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5年生 冬休み
トレジャーハント
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……元旦だ。
え? まだ1月1日だったの?! とか思ってしまうし、僕の場合、15年ほど巻き戻ったから、何が何だか分からないんだけど、とにかく元旦だ。
「お兄ちゃんが、私の〝チーかま〟また盗ったー!」
両親は、僕の〝転落事故〟の件で、ほぼ徹夜。
まだ寝ているようだ。
「ヒトのものを盗ったらドロボーなんだよ? おまわりさんにタイホされるんだよ?」
おばあちゃんは既に起き出してきて、お雑煮を作ってくれている。関東では、四角い餅のお吸い物が主流のようだが……
「ドロボー! おまわりさーん! ここにドロボーがいまーす!!」
ウチのお雑煮は関西ならではの、丸餅に白味噌で具だくさんな、神奈川では見かけないタイプだ。僕はどちらかと言うと味噌派なので、久しぶりに食べられるのは嬉しい。
「ドロボー! ドロボー! びっくりするぐらい盗るよー! ドロボーハッケーン!!」
実は、おばあちゃんは、このお雑煮に粒餡の入ったヨモギ餅を入れて食べる。おばあちゃん曰く〝この美味しさを知らない人は、人生の何割か損をしてる〟だそうだ。
……未だに僕は、試す勇気が持てない。
「ドーローボー! あソレ! ドーローボー! もいっちょ! ドーローボー!」
「だああああっ! うるさいな、もう! 悪かったって!」
妹の〝るり〟が、僕をジト目で見ている。
な、何だよ?
「それがドロボーした人が、あやまる時の態度ですかー?」
「……ごめんなさい。許して下さい」
「分かればよろしい。ちゃんと、〝べんしょう〟してね」
「はいはい。今日、コンビニで買ってくるから」
なんたって今日は、スゴい額のお金をブルーと掘り出しに行くのだ。冷蔵庫の上から2段目は、全部、チーかまにしてやる。
『タツヤ。目立つ行動はダメだよ?』
「冗談だよブルー。父さんと母さんに説明するのが面倒だ」
妹は歓喜するだろうが、それすらも面倒だ。
「でもさ、ブルー。拾ったお金は、警察に届けなきゃダメじゃないか?」
そういう所は、おばあちゃんの教えが生きている。
『タツヤ。これから掘り起こすのは、〝大人の理由〟で、廃棄するために埋められたお金だよ』
マジか。本当にあるんだな、そういうの。
『それを持ち主の所に持って行ったら、逆に困らせることになるだろう? だから、地球のために、有難く使わせて貰おう』
「よし。なんか良くわからないが、埋めた人も、その方が幸せなんだな!」
罪の意識が、多少和らいだ所で、母さんが起きてきた。
「お義母さん、すみません。寝過ごしてしまって……」
「ええんよー。昨日は大変やったもんなー」
おばあちゃんは、ニッコリ微笑むと、お椀を戸棚から4つ取り出した。
「お父さんは、まだ起きて来んやろから、先に朝ごはんにしよかー?」
といって、母さんに、お椀を手渡し、お鍋に餅を4つ入れる。1つは、緑色の餡餅だ。
「るりちゃん、あけましておめでとう。これ」
おばあちゃんは妹に、赤い縁取りのポチ袋を手渡す。
「やったー!! ありがとうおばあちゃん!!」
妹は、クルクル回って喜んでいる。懐かしい光景だな。
食卓にお雑煮が並び、久々の食事。あ、そういえば。
「ブルー、たしか僕って、〝摂食不要〟じゃなかったっけ」
『ああ、そうだね。でも、不要ってだけで、食べても大丈夫だよ。呼吸も不要だけど、キミ、呼吸してるよね』
そういえば確かに。というか、呼吸を止めるってチョット怖いよな。
『むしろ、美味しい食事は精神的な支えになる。しっかり食べてほしい』
「よーし! 食うぞ!」
お雑煮、美味い! またちょっと泣きそう。
こみ上げてくるものを堪えながら、僕は母さんに今日の予定を告げる。
「今日は、お昼までぶらっと散歩してくるよ」
「達也。山へは行かないで?」
母さんが、ちょっと心配そうにこちらを見て言う。
「うん、絶対に行かないよ」
僕は真顔で答えた……あ!
「ブルー。埋蔵金の場所、あの山じゃないよな?」
『違うよ?』
良かった。当分の間、山には行かないほうが良さそうだし。
「お兄ちゃん! アレ、忘れないでね!」
「おっと、了解しました」
僕は妹に、おどけた感じで敬礼してみせると、お雑煮を食べきり、箸を置いた。
「それじゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。あと、駐在さんに会ったら、お礼、言うのよ?」
「ああ、うん、分かった!」
駐在さん……埋蔵金を持った状態では、絶対に出会いたくないヒトの筆頭だ。気をつけよう。
「逹也、年明けから色々あったから、今年は気をつけやなアカンで?」
「うん、ありがとう、おばあちゃん!」
本当に色々あってビックリだ。僕は死なないから大丈夫だけど、おばあちゃんを驚かせたり悲しませたりは絶対しないぞ。
『タツヤ、所持していても違和感のない〝袋〟が必要になる』
出掛けに、ブルーに止められる。
とりあえず、リュックサックで良いかな。
「スコップとか、ツルハシとかは要らないのか?」
『うん。地表までは私が持ってくるから、あとは素手でなんとかなると思うよ?』
むしろ、〝何かを掘り起こしてます感〟は、目立つので出さないほうが良いらしい。確かに、小学生が手で地面を掘っていても、泥遊びぐらいにしか見えないな。
家を出て、リュックを片手に、ブルーの指示した場所を目指す。
『ストップ。ここを右だ』
農業用水の人工池の方へ向かう。池を回り込んだ先に、人があまり出入りしない、雑木林があるんだ。正月なら尚更、人は居ない。
『もう少し奥。あの3本並んだ一番右の木の、根元辺りだ。随分深く埋めてあるが……ちょっと待って』
何か、地中から〝グムッグムッ〟という、聞いたことのないような音が響く。
『うわ、根っこが邪魔だね。ホイホイホイと』
ブチブチという音の後で、更にグムッグムッという音。
その音が、だんだん近付いてくる。
『ふう。これで大丈夫だ。サラッと掘れば、すぐ出て来るよ?』
「もう、いっそ、最後まで出してくれても良いのに」
『タツヤ。共同作業っぽいほうが、感動が大きいよ?』
「そんな理由なの?!」
『あはは。いや、それもあるが〝取得する筈のないお金を手に入れる〟というのは、歴史を改変している恐れがある。救星特異点のキミがやらないと、無かった事にされるかもしれないんだ』
なるほど。僕は星を救うためなら、歴史を変えられる……ブルーより、僕がやったほうが良いのか。
「なんか、悪魔の時もそうだったけど、僕って、素手で何かするパターンがヤケに多いよな」
『ははは、本当だな。その内、特記事項に〝素手Lv8〟とか載るかもね』
「どんなスキルだよ!?」
なんとなく、人に見られたくないな、その特記事項は。
『タツヤ、容器の端が見えたぞ』
本当だ。ジュラルミンケース! ドラマでしか見たことなかったけど、お金を詰めるならやっぱりコレだ。
「ブルー。どうやって持って帰ろうか」
『ここで容器を開けて、その袋に詰め込んでほしい。容器は再び埋める』
なるほど。そのためのリュックサックか。
ジュラルミンケースを見たら、たとえば中身が餡餅だったとしても、お金が入ってるって、絶対に思っちゃうもんな。
「じゃ、開けるよ?」
僕はケースの留め金を外そうとした。しかし、錆びついていて動かない。さらに力を加えると、ボリンと音を立てて、留め金ごと刮げ落ちた。
「うわ、ボロボロ! ずいぶん昔に埋められたんだな、きっと」
左右の留め金とも、ほぼ同じ感じに壊れて外れた。ついでに持ち手もボロンと取れてしまった。
「何十年埋まってたんだ? これ」
ついにケースの蓋が開いた。中には、ビニール袋に小分けされた一万円の札束がギッシリと詰まっている!
「やった! これで僕達、大金持ちだ! あ……あれ? この一万円札……!」
なるほど、確かに、長く埋められていたのなら当たり前だ。
これはちょっと困ったぞ。
『どうした、タツヤ?』
「……全部〝旧札〟だ」
え? まだ1月1日だったの?! とか思ってしまうし、僕の場合、15年ほど巻き戻ったから、何が何だか分からないんだけど、とにかく元旦だ。
「お兄ちゃんが、私の〝チーかま〟また盗ったー!」
両親は、僕の〝転落事故〟の件で、ほぼ徹夜。
まだ寝ているようだ。
「ヒトのものを盗ったらドロボーなんだよ? おまわりさんにタイホされるんだよ?」
おばあちゃんは既に起き出してきて、お雑煮を作ってくれている。関東では、四角い餅のお吸い物が主流のようだが……
「ドロボー! おまわりさーん! ここにドロボーがいまーす!!」
ウチのお雑煮は関西ならではの、丸餅に白味噌で具だくさんな、神奈川では見かけないタイプだ。僕はどちらかと言うと味噌派なので、久しぶりに食べられるのは嬉しい。
「ドロボー! ドロボー! びっくりするぐらい盗るよー! ドロボーハッケーン!!」
実は、おばあちゃんは、このお雑煮に粒餡の入ったヨモギ餅を入れて食べる。おばあちゃん曰く〝この美味しさを知らない人は、人生の何割か損をしてる〟だそうだ。
……未だに僕は、試す勇気が持てない。
「ドーローボー! あソレ! ドーローボー! もいっちょ! ドーローボー!」
「だああああっ! うるさいな、もう! 悪かったって!」
妹の〝るり〟が、僕をジト目で見ている。
な、何だよ?
「それがドロボーした人が、あやまる時の態度ですかー?」
「……ごめんなさい。許して下さい」
「分かればよろしい。ちゃんと、〝べんしょう〟してね」
「はいはい。今日、コンビニで買ってくるから」
なんたって今日は、スゴい額のお金をブルーと掘り出しに行くのだ。冷蔵庫の上から2段目は、全部、チーかまにしてやる。
『タツヤ。目立つ行動はダメだよ?』
「冗談だよブルー。父さんと母さんに説明するのが面倒だ」
妹は歓喜するだろうが、それすらも面倒だ。
「でもさ、ブルー。拾ったお金は、警察に届けなきゃダメじゃないか?」
そういう所は、おばあちゃんの教えが生きている。
『タツヤ。これから掘り起こすのは、〝大人の理由〟で、廃棄するために埋められたお金だよ』
マジか。本当にあるんだな、そういうの。
『それを持ち主の所に持って行ったら、逆に困らせることになるだろう? だから、地球のために、有難く使わせて貰おう』
「よし。なんか良くわからないが、埋めた人も、その方が幸せなんだな!」
罪の意識が、多少和らいだ所で、母さんが起きてきた。
「お義母さん、すみません。寝過ごしてしまって……」
「ええんよー。昨日は大変やったもんなー」
おばあちゃんは、ニッコリ微笑むと、お椀を戸棚から4つ取り出した。
「お父さんは、まだ起きて来んやろから、先に朝ごはんにしよかー?」
といって、母さんに、お椀を手渡し、お鍋に餅を4つ入れる。1つは、緑色の餡餅だ。
「るりちゃん、あけましておめでとう。これ」
おばあちゃんは妹に、赤い縁取りのポチ袋を手渡す。
「やったー!! ありがとうおばあちゃん!!」
妹は、クルクル回って喜んでいる。懐かしい光景だな。
食卓にお雑煮が並び、久々の食事。あ、そういえば。
「ブルー、たしか僕って、〝摂食不要〟じゃなかったっけ」
『ああ、そうだね。でも、不要ってだけで、食べても大丈夫だよ。呼吸も不要だけど、キミ、呼吸してるよね』
そういえば確かに。というか、呼吸を止めるってチョット怖いよな。
『むしろ、美味しい食事は精神的な支えになる。しっかり食べてほしい』
「よーし! 食うぞ!」
お雑煮、美味い! またちょっと泣きそう。
こみ上げてくるものを堪えながら、僕は母さんに今日の予定を告げる。
「今日は、お昼までぶらっと散歩してくるよ」
「達也。山へは行かないで?」
母さんが、ちょっと心配そうにこちらを見て言う。
「うん、絶対に行かないよ」
僕は真顔で答えた……あ!
「ブルー。埋蔵金の場所、あの山じゃないよな?」
『違うよ?』
良かった。当分の間、山には行かないほうが良さそうだし。
「お兄ちゃん! アレ、忘れないでね!」
「おっと、了解しました」
僕は妹に、おどけた感じで敬礼してみせると、お雑煮を食べきり、箸を置いた。
「それじゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。あと、駐在さんに会ったら、お礼、言うのよ?」
「ああ、うん、分かった!」
駐在さん……埋蔵金を持った状態では、絶対に出会いたくないヒトの筆頭だ。気をつけよう。
「逹也、年明けから色々あったから、今年は気をつけやなアカンで?」
「うん、ありがとう、おばあちゃん!」
本当に色々あってビックリだ。僕は死なないから大丈夫だけど、おばあちゃんを驚かせたり悲しませたりは絶対しないぞ。
『タツヤ、所持していても違和感のない〝袋〟が必要になる』
出掛けに、ブルーに止められる。
とりあえず、リュックサックで良いかな。
「スコップとか、ツルハシとかは要らないのか?」
『うん。地表までは私が持ってくるから、あとは素手でなんとかなると思うよ?』
むしろ、〝何かを掘り起こしてます感〟は、目立つので出さないほうが良いらしい。確かに、小学生が手で地面を掘っていても、泥遊びぐらいにしか見えないな。
家を出て、リュックを片手に、ブルーの指示した場所を目指す。
『ストップ。ここを右だ』
農業用水の人工池の方へ向かう。池を回り込んだ先に、人があまり出入りしない、雑木林があるんだ。正月なら尚更、人は居ない。
『もう少し奥。あの3本並んだ一番右の木の、根元辺りだ。随分深く埋めてあるが……ちょっと待って』
何か、地中から〝グムッグムッ〟という、聞いたことのないような音が響く。
『うわ、根っこが邪魔だね。ホイホイホイと』
ブチブチという音の後で、更にグムッグムッという音。
その音が、だんだん近付いてくる。
『ふう。これで大丈夫だ。サラッと掘れば、すぐ出て来るよ?』
「もう、いっそ、最後まで出してくれても良いのに」
『タツヤ。共同作業っぽいほうが、感動が大きいよ?』
「そんな理由なの?!」
『あはは。いや、それもあるが〝取得する筈のないお金を手に入れる〟というのは、歴史を改変している恐れがある。救星特異点のキミがやらないと、無かった事にされるかもしれないんだ』
なるほど。僕は星を救うためなら、歴史を変えられる……ブルーより、僕がやったほうが良いのか。
「なんか、悪魔の時もそうだったけど、僕って、素手で何かするパターンがヤケに多いよな」
『ははは、本当だな。その内、特記事項に〝素手Lv8〟とか載るかもね』
「どんなスキルだよ!?」
なんとなく、人に見られたくないな、その特記事項は。
『タツヤ、容器の端が見えたぞ』
本当だ。ジュラルミンケース! ドラマでしか見たことなかったけど、お金を詰めるならやっぱりコレだ。
「ブルー。どうやって持って帰ろうか」
『ここで容器を開けて、その袋に詰め込んでほしい。容器は再び埋める』
なるほど。そのためのリュックサックか。
ジュラルミンケースを見たら、たとえば中身が餡餅だったとしても、お金が入ってるって、絶対に思っちゃうもんな。
「じゃ、開けるよ?」
僕はケースの留め金を外そうとした。しかし、錆びついていて動かない。さらに力を加えると、ボリンと音を立てて、留め金ごと刮げ落ちた。
「うわ、ボロボロ! ずいぶん昔に埋められたんだな、きっと」
左右の留め金とも、ほぼ同じ感じに壊れて外れた。ついでに持ち手もボロンと取れてしまった。
「何十年埋まってたんだ? これ」
ついにケースの蓋が開いた。中には、ビニール袋に小分けされた一万円の札束がギッシリと詰まっている!
「やった! これで僕達、大金持ちだ! あ……あれ? この一万円札……!」
なるほど、確かに、長く埋められていたのなら当たり前だ。
これはちょっと困ったぞ。
『どうした、タツヤ?』
「……全部〝旧札〟だ」
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