4 / 8
4
しおりを挟む
「第3王子よ、このような騒ぎを起こして何事か」
国王夫妻と王太子マルスに続いて第2王子ライアンが王族用扉から姿を見せる。
エリーシカが礼をとると、周囲の貴族も慌ててそれに倣った。
「陛下、私はこの娘に婚約破棄を言い渡していたのです」
「婚約者エリーシカよ、それは誠か」
「誠でございます。別室でお話をと申しましても聞き入れては下さらず、このような騒ぎを起こしてしまい、申し訳ございません」
「よい、そなたに非はないであろう。楽にせよ」
陛下のお言葉にエリーシカは礼を深めた。
「この娘は私の愛する聖女リーナに嫌がらせを行ったのですよ!罪人に温情など必要ないでしょう」
真っ赤な顔をした第3王子ソラが国王陛下にくってかかる。
国王は冷めた目で王子を見据えた。
「第3王子よそちらの令嬢は聖女と申したか」
「 ええ、リーナは聖女です。私の妃になるに相応しいのです」
胸を張って答える第3王子に国王は一瞬だけ目を伏せ、王妃は扇を広げると王子から顔を背けた。
その姿にエリーシカは疑問を浮かべる。
王妃は末息子の第3王子を自身の手で育てたという事もあり、とてつもなく甘く第3王子の行動全てを肯定する程であった。
今回の件も第3王子の味方をするのだろうと思っていたが、一言も発しないその姿に違和感を覚えた。
「そうか……衛兵よ!その娘を捕らえよ。聖女を騙る罪人である!」
あっという間に男爵令嬢は拘束される。
「何するの!私は聖女なのよ!」
第3王子ソラは第2王子ライアンの手によって押さえつけられた。
軍に長らく属しており、将軍であるライアンの手からは逃れられずに唸っているだけだった。
「父上!これはどういう事ですか!」
押さえつけられながらも吠えたてる第3王子に王妃は目を伏せ、国王はため息を漏らす。
「聖女はそこの娘などではない」
「嘘よ!私が聖女だって、ルーベ伯爵が教えてくださったのよ!」
エリーシカはそっと扇を口元に当てた。
(ルーベ伯爵……あぁ、王子に甘言ばかり囁く方ね。何度あの方の言葉にのせられて遊びに行かれた事か……。
あちらのご令嬢も積極的でしたし、さしずめ私との婚約破棄と寵愛を受ける男爵令嬢の失脚を狙ったのでしょうけど、今回ばかりはいただけないわね)
どちらに転んでもエリーシカにとっては婚約破棄は決まっていた。
王家が渋ったとしても、今回の件を材料に辱めを受けたといった理由で婚約破棄できる。
そのため、エリーシカは成り行きを見守る事にした。
第2王子ライアンが第3王子を押さえつけたまま静かに言う。
「ルーベ伯爵の虚言も、その娘の虚言も全て調べがついている」
「兄上!リーナは嘘をつくような人ではありません!」
第3王子がなんとか拘束を逃れようと身動ぎしながら叫ぶ。
「王族の婚約者は常に近衛がついているのを知っているだろう!
その娘が言うインクを掛けられた事や階段から突き落としたなど不可能だ」
「兄上!その女は近衛の目を掻い潜ってるだけです!
その証拠にいつも私とリーナの邪魔をする時は誰も連れておりません!」
自慢げな表情をみせる第3王子に、第2王子は怒りを顕にする。
「ついておるわ!婚約者となった令嬢への警護は離れてていても常に着いている!影も共に付けておるのだぞ」
「ライアンよ、もうよい。連れて行け」
国王陛下の声に男爵令嬢を取り押さえていた近衛が令嬢を引きずるような形で広間から連れ出していく。
第2王子も騒ぐ第3王子を引っ張り立たせ近衛に引き渡すと手短に指示を飛ばした。
広間はいまだザワついているが、国王夫妻が玉座に座ると、徐々に静まっていった。
******************
長くなったので一旦切ります。
5話で完結させる予定ですが、もう少し伸びそうです。
国王夫妻と王太子マルスに続いて第2王子ライアンが王族用扉から姿を見せる。
エリーシカが礼をとると、周囲の貴族も慌ててそれに倣った。
「陛下、私はこの娘に婚約破棄を言い渡していたのです」
「婚約者エリーシカよ、それは誠か」
「誠でございます。別室でお話をと申しましても聞き入れては下さらず、このような騒ぎを起こしてしまい、申し訳ございません」
「よい、そなたに非はないであろう。楽にせよ」
陛下のお言葉にエリーシカは礼を深めた。
「この娘は私の愛する聖女リーナに嫌がらせを行ったのですよ!罪人に温情など必要ないでしょう」
真っ赤な顔をした第3王子ソラが国王陛下にくってかかる。
国王は冷めた目で王子を見据えた。
「第3王子よそちらの令嬢は聖女と申したか」
「 ええ、リーナは聖女です。私の妃になるに相応しいのです」
