上 下
22 / 264
5年生 冬休み

電話

しおりを挟む
 あの3人組のお兄さん達は、僕の事は誰にも言わないだろう。これに懲りて、悪さも控えてくれると嬉しい。
 予定よりすっかり遅くなってしまったが、無事に自宅についた。

「ブルー、地下室を開けてくれ。リュックを置いてこないと」

『そうだね。見慣れない物が部屋にあると不審がられるだろう』

「鳥取とオランダのガイドブックなんか見られたら、ちょっと面倒だしな」

 家に入る前に、地下室に向かう。地下室への階段には、おもむきのあるランタン風の灯りが灯っていた。

「仕事が速いな、ブルー」

『丁度、地下に埋もれていたのを見つけたので利用してみた』

 地下室の部屋の机に、新しいリュックサックと、ポケットの中の小銭、残った旧札、そして例の三人の住所が書かれたメモを置く。

「今日の感じだと、あと数日で、鳥取には行けそうだな」

『良かった。タツヤ、よろしくお願いする』

 地下室を出ようとした時、右手から、ブルーではない声が響いた。

『達也さん、聞こえますか? 彩歌あやかです。今、大丈夫?』

『彩歌さん!』

 あれ? ちょっと今、声が裏返ってたかも。
 
『ちょっと色々と手間取っちゃって遅くなったけど、無事に魔界に着いたこと、連絡しようと思って』

『良かった。それで、説明は上手くできた?』

『うん。不老の事とか、ブルーの事は話さずに上手くごまかせたと思う。弱体にはみんな驚いてたけど』

『だろうね。とにかく無事で何よりだ!』

『有難う。達也さんとブルーのおかげよ。何かあったらいつでも言ってね!』

 何か……あ、そうだ。分岐点の件、一応伝えておかなきゃな。

『そうだ。えっと……ブルー、最初の分岐点って何日後だっけ?』

『33日後だよ。今回はタツヤだけで十分対応できるはずだ』

『そっか……彩歌さん、僕だけで大丈夫らしいんだけど、33日後に地球を救うためにオランダへ行くんだ』

『オランダ?! すごい! 行ってみたいな』

『可能なら、アヤカも同行して欲しい。導きの成功率が上がる』

『やった!』

 僕と彩歌、同時に喜びの声を上げる。

『えっと。でも、もしかしたら、その頃はまだ〝清めの儀式〟が終わってないかも……』

『清めの儀式?』

『悪魔を倒した後に、しなくてはならない〝呪いよけの儀式〟なの。今回の悪魔はかなりの上級悪魔だったから、清めを終えるのに凄く時間がかかるかもしれない。それが終わるまでは自由には動けないの』

