16 / 44
第十六話 活用方法
しおりを挟む「こ、これであたしが出せるお金は全部です」
俺は差し出されたものを前に、顔をしかめた。
それを不満だと受け取ったのか、戻ってきていたほかの村人たちも同じような袋を差し出してくる。
「カタリナの分で足りないようでしたらこちらを!」
「ど、どうぞお収めください」
老人たちの行動にカタリナは目を見開くと、きゅっと唇を引き絞った。
「ありがとう……みんな。絶対に返すから」
「ええんじゃ。カタリナのためじゃからの」
「それに命を助けてもらった礼はきちんとせねばならん。当然のことじゃ」
村人たちが互いに慮りあう姿を前にしても、俺の表情は硬いままだった。
カタリナが持ってきた『銅貨』と、村人たちがさらに持ってきた『銅貨』が入った革袋が目の前に差し出されていた。
おそらく枚数にして三百枚はあるだろう。
銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚。
それぞれに半貨が存在している。
実質、金貨三枚分だ。
金貨一枚あれば一か月は余裕で暮らせるくらい。
命を助けた報酬としてはやや安いが、妥当とも言えるだろう。
だがなぜ銅貨なのか。
「おいなんだこれは」
俺が思わずこぼした声に、村人たちは狼狽えていた。
俺をバカにしているわけではなさそうだ。
「た、足りませんでしょうか……? これで我々の貯蓄はすべてお出ししたのですが」
では本気で?
この目の前に出された銅貨すべてか彼らの財産だと。
それを当然のように差し出したと?
バカな。
ありえない。
なぜ一村人のために全員が金銭を差し出すんだ。
それも全財産を。
こいつらは本当に……。
いや、違う。勘違いするな。
俺は自分の考えを振り払うように頭を振った。
とにかく、どうやって稼いだのかは知らないが……果実を商人に売っているとか言ったな。
なるほど、果実程度なら大した金にならないのだろう。
その上、交渉相手は商人のみだから身銭は銅貨になるということだろうか。
……何か少しひっかかるが。
「足りなくはないが、銅貨だけだと持ち運べないだろ。金貨に代えてくれ」
「この村には銅貨以外はなくて……。
次に商人がやってくる時に両替してもらうように頼んでみます!
それまで待ってもらえますか? 明日には来ると思いますので」
カタリナが差し迫った様子で言うものだから、俺は大して考えずに頷いてしまった。
「ありがとうございます! それまでの間はおもてなしさせていただきますね!」
カタリナは村人たちと何か話すと、俺のもとへ戻ってきた。
「ではこちらへ!」
カタリナに先導されて、俺はそのあとに続いた。
村人たちが思い思いに財布袋を持ってついてくる。
ボロ屋に到着すると中に入った。
狭い。馬小屋だと言われたら信じてしまいそうだった。
一応台所とリビング、奥にはベッドが見えた。
テーブルやクローゼットなどの家具は一応揃ってはいるようだ。
村人たちは玄関に袋を置くと礼をして去っていった。
「すみません、狭いところですが!」
「屋根があればいい」
しばらく野営ばかりだったら家に泊まれるだけでよかった。
こんな辺鄙なところにはさすがに追手も来ないだろう。
ふと、カタリナと目が合った。
彼女は慌てて目をそらし、そわそわとし始めた。
この村は老人ばかりだ。
さすがに旅人を人買いに売ったりはしないだろうが、油断は禁物だ。
カタリナを信用していないし、これからするつもりもない。
そんなことを考えているとカタリナがパンと手をたたいた。
「あ! お腹空いてませんか?」
「空いてる」
「よかった! じゃあご飯作りますのでちょっと待っててくださいね!」
台所で料理を始めるカタリナの後姿を見ながら、俺は椅子に座った。
これが演技なら大したもんだ。
油断はしないが、必要以上に疑うのも無駄だ。
……さてと。
料理を待っている間、考えることがある。
俺は懐から『メタルリザードマンの身体の一部』を取り出した。
鉱石と見目は変わりない。
しかし俺が今までみた鉱石とは全く違っていた。
この鉱石――仮に『レアメタル』とする――からは魔力の奔流を感じる。
魔力量は以前倒したメタルドラゴンよりもかなり少ないようだった。
魔物の強さや格によって、内包する魔力量は変わるのだろうか。
魔力を帯びた物質は、自然界にごく一部しか存在しない。
生物の中でも魔力を持つものは少なく、人間でさえも例外ではない。
