狩者競争

ゲル純水

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イチ日目の思い出

木漏れ日のささやき「君は、そして僕は」

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記録者は、まだクラスの人間のすべての言動をあかせていない。
だが、関係者の資料を公開していく中で、お気づきのかたがおられると、わかっている。

四条薫シジョウ・カオル

最初の犠牲者である赤木園枝について証言をしたクラスメイトでありながら、彼女の名前が名簿にないことを。彼女は短期間の交換留学生で、通常の出席名簿にはシールで張り付けられているが、静馬に渡された名簿にはその手作業がされておらず掲載されていなかった。静馬は顔と名前が完全一致はしておらず、また欠席者がいるとはおもっていなかったことで人数の帳尻があってしまっていることで、名簿にない人間がいるということ自体おもいもしていなかった。


まもなく、高橋や月形と一緒に資料をまとめることになるので、そのことはすぐに修正されるはずだ。

さて、記録者は話題に上がっているのに名前を記載していない生徒について、振り返って書こうとしている。

アプリが勝手にインストールされていたあの日。
赤木はいつも通り、ゲームをしながらクラスメイトの何人かと同時通話をしていた。その中に、澤田一馬もいた。ゲームが好きといっても色々あるが、いわゆるサバイバルゲームのようにプレイヤー同士が撃ち合うタイプのゲームが好きなグループだ。

このグループと思ったことはなんでも口からでてしまう四条の性格は相性が悪い。思う内容がばかばかしければ、正直者でいられる。知能や常識のセンスにずれがあれば、いやな奴になってしまう。

では、実際の仲はどうなのか。

四条と赤木は小学校の頃の塾が同じで、学校は別々だった。
名簿にいない理由でもあるが、系列校の交換留学制度で短期間合流している。だから、名簿の中の一名は他校にいる。アプリが四条に届いていることでわかるように、他校にいる一名は巻き込まれておらず無事であることは確認されている。

数日に一度は夜まで話す仲だったが、いまはゲームをしながらグループ通話をするようになった。四条はゲームをしながらではないうえに、ゲーム中の会話は当然プレイのための意思疎通が増えていくので、その場に混ざってはいるが発言機会は少ない。機会が少ないので、湿原をしないかといえばそうでもない。口数が少なければそれはそれで浮くし、一人だけゲームもしないのに混ざっていることも浮いているし、どうしたってうまく混ざらないのだ。

「居心地悪い」

と、正直に口から出た時、赤木は大笑いをした。

紅一点になってしまうから居てほしいとか、この手のゲームを女子が「好き」というとすぐに「元カレの影響」「もてたくてやってる」と男女から馬鹿にされていやだからともいっていた。いっそ友達グループがその人数でできるゲームを始めたような印象に変えたいのだとか、そんなことを言っていた。

「好きだって言わなければいい、それで学校と関係ないひととフレンド登録してさ、そのうち本当に仲良くなれば友達は友達だしさ」
「それはほら、私ほかに趣味が何もないから」
「趣味がない人ってのもたしかにさみしいって言われるね」
「でしょ、暗いって思われるのも嫌だし、自己紹介っていっても班のだからとおもっていったら、めちゃくちゃ言われてすっごいわけわかんないしイやだし、なんかもうさ」
「まぁ、いわれる趣味よ。しゃーなしいわ、あんたがアホだった」

あの日の夕方、ちょうどそんな会話をしていた。

他愛ない。

それから、それぞれ夕飯だお風呂の時間があって、心当たりのないアプリが入っているという話題になる。四条は集中してやりたい作業があって今日のグループ通話には参加しないことにして、どうなるかは明日直接話そうと思っていた。

「知らないアプリが勝手にインストールとか、たまにあるよ普通に」

四条は独り言まじりに、リビングのデスクトップパソコンで作業をしていた。四条家は家に1台だけリビングに据え置き型でパソコンを置いている。母親が産休が取れずに在宅勤務になったときに購入したものだ。会社の備品が支給されるわけではないことに驚いた。金銭的な問題より、会社側のセキュリティ手の観点から、それでいいのかと父親はずいぶん驚いたそうだ。いまはその会社も辞めているが、そういう経緯のパソコンなので、もう何世代も古く、買い替えたほうが維持メンテナンスの費用や労力は、一年程度で元が取れてしまいそうだった。

「広告表示に手が当たって、アプリのダウンロード画面になることもあるし、戻ろうとしたときにその広告のじゃない関連表示のところに手が触れてて気が付いたら入ってたことがあったし、うん」

「あらあら、それはうっかりだわね」

独り言に声が返ってきても、四条は驚かない。リビングなので母親だ。もう家族は慣れているので、独り言に驚きもしないし聞こえてはいるが基本的にはスルーしている。ただ、耳に入る程度の音量はすべて聞こえてはいる。時には声をかけることもあるし、独り言を言う側も共有スペースでの独り言なので声をかけれれるのは当たり前だと思っている。四条家は仲が良い。

「スマホは、それだけが苦手なのよね。正直、私はゲームとかもしないから地図が大きい画面で見やすいぐらいしかメリットがないみたい」

と、いつものように言葉に出してあわてて否定する四条。

「あ、え、いやごめんね、まだつかえるのに高いのに買い替えてもらったのに、自分には早かったなって」

分かっていて、母親は笑いながら、隣だが画面が見えないように机に背中をあてる方向で、同じように丸椅子に座った。

「いいのよ。使ってみたからわかったことだし、お店のサイトとかもガラケーで表示できないところはふえていってるから」


あたらしい洗剤のにおいがした。最近、特売で見つけた新発売の洗剤で、さっきまで食器を洗っていた。

「ところで、赤木さんもあんたも同じときに知らないアプリが入ってたの?大丈夫?変なことにまきこまれてないでしょうね?」

「うーん、タイミングが一緒ってことは、メッセージアプリでやりとりしてるときかなとおもう。変な詐欺とかウイルス?みたいなのじゃないとおもいたいなー、たぶん広告さわったんだとおもうんだ」

「そう?気になることがあったら、いつでも声かけてよね」

「気づけなかったらどうしよう」

娘は別にこのアプリが今後どうなるかなどこの段階では思っておらず、単純に今後の将来のことを考えて不安を漏らした。そのことは母親もわかっている。

母親の立場でいえば、恵まれている。引きこもりではない子供がいて、専業主婦で、大きな病気もしていないし、持ち家は先代のもので相続税とローンの残りは同じく相続したお金とで相殺して、古い家だけをもらった形。固定資産税があるとはいえ、賃貸の時代と安心感が違う。この環境は、帰る場所としては強いものであり、挑んでいく参考としてはハードルが高い。時代は変わった。娘が自分の将来設計として、親と同じように働いて結婚して家があってなんて、平均的な「基本パック」の生き方を意識するのは、本当にきつい。

「あんたは大丈夫よ、たぶん」

母親はにっこり笑って、その場を離れた。テレビ前のソファで本を読みながらなんとなく見守るというのも「基本パック」かもしれない。四条家は平和で、まさか赤木家で惨劇が起きていようなどとは思わなかった。











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