狩者競争

ゲル純水

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イチ日目、よぉいどん。

田螺は思う「戦いはどこからくるのか」

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 間違っても「私はコレだよ」なんて言ってはいけない。それぞれに表示されていて、思わず端末を握りしめながらあるものは思考を巡らせ、あるものは視線を動かし、自分のお題のものをさがしていた。提出は明日の同じ時間、授業がどうなるかだが、大人達はただの殺人事件だけではなく「脅迫アプリ」という呼称を用意しているぐらいだから提出を優先させるだろう。題して「脅迫アプリ連続事件対策本部」という戒名はパソコンで打ち出されて、寮と警察署の一室に掲示されるのだが、ここには「高校生連続殺人」とは敢えて書かれていなかった。

「提出?審査?ていうのかな?行って自撮りする場所はみんな同じなのかなぁ?」
「時間は?」
「なんか、見た感じ2箇所ありそうだよ、時間は距離の差程度違うね。学校一緒にでたとして不利にならないようにしてあるんだと思う」

 公園から寮までの帰路の間は、解散までの重要な情報交換の時間だ。時間への配慮が本当なら、学校のスケジュールに配慮しているあたりさすがは高校生の学級をベースにした計画だといえる。また、ロビットのにおわせる運動会村の厳格なスポーツマンシップを感じさせるようでもある。どれだけの情報が収集できているか、それは寮や明日また教室で集まってから明確になることだろう、危機的状況下で広がってだらだらと歩くわけにもいかず、生徒たちはそれなりに真剣に列をなして帰っている。途中、まだ事情を知る由もない地域住民と何度かすれ違ったが、きっとよほどよい教育を受けた礼儀正しい子供達に見えただろう。それは、運動会の入場行進のようにも見えた。ただ一つ不気味なのは、いつも自分達本位で列どころか遅れたり離脱してあたりまえの、あの記念撮影カップルが模範生そのもので(いや、模範生にしては生気がない)歩いているところだ。脅しが聞いたと考えていいのか、それ以外になにか目に見えない何かをされたのかは人間の目では判断ができなかった。

考えれば単純なことだ。

「どうやって参加すればいいんだ」

シンプルな絶望。希望はタブレットやパソコンのほうに、アプリがインストールされていないかだ。使っている携帯可能な端末に種類をとわずインストールされ、何もない生徒にはわざわざスマートフォンを送り付けるような運営なので、そこに期待するしかない。もしくは、明日の締め切りまでに携帯を入手しないといけない。修理は間に合わないので、機種変更だ。それでも、問題のアプリがインストールできるのだろうか?一番心配なのは本人たちだからか、そこまで気が回らないのか、誰も声をかけない。いいや、不気味だから声をかけないのだろう。十数年の人生で、本気で死が、回避できない暴力的な死が迫っていることを実感した人間をみる経験など誰もしていない。その迫力は、すでに人間ではない何かを感じさせていた。

「はぁ、やっと、やっと、せんせぇ…」

 寮にたどり着くとたちまちに、東実習生は全員が門をくぐるのを見届けようとしているかのように問柱にもたれかかり、へこたれた声をあげた。もし市街地で「なにか」の襲撃をうけたら、助けも呼ぶ間もなく何もできずに死ぬのではないかと怖かった。そして、生徒を誰一人守れなかった役立たずの烙印を押されるのではないかと。生徒が大切だからではなく、自分の名誉の足枷として、生徒がいるのだ。彼女自身がまだ学生なのだから。寮につけば、職員室での最も庇護されるべき弱者・学生の立場をとりもどせるのだ。張りつめていた緊張がゆるんだ。

 ソコラノ高校学生寮は、大正に建てら世界大戦を生き抜いた洋館だった。もともと寮ではなく、古い洋館を改築して寮にしたものなので、その外観やホールの優美さにくらべると、部屋をこまかく区切った壁の味気無さが際立つ。予算の関係上、そこは平々凡々に現代の建築でとくにテイストにこだわらずに「ただ区切った」だけなのである。実にもったいない。雰囲気に配慮して作るべきだし、可能な限り加工をせずに文化財を狙えばいいと多くの声があった。文化財になるとリフォームができないなど、私財でありながら公共性を求められて自由を失うことを倦厭した学園理事の判断である。そういうオーナーは全国に少なくはない。腰の高さといいつつ記録者の腰より高い気がする「腰板」のある壁はとてもレトロでファンタジー小説の魔法学校を思わせるものがある。そう、この洋館は旧校舎だった。だから何ということではないが、無理に改築した洋館はなにかいびつでいまのクラスによく似合っていた。おそらくもとダンスホールだった集会場は、学校でいう講堂と会議室を兼ねた場所で、説明会を終えた保護者達が出てきたところだった。とはいえ有事なので、無条件に合流をして帰っていいということはなく、一組一組が入学時に登録されている保護者写真と照会してなにか書類を書いてから子供と一緒になれる。さらに門をでるときも同じチェックを受けて、不審者が保護者に成りすまして生徒を拉致しないように対策されている。最初の被害者の状況から、それが有効かは疑わしいところだが、今後マスコミやネット配信者が潜り込まないための対策と考えることもできる。

 とはいえ、先にも述べたように寮に入るのは保護者の許可が必要なので、必ずしも生徒の意思と一致しない。

「んんんん、帰りたくない」
「何言ってるの、生徒だから狙われたんだろ、学校に残るなんて危険すぎる」

「えー、帰りたいよ」
「馬鹿言うんじゃない、なにかとんでもないテロだ。みんなや先生、警察の人がいる寮のほうが安心だよ」

悲喜こもごも、なにが正解かはわからない。その引き渡しの状況をホールの隅から確認しているのが、あの今出川巡査部長で、最上准教授はもう名乗り出ようかと入館許可をえようと門のインターフォンをおすが、学園内はこの問題であわただしく誰も気が付かなかった。そのため、むしろ警戒中の警察官に職務質問され、ことのいきさつと協力希望であることを説明することになるのはこの数時間後のことである。

 いまは、世間は夕飯時。寮の食堂では、急な増員に対応できずに今日に限り人数分の仕出し弁当が用意されている。これも警官の一人が無作為にひとつ取り、毒物の混入がないかの検食をしたものだ。生徒か教職員に有力者がいるのか、それともこれがこの県警の誠意なのか、現時点のデータでは不明である。

「外でこのことを話してペナルティをうけた生徒はいませんが、念のためにこのことは口外なさらず」

という注意の効力はわからないが、この時間なので帰宅組の生徒・家族の何割かがファミレスにはいり、何割かがコンビニやスーパーで惣菜を買うことになるだろう。その時間で、今回のことを一切出さなでいることは難しい。どうなるだろうか。その結果がわかるのは、明日の出席確認だろうか?

 男子棟・女子棟・教職員棟・共同施設棟の四つの棟が中庭を囲んで建つ構造。まさか教職員の独身寮まで同じ建物とは、死亡者がほぼ怪奇現象としか思えない状態で殺されたと知らなければさぞ心強いだろう。通販会社から「当日お届け」で取り寄せた「落とし物探し」のタグが生徒に配られた。キーホルダーのようなもので、中に位置情報を確認するためのチップが入っている。専用のアプリで所在地をさがしたり、アラームをならして位置をアピールさせることもできる。場面ごとに名簿に確認もしているが、見当たらないときに探せるようにそのようにした。犬猫の迷子札にも使われているシステムを仕様をかえて落とし物用にしているだけなので、この用途は決しておかしくはないのだが、動物みたいだと一部の保護者から指摘されそうだ。

「迷える子羊に、現代の羊飼いアイテムが与えられたのかー。すごいね、商品も、通販も」

まったくだ。
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