これほど高密度の魔力を発しているのは、生物ゆえの異質な性質なのか。
……少し試してみるか。
俺はレアメタルに魔力を流す。
破壊(ブレイク)はすでに試し、レアメタルに有効だということは実証済みだ。
では変形(メタモルフォーゼ)はどうか。
歪な形をしていたレアメタルは徐々に形を変えていく。
台形が徐々に楕円に、楕円から真円に。
手のひら大の綺麗な鋼球がそこにはあった。
重量は銀と同じくらい、重くも軽くもない。
それをテーブルに置く。
俺は思わず思考を止めた。
一つの感情が頭を占めていたのだ。
それは驚愕。
世界に現存する数多の金属の中で、最も金属魔術師が扱いやすいのは『銀』だ。
魔力伝導率が高く、柔軟で、硬質で、強度も高い。
ゆえに大半の金属魔術師の素養がある人間は銀を用いる。
金属魔術師の現実を知ると、大概の金属魔術師候補者は細工師や鍛冶師の道を歩むことが多い。
最初は銀、次に金、鉄と鉛、やがて宝石。
金属魔術師の道を歩むと決めた後、俺は様々な金属で魔術を試した。
結果、やはり銀が金属魔術に最も適した金属だという結論を出したのだ。
だが、このレアメタルは銀を超えるほどに金属魔術と相性がいい。
加工しやすく、魔力を帯びているためか伝導率もいい。
これほど容易く破壊できる金属は存在しない。
道理でメタルを簡単に倒せるはずだ。
メタルにとって金属魔術師は天敵である、ということか。
だが内からあふれ出るこの魔力量を鑑みるに、どうやら外部からの魔力衝撃には強いようだ。
つまり、四大魔術である火水風土属性の魔術はメタルには効きにくい、ということになる。
単純な衝撃にも強いことは触ればわかる。
魔術も物理的な攻撃も効果は薄い。
ということは。
「金属魔術しか、メタルには効果がない……」
検証も研究もしてない。
早計であることは自覚していたが、だがその可能性は高いように思えた。
レーベルン国は魔術国家だ。
魔術においては他国の追随を許さないほど突出している。
その中で筆頭の五賢者の大魔術を受けても効果はなく、五賢者の象徴ともいえる白魔術師アイリスの魔術で何とかメタルの進行を止めた。
しかも地割れに飲み込まれたメタルたちは、倒せずに足止めできただけと王も言っていた。
そんなメタル相手に、ほかの国や魔術師が対抗できるとは到底思えない。
当然、バリスタや大砲などの兵器も一般的な武器も有効ではないだろう。
俺は目をつぶり、嘆息した。
俺には関係ないことだ。
俺以外のことはもうどうでもいい。仮に俺の推測が正しかったとしても。
俺はレアメタルを懐に収める。
俺はわずかに口角を上げた。
少しは面白くなってきたな。
金属魔術はこれ以上研究のしようがないと思っていたが、新たな鉱物の発見で次の舞台へ行くことができるかもしれない。
今後は倒したメタルを活用してやるとするか。
0
お気に入りに追加
1,568
あなたにおすすめの小説
没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!
日之影ソラ
ファンタジー
かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。
しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。
ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。
そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。
こちらの作品の連載版です。
https://ncode.syosetu.com/n8177jc/
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
お人形姫の策略
夕鈴
恋愛
女王が統治する王国の跡取り姫には秘密がある。未来の女王の椅子は平凡顔で常に微笑んでいる無口な欠陥のある姉姫のもの。双子なのに愛らしい顔立ちで大人気の妹姫とは正反対。平凡顔の姉姫の婚約者が決められる日が近付いていた。幼馴染の公爵子息は妹姫と婚約したいと話すのに、なぜか姉姫の婚約者の選定イベントに参加している。常に微笑む人形のようなお姫様は本当にお人形なのか…。お姫様の婚約者に選ばれるのは一体誰なのか…。
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる