時代錯誤の劣等生

高崎司

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第2話 友人

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 二人が屋内に入ると、丁度挨拶が始ろうかというタイミングだった。
 ステージ上に設置された机とマイクの前で、中年の男性が声を発する。

「今日は入学おめでとう。これから君達には、魔法という強大な力の使い方を学んでもらい、夏に開催される七大魔法祭に参加してもらう」

 一城は聞いた事もない単語に首を傾げる。
 すると、横合いから雫がフォローしてくれた。

「七大魔法祭って言うのは、魔法学園同士が力を競い合う、年に一回のお祭りの事よ」
「へぇ~。そんな催しがあるんだね」
「知らなかったの? 子供でも知ってる常識だと思ってたんだけど」
「僕はちょっと田舎育ちだから……」
「それ、どんな田舎よ」

 二人でこそこそ話していると、なぜか殺気を含んだ視線が肌を刺す気がした。
 一城は辺りを慎重に観察する。
 もしかしたら、何者かが自分達の命を狙っているのかも……と詮無き事を考えていた。

 しかし、どうやらそれは杞憂だったらしい。
 自分達を見ている生徒のほとんどが男子である事と、その瞳に妬み嫉みが混じっているのが見て取れたからだ。

「はぁ。それもそうか。隣にいるのは、美少女だもんなぁ」
「何か言った?」

 雫は何一つ気付いていないらしい。
 もしかしたら、彼女は鈍感なのかもしれない。
 一城はそう心の中で思った。

「君達はこれから仲間と力を合わせ、良きパートナーと巡り合い、そして卒業して行くだろう。この学園で過ごす三年間は、決して無駄にはならないはずだ。私はそう信じているよ」

 最後に優しげな笑顔を浮かべると、話を締めくくった。

「以上。校長からのご挨拶でした」
「今の校長だったの!?」
「そうみたいね。私も見るのは初めてだわ」
「僕、あの人に道を聞いちゃったよ」
「あなたって、馬鹿なのか大物なのか、どっちかね」

 入学式の場所を聞いたあの男性が、まさか学園の校長だったとは。
 人は見かけによらない。その言葉を地でいっている様な人だ。

 一通り挨拶が終わると、新入生は一旦退出する。
 皆、掲示板に張り出されたクラス分けを確認するのだ。

「私はっと……あった! 一年一組ね。一城は?」
「僕は……僕も一年一組だよ」
「あら。一緒じゃない。これから一年よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」

 また一緒に居られる事に、一城は少し運命めいたものを感じた。
 何より、こんな綺麗な少女と一緒に居られるという事実だけで、彼の心は満たされていたのだった。

 指定されたクラスに行くと、各々静かに着席していた。
 まだ初対面。
 誰も話をする物好きはいないと言う事だろう。

「よっ。同じクラスだな。見てたぜさっきの」

 どうやら物好きがいたらしい。
 一城が席に着いた瞬間、前に座っている男子生徒が、気さくに話しかけてきた。

「俺の名前は東条和也とうじょうかずや。気軽に和也でいいよ」
「僕の名前は黒鉄一城。僕も一城でいいよ」

 和也と名乗った男子生徒は、紅い短髪をぼさぼさにした、子供の様な笑顔が特徴の生徒だった。
 見た目から人懐っこさが滲み出ている。

「さっきのすごかったな。あれ、どうやってやったんだ?」
「そんなに大した事じゃないよ。ただ、魔法を斬っただけだよ」
「魔法を!? そんな事、可能なのか?」
「うん。魔法と言っても絶対じゃないんだ。だから、力の一番弱い部分を斬れば、簡単にできる事だよ」
「それでもすごいって。たぶんそんな事できるの、一城ぐらいだと思うぜ」
「そんな褒めても何も出ないよ」

 と、その時。
 入り口から一人の女性が入って来た。
 スーツをぴっしり着こなして、いかにもできる女性と言った感じだ。

「皆席に着いてるな。それでは、これから説明を始めるぞ」
「まず入学おめでとう。これから君達の担任を任された、周防凪咲すおうなぎさだ」
「君達には、魔法の初歩から学んでもらい、後にトーナメント方式で対戦をしてもらう」
「そこで優秀な成績を収めた者のみが、七大魔法祭に参加する権利を与えられる」
「もし選ばれたら、その後の成績にも加味されるし、卒業後の進路にも影響するので、皆しっかりと授業に励む様に」
「私からの説明は以上だ。何か質問は?」

 一度クラス全体を見渡す凪咲。
 しかし誰も手を上げて質問する者はいなかった。

「よし。とりあえず今日はこれで解散だ。各自、寄り道などしないで帰るように」

 カツカツとヒールの音を響かせながら退出する凪咲。
 担任が居なくなった教室は、安堵の溜息がそこかしこから聞こえてきた。

「一城~。一緒に帰らないか?」

 誘われた一城は、チラと雫の方を見る。
 別に約束しているわけではないが、自然と一緒にいる機会が多かったので、何となく気になったのだ。
 雫は視線に気付く事なく、さっさと退出してしまった。

「あっ……」
「どうした? 早く行こうぜ」
「うん……」

 何となく寂しい気持ちになった一城は、それを悟られない様に笑顔で後を付いて行った。
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