席につけー!」
例の如く、教卓には、いつの間にか谷口先生が居た。やっぱり特記事項に瞬間移動があるよな。
「転校生を紹介するぞー。藤島、入ってこい」
あれ? マジで転校生来たの? ヤワヤワじゃんか歴史。
先生に促されて、教室の扉がガラガラと開き、転校生が入ってきた。
「藤島彩歌です。皆さん、よろしくお願いします」
「あ! 彩歌さん?!」
「達也さん!」
右手に力を込めずに叫んでしまった。彩歌も、普通に僕の名前を呼ぶ。必然的にクラスの全員が僕と彩歌に注目し、やがて起こる、意味の分からない、冷やかし混じりのザワメキ。
「なんだ、達也、知り合いかー! スミに置けんなー!」
先生まで、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。マジでやめて下さい……
「それじゃ、達也、廊下に机と椅子を持って来ておいたから、お前の横に置いてやってくれー!」
「さらに追い打ち?!」
……まあ、仕方ないか。先生、昔からこんな感じだったもんなー。
それにしても、歴史を曲げたの、僕だったのね。
「早くしろ達也。いつまでレディーを立たせとくんだー?」
教室中から〝ヒューヒュー〟とか〝チューしろチュー〟とか〝付き合ってんのかな?〟とか、ザワメキと言うには余りにもはっきりとしたワードが聞こえてくる。彩歌もちょっと恥ずかしそうにしているし、早く机と椅子を持ってこよう。
『ごめんなさい、達也さん……来ちゃった!』
ブルーを介して声が聞こえる。ああもう。可愛いから許す!!
『ビックリしたよー! 儀式、終わったんだね』
彩歌は悪魔を倒した後の〝清めの儀式〟のため、魔界に居た。
『うん! 呪い、意外と軽かったみたい』
『それは良かった! ちょっと待ってね』
僕は廊下の机と椅子を教室に持ち込み、僕の席の隣に置いた。一部始終をクラスの全員が見ている。何だ? この見世物感。
彩歌が隣に座ると、歓声と共に拍手が沸き起こる。なんで先生まで拍手してんだよ。
『たっちゃん、たっちゃん! もしかして、魔法使いの子?』
『あー、そうそう! そう言えば、栗っちは知ってたんだ。後で紹介するよ』
『うん! 可愛い子だねー!』
というセリフと同時に、妹が栗っちをキッと睨んだ気がするが、まさか聞こえてるのか?! ……気のせいだよな。
さておき、さっきからの会話、彩歌と栗っちと……あ、いつの間にか〝凄メガネ〟掛けてる大ちゃんにも、同時に聞こえてるんじゃないのか?
『大丈夫だタツヤ。お互いの紹介が済んでからの方が良いと思って、波長を変えて、それぞれ直通会話にしてある』
『グッジョブ! さすがだブルー』
確かに、こんなゴチャゴチャした状態で自己紹介とか出来ないからな。
『たっちゃん! ユーリちゃんが……』
『ん? ユーリがどうかし……』
睨んでいる。
背後に黒いオーラを纏って。
鬼の形相で、僕と彩歌を交互に睨んでいる。
『なにこれ怖い』
『ユーリちゃん〝キーッ! 何よあの女!〟とか〝あたしのたっちゃんに色目使って!〟とか思ってるよ!』
そんなに僕の事を? モテる男は辛いなー!
……しかし、なぜ表現が古いんだ、ユーリ。
「よーし! じゃあ、お前ら静かにしろー!」
自ら散々、煽っていた気がするが、ちょっと怒った感じに先生がその場を鎮めた。
チラチラと目線を合わせる僕と彩歌。ただ、角度的に彩歌の向こうに見えるユーリが、ずっと僕を睨んでる気がする。これは気のせいじゃないな。
授業が始まり、僕と彩歌は授業そっちのけで近況を報告し合った。なにせ、二人とももう、義務教育は一旦終えているのだから、全然問題なしだ。
『……という事で、栗っちと大ちゃんは、僕の事情を全て知っているんだ』
『救世主と名工神かー! 達也さんの周りには、普通じゃない人が一杯集まってくるのね』
『本当だね。ブルーが言うには、こういう事って、一箇所に集中するんだって』
『へぇー! そうなんだ! ……でも、なんだか悔しいな』
『え? なんで?』
『だって、達也さんにとって、その……特別? な存在って、私だけじゃなかったんだ。って思うと、ね?』
ぐあああああ! ヤラレタ! ダメだ! もう彩歌は僕の嫁決定だ!
『違う。彩歌さんだけだよ』
『……え?!』
『だって、地球が終わるまで、僕達は、一緒に生きていくんだから』
『!!!!!』
視線を向けなくても、真横にいる彩歌が真っ赤になっているのがわかる。多分、僕もだけど。
……あれ? プロポーズした感じになってるけど、よく考えたら事実を言ってるだけだな。
『でも、そのためには、地球を破壊から、遠ざけなきゃならない』
『うん。私も一緒に頑張る!』
授業が終わり、休憩時間になると、僕達の周りに大勢の男女が集まってきた。彩歌に質問攻めを始める。
「どこから来たの?」
「兄弟は居る?」
「どこに引っ越してきたの?」
「誕生日は?」
「ご趣味は何ですか?」
「好きな食べ物は?」
「犬派? 猫派?」
そんな事聞いてどうするんだ? という質問にまで、律儀に答えている彩歌。
「やー! ちょっとどいて!」
ワイワイと騒いでいるクラスメートたちをかき分けて、ユーリが現れた。腰に両手を当てて、仁王立ちしたかと思うと大きく息を吸い込み、教室中に聞こえる声で、こう言い放つ。
「私と勝負しなさい! この泥棒猫!」
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる