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20.ままならないものね②
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「だから、伯爵家から連れ出して貰いなさいって言ってるのよ」
これは一人で抱えきれずに、クロエに吐露した結果の言葉である。少しの呆れを滲ませたジト目で見られて、アイリスは居心地悪そうに視線を泳がせた。
「というか、王子殿下は口説きに来たと言っていたじゃない。素直に口説かれときなさいな」
「あれは、そ、そういうのでは……」
「そういう意味じゃなければ、何なのよ」
「うぅ……」
そんなことは、アイリスが教えて欲しい。どうしてもただ単純に、舞踏会でのパートナーの件だけのことなのではと思えてならないのだ。
「仕方がないわね。わたくしの言葉を繰り返して」
「うん?」
「私は世界で一番かわいい」
「えぇ!?」
「ほら、繰り返す!」
「わ、わた、私は、かわい、い……」
「世界で一番!」
「せ、せか、世界で、いちばん??」
「私は素敵すぎる!」
「わ、わたしは、すて、き、すぎる!」
半ばやけくそ気味に、アイリスはクロエの言葉を繰り返す。
「私をエスコート出来ることを光栄に思いなさい!!」
「えぇえ!? エスコートして頂いて感謝しかございません!!」
「何でよ」
流石にそこまでの自信溢れる言葉を繰り返す度胸がアイリスにはなかった。クロエは仕方がないとでも言いたげに、溜息を吐き出す。
「あのねぇ」
「面白いことしてるなぁ」
急に入ってきた第三者の声に、アイリスもクロエも固まる。二人して、声の主へと勢いよく顔を向けた。
「お、王子殿下!?」
「あれ~? 声に出てた??」
「いつから……」
「それは秘密。話が終わるまで待ってるつもりだったんだけど」
「お待たせしてしまい」
「いいよいいよ」
シャルルは楽しげなニコニコとした笑みを浮かべながら、手をヒラヒラと振る。いったいどこから聞かれていたのだろうか。
「そうだ。自己紹介してなかったね。オレは、シャルル・スエ・ポプラルース」
「お初にお目にかかります。クロエ・マディルドと申します。よろしくお願いいたします」
「うん。よろしくね~」
頗る機嫌の良さそうなシャルルに、アイリスまで釣られて頬を緩めてしまう。目が合って、シャルルはいつものようにへにゃりと笑んだ。
「今日は、どうされたのですか?」
「待ち合わせの確認をしておこうかと思ってね。えっと……そう、くるまを王女殿下が用意してくれるそうなんだ。スタジッグ伯爵邸まで迎えに行っても大丈夫かな?」
「ええと…………」
「是非! アイリスをよろしくお願いいたします!!」
「クロエ!?」
両親と妹の顔が浮かび返事に困っていたアイリスに痺れを切らしたのか、クロエが力強くそう言い切る。狼狽するアイリスと満面の笑顔のクロエを交互に見て、シャルルは一つ頷いた。
「勿論だよ。任せてくれていいからね」
「……!?」
「感謝いたします。そうそう、流行りの正装を見に行かれるとか。でしたら、王都で有名な仕立て屋は三軒ほどありまして」
「なるほど、三軒か~。特にドレスの仕上がりが完璧な針子がいるのは?」
「そうですね……。上位貴族のご令嬢御用達でしたら、スクワロルでしょうか」
「ありがとう。じゃあ、そこに行こうかな」
「お役に立てて光栄でございます」
トントン拍子に正装を見に行く仕立て屋が決定する。アイリスは展開の早さについていけずに、オロオロとすることしか出来なかった。
「あぁ、そうだ。スタジッグ伯爵令嬢は、世界で一番かわいいよ」
「……え?」
「そのキミをエスコートできる栄誉をいただけたこと、光栄に思うね」
それは、先ほど繰り返したクロエの言葉で。アイリスは聞かれていたことを理解して、羞恥で顔を真っ赤に染め上げた。
「~~っっ、と、とんでもないことでございます!!」
しかし、シャルルの声音には冷やかすような感じはなく。柔らかな表情も相まって、アイリスは目を回しそうになったのだった。
これは一人で抱えきれずに、クロエに吐露した結果の言葉である。少しの呆れを滲ませたジト目で見られて、アイリスは居心地悪そうに視線を泳がせた。
「というか、王子殿下は口説きに来たと言っていたじゃない。素直に口説かれときなさいな」
「あれは、そ、そういうのでは……」
「そういう意味じゃなければ、何なのよ」
「うぅ……」
そんなことは、アイリスが教えて欲しい。どうしてもただ単純に、舞踏会でのパートナーの件だけのことなのではと思えてならないのだ。
「仕方がないわね。わたくしの言葉を繰り返して」
「うん?」
「私は世界で一番かわいい」
「えぇ!?」
「ほら、繰り返す!」
「わ、わた、私は、かわい、い……」
「世界で一番!」
「せ、せか、世界で、いちばん??」
「私は素敵すぎる!」
「わ、わたしは、すて、き、すぎる!」
半ばやけくそ気味に、アイリスはクロエの言葉を繰り返す。
「私をエスコート出来ることを光栄に思いなさい!!」
「えぇえ!? エスコートして頂いて感謝しかございません!!」
「何でよ」
流石にそこまでの自信溢れる言葉を繰り返す度胸がアイリスにはなかった。クロエは仕方がないとでも言いたげに、溜息を吐き出す。
「あのねぇ」
「面白いことしてるなぁ」
急に入ってきた第三者の声に、アイリスもクロエも固まる。二人して、声の主へと勢いよく顔を向けた。
「お、王子殿下!?」
「あれ~? 声に出てた??」
「いつから……」
「それは秘密。話が終わるまで待ってるつもりだったんだけど」
「お待たせしてしまい」
「いいよいいよ」
シャルルは楽しげなニコニコとした笑みを浮かべながら、手をヒラヒラと振る。いったいどこから聞かれていたのだろうか。
「そうだ。自己紹介してなかったね。オレは、シャルル・スエ・ポプラルース」
「お初にお目にかかります。クロエ・マディルドと申します。よろしくお願いいたします」
「うん。よろしくね~」
頗る機嫌の良さそうなシャルルに、アイリスまで釣られて頬を緩めてしまう。目が合って、シャルルはいつものようにへにゃりと笑んだ。
「今日は、どうされたのですか?」
「待ち合わせの確認をしておこうかと思ってね。えっと……そう、くるまを王女殿下が用意してくれるそうなんだ。スタジッグ伯爵邸まで迎えに行っても大丈夫かな?」
「ええと…………」
「是非! アイリスをよろしくお願いいたします!!」
「クロエ!?」
両親と妹の顔が浮かび返事に困っていたアイリスに痺れを切らしたのか、クロエが力強くそう言い切る。狼狽するアイリスと満面の笑顔のクロエを交互に見て、シャルルは一つ頷いた。
「勿論だよ。任せてくれていいからね」
「……!?」
「感謝いたします。そうそう、流行りの正装を見に行かれるとか。でしたら、王都で有名な仕立て屋は三軒ほどありまして」
「なるほど、三軒か~。特にドレスの仕上がりが完璧な針子がいるのは?」
「そうですね……。上位貴族のご令嬢御用達でしたら、スクワロルでしょうか」
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「あぁ、そうだ。スタジッグ伯爵令嬢は、世界で一番かわいいよ」
「……え?」
「そのキミをエスコートできる栄誉をいただけたこと、光栄に思うね」
それは、先ほど繰り返したクロエの言葉で。アイリスは聞かれていたことを理解して、羞恥で顔を真っ赤に染め上げた。
「~~っっ、と、とんでもないことでございます!!」
しかし、シャルルの声音には冷やかすような感じはなく。柔らかな表情も相まって、アイリスは目を回しそうになったのだった。
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