半熟卵とメリーゴーランド

レトロれろれろ

  レトロな建物が好きで。
  ビルディング。
  むしろ、ビルヂングなど書かれていようものならば。

  きっと屋上の物置に、売れない探偵が破格の家賃で住んでいるのだ。冴えないように見えて、頼りないくせに愛嬌のある笑みで付きまとう。大家のお節介な孫娘は、暴言や拳で淡い恋心を現す。そんなありがちな物語。やたらと大きくなった観葉植物が一鉢。水やりが足りていないトマトは、たぶん食費を浮かせるために栽培されたのに彼は水道を止められている。そのくせに、煙草を5箱。その予算はどこからきているのだ、と。

  その妄想からさめる。
  しゅっと終る一本、あと一本、また一本。 
  長く吸うのが粋なのだろう。
  高温で一気に燃え尽きる、煙草まで、私そのものか、などと。

  ケントは種類がやたらと多いというイメージがある。そのなかで、映画トロンを思い出したからという理由で買ったものと、レジの奥ではなく脇に100円ショップに売られているようなプラスチックのカゴに並べられたそれも、ケント。周囲にその名の人が居ると、たぶん言いづらく感じそうだ、私の性格は。

  もう一本、あと一本、もうなくなったよ。
  なにか見えかけたから、わかりかけたら、もう少しと思っていたのに、見失ってしまって。珈琲をドリップしたあとの、粉をたっぷりいれた缶に、突きたたる、突きたたる、撃墜された記憶旅。