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回想の階層(2016.06.xx)

転がる石のやう

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    今日はとにかく腰がいたかった。月経は終わり、次の排卵までも日があいているから、単純な腰痛なのだ。どんよりと、それでいてピリピリと痛んで、よくわからない焦燥感で苛んでくる。腰痛だと言えばセックスのしすぎだと返されるほど若くもなく、私はいつのまにかその手の冗談をいってはいけない種類の固い相手のように位置付けられている気もしつつ…あぁ、なんてつまらない。
    仕事の調子も悪くはなく、入籍こそしていない交際も、これといって気にやむことはない自分に対して安堵すら感じた。それがどうだろう?痛みは焦燥感をよぶ。

    ……ミシリ…みち………ず…

    肉と肉が重なり、吸い付くようにはりつき、スムーズな摩擦ですれあえない、この感触が好きだった。さらさらつやつやではなく、ざらざらの不快感でもなく、心地の良い吸着。あの子の肉体の感触。とくに何をするわけでもない密着は、密着していると言えばいい。

    何をして居るの?
    密着しているの。

あの子はまっすぐに見つめてくる。冗談めかしたまっすぐな目を直視していいのかわからず、端末化世代モバリアに多い後天的な軽い斜視は、それこそアイドルの魅力を醸し出していた。ただそれを見つめ返すことに申し訳なさを感じてしまうことを、この子がいつまで許してくれるのかはわからない。

    おなかがすいたと言われれば、私はキッチンで卵を焼く。ライオンが兎を狩ることを可愛そうだという女には、飢えて乳もでない体を引きずって狩りに出るメスライオンとその仔がどう見えているのだろうか。産む機械に等しい扱いの鶏から排出された卵たっぷりの料理を、どうおもうのだろう。タラコたっぷりのパスタは。私とこの子は、手を合わせて「いただきます」といい、残さず食べる。多くの命に支えられている自分を、決して粗末にしない。見知らぬ鶏の卵が体のなかにはいってきて、分解され吸収されても、その成分が私たちと一つになったとしても、私たちは鶏たちと混ざり合うことはない。不思議。どこまでそれは鶏たちのいちぶで、どこからが私たちなのか。私と、あの子、卵とそれをうんだ鶏はどこまでが繋がっていて、どこから別々の個体なのか…細胞、細胞、細胞、、

    何をしてるの?
    食器を洗ってる
    それはわかるから、はやく洗ってこっちにきて?

    また密着する。別々の個体だからこそ生まれる、一緒になる喜び。いっそひとつの個体なら、この喜びは消失してしまう。別々の二人の、吸い付く接点、光にかざしてかろうじてわかるかすかな産毛に、汗と呼べないほどの湿度。

    何をしてるの?
    考え事をしてる
    わたしのこと?
    そうだね、君と私のこと。
    そっか

    リモコンに触れることもなく放置していたテレビが、自動的に音もなく消える。部屋がすこし暗くなり、静になり、寝息だけがきこえていた。
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