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最終話

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 静乃先輩との一件以来、静乃先輩の機嫌はうなぎ上りだ。

「ねえお兄ちゃん。先輩と、何かあったの?」

 放課後の生徒会室で、妹に聞かれた何気ない一言。
 これが、波乱の幕開けの合図だった。

「な、何もないよ?」
「怪しいな~。白状しないと、キスするよ?」
「ごほっ、ごほっ! キ、キスって、何考えてるんだよ!」
「ちょっと過剰に反応しすぎじゃないかな。もしかしてお兄ちゃん……」
「な、何だよ?」
「先輩と、キスしたとかないよね?」
「そんな事、あるわけないだろ」
「本当に? 嘘だったら、お兄ちゃんのお兄ちゃんを切るからね?」

 ハサミで何かを切るジェスチャーをする莉夏。
 物騒な事、この上ない。

「嘘じゃないって! 先輩に聞いてみなよ」

 すると莉夏は、その矛先を静乃先輩へと変更する。

「静乃先輩。最近機嫌いいですけど、何かあったんですか?」
「ふふっ。それはね……ひ・み・つ」

 物凄く上機嫌に、笑顔を見せる静乃先輩。
 俺は内心ひやひやしていた。
 なぜなら、正直に話す可能性があったからだ。
 だが、それも杞憂に終わったみたいだ。
 と、安心したのも束の間。
 その時は、突然に訪れる。

「でも莉夏ちゃんには教えてあげようかな。実はね……拓海君と激しい夜を過ごしたの」
「嘘吐けーー! キスしただけでしょうが! あっ……」

 墓穴を掘るとは正にこの事。
 俺は聞かれてもいないのに、勝手に自滅していた。

「ふ~ん。お兄ちゃん、キス……したんだ?」
「い、いや、ちがっ」
「何が違うの? 自分で言ったんだよ?」
「ちょっと待て莉夏。一旦落ち着こう。なっ?」
「私は至って冷静だよ。冷静にお兄ちゃんを、殺そうとしてるんだから」
「それは冷静とは言わないよ!」
「大丈夫。一瞬で終わらせる様にするから」

 ゆっくりと近づいて来る莉夏が、これほど怖いと思ったのは初めてだ。
 俺は今日死ぬかもしれない。
 しかし、ここで救いの神が舞い降りた。

「拓海~! 遊びに来たよ~!」

 ドアを勢いよく開け、美夏が登場する。

「美夏! 助けてくれ!」
「えっ?」
「莉夏がやばいんだ! 俺を助けてくれるのは、お前しかいない!」
「え~。照れるよ~。しょうがないな~」

 美夏は俺を後ろに隠すと、莉夏と対峙する。

「莉夏ちゃん。何があったか知らないけど、拓海をいじめたらダメだよ?」
「部外者は引っ込んでてください!」
「その言い方はひどいんじゃないかな?」
「あなたは何も知らないから、お兄ちゃんの味方をしてるんです! お兄ちゃんは、静乃先輩とキスしたんですよ!」
「えっ?」

 それまで元気だった美夏の顔に影が差す。

「どういう事? 何で拓海と静乃先輩が……?」
「それは本人に聞いてみてください」

 二人の視線が、俺と静乃先輩を交互に往復する。

「そうね。私から話すわ。あれは私が勝手にした事なのよ」
「どういう事ですか? お兄ちゃんが自分からしたんじゃないんですか?」
「違うわ。私が不意を突いて、キスしたのよ」
「そうだったんだ~。それならよかった~」
「何安心してるんですか。お兄ちゃんがキスしたって事実は、消えないんですよ」
「そっか! でも、だったら私達もすれば、おあいこじゃない?」
「ちょ、お前何言ってるんだよ!」
「その手がありました!!!」

 莉夏は名案とばかりに、表情を明るくする。

「それはそれでしょうがないわね。私もしちゃったんだし、私に拒否する権利はないわ」
「俺にはありますよ、先輩!」
「お兄ちゃんに拒否権はないよ!」
「私も拓海とキスする~」

 その後話合いが行われ、美夏・莉夏の順番で行われる事が決定した。

「準備はいい?」
「ああ。もういつでもしてくれ」

 俺は自暴自棄になりながら、立ち尽くしていた。
 嬉しそうに美夏の唇が迫ってくる。
 俺は無感動な瞳で、その唇を見ていた。

「拓海。んっ、ちゅ、ちゅぅ……ん、……ぁっ」

 美夏は満足気に唇を離すと、その場を退いた。

「次は私だよお兄ちゃん」
「なあ莉夏。兄妹でキスは、おかしくないか?」
「私は平気だよ。お兄ちゃんは嫌なの?」

 悲しそうな瞳で見つめてくる莉夏。

「うっ。べ、別に莉夏がいいなら、いいんじゃないか」

 結局押し切られる形で、了承してしまった。

「じゃあいくよ。お兄ちゃん」

 莉夏のぷるっとした唇が、俺の唇に接触する。

「はむっ、んっ、ちゅ、ぁっ、んん」

 莉夏の小さな舌が、口内を蹂躙する。
 俺は結局全員とキスするはめになってしまった。

「ぷはぁ! お兄ちゃん、ごちそうさまでした」
「うぅ。もうお嫁にいけない」
「何言ってるのお兄ちゃん! 私がいるじゃん!」
「私だっているよ、拓海!」
「私が養ってあげるわよ。対価はあなたの身体でいいわよ。ふふっ」

 これからも毎日こんな日々が続いて行くのだろう。
 煩くもあり、でも無くてはならない。


 俺は嫌々ながら、こんな日々をこれからも楽しんで行くのだった。
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