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ミッカ目、本番ですよ。
蛙とびこみ「大人なんて、幾つをいうのか」
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「最上先生がお見えになるとは」
「私を知ってる子がいるとは」
おどろきだわ、と、声が揃う。最上と東実習生であるが、彼女は最上の生徒ではない。読者である。
「先生の『ヒトオオカミのかかと落とし』最高でした。というか、お守りとして持ち歩かせていただいております、ほら」
効果音をつけるなら『ずもっ』というところか、ジャージの胸元からハードカバーの書籍を引き抜く東実習生。「学業成就」と刺繍した巾着袋はまさにお守りの形をしているが、学業成就よりもドラマでよくある「これのお陰で助かったぜ」と10段から守る手帳にも見える。分厚い。そして本を抜くと胸のボリュームが一気にそれこそ本のように平たくなるということには、触れないでおくが、このことは後々関わってきそうなので省かずに記録しておく。
「うぉぉぉ、それは(あまりに売れなくて全国の書店さんから編集者へ返本されたので)幻の」
「先生がおられるなら百人力です、解決しましょう、生徒たちを無傷でクリアさせましょう、一緒に!」
東実習生がこぶしを握ったところで、かかえていた名簿やメモのつまったファイルがバフンと音を立てて落ちた。巻き込まれた哀れな大学生のようで、本人なりに積極的に攻めに出ているところは、役立たずの担任や教頭よりもはるかに『居る意味のある大人』といえる。生徒たちにとって、大人は『自分のセカイに存在する意味があるのかないのか』で常に審査されている。
さて。ここは、東実習生の持ち場でもある小道具レンタルを兼ねた基地だ。この状況下でも大学に戻すことができず、かといって引率とはいえ前線に立たせるのは過酷ではないかということで、このようになっている。人が死ぬリスクがある現場であるし、彼女は「先生」とよばれていようが学生なのだから。その小道具に「空き缶」というものを思いついて、東実習生はオレンジジュース・最上准教授はカフェオレを飲みながら立ち話をしていたところだった。
「会議があったそうですな。私も大学のほうに届をだしてきたから。今日これからはここの問題に常駐できるようになったんだが、」
とまで語った最上准教授は、パイプ椅子をひらく。ガツンと重い音がした。座る勢いで椅子がミチミチと異音をもらしたが、この初老は肥満どころかやせすぎの部類だった。
「ゴールが見えないというのは気持ちが悪いものだね」
「はい、何がダメなのかわからないという点は、すべきこと『だけ』をおこなえば回避できるということで、生徒たちの行動の方針は決まってます。その考え方のうえで、勘違いでルールをおかしかねないという落とし穴もあるにはあるのですが」
「出題をきいて、間違えないものを渡す。ということができないのがつらいな」
そんなことをしたら、試合でもゲームでもなんでもなくなる。あの妖精が黙っていないことぐらい、准教授にもわかっている。なんなら「本人にしか回答できない内容」が増えてくのも目に見えている。
「なにかをすれば終わるのか、一定期間を経過すれば自動的に終わるのか、それだけでも知りたいのですが。私の知っている範囲では、その情報がありません」
「うん、そうか。そういえばね、この情報は共有されてるんだろうか」
最上准教授が自分のタブレット端末を出して、ひとつのサイトを表示させた。
「匿名掲示板のまとめサイトですか
001:さすらいの名無しさん
知らないアプリがインストールされてたんだがw
半年ぐらい引き出しの中に放置してたガラケーがあるんだが、充電したら知らないアプリがはいってた
いれてたやつが電源入れたと同時にアップデートされたわけでもないし
そのアプリじたい検索しても情報がない怖いんだが
002:さすらいの名無しさん
という夢をみたのか
003:さすらいの名無しさん
彼女のいたずらじゃないの(ただし彼女とは脳内のみに存在するものとする)
004:さすらいの名無しさん
検索しても出ないって気持ち悪いな、調べるからタイトル教えてよ
なるほど、しかもこの主が書き込もうとしてもできないし、相談が進むにつれて主自身がなにか壊れてる感じがするとブログの編集者が書いてますね。先生は、これが同じアプリの件ではないかと?」
「うぅむ、なんともわからない。情報源は月川君なんだが、この最初の書き込み主らしき人物を特定したらしくてだね」
「え?割と重要な情報じゃないですか?初耳です」
外で何かの鳥がキィーと啼いた。
「不確定だから、動揺を誘わないように伏せているんだと思うが」
老紳士は周囲の物音に耳を澄ませ、生徒が物陰にもいないことを確認した。今更だが。
「記事は8年前。覚えているかは知らないが、君もおそらく知ってるんだ」
「え?」
「新型インフルエンザで、島の高校が全滅した事件。全滅といっても全校生徒が2桁しかいない学校だが」
そういえば、当時自分たちも学校で予防接種だクリーン活動だと影響を受けた記憶はある。と、東実習生はうなずいた。
「当時も言われてはいたんだ。なぜ高校生限定なのか。食中毒じゃあるまいし、どの家族にも高齢者や幼児も誰も同じ型の報告はでていない。その高校だけで全滅。そこで、インフルエンザではなくて細菌兵器ではないかなどの噂がたったほどだよ」
「では、あのアプリのことを書き込んだのは、その新型インフルエンザで亡くなった高校生?」
「の一人だ。そこから、クラスメイトのSNSや、個人掲示板など、他人が見ることが可能な範囲で、月川君がさぐったところ、何人かそれらしき記述をしているのをみつけてね。たとえば
危なかった。私が答えるつもりだった人形、かなこが先に持っていこうとするし、別の場所だし。
これしかないから、順番とか無理。
>みきCHAN どうしたの?発表会?
言えないけど、なんかパシリてかやばいかんじの。
>みきCHAN 島でも不良いるんだ?やくざ?危なかったら警察に
あははそうだね、あんがと。それでなんとかなるならしてるけどね(爆
こんな感じで、直接的ではないが怪しい記載が同じ時期に集中している。君たちも、事件に関することを書き込もうとするとできないし、他言しようとするとペナルティがくる、ときいてる。この新型インフルエンザが嘘で、本当はアプリのしわざなら、きっと同じ制限をうけてたんだろうとおもう」
缶ジュースが空き缶になる。あとで洗っておこうと、東実習生は缶を机の隅によせた。
「全滅で終了ということなんですか」
「何かしらの理由で全滅して、継続不能になって終わったのか、終了条件に全滅が含まれていたのか」
「後者は最悪ですね」
「最悪でいえば、『自分の命を捧げればどんな願いも必ず叶う』という呪いで、誰かが全校生徒を滅したちか、漫画でありそうだとおもったんだが。とにかく、全滅からさぐるのは難しいことだ」
東実習生は、人の目に触れるリスクを考えてメモをせずに心に記憶した。しかし、この情報が准教授レベルが見つけたのではなく月川がみつけたということを忘れてはいけない。クラスの中に、同じことに気が付き、胸に秘めている生徒がいる。相談しようにも、事態を知っている範囲の人間で、動揺せずに、自分の発見からプラスの情報をくみ出してもらえる相手なんかいるだろうか。その生徒は探している、きっといまごろ合流していると思うが。
「私を知ってる子がいるとは」
おどろきだわ、と、声が揃う。最上と東実習生であるが、彼女は最上の生徒ではない。読者である。
「先生の『ヒトオオカミのかかと落とし』最高でした。というか、お守りとして持ち歩かせていただいております、ほら」
効果音をつけるなら『ずもっ』というところか、ジャージの胸元からハードカバーの書籍を引き抜く東実習生。「学業成就」と刺繍した巾着袋はまさにお守りの形をしているが、学業成就よりもドラマでよくある「これのお陰で助かったぜ」と10段から守る手帳にも見える。分厚い。そして本を抜くと胸のボリュームが一気にそれこそ本のように平たくなるということには、触れないでおくが、このことは後々関わってきそうなので省かずに記録しておく。
「うぉぉぉ、それは(あまりに売れなくて全国の書店さんから編集者へ返本されたので)幻の」
「先生がおられるなら百人力です、解決しましょう、生徒たちを無傷でクリアさせましょう、一緒に!」
東実習生がこぶしを握ったところで、かかえていた名簿やメモのつまったファイルがバフンと音を立てて落ちた。巻き込まれた哀れな大学生のようで、本人なりに積極的に攻めに出ているところは、役立たずの担任や教頭よりもはるかに『居る意味のある大人』といえる。生徒たちにとって、大人は『自分のセカイに存在する意味があるのかないのか』で常に審査されている。
さて。ここは、東実習生の持ち場でもある小道具レンタルを兼ねた基地だ。この状況下でも大学に戻すことができず、かといって引率とはいえ前線に立たせるのは過酷ではないかということで、このようになっている。人が死ぬリスクがある現場であるし、彼女は「先生」とよばれていようが学生なのだから。その小道具に「空き缶」というものを思いついて、東実習生はオレンジジュース・最上准教授はカフェオレを飲みながら立ち話をしていたところだった。
「会議があったそうですな。私も大学のほうに届をだしてきたから。今日これからはここの問題に常駐できるようになったんだが、」
とまで語った最上准教授は、パイプ椅子をひらく。ガツンと重い音がした。座る勢いで椅子がミチミチと異音をもらしたが、この初老は肥満どころかやせすぎの部類だった。
「ゴールが見えないというのは気持ちが悪いものだね」
「はい、何がダメなのかわからないという点は、すべきこと『だけ』をおこなえば回避できるということで、生徒たちの行動の方針は決まってます。その考え方のうえで、勘違いでルールをおかしかねないという落とし穴もあるにはあるのですが」
「出題をきいて、間違えないものを渡す。ということができないのがつらいな」
そんなことをしたら、試合でもゲームでもなんでもなくなる。あの妖精が黙っていないことぐらい、准教授にもわかっている。なんなら「本人にしか回答できない内容」が増えてくのも目に見えている。
「なにかをすれば終わるのか、一定期間を経過すれば自動的に終わるのか、それだけでも知りたいのですが。私の知っている範囲では、その情報がありません」
「うん、そうか。そういえばね、この情報は共有されてるんだろうか」
最上准教授が自分のタブレット端末を出して、ひとつのサイトを表示させた。
「匿名掲示板のまとめサイトですか
001:さすらいの名無しさん
知らないアプリがインストールされてたんだがw
半年ぐらい引き出しの中に放置してたガラケーがあるんだが、充電したら知らないアプリがはいってた
いれてたやつが電源入れたと同時にアップデートされたわけでもないし
そのアプリじたい検索しても情報がない怖いんだが
002:さすらいの名無しさん
という夢をみたのか
003:さすらいの名無しさん
彼女のいたずらじゃないの(ただし彼女とは脳内のみに存在するものとする)
004:さすらいの名無しさん
検索しても出ないって気持ち悪いな、調べるからタイトル教えてよ
なるほど、しかもこの主が書き込もうとしてもできないし、相談が進むにつれて主自身がなにか壊れてる感じがするとブログの編集者が書いてますね。先生は、これが同じアプリの件ではないかと?」
「うぅむ、なんともわからない。情報源は月川君なんだが、この最初の書き込み主らしき人物を特定したらしくてだね」
「え?割と重要な情報じゃないですか?初耳です」
外で何かの鳥がキィーと啼いた。
「不確定だから、動揺を誘わないように伏せているんだと思うが」
老紳士は周囲の物音に耳を澄ませ、生徒が物陰にもいないことを確認した。今更だが。
「記事は8年前。覚えているかは知らないが、君もおそらく知ってるんだ」
「え?」
「新型インフルエンザで、島の高校が全滅した事件。全滅といっても全校生徒が2桁しかいない学校だが」
そういえば、当時自分たちも学校で予防接種だクリーン活動だと影響を受けた記憶はある。と、東実習生はうなずいた。
「当時も言われてはいたんだ。なぜ高校生限定なのか。食中毒じゃあるまいし、どの家族にも高齢者や幼児も誰も同じ型の報告はでていない。その高校だけで全滅。そこで、インフルエンザではなくて細菌兵器ではないかなどの噂がたったほどだよ」
「では、あのアプリのことを書き込んだのは、その新型インフルエンザで亡くなった高校生?」
「の一人だ。そこから、クラスメイトのSNSや、個人掲示板など、他人が見ることが可能な範囲で、月川君がさぐったところ、何人かそれらしき記述をしているのをみつけてね。たとえば
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これしかないから、順番とか無理。
>みきCHAN どうしたの?発表会?
言えないけど、なんかパシリてかやばいかんじの。
>みきCHAN 島でも不良いるんだ?やくざ?危なかったら警察に
あははそうだね、あんがと。それでなんとかなるならしてるけどね(爆
こんな感じで、直接的ではないが怪しい記載が同じ時期に集中している。君たちも、事件に関することを書き込もうとするとできないし、他言しようとするとペナルティがくる、ときいてる。この新型インフルエンザが嘘で、本当はアプリのしわざなら、きっと同じ制限をうけてたんだろうとおもう」
缶ジュースが空き缶になる。あとで洗っておこうと、東実習生は缶を机の隅によせた。
「全滅で終了ということなんですか」
「何かしらの理由で全滅して、継続不能になって終わったのか、終了条件に全滅が含まれていたのか」
「後者は最悪ですね」
「最悪でいえば、『自分の命を捧げればどんな願いも必ず叶う』という呪いで、誰かが全校生徒を滅したちか、漫画でありそうだとおもったんだが。とにかく、全滅からさぐるのは難しいことだ」
東実習生は、人の目に触れるリスクを考えてメモをせずに心に記憶した。しかし、この情報が准教授レベルが見つけたのではなく月川がみつけたということを忘れてはいけない。クラスの中に、同じことに気が付き、胸に秘めている生徒がいる。相談しようにも、事態を知っている範囲の人間で、動揺せずに、自分の発見からプラスの情報をくみ出してもらえる相手なんかいるだろうか。その生徒は探している、きっといまごろ合流していると思うが。
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