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22.いってまいります②
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シャルルの視線がオリヴィアへと向く。母に促されて、オリヴィアは一歩前へと進み出た。
「お初にお目にかかります。オリヴィア・スタジッグと申します」
「はじめまして。オレは、シャルル・スエ・ポプラルース」
「よろしくお願いいたします」
鼻にかかった甘たれた声を出しながら、オリヴィアが上目遣いにシャルルを見上げる。それに、シャルルはニコッと穏やかな笑みを返した。
「そうだね」
オリヴィアの表情があからさまに明るく嬉しそうなものになる。しかし、「キミはアイリス嬢の妹君だから」とシャルルが続けたことにより、オリヴィアはそのまま固まった。
「あぁ、そうか。ジェイデン卿の婚約者でもあったかな。どうぞ、よろしく」
明確に線を引いたシャルルに、オリヴィアは言葉が出てこずに口をパクパクと開閉する。シャルルは挨拶は終いとばかりに、オリヴィアからアイリスへと視線を移した。
「じゃあ、行こうか」
「は、い……」
シャルルはオリヴィアよりもアイリスを優先してくれた。アイリスに向かって差し出されたシャルルの手に、浮かれる気持ちが抑えられない。迷うことなくその手を取ったアイリスに、シャルルがゆるりと目尻を下げた。
「では、これで」
「失礼いたします」
「いってまいります」
「あぁ、気をつけて」
恭しく頭を下げる使用人達に見送られ、車はスタジッグ伯爵邸を出発する。シャルルは暫くの間、何事かを考えるように懐中時計を手の中で弄んでいた。
アイリスは失礼があっただろうかと考えて、心当たりがありすぎてシャルルから視線を逸らす。やはり現地集合にした方が良かったかもしれないと、申し訳なさに口元を手で隠した。
「あの……」
「ん?」
「申し訳ありませんでした。ご不快な気持ちにさせてしまい」
「……? あ~、なるほど。違うんだ。ちょっと考え事をしてて。これは、オレが悪いね」
「いえ、そのようなこと! 寧ろ、考え事の邪魔をしてしまいましたね」
「いいんだ。もう、答えは出たから」
シャルルは懐中時計に視線を遣り、ゆったりと目を細めた。その微笑みにどこか呆れのようなものが滲んで見えて、アイリスは目を瞬く。
「この懐中時計は、特別製でね。詳細はまたの機会にでも話すとして。ちょっと、確かめたいことがあったんだよ。結果が想定と違っていて、驚いたというのか何というのか……」
「確かめたいこと、ですか?」
「うん、まぁ……。オレは余所者だからね。他国の問題に干渉するつもりはないけど。公爵家の未来が心配だなぁって」
シャルルの声音は、心配というよりも呆れの方が強かった。何を確かめたのかは分からないし、教えてくれそうにもないが……。
オリヴィアを見てそう思ったのならば、“公爵家の未来”とはジェイデンのことを指しているのだろうとアイリスは結論付けた。
「妹が何か……」
「ん~……。そうだなぁ。ひとまず言えることは、罪になるようなことは犯していないってこと」
「罪!?」
「そうそう。でも、だからこそ。あの程度の、あぁ、いや、うん。まだ幼いみたいだから、きっとこれから勉強するのかな~」
アイリスとオリヴィアは二つしか歳が変わらない。シャルルの言う幼いは、貴族家の令嬢にしては内面がということなのだろう。
「お恥ずかしい話です……」
「キミが責任を感じることではないよ。スタジッグ伯爵家は伯爵位の中で上位の家門だ。どこに出しても恥ずかしくない教育を受けさせるのは、親の務めだよ」
「はい」
「まぁ、それを無駄なものにするかどうかは本人次第だけどね。向き不向きもあるから」
自嘲気味に笑ったシャルルに、アイリスは小首を傾げた。アイリスから見て、シャルルはとても優秀な人だ。実際はそのようなことは無かったわけだが、兄と苛烈な王位争いをしていると言われても不自然ではない程に。
しかしシャルルは、“オレには難しい”や“オレには向かない”と態々口に出して言うのだ。まるで、そういう風に見て欲しいとでもいうように。
「ん~、でも……。自分の上手い見せ方は分かってそうだったなぁ」
懐中時計を仕舞いながら、シャルルがポツリとそう呟く。どこまでも興味の無さそうな声音であった。
「お初にお目にかかります。オリヴィア・スタジッグと申します」
「はじめまして。オレは、シャルル・スエ・ポプラルース」
「よろしくお願いいたします」
鼻にかかった甘たれた声を出しながら、オリヴィアが上目遣いにシャルルを見上げる。それに、シャルルはニコッと穏やかな笑みを返した。
「そうだね」
オリヴィアの表情があからさまに明るく嬉しそうなものになる。しかし、「キミはアイリス嬢の妹君だから」とシャルルが続けたことにより、オリヴィアはそのまま固まった。
「あぁ、そうか。ジェイデン卿の婚約者でもあったかな。どうぞ、よろしく」
明確に線を引いたシャルルに、オリヴィアは言葉が出てこずに口をパクパクと開閉する。シャルルは挨拶は終いとばかりに、オリヴィアからアイリスへと視線を移した。
「じゃあ、行こうか」
「は、い……」
シャルルはオリヴィアよりもアイリスを優先してくれた。アイリスに向かって差し出されたシャルルの手に、浮かれる気持ちが抑えられない。迷うことなくその手を取ったアイリスに、シャルルがゆるりと目尻を下げた。
「では、これで」
「失礼いたします」
「いってまいります」
「あぁ、気をつけて」
恭しく頭を下げる使用人達に見送られ、車はスタジッグ伯爵邸を出発する。シャルルは暫くの間、何事かを考えるように懐中時計を手の中で弄んでいた。
アイリスは失礼があっただろうかと考えて、心当たりがありすぎてシャルルから視線を逸らす。やはり現地集合にした方が良かったかもしれないと、申し訳なさに口元を手で隠した。
「あの……」
「ん?」
「申し訳ありませんでした。ご不快な気持ちにさせてしまい」
「……? あ~、なるほど。違うんだ。ちょっと考え事をしてて。これは、オレが悪いね」
「いえ、そのようなこと! 寧ろ、考え事の邪魔をしてしまいましたね」
「いいんだ。もう、答えは出たから」
シャルルは懐中時計に視線を遣り、ゆったりと目を細めた。その微笑みにどこか呆れのようなものが滲んで見えて、アイリスは目を瞬く。
「この懐中時計は、特別製でね。詳細はまたの機会にでも話すとして。ちょっと、確かめたいことがあったんだよ。結果が想定と違っていて、驚いたというのか何というのか……」
「確かめたいこと、ですか?」
「うん、まぁ……。オレは余所者だからね。他国の問題に干渉するつもりはないけど。公爵家の未来が心配だなぁって」
シャルルの声音は、心配というよりも呆れの方が強かった。何を確かめたのかは分からないし、教えてくれそうにもないが……。
オリヴィアを見てそう思ったのならば、“公爵家の未来”とはジェイデンのことを指しているのだろうとアイリスは結論付けた。
「妹が何か……」
「ん~……。そうだなぁ。ひとまず言えることは、罪になるようなことは犯していないってこと」
「罪!?」
「そうそう。でも、だからこそ。あの程度の、あぁ、いや、うん。まだ幼いみたいだから、きっとこれから勉強するのかな~」
アイリスとオリヴィアは二つしか歳が変わらない。シャルルの言う幼いは、貴族家の令嬢にしては内面がということなのだろう。
「お恥ずかしい話です……」
「キミが責任を感じることではないよ。スタジッグ伯爵家は伯爵位の中で上位の家門だ。どこに出しても恥ずかしくない教育を受けさせるのは、親の務めだよ」
「はい」
「まぁ、それを無駄なものにするかどうかは本人次第だけどね。向き不向きもあるから」
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しかしシャルルは、“オレには難しい”や“オレには向かない”と態々口に出して言うのだ。まるで、そういう風に見て欲しいとでもいうように。
「ん~、でも……。自分の上手い見せ方は分かってそうだったなぁ」
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