狩者競争

ゲル純水

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フツカ目、ここから、自分で

猿の吸う蜜「ぼくにも、ちょうだい、それちょうだいな」

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 挑戦としては初日、カウントは二日目、時間を無断で借りられた日の、次の、次の日が今日である。とすると三日目で、ややこしい。

 ソコラノ高校がソコラノ学園だった昭和だか大正だかの昔からあるのが、まるで今世紀になってから脱サラで作られたようなカレーショップの地獄堂桃山商店街店じごくどう・ももやましょうてんがいみせ。趣味が丸出しで、サブカルチャーの奴隷のような店長は、たしかに三代目だが脱サラでもあった。漫画家の夢が破れたり、シンガーソングライターの夢が破れたり、婚姻届も相手が触れたと思ったら破かれたり、色々なことが破れ男だった。代替わりして最初におこなったことが、入り口にトーテムポールをたてること。ようは、丸太に切り込みをいれて、顔がいくつも積み上がったようなデザインだ。近所の子供には「キモ顔ツムツム」と呼ばれている。店長は、あと一歩で「夜中に光る」などの七不思議が生まれると信じてワクワクしている。

そのような店長なので、前にも触れたが、定期的に縁日のようなイベントをひらくために、やたらと広い駐車場を確保している。さすが三代目というか、つまりこのあたりの地主で、借り手のつかなくなった三軒長屋式のテナント家屋を取り壊して駐車場にしたのだった。なるほど、それだけの広さがある。

いっそ昔の目新しいものはいからな時代ならいいのだが、カレーは家でつくってたべるものというイメージがあり、カレー店が三代も続けることは難しい。ここらの住人でも店は知ってるが入ったことはないというものも多いというのが現状だが、広大な駐車場にはほとんどの地元生徒は縁日で来たことがあった。おかげで、お題を用意してからでも迷わずたどり着けそうだった。

「えーっと、目的のスポットは…」

鍬根家クワネケの自家用車で向かいながら、深山明子はデモンストレーションだったゼロ日目の画面を思い出しながらアプリをひらいていた。たしか、目的地の写真と位置情報とマップがでてくる。ありがたいことに、開場までのタイマーと、締め切りまでのタイマーまで表示されている。

「んー…こんなのあったっけ」

アプリが示す撮影スポットは、なかったはずのガネーシャ像だった。ガネーシャは頭が像で肉体は人間のような体をしている。シヴァという位の高い男神が、自分の息子を息子と気付かずに首をはね飛ばしてしまった。妻に申し訳がたたぬと男神はすぐに修復と蘇生をするのだが、首が見当たらないので像の首をはねてそれを繋げた。この言い方だと息子をなんとも思ってないようだが、おそらく蘇生できるし、なんなら首なしでも生きさせることは容易なのだろうと思う。そうかんがえると、昔々の物語なので息子は不便なく生きられるなら父の過ちを受け入れるであろう。ガネーシャは『夢を叶える』ということで、目標のある人や、目標はなくてもいまを変えたい人や、商売繁盛のように今を盛り上げたい人の信仰をあつめている。いってしまえば、なんでもありなのだ。そう思うと、やはり彼は首がなくても気にせずに、父を父として、また偉大なるものとして、尊重しただろう。三代目の夢がつまった駐車場にあるのから、もしかしたら三代目が作ったのかもしれない。

「地獄堂ってさ、なんにでもなれるぐらい、なんでもできるのに、何にもなれない人だわ」

「明子ちゃん、彼はお店を受け継いでるよ。もらってずるいなんて人もいるが、それは受け継いだことがない人の考えだ。人の守ってきたものの、バトンを受け継いで、失わないように守ることはとても難しい」

お店を作ろうとする人から見れば、就職に困っている人から見れば、店を継ぐのはなにも苦労せず得ているようにみえるそうだ。しかし、相続とはそんなに生易しくはない。鍬根家は、相続税のために相続した屋敷や山林を手放した立場であるから、運転している鍬根氏は苦笑いをした。地獄堂二代目の弟が同級生で、三代目が夢をおっている頃は自分が会社で苦労をしていたので、食うに困らない実家暮らしバイト生活の三代目を妬ましく感じたこともなくはない。しかし自分が社会人として周囲を見渡す余裕が出てくると、自営業やフリーランスでいきる人間に頭が上がらない気持ち気なった。会社で部署をわけて対応するようなことを、すべて自分でやるのだ。まるで、顔も手も三倍あるように。

「ごめんなさい、でもね本当に、カレーつくってる場合じゃないぐらいアートだから」

深山も悪気はなかった、悪気がないから余計に悪いのだが、彼女はほめたかった。

さて、三軒長屋のようなテナントというのは、二階建ての店舗兼住居のようかものが、三つならんでるものだ。ただ並んでいるのではなく、壁を共有しているのだ。具をみて三ついりのサンドイッチを買ったと思いきや、二つのサンドイッチのあいだにも具がはいった、具材三層にパン四枚のサンドイッチだった経験はないだろうか?あのような建物だ。その跡地なので、とても広い。丁寧に虎色のロープを砂利敷き地面に杭でうちこんであ る。そして印象的なのは、駐車場のまんなかにたつガネーシャに対し、ドライブスルーのようにならぶ車。ほかの生徒の安全に配慮して「入口、徐行」「出口」「待機場所」など、大型コピーで急遽あつらえたプラカードをもった教員が印象的である。

追突防止のため、ガネーシャ前には数台ぶんの、停止線もライン引きをつかってかかれていた。 この準備ができているということは、誰かがお題をもらしたのか。いや、『自分の部屋を象徴するもの』で自分の部屋そのものであるキャンピングカーで一番に乗り付けた白澤瑠紫シロサワ・ルウナが 、車が来たときにあぶないと感じて用意した。ルウナ。る、うな。海原はsea、シの漢字!という、とんだ連想ゲームの名前でキャンピングカーを子供部屋にするような家庭。よほど色々経験してきたのだろうか?先をイメージして対策を考えて行動する力があることがクラスにしめされたし、名前だけで一部の人が彼女の家庭に対して持っていたひどいイメージも、すこし緩和されたと思われる。親と子の宿命は、他人の頭で証明される、それもまたガネーシャのしわざか。

鍬根家の車の番がまわってきた。モニュメントと車が入るように自撮りすることは、構図として難易度が高い。移動の楽チンを、撮りづらさでひいたような印象を車参加のメンバーは思った。

「ならべばいいのか?ふぅ、」

誰か車にのせればいいのに、と言いたくなる。折り畳み式の室内物干しをふたつもかかえた生徒もあらわれ、この駐車場が指定されているメンバーはほとんど物が大きくて、車がお題ではなくても、車で運ぶであろうものが多かった。その物干し生徒がかかえてきたのは、車の協力が難しかったのか、そういう考えがないタイプなのかはわからない。

『NICE HUNT☆シャッターチャンス』

「車と記念撮影なんて、新車がきたときでもしなかったのにね」

深山明子にとっては、運転してくれる鍬根の父までいれて車だ。照れ笑いでいっしょにうつった。自撮棒をつかって撮影すると、初日のようにガネーシャにロビットが投影された。

『ご家族・地域の皆様のご協力に感謝します』

選手以外がうつるとこうなるのだろうか?このような、アプリの挙動は同行している今出川にすべてスケッチされていた。

さて、ここまでとても順調だった。名簿を片手に、担任は満足げに胸をなでおろした。あと一名で今日の現場はクリアだ
その最後のひとりが、自転車でやってきた。そしてガネーシャの前でかごに乗せている紙袋をガサっと中身がめるようにひらいて、SNSに乗せるために撮りなれてるいつもの様子で、一冊は手に持って撮影をした。

 男子生徒で、学校のジャージを着てた。


『NICE HUNT☆シャッターチャンス』
『画面を保存しますか/保存して提出/保存せずに提出/トりなおし』

「んーっと…『保存して提出』かな?」

『pぃぃぃぃPIPIPI。失格、選手不在の撮影。選手は3分ないに撮影をしてください』

アプリからの音声のため、聞こえる範囲にいた担任と今出川しかわからなかった。

「どういうこと?自分がフレームにはってなかったの?はやくとりなおして」

担任が駆け寄った勢いで自転車がたおれる。そして生徒が、呆然としている。

「ほら、先生も気づかないのになんでばれた、もう無理だ」

「え?」

「俺は、澤田一馬サワダ・カズマの双子の弟で静馬シズマといいます。他校なもんで、はじめましてです」

と、自己紹介しながら手はせわしなく電話をかけているが、そのむこうの一馬はいっこうに応答しない。

「代理なんだね」

自称今出川の特技は似顔絵、通常の警察官よりも、人間の顔をみる能力がある。

「あいつが、無理だって押入れからでてこないから。いままでも、何度か入れ替わって学校っいったりしてたから、大丈夫と思ったんだけどな」

そうこうしているうちの時間切れである。

『ぼくはこう思う「むねはって自分でイドめ」って』

最初の被害者・赤木のことを聞いて静馬はすぐにイメージした。庭には、貞子でもいそうな井戸がある。胸が張り裂けた状態で、そこに捨てられているであろう双子の姿があたまに浮かんだ。それは、まさにそのとおりで、暗い井戸からは鉄の赤いにおいがいつまでもたちのぼっていた




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