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ゼロ日目、事件の始まり。
少女は言った「終わりの始まり」
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ソコラノ高校の朝は早い。部活動が活発な学校の朝練ともなると「早めにきて準備する」という層はさらにその前に現れるし、早朝は交通機関の便数が少ないせいで、いつもの電車一本分という数分前の到着のイメージでも一時間は余裕で前に来る羽目になる。たった数分のために電車は一時間前に、その電車駅にいくバスの数の少なさでもはや二時間前。自転車を選択せざるをえないが、かぎられた駐輪場を一年坊主が使うことは許されないため、時間も予算も捨て続けなくてはならない。家から最寄りの駅までを自転車にすればいいだけの話なのだが、生徒の作る伝統とはおそろしいもので、ソコラノ高校の一年生が駐輪していると在校生か最悪なことに卒業生までもが「生意気だ、自分たちのことはもっときつかった」と自転車を解体してしまうという地域性だ。不良校ではないが、むしろ殴れば終わりの有名ヤンキー校のような乾燥したところもなく、どろりと陰湿な悪い意味での田舎だった。誰もが若い頃に逃げがしたいと思うような土地で、そのまま大人になったものがどんな人間になっているか。ただ要る住人はいいだろう、だが少なくとも逃げ出すことを考えた人間だけに注目して語るなら「残り物」「取り残されたもの」「出ていく力のない者」「ここでしか生きられない者」何種類かいたとしてもろくなものではなかった。
そんな田舎はどこだよという興味には応えることができない。これから語る惨劇と、そしてこれが感染してしまえばいいとおもっている語り部が、土地を明かすことはない。近くの地域の人間に警戒されたり、もし賢い人が土地の変遷で次の土地の予測を始めたら困るのだ。ただ、横溝正史の映画のように田園風景に地方豪族が君臨するような世界ではないことは明かそうと思う。この記録に触れてくれた九割の人間が、暮らすか通うかしているであろう、ありきたりの中産階級のための郊外だ。名前はわざわざ改変はしない、すべて本名だ。その理由はあとで書くが、世の中の同姓同名のどれとも関わりがない。インターネット検索で、様々な条件が一致する情報が出たとしても、絶対に無関係であると言い切れる。理由がある。それはこの記録がフィクションだからといことではない。あとでわかる。
前置きが長くなったが、その日、ソコラノ高校の一つの教室にざわめきが起きていた。通常の登校が早めのメンバーに、朝練が終わるのが早い層が加わりだす微妙な時間。教室の時計がなく、だれの携帯機器もすべて電源がおちていて、誰のものも何度試しても起動しない。人数が増えてくるにしたがい、腕時計を忘れずつけてくるタイプの生徒たちがそれを忘れているというおかしな状況になっていた。おかしいな、駅で時間をみた記憶があるから、落としたのかなと。いつもどおりの動きをしているために、時計がなくても問題なく動けたのかもしれないけれど…
「みんなっておかしくない?」
「ほかのクラスは大丈夫なん?」
「なんよそれ、そこまで全体やったら宇宙人だよ…偶然、偶然。うけるし」
みな口々に言っていたが、なぜだろうか教室にはいってその異変を知ったあとは誰も外に出なかった。それこそほかのクラスはどうなのかと見にいけばいいのだが、もし皆同じと気が付いてしまえば意味不明な状況をどう受け止めればいいかわからなくなる。こわいのだ。認めたくない怪奇現象を確認にしてしまうなんて、誰もできない。
「えー、でも怖いね、寝てる間に時計禁止令的ななにかが出てたの?」
場の空気を換えたのは、華奢な小指で鼻くそをほじっていた深山明子だった。女孫悟空とは的確なあだなで、かたい毛をベリーショートにし、潮風で金髪にちかいところまで明るくなった髪と褐色の肌に、白く大きな歯が輝き、目は燃える炎を宿したように明るい。健康的な肉体に似合わず発作的な頭痛に悩まされているところも、まるで仏の力で戒められる孫悟空そのものだと本人はネタにしている。さて、その明子の褐色の肌には、腕時計がまかれていた。と思いきや、それは完璧な日焼けのせいで腕時計がはまってみえるだけで、ほかの生徒たちと同じように時計がなかった。
「正直さ、体が覚えてるっての?いつもどおりにっ準備するから、何かわすれてるとか感じないんだよねー…でもさー、気が合うとか通り過ぎてるよね、この人数みんな一緒なんてさ」
女孫悟空の言葉を聞いて、ペットボトルのお茶からチュポンと音を立てて口を離したのは、吉良砂沙美だった。小学校から膨らみだした豊満な胸は、「胸肉ササミ見切り品」などとからかわれてきたが、高校生にもなると周囲の発育との格差をみせつけ、もうからかうものはなく素直に称賛する。深山明子とおなじく日焼けした髪をながくのばし、校則にしたがいきれいに二本の三つ編みに結ってる。色で目立つ分、校則には人一倍慎重に従おうと心がけ、地味を基調としているが、性格がどうしても地味とはかけはなれた、いわば天然の類だった。その吉良砂沙美は些細な仕草でも、大きな胸が揺れる。ペットボトルを置くと同時に、手の高さで上がっていた胸も机におりてどちらの音かわからない重量感のある音が響いた。それから、隣の孫悟空に笑いかけた。
「腕時計はわかんないけど、一斉にスマホしぬのって、放射能とかよくわかんないけどそういうのが出て電波障害おきてるんじゃないの?わかんないけど、昼休みか帰りまでには復旧するとおもうんだよねー」
「そだね、よくわかんないけど。言っても仕方ないし、放射能はさすがにないけど、ヤバイ時には警報でるし、なんも困ることないよ」
クラスのなかでも、ルックスの明るい二人の楽観的な表情は、その様子が乗った声が届く範囲のことではあるが、しかし確かに何をいっても仕方がないという状態に生徒たちの心を落ち着かせることができた。
「どーせ授業中に触れないんだしさ、壁の時計は先生に任せればいいもんね」
などと、ぽつぽつと生徒たちの口からでてくる。
それでいい、いまはまだ不安になっていい場面ではない、早すぎる。
教室の真ん中の席で、身長も成績もルックスも平均的(ということになっている、比較的に姿が整っているが、髪型が違反扱いされないことが今一つ微妙なぐらいに半端に髪が伸びている様)な少年は、そんな教室をぐるりと見渡した。携帯類を持っていないので正直よくわからないが、祖父の形見の腕時計が消えたのは困ると思っている。数分おきに手首をなでる癖があり、それを治すために腕時計をまいていた。感触で触っている自分を意識して、治していこうと。そんな彼なので、教室にはいることに緊張していた。教室のドアをあける直前に、必ず儀式のように手首をなでる。その時には腕時計の感触があった。ドアを開けると、すでに登校している生徒たちが一斉に自分を見て、なにかただならぬことが起きていることは分かった。おもわず手首をなでた、そして腕時計がなくなっていることに気が付いた。
このクラス、教室で、なにかが起きている。少年は自分の身に起きたことを口に出す勇気はなく、かといって黙っていることも後ろめたく、ただ手首があつくなるほどなでまわしていた。山下飛翔そんな読み方などないということに本人がずっと恥じらっており、文字通りのヒショウと周りに呼ばせている。そのうち役所に修正の申請をだすつもりなのだそうだが、この記録では文字の上では漢字表記をしていこう。ではなぜ、ヒショウなり飛翔で紹介しないのかといえば、もちろん今後の出来事に関わるので、正直にあらかじめ話しておいた。
現在の時刻を記載することは難しいが、現時点で確認できる動きはこのぐらいだろう。
そんな田舎はどこだよという興味には応えることができない。これから語る惨劇と、そしてこれが感染してしまえばいいとおもっている語り部が、土地を明かすことはない。近くの地域の人間に警戒されたり、もし賢い人が土地の変遷で次の土地の予測を始めたら困るのだ。ただ、横溝正史の映画のように田園風景に地方豪族が君臨するような世界ではないことは明かそうと思う。この記録に触れてくれた九割の人間が、暮らすか通うかしているであろう、ありきたりの中産階級のための郊外だ。名前はわざわざ改変はしない、すべて本名だ。その理由はあとで書くが、世の中の同姓同名のどれとも関わりがない。インターネット検索で、様々な条件が一致する情報が出たとしても、絶対に無関係であると言い切れる。理由がある。それはこの記録がフィクションだからといことではない。あとでわかる。
前置きが長くなったが、その日、ソコラノ高校の一つの教室にざわめきが起きていた。通常の登校が早めのメンバーに、朝練が終わるのが早い層が加わりだす微妙な時間。教室の時計がなく、だれの携帯機器もすべて電源がおちていて、誰のものも何度試しても起動しない。人数が増えてくるにしたがい、腕時計を忘れずつけてくるタイプの生徒たちがそれを忘れているというおかしな状況になっていた。おかしいな、駅で時間をみた記憶があるから、落としたのかなと。いつもどおりの動きをしているために、時計がなくても問題なく動けたのかもしれないけれど…
「みんなっておかしくない?」
「ほかのクラスは大丈夫なん?」
「なんよそれ、そこまで全体やったら宇宙人だよ…偶然、偶然。うけるし」
みな口々に言っていたが、なぜだろうか教室にはいってその異変を知ったあとは誰も外に出なかった。それこそほかのクラスはどうなのかと見にいけばいいのだが、もし皆同じと気が付いてしまえば意味不明な状況をどう受け止めればいいかわからなくなる。こわいのだ。認めたくない怪奇現象を確認にしてしまうなんて、誰もできない。
「えー、でも怖いね、寝てる間に時計禁止令的ななにかが出てたの?」
場の空気を換えたのは、華奢な小指で鼻くそをほじっていた深山明子だった。女孫悟空とは的確なあだなで、かたい毛をベリーショートにし、潮風で金髪にちかいところまで明るくなった髪と褐色の肌に、白く大きな歯が輝き、目は燃える炎を宿したように明るい。健康的な肉体に似合わず発作的な頭痛に悩まされているところも、まるで仏の力で戒められる孫悟空そのものだと本人はネタにしている。さて、その明子の褐色の肌には、腕時計がまかれていた。と思いきや、それは完璧な日焼けのせいで腕時計がはまってみえるだけで、ほかの生徒たちと同じように時計がなかった。
「正直さ、体が覚えてるっての?いつもどおりにっ準備するから、何かわすれてるとか感じないんだよねー…でもさー、気が合うとか通り過ぎてるよね、この人数みんな一緒なんてさ」
女孫悟空の言葉を聞いて、ペットボトルのお茶からチュポンと音を立てて口を離したのは、吉良砂沙美だった。小学校から膨らみだした豊満な胸は、「胸肉ササミ見切り品」などとからかわれてきたが、高校生にもなると周囲の発育との格差をみせつけ、もうからかうものはなく素直に称賛する。深山明子とおなじく日焼けした髪をながくのばし、校則にしたがいきれいに二本の三つ編みに結ってる。色で目立つ分、校則には人一倍慎重に従おうと心がけ、地味を基調としているが、性格がどうしても地味とはかけはなれた、いわば天然の類だった。その吉良砂沙美は些細な仕草でも、大きな胸が揺れる。ペットボトルを置くと同時に、手の高さで上がっていた胸も机におりてどちらの音かわからない重量感のある音が響いた。それから、隣の孫悟空に笑いかけた。
「腕時計はわかんないけど、一斉にスマホしぬのって、放射能とかよくわかんないけどそういうのが出て電波障害おきてるんじゃないの?わかんないけど、昼休みか帰りまでには復旧するとおもうんだよねー」
「そだね、よくわかんないけど。言っても仕方ないし、放射能はさすがにないけど、ヤバイ時には警報でるし、なんも困ることないよ」
クラスのなかでも、ルックスの明るい二人の楽観的な表情は、その様子が乗った声が届く範囲のことではあるが、しかし確かに何をいっても仕方がないという状態に生徒たちの心を落ち着かせることができた。
「どーせ授業中に触れないんだしさ、壁の時計は先生に任せればいいもんね」
などと、ぽつぽつと生徒たちの口からでてくる。
それでいい、いまはまだ不安になっていい場面ではない、早すぎる。
教室の真ん中の席で、身長も成績もルックスも平均的(ということになっている、比較的に姿が整っているが、髪型が違反扱いされないことが今一つ微妙なぐらいに半端に髪が伸びている様)な少年は、そんな教室をぐるりと見渡した。携帯類を持っていないので正直よくわからないが、祖父の形見の腕時計が消えたのは困ると思っている。数分おきに手首をなでる癖があり、それを治すために腕時計をまいていた。感触で触っている自分を意識して、治していこうと。そんな彼なので、教室にはいることに緊張していた。教室のドアをあける直前に、必ず儀式のように手首をなでる。その時には腕時計の感触があった。ドアを開けると、すでに登校している生徒たちが一斉に自分を見て、なにかただならぬことが起きていることは分かった。おもわず手首をなでた、そして腕時計がなくなっていることに気が付いた。
このクラス、教室で、なにかが起きている。少年は自分の身に起きたことを口に出す勇気はなく、かといって黙っていることも後ろめたく、ただ手首があつくなるほどなでまわしていた。山下飛翔そんな読み方などないということに本人がずっと恥じらっており、文字通りのヒショウと周りに呼ばせている。そのうち役所に修正の申請をだすつもりなのだそうだが、この記録では文字の上では漢字表記をしていこう。ではなぜ、ヒショウなり飛翔で紹介しないのかといえば、もちろん今後の出来事に関わるので、正直にあらかじめ話しておいた。
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