47 / 264
5年生 冬休み
パペットマスター
しおりを挟む
両親にも、妹にも、ご飯を食べに来た大ちゃんにも気付かれずに、まる2日。
『もう完全に、ぎこちなさも無くなったね、タツヤ』
僕は土人形と入れ替わったまま過ごしている。
地下室に居る僕の心配はいらない。なぜなら、僕に食事は必要ないから。このまま潜っていろと言われれば、地球滅亡まで潜っていられるぞ?
『それは、そんな遠い未来じゃないよ』
「そうだった。地球を救わなきゃ、オチオチ地底で隠居生活も出来ないな」
土人形は食事や会話等、全ての事を僕のようにこなせるので、全く問題なかった。
「ちょっとだけ、コツを掴むのに苦労したな」
一日目は、喜怒哀楽を表現するのに手こずった。しゃべることは出来ても、咄嗟に笑ったり、怒ったりする時は、つい本体の方が動いてしまう。
『普通は出来ないんだよタツヤ。利き手とは逆の手で、普通に生活しているような物だ』
それは無理だ。中学時代に右手を骨折した時は、死ぬほど不便だった。
『学校へも、土人形に行かせるのかい?』
「いや、学校は僕が行くよ」
明日から新学期だ。人形での学校生活も練習しなければならないけど、しばらくは僕自身で登校したい。
「でもこれなら、夜の間は入れ替わって地下で色々と出来るよな」
『そうだね。今後習得するキミの能力には、練習が必要なものが多い。夜間はここでそれらを鍛えるといい』
もう少しで、自分自身と土人形、同時に動かせそうな気がする。
今、人形はリビングでテレビを見つつ、僕自身は地下室奥の練習場でバック転の練習をしている。
『タツヤ、土人形では出来ているのに、なぜ本体が出来ないんだ。キミは面白いな』
どうやら、僕の土人形の操作技術は天才的らしい。
「う~ん、人形を手に持って、その人形にバック転させてるみたいな感覚なんだよ。すごく簡単だったぞ?」
『〝自分の体〟の操作の方が、格段に簡単なはずなのだが……』
ちなみに僕は、人形の作成技術もスゴイらしい。そういえば、いきなり、彩歌人形を作ったっけ。
「なあ、ブルー、人形を2体以上作るのって難しいのか?」
『それは大変な技術だ。凄まじい集中力と、熟練度を要する』
んー。なんか、出来そうな気がするんだよな。
「ちょっとやってみていい?」
『待つんだタツヤ。失敗すれば、リビングの人形も、即、崩れるぞ?』
それはマズいな。夜中にやってみるか。
今はとりあえず、バック転の練習に集中しよう。気を抜くと人形がビクンとか動いて、家族に不審がられてしまう。
「それにしても便利だな。テレビを見ながらバック転の練習が出来るなんて」
『タツヤ、その域に達するのは、普通は数ヶ月先のはずなのだが……』
土人形が見ているのはお笑い番組だ。人気急上昇中のピン芸人が、鉄板のネタを披露している。僕としては懐かしの番組を見ている事になるのだが、やはり面白い。自然と笑いが出る。土人形から。
「出来た! バック転成功! この調子で行ってみよう!」
同時に、生まれて初めて、バック転に成功した。人形ではもう何度もやっているのだが。
『本当にすごいなタツヤ。感服したよ』
昼食の時間に差し掛かった。
昨晩、大ちゃんから、無事にご両親が帰宅したと連絡があったので、今日はもう来ないだろう。
食事の後ぐらいには、いつものように栗っちが来ると思う。
『カズヤも、力の使い方がわかってきたようだな』
「真面目で頑張り屋だからな」
栗っちは毎日、この地下室で〝精神感応〟の練習を続けている。
あと、〝念動力〟の練習も始めた。ブルーが作った的を、遠隔で攻撃するのだが、それが実にかっこいい。僕も早く何かそういう技を覚えたいものだ。素手とかじゃなくて。
「よし、バック転は覚えた。最終的には、体操選手みたいに動けるようになりたいな」
『それはいいね。体術を磨けば色々と役に立つ』
「不死身だから、失敗し放題だしな」
バック転の練習も、マット無し、補助なし、知識なしだもんな。普通の人間なら10回は死んでると思う。
「あ、食事が始まるから、ちょっと集中するよ、ブルー」
『そうだな。箸などを使うのは、さすがのキミでも注意が必要だろう』
「ん? いや、せっかくだから味わって食べたいじゃない」
『タツヤ?! まさか、もう味覚もあるのか、キミの土人形!』
「え? 初日の朝ごはんから、美味しく頂いてたんだけど……」
『味覚は、一番必要のない感覚だから、機能するのは本当に後期の筈なのだが』
「ただ単に、僕が食いしん坊ってだけなんじゃない?」
『あはは、それは面白いね、タツヤ』
そういえば、味覚は特に面白い。自分の舌で感じる味とは違って、別の部分で味を認識する感じだ。足の裏で重低音を感じる、みたいな。
『しかし、土人形の練度が急速に上がりすぎだぞタツヤ。ちょっとここに呼んで、調べてみたいね』
「そうなのか。じゃ、食事が終わったら一旦回収しよう」
呼ぶとか回収するとか言ってるけど、操ってるのが自分なんだから、ちょっと間違ってる気がする。表現が難しいな。
「あ、たっちゃん人形だ! 地下室に行くの?」
物置の前で、栗っちと出会った。
栗っちは僕と人形の区別が一瞬でつくようだ。まあ、人形は右手にブルーが居ないしな。
「おー、いらっしゃい!」
人形で挨拶した。
「えへへー。ちょっと待ってね、えい!」
栗っちが手をかざすと、物置が静かにせり上がり、地下室への扉が現れた。
「そういえばこの頃、静かに出てくるよね、扉」
「ああ、苦情が出たからな」
僕から。
「そうなの? あれはあれでかっこ良かったけどね」
栗っちは階段を少し降りると、振り向いて扉を閉めた。
「今日はね、念動力でたっちゃんを飛ばせないか、やってみたいんだけど」
「おお! それ面白そう! やろうやろう!」
「いいの? やったー!」
嬉しそうな栗っち。そういえば、栗っち自身は念動力で飛べないのかな。
『タツヤ、念動力は、自分が支点なので自分自身は動かせない。自分の襟首を掴んで、持ち上げるようなものだ』
ああ、マンガで似たような事を言ってた気がするな。確か、常春の国の王様は、それでも宙に浮いてたが。
『飛行は別の能力だ。キミもその内、使えるようになる』
じゃ、それまでは、栗っちにお願いしよう。
僕人形と栗っちは、練習場の引き戸を開けて中に入った。
「いらっしゃい! ってもう言ったか」
練習場で、僕と土人形が並び立つ。栗っちはそれをニコニコしながら面白そうに見ている。
『さて、タツヤ、ちょっと色々試してみようか』
「了解。何からやる?」
『キミも試したいようだから、2体目、作ってみる?』
「よーし! 見てろよ!」
「たっちゃん、ガンバ!」
僕は床に手を置いた。イメージは栗っちだ。床からもう一体の人形が現れた。
「原寸大栗っち 完成!」
出来上がった土人形は、細部まで栗っちにそっくりだった。
僕の土人形も、崩れずにいる。これは成功だろう。
「うわああ! 僕だ! 僕がいる!!」
大喜びする栗っち。
『本当に作れるとは! 凄いぞタツヤ! しかも2体目でいきなり他人を作るなんて!』
どうやらブルー的には、僕をもう一体、作るはずだったらしい。
「ブルーさん、この人形、僕が操作できるの?」
『変則的なやり方だが、私との通話回線を使ってタツヤとカズヤを繋ぎ、更にタツヤの人形とカズヤの人形を接続して、操作できるようにする』
「ややこしいな。子機に子機を繋ぐみたいな感じか?」
『一度繋いでしまえば、あとは簡単だよ。ただ、直列になるのでタツヤ人形が消えればカズヤ人形は動かせなくなる。あと、人形同士の接続は、かなりイレギュラーな方法なので、あまり距離を開けてはいけない。せいぜい1キロメートル位だろう』
「僕と栗っちの人形はセットなんだな。よくわかった」
学校からここまででも直線距離なら500メートルぐらいだし、1キロも離れられるなら問題はないだろうな。
『では、接続するよ?』
僕の人形から、栗っちの人形に、何かが繋がる感じがした。腕と言うよりは、糸のような。
『接続完了。これでタツヤと同じ条件で、カズヤも動かせるようになった』
「どれどれ? あ、本当だ、動かせる」
カズヤ人形で、ラジオ体操をしてみた。
「あははは! 凄い! 僕が動いてる!」
『タツヤ?! なんでカズヤ人形を操作できるんだ?!』
「なんでって……繋がってるから動かせるんじゃないの?」
細い糸の先に、自分の一部があるイメージだ。問題なく動かせる。僕の人形も並んで体操してみた。これは面白いな。
「あはははは! かわいいね!」
『凄まじい才能だな、タツヤ……。だが、さすがにカズヤ人形まで、キミが自由に出来るのは良くない。回線を秘匿するよ?』
そりゃそうだ。栗っち人形の視界とかも入ってきてるもんな。あ、操作出来なくなった。
『ではあらためて、カズヤ、やってみて』
「うん……えい! やー! それ!」
人形は動かない。
「栗っち、自分の体の一部だと思って動かしてみて」
「むずかしいねー。うー! やー! たー!」
やはり人形は動かない。
『カズヤ、それだ! 普通はそうなんだよ!』
「なんで嬉しそうなんだ、ブルー」
『キミがあまりにスムーズに土人形を習得してしまったからつい』
まあ、普通はそうなんだろうな。何でも飄々とやれてしまう、天才肌の栗っちがピクリとも動かせないんだから。
「確かに繋がってる感じはするんだけど。えい! えい! えい!」
『その感じが解るだけでも凄いことだよ、カズヤ』
「動け! 動け! えいやー!」
掛け声と同時に、人形の腕が上がった!
「おお! やったね栗っち!」
『カズヤ、力みすぎだぞ。今のは念動力だ』
「はは、わかるわかる。頑張れ栗っち!」
「うー。難しすぎるよー! たっちゃん、自由自在に動かせるって凄いね」
「うーん、アドバイスしてあげたいけど、こればかりはちょっと説明しづらいんだよな」
『よしよし、大丈夫だカズヤ。練習を続ければ、その内、動かせるようになる』
「だから、なんで嬉しそうなんだよ」
『言えなかったセリフをやっと言えたんだ。実に晴れ晴れしい』
ストレス解消に栗っちを使うなよな。
「でも、人形をここに置いておけば、僕の家からでも練習できるね」
「僕も夜はここに居るから、練習付き合うよ」
「えへへ、ありがとう! せめて普通に動かせるようにならなきゃね」
ここ数日、暇を持て余していた深夜の過ごし方が決まった。楽しくなりそうだ!
『もう完全に、ぎこちなさも無くなったね、タツヤ』
僕は土人形と入れ替わったまま過ごしている。
地下室に居る僕の心配はいらない。なぜなら、僕に食事は必要ないから。このまま潜っていろと言われれば、地球滅亡まで潜っていられるぞ?
『それは、そんな遠い未来じゃないよ』
「そうだった。地球を救わなきゃ、オチオチ地底で隠居生活も出来ないな」
土人形は食事や会話等、全ての事を僕のようにこなせるので、全く問題なかった。
「ちょっとだけ、コツを掴むのに苦労したな」
一日目は、喜怒哀楽を表現するのに手こずった。しゃべることは出来ても、咄嗟に笑ったり、怒ったりする時は、つい本体の方が動いてしまう。
『普通は出来ないんだよタツヤ。利き手とは逆の手で、普通に生活しているような物だ』
それは無理だ。中学時代に右手を骨折した時は、死ぬほど不便だった。
『学校へも、土人形に行かせるのかい?』
「いや、学校は僕が行くよ」
明日から新学期だ。人形での学校生活も練習しなければならないけど、しばらくは僕自身で登校したい。
「でもこれなら、夜の間は入れ替わって地下で色々と出来るよな」
『そうだね。今後習得するキミの能力には、練習が必要なものが多い。夜間はここでそれらを鍛えるといい』
もう少しで、自分自身と土人形、同時に動かせそうな気がする。
今、人形はリビングでテレビを見つつ、僕自身は地下室奥の練習場でバック転の練習をしている。
『タツヤ、土人形では出来ているのに、なぜ本体が出来ないんだ。キミは面白いな』
どうやら、僕の土人形の操作技術は天才的らしい。
「う~ん、人形を手に持って、その人形にバック転させてるみたいな感覚なんだよ。すごく簡単だったぞ?」
『〝自分の体〟の操作の方が、格段に簡単なはずなのだが……』
ちなみに僕は、人形の作成技術もスゴイらしい。そういえば、いきなり、彩歌人形を作ったっけ。
「なあ、ブルー、人形を2体以上作るのって難しいのか?」
『それは大変な技術だ。凄まじい集中力と、熟練度を要する』
んー。なんか、出来そうな気がするんだよな。
「ちょっとやってみていい?」
『待つんだタツヤ。失敗すれば、リビングの人形も、即、崩れるぞ?』
それはマズいな。夜中にやってみるか。
今はとりあえず、バック転の練習に集中しよう。気を抜くと人形がビクンとか動いて、家族に不審がられてしまう。
「それにしても便利だな。テレビを見ながらバック転の練習が出来るなんて」
『タツヤ、その域に達するのは、普通は数ヶ月先のはずなのだが……』
土人形が見ているのはお笑い番組だ。人気急上昇中のピン芸人が、鉄板のネタを披露している。僕としては懐かしの番組を見ている事になるのだが、やはり面白い。自然と笑いが出る。土人形から。
「出来た! バック転成功! この調子で行ってみよう!」
同時に、生まれて初めて、バック転に成功した。人形ではもう何度もやっているのだが。
『本当にすごいなタツヤ。感服したよ』
昼食の時間に差し掛かった。
昨晩、大ちゃんから、無事にご両親が帰宅したと連絡があったので、今日はもう来ないだろう。
食事の後ぐらいには、いつものように栗っちが来ると思う。
『カズヤも、力の使い方がわかってきたようだな』
「真面目で頑張り屋だからな」
栗っちは毎日、この地下室で〝精神感応〟の練習を続けている。
あと、〝念動力〟の練習も始めた。ブルーが作った的を、遠隔で攻撃するのだが、それが実にかっこいい。僕も早く何かそういう技を覚えたいものだ。素手とかじゃなくて。
「よし、バック転は覚えた。最終的には、体操選手みたいに動けるようになりたいな」
『それはいいね。体術を磨けば色々と役に立つ』
「不死身だから、失敗し放題だしな」
バック転の練習も、マット無し、補助なし、知識なしだもんな。普通の人間なら10回は死んでると思う。
「あ、食事が始まるから、ちょっと集中するよ、ブルー」
『そうだな。箸などを使うのは、さすがのキミでも注意が必要だろう』
「ん? いや、せっかくだから味わって食べたいじゃない」
『タツヤ?! まさか、もう味覚もあるのか、キミの土人形!』
「え? 初日の朝ごはんから、美味しく頂いてたんだけど……」
『味覚は、一番必要のない感覚だから、機能するのは本当に後期の筈なのだが』
「ただ単に、僕が食いしん坊ってだけなんじゃない?」
『あはは、それは面白いね、タツヤ』
そういえば、味覚は特に面白い。自分の舌で感じる味とは違って、別の部分で味を認識する感じだ。足の裏で重低音を感じる、みたいな。
『しかし、土人形の練度が急速に上がりすぎだぞタツヤ。ちょっとここに呼んで、調べてみたいね』
「そうなのか。じゃ、食事が終わったら一旦回収しよう」
呼ぶとか回収するとか言ってるけど、操ってるのが自分なんだから、ちょっと間違ってる気がする。表現が難しいな。
「あ、たっちゃん人形だ! 地下室に行くの?」
物置の前で、栗っちと出会った。
栗っちは僕と人形の区別が一瞬でつくようだ。まあ、人形は右手にブルーが居ないしな。
「おー、いらっしゃい!」
人形で挨拶した。
「えへへー。ちょっと待ってね、えい!」
栗っちが手をかざすと、物置が静かにせり上がり、地下室への扉が現れた。
「そういえばこの頃、静かに出てくるよね、扉」
「ああ、苦情が出たからな」
僕から。
「そうなの? あれはあれでかっこ良かったけどね」
栗っちは階段を少し降りると、振り向いて扉を閉めた。
「今日はね、念動力でたっちゃんを飛ばせないか、やってみたいんだけど」
「おお! それ面白そう! やろうやろう!」
「いいの? やったー!」
嬉しそうな栗っち。そういえば、栗っち自身は念動力で飛べないのかな。
『タツヤ、念動力は、自分が支点なので自分自身は動かせない。自分の襟首を掴んで、持ち上げるようなものだ』
ああ、マンガで似たような事を言ってた気がするな。確か、常春の国の王様は、それでも宙に浮いてたが。
『飛行は別の能力だ。キミもその内、使えるようになる』
じゃ、それまでは、栗っちにお願いしよう。
僕人形と栗っちは、練習場の引き戸を開けて中に入った。
「いらっしゃい! ってもう言ったか」
練習場で、僕と土人形が並び立つ。栗っちはそれをニコニコしながら面白そうに見ている。
『さて、タツヤ、ちょっと色々試してみようか』
「了解。何からやる?」
『キミも試したいようだから、2体目、作ってみる?』
「よーし! 見てろよ!」
「たっちゃん、ガンバ!」
僕は床に手を置いた。イメージは栗っちだ。床からもう一体の人形が現れた。
「原寸大栗っち 完成!」
出来上がった土人形は、細部まで栗っちにそっくりだった。
僕の土人形も、崩れずにいる。これは成功だろう。
「うわああ! 僕だ! 僕がいる!!」
大喜びする栗っち。
『本当に作れるとは! 凄いぞタツヤ! しかも2体目でいきなり他人を作るなんて!』
どうやらブルー的には、僕をもう一体、作るはずだったらしい。
「ブルーさん、この人形、僕が操作できるの?」
『変則的なやり方だが、私との通話回線を使ってタツヤとカズヤを繋ぎ、更にタツヤの人形とカズヤの人形を接続して、操作できるようにする』
「ややこしいな。子機に子機を繋ぐみたいな感じか?」
『一度繋いでしまえば、あとは簡単だよ。ただ、直列になるのでタツヤ人形が消えればカズヤ人形は動かせなくなる。あと、人形同士の接続は、かなりイレギュラーな方法なので、あまり距離を開けてはいけない。せいぜい1キロメートル位だろう』
「僕と栗っちの人形はセットなんだな。よくわかった」
学校からここまででも直線距離なら500メートルぐらいだし、1キロも離れられるなら問題はないだろうな。
『では、接続するよ?』
僕の人形から、栗っちの人形に、何かが繋がる感じがした。腕と言うよりは、糸のような。
『接続完了。これでタツヤと同じ条件で、カズヤも動かせるようになった』
「どれどれ? あ、本当だ、動かせる」
カズヤ人形で、ラジオ体操をしてみた。
「あははは! 凄い! 僕が動いてる!」
『タツヤ?! なんでカズヤ人形を操作できるんだ?!』
「なんでって……繋がってるから動かせるんじゃないの?」
細い糸の先に、自分の一部があるイメージだ。問題なく動かせる。僕の人形も並んで体操してみた。これは面白いな。
「あはははは! かわいいね!」
『凄まじい才能だな、タツヤ……。だが、さすがにカズヤ人形まで、キミが自由に出来るのは良くない。回線を秘匿するよ?』
そりゃそうだ。栗っち人形の視界とかも入ってきてるもんな。あ、操作出来なくなった。
『ではあらためて、カズヤ、やってみて』
「うん……えい! やー! それ!」
人形は動かない。
「栗っち、自分の体の一部だと思って動かしてみて」
「むずかしいねー。うー! やー! たー!」
やはり人形は動かない。
『カズヤ、それだ! 普通はそうなんだよ!』
「なんで嬉しそうなんだ、ブルー」
『キミがあまりにスムーズに土人形を習得してしまったからつい』
まあ、普通はそうなんだろうな。何でも飄々とやれてしまう、天才肌の栗っちがピクリとも動かせないんだから。
「確かに繋がってる感じはするんだけど。えい! えい! えい!」
『その感じが解るだけでも凄いことだよ、カズヤ』
「動け! 動け! えいやー!」
掛け声と同時に、人形の腕が上がった!
「おお! やったね栗っち!」
『カズヤ、力みすぎだぞ。今のは念動力だ』
「はは、わかるわかる。頑張れ栗っち!」
「うー。難しすぎるよー! たっちゃん、自由自在に動かせるって凄いね」
「うーん、アドバイスしてあげたいけど、こればかりはちょっと説明しづらいんだよな」
『よしよし、大丈夫だカズヤ。練習を続ければ、その内、動かせるようになる』
「だから、なんで嬉しそうなんだよ」
『言えなかったセリフをやっと言えたんだ。実に晴れ晴れしい』
ストレス解消に栗っちを使うなよな。
「でも、人形をここに置いておけば、僕の家からでも練習できるね」
「僕も夜はここに居るから、練習付き合うよ」
「えへへ、ありがとう! せめて普通に動かせるようにならなきゃね」
ここ数日、暇を持て余していた深夜の過ごし方が決まった。楽しくなりそうだ!
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!
夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!!
国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。
幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。
彼はもう限界だったのだ。
「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」
そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。
その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。
その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。
かのように思われた。
「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」
勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。
本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!!
基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。
異世界版の光源氏のようなストーリーです!
……やっぱりちょっと違います笑
また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる