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イチ日目、よぉいどん。
少女は言った「そろそろ眠くなってきたから」
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明日の提出に遅れないように、というよりも安全性への考慮で、高校は生存確認のための半日授業になることが決まった。問題はそれまでに「お題」を調達してチェックポイントで撮影できるかという点にある。そのうえ生徒はうかつに作戦会議をすれば「お題」を明かすことになる可能性があるというリスクを背負っている。そのため、物の貸し借りも難しい。
鍬根の保護者に家へ送ってもらいながら、深山明子はすぐに決まった。彼女のお題は「乗りなれた車」で実家の車は忙しい両親が動かしまわっているので車種も忘れたが、なんだかんだで鍬根家が世話をしてくれている。回答ならばこれで正解だろう。帰宅完了のメールを、対策本部に送信しながらブツブツと独り言で「ひとり作戦会議」をしている。
(話はそれるが、学校の防犯用メーリングシステムに、定時報告用のアドレスが作られた。生徒たちがそこへ連絡すると、対策本部のパソコンや登録している本部メンバーに届く仕組みだ)
「一番乗っているのは電車だけど、電車は持ち込めないし、車に入れていいのか微妙だしな。乗りなれたって言葉は、使用頻度というよりもリラックスできるかをイメージさせる。うん。あとはチェックポイントというものが、中まで車ではいって一緒に自撮りできるかよね」
送ってくれと言えば、送ってくれるだろう。中まで乗り付けてといえば、乗り付けてくれるのもわかっている。部外者は入れるのかという点は、今出川が最初の公園でのぞいていたことを思えばおそらくセーフだろう(借り物競争は、物だけでなく人を連れてくる場合もよくある)
「チェックポイントはカレーショップ地獄堂桃山商店街店の駐車場?なんて都合がいいの?どんなとこだろう」
便利な世の中で、インターネットですぐに現地の地図が写真付きで見ることができる。なんということだろう、休日に縁日をだすという店主の趣味で、イベント広場を兼ねて店舗より広い駐車場がある。
映画のように本をめくったり新聞の過去記事を調べたりなどせず、個人の手のなかでアプリを切り替えながら攻略に挑めることが、強みであると深山明子は思った。とくに映画やドラマで過去の新聞を図書館でカシャカシャとフィルムで見るアレが理解できなかった。どうやれば閲覧させてもらえるのか知らない。そもそも自分の知っている市立や県立の図書館に、あのカシャカシャやる設備が見当たらい。声をかけてくださいと行ったような貼り紙もみたことがない。あんなふうに調べものをしないといけないような事件だったら、挑めないまま終わっていたのではないかと身震いする。
「貸し切るって言ってたよね。公園も無断で占拠してるとか、人目がない時間を狙ったとかじゃない。お店に交渉どうやってしたんだろう、犯人すぐに足がついちゃわない?」
『おなかすいたよぅ』
アプリのなかでロビットがおなかをおさえて、うずくまっている。画面には「ごはん」「くすり」「なでなで」「アイテムを買う」が出てきていた。そういえばペットゲームのようだと誰かがいっていた。深山明美は直感でアイテムを買うという項目を選んだ。アイテムには「くすり」の上位にあたる『万能薬』や、『王様のベッド』などが様々に用意されていた。
そこで深山明子が選んだのは『トイレ』と『目隠しカーテン』だった。購入すると、画面のなかにカーテンで区切られたトイレが出来上がった。彼女にとって、腹痛のときに最優先されるのはトイレの確保だという発想だった。とはいえ、キャラクターは空腹を訴えているというのに、お腹を押さえてつらそうというビジュアルしか見ていないのだろうか。
「このカーテン、なかに人がいるのはわかる程度の透け感なのね。もしトイレ中に具合が悪くなっても安心~いいなぁ」
サポートキャラクターであろうと、プライバシー保護につけた目隠しカーテン。命のない存在にもかけた気遣いは、この先なにか役に立つのか(昔話なら、間違いなくこの出来事が起死回生につながるが)
さて、同じシナリオ『ロビットの空腹』は他の生徒にも表示されていた。気づいた生徒の対応は、様々だった。コマンドに気がつかずなにもしなかった生徒もいれば、それぞれの選択肢を選ぶもの。そして月川丸太のように、わざとなにも選択しないということを選んだもの。アプリの画面を眺めながら、声に出さずに心のなかで呟いていた。怪しげなアプリなのだから、盗聴されていたっておかしくはないと考えた。
「(ロビットさぁ。服装からして、たぶん狩人だよね。おなかすいたーって、自分の頑張り次第だろーよ)」
ディズニーのピーターパンのような、身軽そうな森色の布地の服。三角ぼうしに、鳥の羽。
「(カメラの効果音もhunterぽいこと言ってた。借りることと狩ることがかけてある。きっと、お題の物がかぶってとりあいになるとか、私達は狩りを求められる…気がする)」
記録者にして見れば、もう被験者にこの先の展開がバレバレじゃないかと笑いたいところだ。
「(やっぱり、大人が仕組んだ実験なのか?クライアントの求めるものを察して、周囲に相談せず入手して、納期内に指定の場所に持っていく能力が試される…死んだってことになっる、赤木以外の欠席者って誰だっけ)」
鞄にいれっぱなしの当番表をとりだし、名前のところだけ重ならないようにずらしてルーズリーフをテープ止めする。もう、これだけ記録のための名簿になる。みんなの様子を記録していけば攻略のヒントがみつかるのではないか、と思った。どうすればクリアなのかもよくわからないが、よくわからない事態なので、なにか行動を起こさないと息がつまりそうなのだろう。
メールを受信する。もしアプリが盗聴できるなら、できなくても、メールの送受信だって覗かれているかもしれない。知らないうちにアプリが入れられてる、という状況を重くとらえなくては生らない。が、やはり、連絡は大切なことだ。
内容はシンプル。借りたい漫画があるから、登校のときに寄らせてほしいというもの。どこまでお題がバレていいかわからないので、あらかじめ作品名は言えないということ。差出人は小山武人だった。
「(あいつと趣味まるかぶりだし、私物オッケーなのになぁ。『自分と同じものをもってる友達からかりる』とか条件ついてるのか?)」
それだと難易度が上がる。月川は『予定があって買ったのに出番がなかった物』というお題があって、去年のハロウィンで買ったけれど使わなかった衣装を持っていくつもりだ。芸人のコスプレだが、お正月を過ぎるとテレビから消えたので、もう使いづらい。
「(着たほうがいいのかなぁ、たたんで持ってるとこ写真とったって品が分かりにくいし、体にあててだと自撮しにくいぞ?それもゲーム制てことかもだけど)」
着るのははずかしいな、と思いながらも鞄につめずに制服のとなりにそっとハンガーでかけた。このことが、ルール解明のための情報を生むことになろうとは、まだ彼は気付いていない。
『おなかすいたなぁ』
ロビットはそう呟くと各々の画面から消えていった。画面に豪華なベッドを用意した画面以外の画面から。これは何が起きているのか、どういう違いなのだろうか、空腹への対応の答えなのであろうか、もう生徒達はそれぞれの選択でかわっていく世界を生き抜くことを求められていた。
鍬根の保護者に家へ送ってもらいながら、深山明子はすぐに決まった。彼女のお題は「乗りなれた車」で実家の車は忙しい両親が動かしまわっているので車種も忘れたが、なんだかんだで鍬根家が世話をしてくれている。回答ならばこれで正解だろう。帰宅完了のメールを、対策本部に送信しながらブツブツと独り言で「ひとり作戦会議」をしている。
(話はそれるが、学校の防犯用メーリングシステムに、定時報告用のアドレスが作られた。生徒たちがそこへ連絡すると、対策本部のパソコンや登録している本部メンバーに届く仕組みだ)
「一番乗っているのは電車だけど、電車は持ち込めないし、車に入れていいのか微妙だしな。乗りなれたって言葉は、使用頻度というよりもリラックスできるかをイメージさせる。うん。あとはチェックポイントというものが、中まで車ではいって一緒に自撮りできるかよね」
送ってくれと言えば、送ってくれるだろう。中まで乗り付けてといえば、乗り付けてくれるのもわかっている。部外者は入れるのかという点は、今出川が最初の公園でのぞいていたことを思えばおそらくセーフだろう(借り物競争は、物だけでなく人を連れてくる場合もよくある)
「チェックポイントはカレーショップ地獄堂桃山商店街店の駐車場?なんて都合がいいの?どんなとこだろう」
便利な世の中で、インターネットですぐに現地の地図が写真付きで見ることができる。なんということだろう、休日に縁日をだすという店主の趣味で、イベント広場を兼ねて店舗より広い駐車場がある。
映画のように本をめくったり新聞の過去記事を調べたりなどせず、個人の手のなかでアプリを切り替えながら攻略に挑めることが、強みであると深山明子は思った。とくに映画やドラマで過去の新聞を図書館でカシャカシャとフィルムで見るアレが理解できなかった。どうやれば閲覧させてもらえるのか知らない。そもそも自分の知っている市立や県立の図書館に、あのカシャカシャやる設備が見当たらい。声をかけてくださいと行ったような貼り紙もみたことがない。あんなふうに調べものをしないといけないような事件だったら、挑めないまま終わっていたのではないかと身震いする。
「貸し切るって言ってたよね。公園も無断で占拠してるとか、人目がない時間を狙ったとかじゃない。お店に交渉どうやってしたんだろう、犯人すぐに足がついちゃわない?」
『おなかすいたよぅ』
アプリのなかでロビットがおなかをおさえて、うずくまっている。画面には「ごはん」「くすり」「なでなで」「アイテムを買う」が出てきていた。そういえばペットゲームのようだと誰かがいっていた。深山明美は直感でアイテムを買うという項目を選んだ。アイテムには「くすり」の上位にあたる『万能薬』や、『王様のベッド』などが様々に用意されていた。
そこで深山明子が選んだのは『トイレ』と『目隠しカーテン』だった。購入すると、画面のなかにカーテンで区切られたトイレが出来上がった。彼女にとって、腹痛のときに最優先されるのはトイレの確保だという発想だった。とはいえ、キャラクターは空腹を訴えているというのに、お腹を押さえてつらそうというビジュアルしか見ていないのだろうか。
「このカーテン、なかに人がいるのはわかる程度の透け感なのね。もしトイレ中に具合が悪くなっても安心~いいなぁ」
サポートキャラクターであろうと、プライバシー保護につけた目隠しカーテン。命のない存在にもかけた気遣いは、この先なにか役に立つのか(昔話なら、間違いなくこの出来事が起死回生につながるが)
さて、同じシナリオ『ロビットの空腹』は他の生徒にも表示されていた。気づいた生徒の対応は、様々だった。コマンドに気がつかずなにもしなかった生徒もいれば、それぞれの選択肢を選ぶもの。そして月川丸太のように、わざとなにも選択しないということを選んだもの。アプリの画面を眺めながら、声に出さずに心のなかで呟いていた。怪しげなアプリなのだから、盗聴されていたっておかしくはないと考えた。
「(ロビットさぁ。服装からして、たぶん狩人だよね。おなかすいたーって、自分の頑張り次第だろーよ)」
ディズニーのピーターパンのような、身軽そうな森色の布地の服。三角ぼうしに、鳥の羽。
「(カメラの効果音もhunterぽいこと言ってた。借りることと狩ることがかけてある。きっと、お題の物がかぶってとりあいになるとか、私達は狩りを求められる…気がする)」
記録者にして見れば、もう被験者にこの先の展開がバレバレじゃないかと笑いたいところだ。
「(やっぱり、大人が仕組んだ実験なのか?クライアントの求めるものを察して、周囲に相談せず入手して、納期内に指定の場所に持っていく能力が試される…死んだってことになっる、赤木以外の欠席者って誰だっけ)」
鞄にいれっぱなしの当番表をとりだし、名前のところだけ重ならないようにずらしてルーズリーフをテープ止めする。もう、これだけ記録のための名簿になる。みんなの様子を記録していけば攻略のヒントがみつかるのではないか、と思った。どうすればクリアなのかもよくわからないが、よくわからない事態なので、なにか行動を起こさないと息がつまりそうなのだろう。
メールを受信する。もしアプリが盗聴できるなら、できなくても、メールの送受信だって覗かれているかもしれない。知らないうちにアプリが入れられてる、という状況を重くとらえなくては生らない。が、やはり、連絡は大切なことだ。
内容はシンプル。借りたい漫画があるから、登校のときに寄らせてほしいというもの。どこまでお題がバレていいかわからないので、あらかじめ作品名は言えないということ。差出人は小山武人だった。
「(あいつと趣味まるかぶりだし、私物オッケーなのになぁ。『自分と同じものをもってる友達からかりる』とか条件ついてるのか?)」
それだと難易度が上がる。月川は『予定があって買ったのに出番がなかった物』というお題があって、去年のハロウィンで買ったけれど使わなかった衣装を持っていくつもりだ。芸人のコスプレだが、お正月を過ぎるとテレビから消えたので、もう使いづらい。
「(着たほうがいいのかなぁ、たたんで持ってるとこ写真とったって品が分かりにくいし、体にあててだと自撮しにくいぞ?それもゲーム制てことかもだけど)」
着るのははずかしいな、と思いながらも鞄につめずに制服のとなりにそっとハンガーでかけた。このことが、ルール解明のための情報を生むことになろうとは、まだ彼は気付いていない。
『おなかすいたなぁ』
ロビットはそう呟くと各々の画面から消えていった。画面に豪華なベッドを用意した画面以外の画面から。これは何が起きているのか、どういう違いなのだろうか、空腹への対応の答えなのであろうか、もう生徒達はそれぞれの選択でかわっていく世界を生き抜くことを求められていた。
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