胸を張って答える第3王子に国王は一瞬だけ目を伏せ、王妃は扇を広げると王子から顔を背けた。
その姿にエリーシカは疑問を浮かべる。
王妃は末息子の第3王子を自身の手で育てたという事もあり、とてつもなく甘く第3王子の行動全てを肯定する程であった。
今回の件も第3王子の味方をするのだろうと思っていたが、一言も発しないその姿に違和感を覚えた。
「そうか……衛兵よ!その娘を捕らえよ。聖女を騙る罪人である!」
あっという間に男爵令嬢は拘束される。
「何するの!私は聖女なのよ!」
第3王子ソラは第2王子ライアンの手によって押さえつけられた。
軍に長らく属しており、将軍であるライアンの手からは逃れられずに唸っているだけだった。
「父上!これはどういう事ですか!」
押さえつけられながらも吠えたてる第3王子に王妃は目を伏せ、国王はため息を漏らす。
「聖女はそこの娘などではない」
「嘘よ!私が聖女だって、ルーベ伯爵が教えてくださったのよ!」
エリーシカはそっと扇を口元に当てた。
(ルーベ伯爵……あぁ、王子に甘言ばかり囁く方ね。何度あの方の言葉にのせられて遊びに行かれた事か……。
あちらのご令嬢も積極的でしたし、さしずめ私との婚約破棄と寵愛を受ける男爵令嬢の失脚を狙ったのでしょうけど、今回ばかりはいただけないわね)
どちらに転んでもエリーシカにとっては婚約破棄は決まっていた。
王家が渋ったとしても、今回の件を材料に辱めを受けたといった理由で婚約破棄できる。
そのため、エリーシカは成り行きを見守る事にした。
第2王子ライアンが第3王子を押さえつけたまま静かに言う。
「ルーベ伯爵の虚言も、その娘の虚言も全て調べがついている」
「兄上!リーナは嘘をつくような人ではありません!」
第3王子がなんとか拘束を逃れようと身動ぎしながら叫ぶ。
「王族の婚約者は常に近衛がついているのを知っているだろう!
その娘が言うインクを掛けられた事や階段から突き落としたなど不可能だ」
「兄上!その女は近衛の目を掻い潜ってるだけです!
その証拠にいつも私とリーナの邪魔をする時は誰も連れておりません!」
自慢げな表情をみせる第3王子に、第2王子は怒りを顕にする。
「ついておるわ!婚約者となった令嬢への警護は離れてていても常に着いている!影も共に付けておるのだぞ」
「ライアンよ、もうよい。連れて行け」
国王陛下の声に男爵令嬢を取り押さえていた近衛が令嬢を引きずるような形で広間から連れ出していく。
第2王子も騒ぐ第3王子を引っ張り立たせ近衛に引き渡すと手短に指示を飛ばした。
広間はいまだザワついているが、国王夫妻が玉座に座ると、徐々に静まっていった。
******************
長くなったので一旦切ります。
5話で完結させる予定ですが、もう少し伸びそうです。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
公爵令嬢は、婚約者のことを諦める
小倉みち
恋愛
公爵令嬢アメリは、婚約者である公爵子息マートンを、とても愛していた。
小さいころに一目ぼれをし、それ以降、彼だけを追いかけ続けていた。
しかしマートンは、そうじゃなかった。
相手側から、無理やり用意された縁談。
好きだ好きだと、何度もアメリに追い回される。
彼女のことを、鬱陶しいとさえ思っていた。
自分が愛されていないことは知っていたが、それでもアメリは彼を求めていた。
彼と結婚したい。
彼と恋仲になりたい。
それだけをずっと考えていた。
しかしそんなある日、彼女は前世を思い出す。
それは、マートンと親しい関係にある男爵令嬢の胸倉を掴んだ瞬間に起こった出来事だった。
すべてを思い出した彼女は、ここが乙女ゲームの世界であり、自分がそのゲームの悪役令嬢。
そして今、胸倉を掴んでいる男爵令嬢こそが、乙女ゲームのヒロインであることを悟る。
攻略対象であるマートンのルートに彼女が入ってしまっている今、自分に勝ち目はない。
それどころか、下手をすれば国外追放され、自分の家に迷惑がかかってしまう。
ストーリーの結末を思い出してしまった彼女は、悲劇を起こさないように。
マートンのことを、きっぱりと諦めることにした。
不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話
七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。
離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる