1 / 44
第一話 最底辺の金属魔術師
しおりを挟む「おい、グロウ! さっさとやらないか!」
五賢者の一人であり、俺の師匠でもあるクズール先生からいつものような罵倒が飛んできた。
俺は急いでカカシを鍛錬場に設置していく。
他の弟子である魔術師たちはニヤニヤと俺の働く様を見ていた。
雑用は俺の仕事と決まっているから誰も手伝う気配すらない。
クズール先生が不愉快そうに俺を睨んだ。
「仕事が遅いんだよ、おまえは! 無能が!」
「はぁはぁ……す、すみません」
息を切らしながら十数体のカカシを設置し終えると、鍛錬場の端っこに移動した。
「魔術鍛錬を始める。各々、得意な魔術を使え」
クズール先生の指示に従い、生徒の魔術師たちがカカシの前に立ち、魔術を使い始める。
クズール先生は生徒の得意魔術にとらわれずに弟子を取っている。
だから俺も弟子になれはしたんだけど。
俺は鍛錬場の端っこで、ただみんなの鍛錬を眺めていた。
俺も魔術師なのに、鍛錬にさえ参加させてもらえない。
いつものことだ。
クズール先生が俺をちらっと見ると、なぜかニィッと笑った。
「グロウ。たまにはおまえも鍛錬に参加するか?」
「え? い、いいんですか?」
「ああ。普段から仕事を頑張ってるからな。たまにはいいだろう」
俺はクズール先生の言葉に素直に喜んだ。
直接クズール先生に見てもらえるなんて初めてのことだ。
こんな機会は滅多にない。
絶対にいいところを見せて評価してもらわないと。
意気込んだ俺がカカシの前に立つと、なぜか他の生徒たちの視線を集めた。
「得意な魔術を見せてみろ」
クズール先生の笑顔を見て俺は大きく頷いた。
俺の両手には銀の小手が装着されている。
両手を正面に掲げると、意識を集中させた。
次の瞬間、小手は形を変えて銀の剣となる。
よし、我ながら素早い変形(メタモルフォーゼ)だ。
金属魔術を学び続けて十三年。
これほど素早い魔力伝導と変形は簡単にできることじゃない。
本来ならカカシに斬りかかる場面だが、魔術を見せるということであれば十分だろう。
俺は期待を胸にクズール先生を見た。
「く」
何かが漏れた音が聞こえ、俺は首を傾げた。
すると次の瞬間。
「「「「「あっははっはははっはっ!!」」」」」
そこかしこで笑いが生まれた。
俺はただただ立ち尽くし、笑い声を聞き、それが俺に向けられてるとわかると、一気に心臓がうるさく聞こえ始める。
なぜ笑われている?
俺はただ『金属魔術』を使っただけなのに。
全身から汗が溢れ、俺は縋るようにクズール先生を見た。
「すごい、すごいよ、おまえは。なんで使えないゴミみたいな魔術を真面目に鍛えてるんだ?」
腹を抱えながらクズール先生は言った。
「金属魔術なんて魔術の最下位中の最下位。使えない、意味もない、価値もない、無能な魔術。そう呼ばれてる魔術だよな? なんでそんな魔術を使ってるんだ?」
クズール先生は他の生徒に聞かせるように、演技がかった口調で言った。
嘲笑するクズール先生を前に、俺の足は震えていた。
「お、俺は憧れの魔術師になりたくて……き、金属魔術しか素質がなかったけど、が、頑張って鍛えればいつか認められるはずだって……」
「普通は、金属魔術しか素質なかったら諦めて一般職に就くのになぁ? でも、おまえはそうしなかった。バカだからなああああっ!!?」
嘲笑われて、俺はようやく少しずつ理解し始めていた。
いや、理解していた。
それなのにずっと見ないふりをして、誤魔化して生きてきた。
努力して結果を見せればいつか認めてもらえるって。
そう思っていたのに。
俺は縋るようにクズール先生を見た。
「し、師匠は俺を弟子にしてくれましたよね? そ、素質があると思ったからじゃ」
「バカめ! 金属魔術師に未来があると思うか?」
「じゃ、じゃあなんで」
「面白そうだったからなぁ」
ニィと笑うクズール先生の顔を俺は一生忘れないだろう。
「金属魔術なんてクソみたいな魔術の可能性を信じて、鍛え続ける奴の哀れな人生を見たかったのさぁ。予想通りおまえは滑稽で最高だったよ。よくもまあ毎日毎日、五年間も雑用をして、魔術の訓練にも授業にも参加できないのに、端っこで必死についてこようとしていたよなぁ……思い出すだけで笑えてくる!」
甲高い笑い声が鍛錬場に響き渡った。
俺の頭は真っ白だった。
何も考えられない。
師匠たちは笑いながら鍛錬を続けていた。
カカシの前に突っ立っていた俺を、生徒が蹴り飛ばした。
俺は地面に倒れたが、痛みを感じることもできずただ現実に絶望した。
俺の五年間はなんだったのか。
ただみんなに笑われるためにあったのだろうか。
『金属魔術』は世界中で見下されているという事実を、俺はまだ受けいれられずにいた。
0
お気に入りに追加
1,564
あなたにおすすめの小説
呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に
焼魚圭
ファンタジー
唐津 那雪、高校生、恋愛経験は特に無し。
メガネをかけたいかにもな非モテ少女。
そんな彼女はあるところで壊れた家を見つけ、魔力を感じた事で危機を感じて急いで家に帰って行った。
家に閉じこもるもそんな那雪を襲撃する人物、そしてその男を倒しに来た男、前原 一真と共に始める戦いの日々が幕を開ける!
※本作品はノベルアップ+にて掲載している紅魚 圭の作品の中の「魔導」のタグの付いた作品の設定や人物の名前などをある程度共有していますが、作品群としては全くの別物であります。
勇者の血を継ぐ者
エコマスク
ファンタジー
リリア本人曰く
「え? えぇ、確かに私は勇者の血を継ぐ家系よ。だけど、本家でもないし、特別な能力も無いし、あんまり自覚もないし、だいたい勇者って結構子孫を残しているんだから全部が全部能力者なんてありえないでしょ?今では酒場では勇者を名乗る人同士が殴り合いしてるって始末じゃない、私にとっては大した意味の無い事かなぁ」
伝説の勇者が魔王を倒したとされる年から百年経ち、大陸の片隅では
勇者の子孫として生まれただけで勇者らしい能力を全く引き継がなかった娘が、
王国から適当に国認定勇者に指定され、
これから勇者っぽい事を始めようとしていた…
天地伝(てんちでん)
当麻あい
ファンタジー
「なあ、お前には人の心ってなにかわかるか?」
天狗のタイマが、鬼の八枯れ(やつがれ)と共に、現代の明治大正時代へ転生し、生き抜いてゆく、一つの妖怪伝記物語。
前作、『逢魔伝』シリーズものですが、独立した作品として、お楽しみいただけます。
あの世から、明治大正時代へ転生します。完結。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる