たまり場に湯気

闇雲の風

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28.生物のヒエラルキー

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 ぼくと白井は共同で掃除をして、なんとか人が過ごせる部屋になった。いちじはどうなることかと思った床も、気付けばいつのまにか乾いてしまい、乾拭きをかける必要もなかった。結局当初の予想より、早く終わったかもしれない。
 階下から白井がマグカップを二つ持って戻ってきた。どこに姿を隠していたのか、白井の足元に猫も絡まっていた。
「はい、お疲れさま。熱いから気をつけたほうがいいよ」
 差し出されたカップは白を背景に、風船の絵が描かれていた。くすんだ色の青と赤と黄色の三色の風船がほんのりと浮かんでいる。
「あったかいでしょ。昼間はそうでもなかったけど、日が落ちると急に寒くなるよね。濡れた雑巾を持ってると手も冷えちゃうし」
 そうなのだ。昼間はちょうど過ごしやすい気候なのに、夕方から夜になると、急激に気温が落ちて、長袖のシャツ一枚では寒い。
掃除をしていると換気のために窓は開けっぱなしなので、外から冷たい風が吹き込んいた。
 白井のいうとおり体は冷えていたらしく、マグカップから立ち昇るコーヒーの湯気がありがたい。
「いただきます」
 口をつけて温もりを喉へ流すと、苦味とともに体の中が温まる。
白井はベッドに座ってコーヒーを飲んでいる。散々叩いた布団からは、もう埃は舞い上がらない。猫は白井の膝の腕に乗っていた。
「それにしても思った以上に汚れてたね。今まで閉め切ってたから気にしてなかったけど」
「結局最後まで手伝ってもらって、ありがとな。この部屋、ぜんぜん使ってなかったのか?」
 彼女は猫の頭をしきりに撫でていた。
「私は。猫は使ってたみたいだけど。ここ、家の中で一番日が射すんだよね」
 そういえば昨日もこいつだけは、我が物顔でここで寝ていた。いってみればここは猫の部屋のようなものだ。
「猫って、一番暖かい場所を探すのがうまいの」
 当の猫は自分のことが話題に上っているなんて知らずに、彼女の膝の上で丸くなっている。
「白井がいうと猫なのに、人間のこといってるみたいに聞こえる」
 白井は撫でながらぼくを見た。
「不愉快?」
「なんで?」 
 どうして白井がそんなことをいうのかわからなかった。確かに変わったことではあるかもしれないけど、不愉快とは?
「猫なんかに人間と同等の扱いをして、って心の中で笑ってない?」
 どことなく背筋が緊張した。
「笑ってない。よくわからないけど、聞いてて良い気持ちがした」
「本当に?」
「こんなこと疑われると、人格を疑われているみたいでつらいんだけど……」
 彼女は声を上げて笑うと申し訳なさそうに、
「ごめんね、でも若林さんがそういってくれるのが嬉しい。猫も人間も自分の努力とは関係なしにそれに生まれてくるんだから、どっちが上とかないと思うの」

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