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18.あまりにも失礼です!!②
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シャルルは慌てて走って来たのか、少し息が乱れているようであった。未だに床に座り込んでいるジェイデンと、困り果てているアイリスを交互に見て、最後に宙に浮く水へとシャルルは視線を遣る。
「うわぁ……。びっくりするくらい怒ってる」
シャルルが手を差し出すと、水の塊はその手の平の上に移動する。「うん、それで? うん」とシャルルは相槌を打ちながら、精霊の話を聞いているようであった。
「へぇ?」
瞬間、空気が不穏に揺れた気がした。シャルルの鋭く細まった瞳といつもよりも低い声に、アイリスは唾を呑む。
しかしそれは一瞬のことで、剣呑な空気もシャルルの雰囲気も嘘のように元通りになる。シャルルはいつも通り、隙のない笑みをその顔に浮かべた。
「大丈夫かな? 必要ならば手を貸そうか?」
「いえ! お見苦しい所をお見せしました」
ジェイデンは慌てた様子で立ち上がり、さっと身なりを整える。先程とは打って変わって、にこやかに笑った。
「王子殿下は、何故こちらに?」
「あぁ、精霊が呼びに来たんだよ。焦った様子で早く早くと急かすものだから、只事ではないと思ってね」
「精霊、が……?」
「精霊はスタジッグ伯爵令嬢が好きみたいでね。あまり意地悪をしないことだ。次はもっと痛い目を見ることになりそうだよ」
どこまでも柔和な声音と発言の内容が合致しなくて、ジェイデンは上手く呑み込めなかったのかポカンとした顔をする。やはり精霊は、アイリスの味方をしてくれていたようだ。
周囲の木々を揺らしていた風は止み、今はシャルルの周りだけを漂っている。柔らかそうな猫っ毛がふわふわと風に揺れていた。
只者ではない感とでも言えばいいのか。それを感じたらしいジェイデンの瞳に滲んだのは、魔法使いへの恐怖であった。
「それは、脅しですか」
「人の親切をそのように言うものではないよ。感心しないな、ジェイデン卿」
「それは失礼しました。では、お礼に俺からも“親切”を。その女は止めておかれた方がよろしいかと。実の妹を虐げる最低で卑しい女ですからね」
その言葉に、アイリスは傷付いた顔で俯く。シャルルにだけは、知られたくなかった。内容の真偽やシャルルが信じる信じないかよりも、そのような話があるということ自体が恥ずかしくて堪らなかった。
「親切心は受け取っておくよ。でも、心配はしないで欲しい。オレには人を見る目がある、そう自負しているからね」
何のてらいもなく、当たり前のことを言うような声音だった。それに、ジェイデンは返す言葉が見つからなかったらしい。焦燥を滲ませながらも押し黙った。
「卿は次期公爵だ。未来の公爵夫人足る人物かどうか、婚約者の身辺はしっかりと調査したんだよね?」
「それは、どういう……」
「ちょっとした忠告だよ。卿の歳が離れた弟君は、優秀だそうだね。最近は、お父上のようになりたいと更に自己研鑽に励んでいるとか」
シャルルの言葉の端々に棘のようなものが見え隠れする。言葉の裏に込められた意味が分からないほど、ジェイデンもアイリスも幼くはなかった。
「……ご忠告、痛み入ります」
「構わない。卿によい結果がもたらされることを祈ってるよ」
ジェイデンはシャルルに一礼すると、顔色悪く去っていく。その後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認し、シャルルは脱力したように大きな溜息を吐き出した。
「似合わないことは、するものじゃないね~」
「ええと……? とても堂々としていらっしゃって」
「そうかな~? オレにこういうのは、向かないよ」
一変して、軽い調子になったシャルルの声にアイリスはキョトンと目を瞬く。シャルルは心底困ったように、眉尻を下げたのだった。
「うわぁ……。びっくりするくらい怒ってる」
シャルルが手を差し出すと、水の塊はその手の平の上に移動する。「うん、それで? うん」とシャルルは相槌を打ちながら、精霊の話を聞いているようであった。
「へぇ?」
瞬間、空気が不穏に揺れた気がした。シャルルの鋭く細まった瞳といつもよりも低い声に、アイリスは唾を呑む。
しかしそれは一瞬のことで、剣呑な空気もシャルルの雰囲気も嘘のように元通りになる。シャルルはいつも通り、隙のない笑みをその顔に浮かべた。
「大丈夫かな? 必要ならば手を貸そうか?」
「いえ! お見苦しい所をお見せしました」
ジェイデンは慌てた様子で立ち上がり、さっと身なりを整える。先程とは打って変わって、にこやかに笑った。
「王子殿下は、何故こちらに?」
「あぁ、精霊が呼びに来たんだよ。焦った様子で早く早くと急かすものだから、只事ではないと思ってね」
「精霊、が……?」
「精霊はスタジッグ伯爵令嬢が好きみたいでね。あまり意地悪をしないことだ。次はもっと痛い目を見ることになりそうだよ」
どこまでも柔和な声音と発言の内容が合致しなくて、ジェイデンは上手く呑み込めなかったのかポカンとした顔をする。やはり精霊は、アイリスの味方をしてくれていたようだ。
周囲の木々を揺らしていた風は止み、今はシャルルの周りだけを漂っている。柔らかそうな猫っ毛がふわふわと風に揺れていた。
只者ではない感とでも言えばいいのか。それを感じたらしいジェイデンの瞳に滲んだのは、魔法使いへの恐怖であった。
「それは、脅しですか」
「人の親切をそのように言うものではないよ。感心しないな、ジェイデン卿」
「それは失礼しました。では、お礼に俺からも“親切”を。その女は止めておかれた方がよろしいかと。実の妹を虐げる最低で卑しい女ですからね」
その言葉に、アイリスは傷付いた顔で俯く。シャルルにだけは、知られたくなかった。内容の真偽やシャルルが信じる信じないかよりも、そのような話があるということ自体が恥ずかしくて堪らなかった。
「親切心は受け取っておくよ。でも、心配はしないで欲しい。オレには人を見る目がある、そう自負しているからね」
何のてらいもなく、当たり前のことを言うような声音だった。それに、ジェイデンは返す言葉が見つからなかったらしい。焦燥を滲ませながらも押し黙った。
「卿は次期公爵だ。未来の公爵夫人足る人物かどうか、婚約者の身辺はしっかりと調査したんだよね?」
「それは、どういう……」
「ちょっとした忠告だよ。卿の歳が離れた弟君は、優秀だそうだね。最近は、お父上のようになりたいと更に自己研鑽に励んでいるとか」
シャルルの言葉の端々に棘のようなものが見え隠れする。言葉の裏に込められた意味が分からないほど、ジェイデンもアイリスも幼くはなかった。
「……ご忠告、痛み入ります」
「構わない。卿によい結果がもたらされることを祈ってるよ」
ジェイデンはシャルルに一礼すると、顔色悪く去っていく。その後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認し、シャルルは脱力したように大きな溜息を吐き出した。
「似合わないことは、するものじゃないね~」
「ええと……? とても堂々としていらっしゃって」
「そうかな~? オレにこういうのは、向かないよ」
一変して、軽い調子になったシャルルの声にアイリスはキョトンと目を瞬く。シャルルは心底困ったように、眉尻を下げたのだった。
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