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第十六話 活用方法

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「こ、これであたしが出せるお金は全部です」

 俺は差し出されたものを前に、顔をしかめた。
 それを不満だと受け取ったのか、戻ってきていたほかの村人たちも同じような袋を差し出してくる。

「カタリナの分で足りないようでしたらこちらを!」
「ど、どうぞお収めください」

 老人たちの行動にカタリナは目を見開くと、きゅっと唇を引き絞った。

「ありがとう……みんな。絶対に返すから」
「ええんじゃ。カタリナのためじゃからの」
「それに命を助けてもらった礼はきちんとせねばならん。当然のことじゃ」

 村人たちが互いに慮りあう姿を前にしても、俺の表情は硬いままだった。
 カタリナが持ってきた『銅貨』と、村人たちがさらに持ってきた『銅貨』が入った革袋が目の前に差し出されていた。
 おそらく枚数にして三百枚はあるだろう。
 銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚。
 それぞれに半貨が存在している。
 実質、金貨三枚分だ。
 金貨一枚あれば一か月は余裕で暮らせるくらい。
 命を助けた報酬としてはやや安いが、妥当とも言えるだろう。
 だがなぜ銅貨なのか。

「おいなんだこれは」

 俺が思わずこぼした声に、村人たちは狼狽えていた。
 俺をバカにしているわけではなさそうだ。

「た、足りませんでしょうか……? これで我々の貯蓄はすべてお出ししたのですが」

 では本気で?
 この目の前に出された銅貨すべてか彼らの財産だと。
 それを当然のように差し出したと?
 バカな。
 ありえない。
 なぜ一村人のために全員が金銭を差し出すんだ。
 それも全財産を。
 こいつらは本当に……。
 いや、違う。勘違いするな。
 俺は自分の考えを振り払うように頭を振った。
 とにかく、どうやって稼いだのかは知らないが……果実を商人に売っているとか言ったな。
 なるほど、果実程度なら大した金にならないのだろう。
 その上、交渉相手は商人のみだから身銭は銅貨になるということだろうか。
 ……何か少しひっかかるが。

「足りなくはないが、銅貨だけだと持ち運べないだろ。金貨に代えてくれ」
「この村には銅貨以外はなくて……。
 次に商人がやってくる時に両替してもらうように頼んでみます! 
 それまで待ってもらえますか? 明日には来ると思いますので」

 カタリナが差し迫った様子で言うものだから、俺は大して考えずに頷いてしまった。

「ありがとうございます! それまでの間はおもてなしさせていただきますね!」

 カタリナは村人たちと何か話すと、俺のもとへ戻ってきた。

「ではこちらへ!」

 カタリナに先導されて、俺はそのあとに続いた。
 村人たちが思い思いに財布袋を持ってついてくる。
 ボロ屋に到着すると中に入った。
 狭い。馬小屋だと言われたら信じてしまいそうだった。
 一応台所とリビング、奥にはベッドが見えた。
 テーブルやクローゼットなどの家具は一応揃ってはいるようだ。
 村人たちは玄関に袋を置くと礼をして去っていった。

「すみません、狭いところですが!」
「屋根があればいい」

 しばらく野営ばかりだったら家に泊まれるだけでよかった。
 こんな辺鄙なところにはさすがに追手も来ないだろう。
 ふと、カタリナと目が合った。
 彼女は慌てて目をそらし、そわそわとし始めた。
 この村は老人ばかりだ。
 さすがに旅人を人買いに売ったりはしないだろうが、油断は禁物だ。
 カタリナを信用していないし、これからするつもりもない。
 そんなことを考えているとカタリナがパンと手をたたいた。

「あ! お腹空いてませんか?」
「空いてる」
「よかった! じゃあご飯作りますのでちょっと待っててくださいね!」

 台所で料理を始めるカタリナの後姿を見ながら、俺は椅子に座った。
 これが演技なら大したもんだ。
 油断はしないが、必要以上に疑うのも無駄だ。

 ……さてと。
 料理を待っている間、考えることがある。
 俺は懐から『メタルリザードマンの身体の一部』を取り出した。
 鉱石と見目は変わりない。
 しかし俺が今までみた鉱石とは全く違っていた。
 この鉱石――仮に『レアメタル』とする――からは魔力の奔流を感じる。
 魔力量は以前倒したメタルドラゴンよりもかなり少ないようだった。
 魔物の強さや格によって、内包する魔力量は変わるのだろうか。
 魔力を帯びた物質は、自然界にごく一部しか存在しない。
 生物の中でも魔力を持つものは少なく、人間でさえも例外ではない。
 これほど高密度の魔力を発しているのは、生物ゆえの異質な性質なのか。
 ……少し試してみるか。

 俺はレアメタルに魔力を流す。
 破壊(ブレイク)はすでに試し、レアメタルに有効だということは実証済みだ。
 では変形(メタモルフォーゼ)はどうか。
 歪な形をしていたレアメタルは徐々に形を変えていく。
 台形が徐々に楕円に、楕円から真円に。
 手のひら大の綺麗な鋼球がそこにはあった。
 重量は銀と同じくらい、重くも軽くもない。
 それをテーブルに置く。
 俺は思わず思考を止めた。
 一つの感情が頭を占めていたのだ。
 それは驚愕。

 世界に現存する数多の金属の中で、最も金属魔術師が扱いやすいのは『銀』だ。
 魔力伝導率が高く、柔軟で、硬質で、強度も高い。
 ゆえに大半の金属魔術師の素養がある人間は銀を用いる。
 金属魔術師の現実を知ると、大概の金属魔術師候補者は細工師や鍛冶師の道を歩むことが多い。
 最初は銀、次に金、鉄と鉛、やがて宝石。
 金属魔術師の道を歩むと決めた後、俺は様々な金属で魔術を試した。
 結果、やはり銀が金属魔術に最も適した金属だという結論を出したのだ。
 だが、このレアメタルは銀を超えるほどに金属魔術と相性がいい。
 加工しやすく、魔力を帯びているためか伝導率もいい。
 これほど容易く破壊できる金属は存在しない。
 道理でメタルを簡単に倒せるはずだ。
 メタルにとって金属魔術師は天敵である、ということか。
 だが内からあふれ出るこの魔力量を鑑みるに、どうやら外部からの魔力衝撃には強いようだ。
 つまり、四大魔術である火水風土属性の魔術はメタルには効きにくい、ということになる。
 単純な衝撃にも強いことは触ればわかる。
 魔術も物理的な攻撃も効果は薄い。
 ということは。

「金属魔術しか、メタルには効果がない……」

 検証も研究もしてない。
 早計であることは自覚していたが、だがその可能性は高いように思えた。
 レーベルン国は魔術国家だ。
 魔術においては他国の追随を許さないほど突出している。
 その中で筆頭の五賢者の大魔術を受けても効果はなく、五賢者の象徴ともいえる白魔術師アイリスの魔術で何とかメタルの進行を止めた。
 しかも地割れに飲み込まれたメタルたちは、倒せずに足止めできただけと王も言っていた。
 そんなメタル相手に、ほかの国や魔術師が対抗できるとは到底思えない。
 当然、バリスタや大砲などの兵器も一般的な武器も有効ではないだろう。

 俺は目をつぶり、嘆息した。
 俺には関係ないことだ。
 俺以外のことはもうどうでもいい。仮に俺の推測が正しかったとしても。
 俺はレアメタルを懐に収める。
 俺はわずかに口角を上げた。
 少しは面白くなってきたな。
 金属魔術はこれ以上研究のしようがないと思っていたが、新たな鉱物の発見で次の舞台へ行くことができるかもしれない。
 今後は倒したメタルを活用してやるとするか。
 
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