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回想の階層(2016.08.xx)

花を探す日

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    花を買うのが好きだ。
    家にも花はたくさん咲いていて、買った花には出せない喜びや美しさがある。だからこそ、花を買うという行為自体の喜びはまた別物であってそれは花が存在するという符号が合えば良いというものではないのだ。
    この花は誰に似合う、この花を誰に渡したいと、そのたびに思い描く。私は店頭で花を選び、買い、花束にしてもらって喜び、それをもって会いに行きたいのだ。それは言葉にできないほど微妙で複雑で、それでいてごくシンプルな欲望なのだ。欲望。
    花はシンプルな欲望なのだ。花を買ってもカロリーは接種できないし、光熱費も変わらなければ、家賃の支払いの日も来る。タバコやアルコールのような作用もない。セックスのような消費の実感もない。服飾のように誇示することもない。無駄、いってしまえば無駄、自己満足であることを示す手っ取り早いアイコン。喉の乾きは癒せないが、心の乾きをいやすだろうと物語は語るだろう。まったくだ、癒してくれる、独占欲や獲得する喜び、無駄を許せる自分を確認する快感。花はシンプルな欲望、大脳を包んでなにかを分泌している。
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