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第一話 最底辺の金属魔術師

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「おい、グロウ! さっさとやらないか!」

 五賢者の一人であり、俺の師匠でもあるクズール先生からいつものような罵倒が飛んできた。
 俺は急いでカカシを鍛錬場に設置していく。
 他の弟子である魔術師たちはニヤニヤと俺の働く様を見ていた。
 雑用は俺の仕事と決まっているから誰も手伝う気配すらない。
 クズール先生が不愉快そうに俺を睨んだ。

「仕事が遅いんだよ、おまえは! 無能が!」
「はぁはぁ……す、すみません」

 息を切らしながら十数体のカカシを設置し終えると、鍛錬場の端っこに移動した。

「魔術鍛錬を始める。各々、得意な魔術を使え」

 クズール先生の指示に従い、生徒の魔術師たちがカカシの前に立ち、魔術を使い始める。
 クズール先生は生徒の得意魔術にとらわれずに弟子を取っている。
 だから俺も弟子になれはしたんだけど。
 俺は鍛錬場の端っこで、ただみんなの鍛錬を眺めていた。
 俺も魔術師なのに、鍛錬にさえ参加させてもらえない。
 いつものことだ。
 クズール先生が俺をちらっと見ると、なぜかニィッと笑った。

「グロウ。たまにはおまえも鍛錬に参加するか?」
「え? い、いいんですか?」
「ああ。普段から仕事を頑張ってるからな。たまにはいいだろう」

 俺はクズール先生の言葉に素直に喜んだ。
 直接クズール先生に見てもらえるなんて初めてのことだ。
 こんな機会は滅多にない。
 絶対にいいところを見せて評価してもらわないと。
 意気込んだ俺がカカシの前に立つと、なぜか他の生徒たちの視線を集めた。

「得意な魔術を見せてみろ」

 クズール先生の笑顔を見て俺は大きく頷いた。
 俺の両手には銀の小手が装着されている。
 両手を正面に掲げると、意識を集中させた。
 次の瞬間、小手は形を変えて銀の剣となる。
 よし、我ながら素早い変形(メタモルフォーゼ)だ。
 金属魔術を学び続けて十三年。
 これほど素早い魔力伝導と変形は簡単にできることじゃない。
 本来ならカカシに斬りかかる場面だが、魔術を見せるということであれば十分だろう。
 俺は期待を胸にクズール先生を見た。

「く」

 何かが漏れた音が聞こえ、俺は首を傾げた。
 すると次の瞬間。

「「「「「あっははっはははっはっ!!」」」」」

 そこかしこで笑いが生まれた。
 俺はただただ立ち尽くし、笑い声を聞き、それが俺に向けられてるとわかると、一気に心臓がうるさく聞こえ始める。
 なぜ笑われている?
 俺はただ『金属魔術』を使っただけなのに。
 全身から汗が溢れ、俺は縋るようにクズール先生を見た。

「すごい、すごいよ、おまえは。なんで使えないゴミみたいな魔術を真面目に鍛えてるんだ?」

 腹を抱えながらクズール先生は言った。

「金属魔術なんて魔術の最下位中の最下位。使えない、意味もない、価値もない、無能な魔術。そう呼ばれてる魔術だよな? なんでそんな魔術を使ってるんだ?」

 クズール先生は他の生徒に聞かせるように、演技がかった口調で言った。
 嘲笑するクズール先生を前に、俺の足は震えていた。

「お、俺は憧れの魔術師になりたくて……き、金属魔術しか素質がなかったけど、が、頑張って鍛えればいつか認められるはずだって……」
「普通は、金属魔術しか素質なかったら諦めて一般職に就くのになぁ? でも、おまえはそうしなかった。バカだからなああああっ!!?」

 嘲笑われて、俺はようやく少しずつ理解し始めていた。
 いや、理解していた。
 それなのにずっと見ないふりをして、誤魔化して生きてきた。
 努力して結果を見せればいつか認めてもらえるって。
 そう思っていたのに。
 俺は縋るようにクズール先生を見た。

「し、師匠は俺を弟子にしてくれましたよね? そ、素質があると思ったからじゃ」
「バカめ! 金属魔術師に未来があると思うか?」
「じゃ、じゃあなんで」
「面白そうだったからなぁ」

 ニィと笑うクズール先生の顔を俺は一生忘れないだろう。

「金属魔術なんてクソみたいな魔術の可能性を信じて、鍛え続ける奴の哀れな人生を見たかったのさぁ。予想通りおまえは滑稽で最高だったよ。よくもまあ毎日毎日、五年間も雑用をして、魔術の訓練にも授業にも参加できないのに、端っこで必死についてこようとしていたよなぁ……思い出すだけで笑えてくる!」

 甲高い笑い声が鍛錬場に響き渡った。
 俺の頭は真っ白だった。
 何も考えられない。
 師匠たちは笑いながら鍛錬を続けていた。
 カカシの前に突っ立っていた俺を、生徒が蹴り飛ばした。
 俺は地面に倒れたが、痛みを感じることもできずただ現実に絶望した。
 俺の五年間はなんだったのか。
 ただみんなに笑われるためにあったのだろうか。

 『金属魔術』は世界中で見下されているという事実を、俺はまだ受けいれられずにいた。
 
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