『そうか。それじゃ、運次第って感じだね。ちょっと残念』

『ええ。でも、それが終わったら私、かなり自由になるの』

『かなりってどういう事?』

『私、弱体化されたでしょ? 任務に支障が出るという事で、城塞都市の守備隊から〝除名扱い〟になっちゃった』

『そんな……!』

『でもね、この弱体も、名誉の負傷というか……逆に、この体で高位の悪魔を倒した事で、私、英雄扱いなのよ。本当は、達也さんがやっつけてくれたのにね』

『いやいや。僕はただ殴ったり蹴ったりしただけだよ』

 本当に、殴って蹴っただけだ。今思えば、高校生が5~6発で行動不能になる僕のパンチを100発以上受けても生きているという事は、あの悪魔って結構タフだったんだな。

『でね。清めの儀式が終わったら、大人になるまで自由にしていいということになったの。お給料も今まで通り、出るみたい』

『凄い高待遇じゃないか!』

『なんてったって英雄ですから、私!』

 良かった。除名と言うからマイナスイメージだったが、有給もらってバカンスモードだな。

『だから、もし今回は無理でも、次からは一緒に連れて行ってね!』

『ああ、よろしく頼むよ彩歌さん!』

 俄然がぜんやる気が出てきた。よし。今回が無理なら、オランダはプライベートで一緒に行こう。あ、鳥取も。

 彩歌との通信を終えて、自宅に戻ると、妹がチーズかまぼこを食べながら、お正月にありがちな、お笑い番組を熱心に見ていた。

「あ、お兄ちゃんお帰り」

「ただいま。父さんと母さんは?」

「なんか、すぐ帰ってくるって言って、出てった」

 はて? どこに行ったのかな。

「おばあちゃんも?」

「ううん。おばあちゃんは部屋にいると思うよ」

 そっか。じゃ、帰って来るまでテレビでも見てるかな。

『タツヤ、ちょっと思い出したのだが』

「何?」

『先日、ユーリが言っていた事だが、宿題はどうなっているのだろう』

「あ、そうだ。よく覚えているな、ブルー」

 僕は自室に戻り、ランドセルの中を見た。冬休みのドリルは、案の定ほとんど白紙だった。連絡帳をチェックすると、他にもいくつか、やらなければならない宿題があるようだ。

「やれやれ、仕方がない。 パパっとやっちまうか」

 ドリルは、さすがにスラスラと進む。面倒臭いかと思ったが、これが意外と楽しい。

「5年生の頃って、こんな問題やってたんだな。懐かしすぎる」

 算数の問題を解きながら、ふと、連絡帳の赤い文字に目が止まる。僕の字だ。

 〝忘れない事! 1月2日 朝 うさぎのエサやり当番〟

 げげ! 今日じゃん! もう夕方6時近いぞ……

『タツヤ、ウサギが可哀想だ』

「本当だ。急いでエサをやりに行こう!」

 僕はおばあちゃんに、学校に行くと伝えて、懐中電灯を片手に、家を出た。外はもう真っ暗だ。

『タツヤ。ウサギは1日食べないと死亡する可能性もある』

「マジか! それは可哀想過ぎる。急ごう!」

 学校についた。懐かしむよりも、今はウサギが先だ。校庭を横断して、飼育小屋向かう。
 
「無事でいてくれよ」

 飼育小屋の扉を開け、かすかな記憶でウサギの部屋を探す。
 ……確か、チャボの右隣だったな。居た! ウサギは元気だった。

「良かった。急いでエサを」

 僕は棚からウサギ用のエサが入った袋を取り、皿に入れた。水も足したし、完璧だ。

「ふう。これで良し! さあ、帰るか」

 エサを食べ始めたウサギを確認して、帰ろうとすると、小屋の入り口に、誰か立っている。

「なんだ、達也か。あけましておめでとう。だな」

 担任の谷口先生だ。懐かしい。

「エサをやりに来るのは朝のハズだろう」

「あけましておめでとうございます。ごめんなさい。忘れていました」

「まあ、思い出しただけ偉かったな。エサやりを忘れると、死んでしまう動物も居るから、先生たちはこうして、午後、確認に来るんだ。今日はちょっと遅くなったがな」

 そうだったのか、全然知らなかった。

「ずいぶん暗くなったし、早く帰るんだ。気をつけてな」

「はい、さようなら先生!」

「また新学期にな! 宿題やれよ!」

「は~い!」

『タツヤ。良い先生だな』

「ああ。生徒思いの優しくて厳しいとても良い先生だ」

 僕は学校と先生の懐かしさに浸りつつ、家路を急いだ。早く帰らないと、また両親に心配をかけるもんな。
 家に着くと、父さんと母さんはすでに帰宅していた。

「達也。お前は正月から色々と忙しいやつだな」

 本当にそう思います。

「今、駐在さんに、お礼に行ってきたのよ。あなたも一緒に行けたら良かったんだけど」

 なるほど、そういう事か。色々と申し訳ないな……

「駐在さん、お前が検査で異常なしだったって聞いて、喜んでくれてたぞ」

「うん。僕も近い内に、お礼に行くよ」

「それが良いわね。きっとよ」

 父さんはソファに腰掛けて、テレビのリモコンを操作し始め、母さんは夕食の準備を始めた。

 そこへ電話が鳴る。丁度近くに居たおばあちゃんが受話器を取る。

「……達也、電話やで」

 正月早々、僕に電話? 誰からだろう。

「もしもし、たっちゃん? 和也だよ。ちょっと良いかな?」

 栗っちだった。

「うん、どうしたの?」

「ちょっと、相談したい事があって……明日、お邪魔しても大丈夫?」

 明日は、ちょっと遠出とおでして、旧札ショッピングをしようかと思ってたのだが、何やら栗っちの声色こわいろが変だ。

「大丈夫だよ。いつでも来て」

「ありがとう。ちょっと僕、大変な事になってるみたい。朝9時に行くね」

「分かった。待ってる」

 電話が切れた。僕は家族に、明日、栗っちが来る事を伝えた。

「和也さんが来るの?! うわ、どうしよう!」

 嬉しそうな妹。そうだ、妹は栗っちが大好きだった。なんと15年後も、密かに想い続けていた。

「明日は、おばあちゃんら親戚まわりするけど、達也だけ残るかえ?」

「お兄ちゃんだけ?! 私も! 私も残る!」

「るりは、お邪魔になるでしょ? 一緒に行きなさい」

「えーっ! お兄ちゃんだけズルい! 私も残るの!」

 半泣きで食い下がる妹。

「こら。栗栖君は、お兄ちゃんと何か話があると言っているんだぞ。お前は父さんたちと行くんだ」

「やだやだやだ! 私も和也さんといっしょに居るのぉ!!!!」

 本当に泣き出す妹。ちょっと可哀想になってきた……

「しょうがないな。栗っちには、また別の日に遊びに来てもらうからさ。るりのために」

 僕の言葉に、真っ赤になって大人しくなる妹。

「私のために?」

 ニヤける妹。ちょっと怖い。

「ああ。頼んでみるよ」

 栗っちは、優しいからきっと来てくれるだろう。

「ありがとうお兄ちゃん! ぜったいよ! やくそくだからね!」

「わかったわかった」

 この後、僕が、

「しつこいな!」

 と言うまで、妹の〝絶対だよ攻撃〟が続く。
 気が済んだ妹は、鼻歌交じりに、ソファでクッションを抱えてゴロゴロしている。

「お昼ごはんはどうする?」

「明日なら、もう開いてると思うから、栗っちと、まりも屋でなんか食べるよ」

 〝まりも屋〟は、駅前にある大衆食堂で、ほぼ年中無休。オススメはカツ丼とオムライスだが、量がハンパナイので注意が必要だ。

「あなた本当に、まりも屋、好きね……お金、ここの引き出しに入れとくから、和也くんの分とね」

「うん。ありがとう!」

 まりも屋は15年後、大将が引退して息子さんが後を継いでいるが、味は見事に劣化していて悲しかった。カレーだけは、なぜか超絶グレードアップしているのだが。

「達也、栗栖君の力になってあげなさい。何か困ったら父さん母さんに相談するんだぞ?」

「わかった。ありがとう父さん」

 夕食を終え、お風呂に入ってから自室に戻る。眠らなくていいので宿題を続ける。

「ブルー、栗っちの相談事って何だろうな」

『うん。私の予想が正しければ、かなりの大事おおごとだと思う』

「何か気付いているのか?」

『私とキミの出会いは、彼の予言によって先延ばしになったよね』

「ああ。そういえばそうだったな……それがどうかした?」

『私とキミの出会いは〝決められていたもの〟で、いわゆる〝頑丈な歴史〟のハズなんだよ。彼はね、それを曲げる事が出来たという事なんだ』

「え? ちょっと待った。それが出来るのって……」

『そう。彼も何らかの〝特異点〟だ』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

異世界転移したらチート能力がついていて最強だった。

たけお
ファンタジー
俺は気づいたら異世界にいた。 転移魔法を使い俺達を呼び寄せたのはクダラシム王国の者達だった。 彼には異世界の俺らを勝手に呼び寄せ、俺達に魔族を退治しろという。 冗談じゃない!勝手に呼び寄せた挙句、元の世界に二度と戻れないと言ってきた。 抵抗しても奴らは俺たちの自由を奪い戦う事を強制していた。。 中には殺されたり従順になるように拷問されていく。 だが俺にはこの世界に転移した時にもう一つの人格が現れた。 その人格にはチート能力が身についていて最強に強かった。 正直、最低な主人公です。バイでショタコンでロリコン、ただの欲望のままに生きていきます。 男同士女同士もあります。 残酷なシーンも多く書く予定です。 なろうで連載していましたが、消えたのでこちらでやり直しです。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

僕は社長の奴隷秘書♡

ビビアン
BL
性奴隷――それは、専門の養成機関で高度な教育を受けた、政府公認のセックスワーカー。 性奴隷養成学園男子部出身の青年、浅倉涼は、とある企業の社長秘書として働いている。名目上は秘書課所属だけれど、主な仕事はもちろんセックス。ご主人様である高宮社長を始めとして、会議室で応接室で、社員や取引先に誠心誠意えっちなご奉仕活動をする。それが浅倉の存在意義だ。 これは、母校の教材用に、性奴隷浅倉涼のとある一日をあらゆる角度から撮影した貴重な映像記録である―― ※日本っぽい架空の国が舞台 ※♡喘ぎ注意 ※短編。ラストまで予約投稿済み

堕ちた英雄

風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。 武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。 若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。 第一部 ※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です ※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです ※下品です ※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます ※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい 第二部 ※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります ※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます ※一部死ネタを含みます ※第一部以上に下品です

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

処理中です...