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5年生 冬休み

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藤島彩歌ふじしまあやか隊員……なのか?」

 私の身分証を見ながら驚いている高齢の男性。
 この方は城塞都市じょうさいとしの守備隊を総括そうかつする本部長だ。
 周囲には、私の所属する班の班長をはじめ、多くの隊員がいる。

「はい、大変申し訳ございません! 休暇中の不意打ちとはいえ、不覚にも悪魔に遅れをとり、この様な姿にされてしまいました」

 私は休暇中に悪魔に襲われ、時間系の弱体魔法を受けて、子どもにされてしまった。

「休暇中? わしの記憶では……君の休暇は確か〝アガルタ〟行きだったのではないかの?」

 〝 Agarthaアガルタ〟。魔界人は〝地球〟の事を〝伝説の聖地〟という意味合いで、そう呼んでいるの。

「はい。私は、アガルタで悪魔に襲われました。その後、苦戦しましたが、無事、倒しました。死体は焼却後、隠滅済み。戦闘後の隠蔽も完了しています。なお〝呪い〟は未解呪、未鑑定です」

 っていうか、ほとんど、達也さんが倒したみたいなものなんだけど。
 ……でも、それは言えない。だって〝人間が素手で殴ったり蹴ったりして倒した〟なんて誰も信じないし、下手に話すとブルーの事も話さなきゃいけなくなるわ。

「おい、ゲートの警備はどうなっているんだ! 当直の隊員を呼び出してくれ」

「アガルタに悪魔が出るって、どういう事だよ? 怖いな!」

 ざわつく室内。全くその通りだわ。おかげで死んじゃうトコだったんだから。

「しかし、藤島隊員! 〝時間系〟の魔法を使うような上級悪魔を、弱体化された貴方がどうやって倒したのですか?」

 背後から声が上がる。きっと3班の班長ね。何でいつも、そうやって余計な所をツッコんで来るのよ!

「はい! 弱体化されるまでに、すでに相当のダメージは与えておりました。それに、弱体化されたとはいえ……」

 クルッと振り向いて、人差し指を立てる。そこから立ちのぼる、ロウソク程度の小さい火。

「私は、こう見えて〝第十一階級魔道士ウォーロック〟ですので」

 そう言って、ほんの少しだけ口角を上げると、いくつかのため息や生唾を飲む音が聞こえて来た。
 私、ヒラ隊員だけど、魔法のウデは凄いのよ? ……ちょっと属性が偏り過ぎてるだけなんだから。

「コホン。という事は、キミはその子どもの姿にされてなお、上級悪魔を仕留めたというのかね?」

 中級以上の悪魔に、単独で勝てる魔道士は、そうそう居ない。この部屋にいるお偉いさん方でも、かなりの準備と戦略を練って、数名掛かりで不意打ちから入れば、なんとか勝てるだろうといった具合だ。
 私は回れ右をして、指先の火をフッと吹き消したあと、敬礼してこう言った。

「はい。私が殺しました」

 次の瞬間、歓声が上がった。
 ……ウソはついてないし、あの程度の悪魔、今の私なら絶対勝てるわ。まあ楽勝ね。





 >>>





「発動する呪いは〝死ぬまで目覚めない〟で、発動条件は〝13回眠りについた時〟です。明日からでも、すぐに儀式に入りましょう」

「分かりました、よろしくお願いします」

 予想はしていたけど、私に掛けられた〝呪い〟は、かなり凶悪なものだった。
 何せ、大司教様の解呪魔法を弾いちゃったんだから。

「……呪いよけの儀式に、結構な時間が掛かるかもね」

 悪魔は、死ぬときに〝呪い〟を残す。私はそれを解いてもらうため、教会に来ていた。
 普段相手にしているような下級悪魔の呪いなら、自分の解呪魔法程度でも充分だけど、さすがに上級ともなるとスゴいわ。

「……先輩! 藤島先輩!」

 長い通路の先……この教会の入口の方から、私を呼ぶ声が聞こえる。
 やがて、パタパタとローブ姿の魔道士が走ってくるのが見えた。

「はぁ、はぁ。こちらに居られたのですね。本部から緊急の呼び出しです。ただちに出頭して下さい」

 息を切らして現れたのは、新人の岩木いわきちゃん。今年で20歳ハタチだっけ。若いって良いわよね。
 ……あ、今は私のほうが若いのか。

「分かりました。行きましょうか」

 あら? 岩木ちゃんが私をじっと見てるわ?

「どうかした?」

「あ! いえ! その、藤島先輩、すごくカワイイなと……え、いえ! 失礼しました!」

 ふふ。悪い気はしないわ。

「岩木隊員!」

「は、はいっ!」

 岩木隊員が、ピシッと背筋を伸ばして敬礼する。

「弱体を受けてしまったのは、大きな失態です。この姿、守備隊員として恥ずべき事だと思っています」

 岩木ちゃんは〝やっちゃった!〟という表情になってる……ふふ。まあ今回は、あんまりいじめないであげようかしら。

「……なので、これは私個人としての言葉です。〝ありがとう〟」

 パァっと笑顔になる岩木ちゃん。やだ、この子のほうがよっぽどカワイイわ。





 >>>





 守備隊本部。本部長室に通され、待つこと2分少々。本部長が現れた。

「お待たせした。会議が長引いたのでな。座ってくれ」

「はい! 失礼します!」

 硬く冷たい長椅子に腰掛けると、丁度良いタイミングで、お茶が運ばれてくる。
 私の対面に座った本部長は、テーブルに置かれたお湯呑みを持ち上げると、私を見てクスリと笑った。

「おっと、すまぬな。悪気は無いんじゃよ。しかし〝炎の女帝スタタ・マテル〟が、その風体ふうていだと、どうも感覚が狂ってしまうのう」

 それは仕方ないわ。私の姿を見たら、きっと誰もが、驚くか笑うしかない。
 本部長は、お茶を一口飲んだあと、少し困り顔の混じった笑顔で、言い辛そうに続ける。

「今日はひとつ、提案があるんじゃよ。命令ではないが、悪い話でもない」

 ……そして、私に勧められたのは〝引退〟だった。

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